先輩と後輩くんとホラー映画

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君はホラーちっくな番組は好きかな?」

「心霊番組とかですか?まあ好きというほどでもないですけど、なんだかんだ見ちゃいますよね。特に夏なんかはどこのチャンネルもそういうのだらけですから」

「まったく……これだから後輩くんは後輩なんだよ」

「よく分かりませんが、すいません」

「あのような番組はね、大抵が面白おかしくデタラメで固められている作り物なんだ。それをキャーキャーと、怖がっているのかただ楽しんでいるのか分からない悲鳴じみた声を上げつつ見るのは理解出来ないものがあるね」

「先輩は見ないんですか?」

「わざわざ自分から進んで見ようとは思わないね」

「じゃあ今度一緒に見ませんか?ちょうど借りてたのがそういう映画だったので」

「そうだね、たしかに進んで見ないと言ったけれども、他ならぬ君から誘われてしまったとなればそれに応えないわけにはいかないだろう」

「あの、本当に大丈夫ですか?顔色が悪そうですけど……」

「全く心配ないよ。 いいだろう、では次の日曜、後輩くんの家で映画の鑑賞会といこうか」

「まあ、大丈夫ならいいんですけど……。本当に苦手だったらちゃんと言ってくださいね?今ならまだ引き返せる感じのとこですよ?後で後悔してうぎゃージタバタと暴れないくださいね?」

「君は私を何だと思っているんだ」

※日曜日

「本当にいいんですね?」

「何度も言っているだろう?私は積極的に見ないと言うだけで、見ようと思えば普通に見れるんだ」

「じゃあ……再生しますよ」

「ああ、そうしてくれたまえ」

「……あの」

「なんだい?」

「どうして腕にくっついているんですか?」

「どうしても何も、これが映画鑑賞時の基本姿勢じゃないか」

「初耳の基本姿勢なんですけど。やっぱり先輩怖いの苦手なんじゃないですか。もうこの映画はやめておきましょう。代わりに動物がたくさん出てくる映画もありますから。リスとかキツネとか」

「え、本当? ……ではなく。いいから、早くこのまま事を進めてくれないか。いっそ目を瞑っている間にパッと」

「誰がどう見ても怖いの我慢してるじゃないですか。なんでそうまでして見ようとするんですか?」

「だ、だって……せっかくだし、君と、恋人らしいことしたいじゃないか」

「え?」

「きゃー怖いと抱きついてイチャイチャしたいじゃないか。それに、吊橋効果といって……」

「もう全部言っちゃいましたけどね」

「君はどうしてここでそんな冷静なツッコミができるんだ!?普通はここでちょっといい雰囲気になる所じゃないか!」

「そういえば、どうしてこの前僕にホラーちっくな番組が好きかって聞いてきたんですか?どう考えてもあれが墓穴だった気がするんですが。あれがなかったら僕一人で見ようと思ってたのに」

「どうしてって、君がその映画を私以外の誰かと見ようとしてたからじゃないか」

「他の誰か?」

「ああ。君がレンタルビデオ店から出てくるとき、女の子の友達と一緒だっただろう?私はバッチリ見たんだからね。浮気は許さないよ」

「え?」

「ん?私は何かおかしい事を言っていたかな?もちろん君を見かけたのは偶然だったんだけれども、驚いて声をかけれなかったんだよ」

「あの、僕一人で借りに行ったんですけど」

「しらを切っても無駄だよ。私が君を見間違えるはずがないからね」

「それならただ僕とすれ違った女の子を勘違いしたんじゃないですか?」

「いいや、私は耳がいいから、君の隣に並んだ女の子が『怖いけど楽しみだね』って言ったのがしっかり聞こえたんだ。それでこの子とホラー映画を見るつもりだって分かったんだよ」

「? 本当に心当たりがないんですけど……。その女の子ってどんな人だったんですか?」

「それは……ああ、そうだ。ちょうどこんな子、だった、……?」

「?どうしたんですか?」

「……さっきは、怖くてはっきり見てなかったんだけれど」

「DVDのパッケージがどうしたんですか?」

「こ、この子だよ、君といるのを見たのは」

「え?」



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