第47話 勝手に婚姻関係(それ、犯罪でしょ?)

 女性たちが、立ち上がった。

 水浴びを、終えたのだった。

 泉に寄り添うように立っていた木の陰に、向かった。そこから着替えて、庭園を立ち去ろうとしていたのだ。

 いやらしい計画が、実を結んでしまった。最悪クラスの罪を重ねることに、満足しきっていた。

 「よしよし、迷っているぞ」

 彼お気に入りの1人の女性が、すすり泣きをはじめた。

 着て帰るための衣装が、見当たらなかったのだ。

 「これでは、帰れないな。泣いてしまうのも、当然だろう」

 犯人は、彼だ。

 彼が隠してしまったのだから、すすり泣きをしていた理由は、彼だけには、良くわかっていた。

 女性たちのうちで、話し合いが起こっていた。

 「どうする?」

 「どうするって、早く、帰らなくっちゃ」

 「服を、もってきてあげましょうよ」

 すすり泣く女性は、最後には、こう声をかけられていた。

 「ごめんね?私たちだけでも、帰るね。また、すぐに向かえにくるわ。心配しないで、ここで、待っていてくれるかしら」

 女性たちは、離れ離れになった。

 「よし、今だ」

 明らかに、いけない考え方が、浮かんでいた。

 何ということか…。彼は、泉に残されて泣いていた1人の女性の手を、力尽くで引き、部屋に連れて帰ってしまったのだ。

 「ここから、出てはならない。どこにもいっては、ならない。階段があるが、気にしないことだ。これは、煙突掃除夫専用の階段ということにして、修理したんだ。ここからはもう、上にはいけない。釘が多くて、ケガしちゃうぞ?ここからは、どこにも出てはならないからね?わかった?」

 何かと、こじつけていた。

 女性を、部屋の中のそのクローゼットの中に、閉じ込めてしまったのだった。

 「悪く、思うな。これが、新卒一括採用たる、美しきオンリーワン世代のやりかたなのだ。生きるとは、こういうことなんだ」

 ただ、何もできないというのもあまりにかわいそうだったので、刺繍道具をあげた。それは、小屋の姉妹たちも、たくさんもっていた道具だった。だから、1つや2つ、いや、3セット分が無くなったとしても、気付かれることはなかった。

 「これを、あげよう。いつまでもここで悲しんでいても、仕方ないだろう?針も糸も、まだまだ、あるからね。追加が必要なら、いつでも、言ってほしい」

 女性は、たいそう喜んだ。

 が、外に出すことも、必要不可欠だ。

 それからの日は、小屋の姉妹たち全員を、何かにつけて庭に誘い出したりしてリビングから隔離し、クローゼットを、こっそりと開け続けた。

 「俺は、ここで、留守番をしている。だから、皆でそろって、仲良く買い物にいってきてもらいたいんだ」

 何とかして、軟禁生活を、持続させようとした。

 「ほら…食べて」

 たとえ、姉妹たちが在宅中であっても、こっそりと、食事を運んだりすることが多くなった。

 姉妹たちは、彼のこそこそとした行動を、どう思っていたのだろうか?

 結論的には、何とも思っていなかった。

 「危ない、危ない」

 7人に深入りされなかった彼は、心底、助かったと思えた。

「良いぞ。今日も、何とも思われなかったぞ」

 深入りされないのも、当然だったか。

 姉妹たちにとっては、彼は、同居をしながらもあまり関わりをもちたくない世代だったのだ。

 軟禁生活の中、クローゼットに押し込まれた女性は、怖くて何も言えずに、黙り込んでいた。

 その後も、父王の迎えがあったからという理由で、小屋の姉妹たち全員が出かけたことがあった。

 「助かった…」

 半分石化していた心臓が、かわいそうで、ならなかった。

 そこで彼は、とんでもないことを、考えたようだ。

 クローゼットの中に押し込まれてブルブルと震え座り込んでいた女性に、結婚を迫ったのだ。

 「ここから助けて欲しかったら、俺と、ずっと一緒にいることだな。なあに…。俺は、最凶世代だ。安心しろ」

 彼女は、承諾せざるを得なかった。

 コントロールされた心は、無残だった。

 弱者を言いくるめることは、強い身分の彼にとっては、容易なことだったのだ。

 そんな、ある夜…。

 大変なことが、起きてしまった。

 今は実家にいて彼の帰りを待っているであろう母親が、しくしくと泣いている夢を、見てしまったのだ。

 何だか、哀れになってきてしまった。

 そこで彼は、クローゼットの中で婚姻関係を結ばせた女性を連れて、母親の元に帰ることを、決意したのだった。

「帰ろうか」

 「ええ?私…、帰れるの?」

女性が言うと、クローゼットの中の雰囲気が、変わった。

「何だ?」

 階段の上、つまりは庭園から、何かが、ひらひらと舞い降りてきた。

 「鳥の、羽根か?そういえば、あの女性たちの着ぐるみも、鳥だったな。まさか、その羽根だっていうのか?」

 鳥の羽根が、専門針灸師のもつような針に変化して、きらめいた。

 「あ、金の針だ!金の針、か…。身体を柔らかくしてくれるっていう、道具だな。聞いたことが、あるぞ」

 突如として精製された金の針が、幻となって見えていた母親の手に渡り、彼の身体を、優しく刺した。

 「それは、妄想。幻覚、幻想。あなたは、悟ってますなあ。コーン!」

 キツネ人間だったなら、そう言っただろうか?

 

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