文芸部の放課後

華川とうふ

放課後の活動

「ホラーにするか、ミステリーにするかそれが問題だ」

 文芸部の部長、アサギ先輩がは厳かな口調で言った。


 その声はまるで神からのお告げを伝える巫女のようであったが、ここには俺と先輩しかいない。


 もったいない……。


 これだけの美少女であるアサギ先輩が人前でこのような口調でなにかを言えば皆、真剣に聞くだろうに。

 あいにくここには、アサギ先輩の他には俺しかヒトはいない。


 放課後の文芸部の部室。

 何層にも積み重なった紙と古い木製のテーブルにパイプ椅子。そして、部屋の済みには、どこからもってきたのだろう。古くさいソファーが置かれている。


 なんというか、ぼろくて寄せ集めで、高校生の文芸部としては少々ただれすぎている気がする。もしかしたら、大学のサークル室とかの方がイメージが近いかもしれない。

 しかし、その方が都合がいいこともあるのだ。


 アサギ先輩は「ふうっ」とわざとらしくため息をついて、腕を組む。

          あーあ、そんなことを          すると、先輩のおっぱい          はまるでメロンぐらい       大きく見える。

 俺がアサギ先輩のおっぱいに見とれていると、アサギ先輩はキッとこちらをにらみつける。

         げっ、おっぱいばっか          りみていることに気づ    かれた!?!?!?』

 と思って俺はなんて返事をしようか慌てる。

 さらさらとした黒髪をふわりと翻して、こちらにビシッと指を突きつけた。


「さあ、決めなさい。ミステリーにすべきかホラーにすべきか」


 なんだ、まだその話題続けていたのか。

 俺はほっとすると同時に少々面倒くさいながら、先輩に返事をする。


「俺はアサギ先輩一筋ですよ」


 すると、アサギ先輩は顔を真っ赤にして俺の999回目の告白をスルーする。


 俺は入学式でアサギ先輩に惚れてから一日一回告白しているというのに、アサギ先輩は未だになんの返事もくれないのだ。


「もう、真面目に考えてよっ。ちゃんと活動しなきゃ、私たちがここにいる意味がなくなっちゃう」


 アサギ先輩はそういうと、少しうつむく。

 仕方ない、ここは先輩に付き合うか。


「俺はSF派なんですけどねっ」


 俺は、ちょっと書棚に意識を集中させて、本棚から一冊の本を選んでその本が宙に浮いている姿を想像する。

 念じるというのだろうか。

 ちょっと集中力がいるけれど、最近はずいぶん上手く出来るようになった。

 本がイメージ通り部室のなかをふよふよと泳ぎ始める。



 ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!



 急に耳をつんざくような酷い悲鳴が聞こえた。

 もう聞き慣れたけれど、愉快にはなれない。

 この学校にはある噂がある。


 数カ月前、文芸部の部員二人が行方不明になった。死体はまだ見つかっていない。そして、そんな二人の幽霊が放課後にあらわれると言うのだ。

 俺たちの物語はホラーなのかミステリーなのかそれが問題だ。


 そう、俺とアサギ先輩はとある事件に巻き込まれて死んでいる。

 だけれど、未練でもあったおかげだろうか俺たちはこうしてなぜだか相変わらず文芸部の部室で活動を続けているのだ。

 まあ、活動内容は文芸部から事件の真相解明か、幽霊として誰かに存在を主張するかになってしまっているが。


 まあ、どちらでもいい。

 いまとなってしまっては。


 ただ、一つ確かなのは俺はきっと、明日も先輩に告白を続けるだろう。

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文芸部の放課後 華川とうふ @hayakawa5

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