第41話 キツネの委員会って、どうなの?
独特の悩みが、はじまった。
「…うーん。こういう感覚で成長したほうが、旅のパーティは、組みやすいのか?どうなんだろう?光の風を復活させて、闇の部族っぽいアレを倒しにいけば、かえって、友達になっちゃったりしないものだろうか?新しいR PGゲームを考えるとは、何と、難しいことか。コン、コン」
どこまでも、考えあぐねていた。
「やはり、こういうタイプのキャラクターのほうが、光の風の復活ゲームには、相応しいのだろうか?他人を認められない、友達感覚の新しい風。人間的成長のリスクを負う光の物語、か…。後で、我らが委員長のあの王に、報告をしなければなるまい。意外にも、良いR PGゲームが作れるかもな。コン、コン」
「えーっと。あのう…」
「実はね?」
「は、はい…?」
「私は、世界最高クラスの、貴金属技術者なのですよ」
「キ、キツネが、何を…」
言いかけて、彼は、口を結んだ。
「まずい。キツネに反抗しちゃあ、ダメだ。何をされるのか、わからない」
ピンチは、続いた。な
「せっかくの、出会い。私のその技術を、あなたにだけなら教えてあげても良いと、思っているのですね」
「は、はい」
「私には、ですね。よろしいですか?」
「は、はい」
「私には、息子も娘も、いません。技術を伝えるべき後継者が、いないのですよ。血縁関係者以外の他の職人には、教えたくはなかったのですがね…。この技術は、私の人生をもかけた魔術なのですし」
キツネ人間は、クスリと、笑って見せた。
「血縁関係にこだわるのなら、俺じゃあダメだと思うんですが…」
何とか、キツネ人間を振り切ろうと、していた。
が、また、クスリと笑われるだけだった。
「いえ、そんなことは、ございません。血縁関係にこだわるというのは、うわべだけの話ですよ。そもそも、今の社会におきましてはねえ」
「今の、社会では?」
「今の社会では、必ずしも、血縁関係にこだわる後継選びは、必要ではなくなってきておりましてね」
「…?」
「私は、ミスラに関わろうと美しく懸命に見えたあなたこそが、技術の後継に相応しいと思ったのですがねえ」
「…?」
「ミスラは、素晴らしい言葉です。我が店には、相応しい言葉です」
「はあ…?」
それでも、好きなジュエリーデザインの話なら、ついつい、引き込まれていってしまうのだった。
「ミスラの言葉は、神様でもあります」
「はあ…」
ますます、わからなくなってきた。
「ミスラは、天空の光を、司っております。扇風機のように回って、風を呼び込んでくれるのですよ!」
「はあ…」
「あなたも、光はお好きでしょう?」
「え、ええ…」
会話が、つながってしまった。
ミスラは、店の意思、キツネ男の目指すような言葉を保証し、契約を遵守させてくれるものなのだともいう。
「ですから私は、ミスラが、好きなのですよ」
「…」
宗教的な雰囲気に、なっていた。
「ミスラは、素晴らしい光です。私には、商売ごとの神様のような存在にも思えます。貴金属のデザインを嫌う人、店を襲う人、虚偽や詐欺をおこなうような人すべてにたいして、ミスラの心は、襲いかかります」
「はあ…」
「ミスラの光は、暖かい。貴金属をさらに輝かせながら、動植物をも生き生きとさせる光を、放ってくれます。私は、店で、観葉植物を育てています。ミスラの暖かい光をもらいながら、良く育ってくれますよ」
「…完全に、宗教だな」
「何か?」
「いえ、何でも」
あまりに光が強くて熱くなりすぎたらどうするのかというような意地悪なことも聞いてみたかったが、やめた。
あまりに深く関わりすぎても、やばい気がしたからだ。
「もう、俺、いきますんで」
「まあ、まあ」
しかし、止められた。
「そうそう。あなたは、こんな興味深い話があるのを、知っていましたか?」
「何?」
心強く、聞いてあげることとした。
「ずいぶん、前のことなのですがね?」
「…」
「光の風を復活させようとした妻が、逮捕されたというのですよ?」
「へえ…」
「TV番組による報道は、そこまででした」
「それで?」
「TV番組では、報道されなかった事実が、ありましてね。それが、面白いのですよ」
「どうだか…」
少しだけ、考えさせられた。
「どこかで、聞いた話だな。…光の神様の話、か。闇の神様ならともかくも、光関係なら悪くは聞こえないから、不思議なものだな」
仕方なく、付き合っていた。
「実は、あの夫婦…。逮捕される以前に、ある意味、消滅していたのですね」
いきなりなことを、言われてしまった。
「なぜでしょうねえ…?コーン、コーン!」
「…」
「話題を、変えましょうか?」
「…」
「ミスラ書店が、懐かしい。店の後継者話に、しましょうか?」
「はあ」
急激すぎる、話題変化だった。
だが、こちらのほうが意外にも面白く、不覚にも、聞き入ってしまっていた。
「私に、子どもがいれば良かった」
キツネ人間は、しみじみと、繰り返した。
母親のことを、思い出した。ある日母親が、キッチンで酒をしみじみ飲みながら、つぶやいていた。
「お母さんも、あなたを産んで育てようとしたときには、いろいろと、迷ったものよう…」
ちょっと、キツネ人間の話と重なってきた気になった。
すると、キツネ人間が、攻めてきた。
「そうですね。あなたには、立派なお父様がいますものね」
ずいぶんなことを言われ、聞き返すしかなかった。
「ねえ、ねえ?俺のお父さんのことを、知っているの?」
「…これが、あの強い世代か。幼い言い方ですな。わが委員会の皆は、何と言うでしょうな」
このときのキツネ人間の声は、頼りないものだった。
キツネ人間は、怯えていたのか?
新しい社会の親子というものは、楽しそうでいて、かわいそうにも映っていたのだろう。
同じような価値観ばかりを共有して、同じような言葉遣いや仕草を求める感覚は、危険としか感じられなかったのだ。
きっと…。
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