第45話 クローゼットの中の階段には、秘密が…!
7人の美女は、何者をも超える美しさ、だった。
「コン、コン、コン」
陽気の良き日に、扉は、饒舌に叩かれた。
「コン、コン、コーン」
彼女らの父王の召使いという男性が、小屋にやってきたのだ。
「王が、お呼びであります。皆様を、迎えにあがりました」
小屋の中が、一気に、潤いを増した。
7人もの口から、美しい感嘆の声が、上がったのだ。
召使いは、続けた。
「ある婚礼の儀式に出席させるとの、ご命令です。皆様に、きていただきたいとのことで、ございます。そこに、男性がおりますな…」
召使いが、彼のほうを見た。
「それでは、そこの方?2週間の留守を、よろしく頼みましたぞ」
勝手なことを、言うものだった。
彼が、たまたまその日に小屋にいた客だったら、どうしたというのか。が、拒否しようがなかった。
彼は、オンリーワン世代。だ知らない人には、会話が、なかなかできなかった。だからこそ、受け入れるしかなかったのだった。
女性らは、彼に、ほほ笑んだ。
「あら?私たちがいなくなっちゃって、そんなにも、悲しいのかしら。やだあ。ごめんなさいね。でも、良いじゃないの。苦労しなくても、この小屋で、のんびり生きられるんですもの」
彼は、がっくりと、手をついた。
それを見られたか、かわいそうな人間だと思われたか、次に、こんなことを言われてしまった。
「留守番をしてくれるあなたに、良い機会を、与えましょう」
これは、タブーな誘いの予感がしたものだった。
が、応じないわけには、いかなかった。
「この部屋の角に、クローゼットがあります。あなたには、そのクローゼットの鍵を、預けます。これまで、私たちと一緒にいてくれた、礼ですわ。しかし、決して、そのクローゼットを開けてはなりません。約束です。その中に、あなたの幸せはないものと、思ってください」
そんなことを言われてしまった彼は、不満一色だった。
「そんな危ないことになるかも知れないというのなら、鍵を渡さなくても、良いじゃないか。困ったなあ」
本当に、困ってしまった。
禁じられれば禁じられるほどに、曝きたくなるというものだ。欲望が、抑えられなくなってきていた。
「皆が、悪いんだ!俺は、悪くないぞ!」
クローゼットに、手を伸ばしていた。
鍵が、憎らしく見えてきた。
留守中の彼は、ついに、禁じられたそのクローゼットを、開けてしまうのだった。
「これは…何だ?」
クローゼットの中には、上に向かう階段が伸びていた。天に通じるのではないかと思わせるほどの、長い長い階段だった。
「天国への階段、なのか?って、そんなわけがない!この階段の先、上には、何があるんだ?」
もう、上らずには、いかなくなっていた。
「こ、これは…!」
目の前には、きれいに刈り取られた草花に囲まれる庭園が、おしとやかに、広がっていた。
「なんて、美しいんだ」
それまで見たこともなかったような、あでやかな鳥、着ぐるみではない本物の動物たちが、動いていた。
庭園の中央部分には、人口の泉が広がっていた。
その泉の中では、小屋にいた女性たちに負けない美しさの女性数人が、水遊びをしているところだった。
「なんて、リア充!」
うれしくて、気が遠くなっていった。
しばらく見ていると、泉の中にいた女性の1人が、こう言っていた。
「何か、ハッピー!今日はじめてきてみたこの庭は、最高ね。明日も、また、きましょうか。今日は、これで、戻りましょう」
彼は、うれしくてならなかった。
そっと、彼女を見られる毎日を、願っていた。
「あいつ、ストーカーみたいじゃないか」
そうでも言われそうな状況だったが、そんなことはもう、どうでも良かった。
彼は、それ以来、日々ぼんやりと、クローゼットの中の階段を、上がったり降りたりとするようになっていった。いくつもの事情を知らない人から見れば、ストーカーどころではなかった。完全に、夢遊病患者だった。
翌日が、楽しみになっていた。
その翌日も、楽しみになっていた。
小屋の女性たちが帰ってくるという約束の2週間のうち、半分の1週間が、すぐに過ぎていった。
「もっと、あの人たちに近付けないものかな?」
彼は、身もだえしていた。
「あの木に、隠れようか。いや、ダメだ。あの女性たちの誰かに、見つかる。見つかって嫌がられて、ここにきてもらえなくなってしまったら、終わりだ」
考えに、考えていた。
考える努力を、重ねていた。
「先輩たちも、考える努力を、してきたんだろうなあ。俺たち新卒は、こんな感じで努力して考えて生きていた人たちに金を貢がせて、邪魔をして、ポストを奪ったわけか。最悪。これじゃあ、嫌われるよな。って、今はそんなことを考えるのは、やめよう。あまりに、情けなくなる」
約束の2週間目が、きた。
「今日で、小屋の女性たちが、帰ってきてしまう。くそ!天に続く階段を上れるのも、今日までなのか?」
悔しくて悔しくて、ならなかった。
それまでは、小屋の女性にばかり、魅了されていたものだ。
が、人間とは、残酷だ。
はじめに知ったきらびやかさに逃げられてしまい、新たなきらびやかさが見つけられると、今度は、そちらの新たなきらびやかさのほうにばかり、心が奪われてしまうものだったようだ。
それも、無批判、無意識に、心が奪われてしまうもの。
「それなら、今までの気持ちは、何だったのか?」
誰もが、不思議になるものだ。
「ただいま」
婚礼式典に出席していた姉妹たちが、小屋に、帰ってきた。何かの真相が解けるような気になってきたから、ドキドキものだった。
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