第26話 「やってはならないことが、あります」だってさ。
ほんのりと、忍耐を試されるフラグが立てられていた。
「先輩たちも、こうして、耐えてきたのかなあ?俺たちの世代には、できないことだ。耐えて耐えてなんて、無駄じゃあ、ないのか?結局は、社会に出られるじゃないか?違うのか?」
考えさせられるゲーム設定が、酷だった。
「でも、あの人たちって、つぶされたんだよな?かわいそうな世代だよなあ。勝負は、1度きりだ。ゲームなんて、そんなものさ」
人生を、ゲームでしか捉えられないゲーム思考が、憐れだった。
「社会に出るときに就職できなかったら、終わり。コースに乗れなかった先輩たちは、それで、くたばった。俺たちは、運が良かったのか?あの手は、その人たちの怨念なのか?なんて、まさかな」
耐えるということがこんなにも厳しいことだったとは知らず、さみしくて、ならなかった。
目を、閉じた。
ただただ、疲れていた。
すると今度は、本物の人の声が、聞こえてきた。
「何だ?ここには、人がいたのか?そうか…。あの男のいったことは、ウソ。ここは、無人島なんかじゃあ、なかったんだな」
本物の人の声は、いくつもいくつも、重なってきていた。
彼は、何人もの人にすがった。
「やあ!」
彼に言われた人たちが、驚いていた。
「やあって、言っているぞ?」
「ああ。友達感覚、なんだろうよ」
「みたいだな」
もう一度、声をかけてみた。
「俺を、助けろ!」
またまた、言われた人たちは、極度に驚いた。
「何だ?あの、口の利き方は」
「高齢者か?」
「中高年の暴言…」
「まさか!あの世代なのか?」
「超ゆと…」
「しっ!聞こえたら、どうするんだ」
彼は、人を見て、うれしくなった。
「おお。1人や2人では、ないようだな。良く見れば、ずいぶんと、人がいるみたいじゃないか。おい!俺も、お前たちの仲間に加えてくれよ!俺は、オンリーワンの高貴な存在なんだぞ?」
声が届いたのか、何人かのうちの1人が、手招きをした。
「やっと俺に、気付いたか。遅いんだよ」
彼は、喜んで、近づいた。
友達候補として、何人かの仲間の輪に加わっていった。
「ゲッチュ!」
皆に、精一杯の挨拶をした。
が、その挨拶が受け入れられることはなかった。
邪なしじまが、漂おうとしていた。
その人たちは、何も言わなかった。
「…?」
静かな静かな輪、だった。
おかしなおかしな仲間たち、だった。
「あれ?」
おかしいと感じたのも、そのはずか。
その仲間の集まりは、偶然にも、知っている人たちばかりで占められていたような気がした。彼が、普段の生活で目にしていたのと、まったく、同じ格好をしていたのだ。
「懐かしいな…」
知っていた顔が、ちらほらと、見受けられていた。
まるで、馴染みのあったあの商店街の祭りの中にでも紛れ込んでしまったような気分、だった。もしくは、キツネ人間の言っていた、ミスラ何とかという祭りの中だったのか?
「まあ、良い」
合理化が、はじまった。
「懐かしいと考えるより他は、ないよな」
が、考え直さなければ、ならなくなった。
「ん?何か、違うぞ?」
良く見れば、友達にはなれそうにない者がいたのだ。静かな仲間の輪に、変わった姿をした者が参入していたのがわかった。
それは、ネコの被り物をした人だった。
「…?」
ネコのひげは勇ましく、背中には、着ぐるみ用のジッパーが見えていた。大人の背格好をした、やや小柄の二足歩行ネコだった。
「我が輩は、マジシャンである」
ネコ人間は、女性の声を出した気がした。
「ふうん。かわいいネコじゃあ、ないか。可憐な女性、なのかな?」
待っていましたとばかりに、場が、盛り上がってきた。
「パチ、パチ、パチ…!」
まわりにいた人たちが、ネコに向かって、拍手をはじめた。彼もつられて、思わぬ大きなボリュームの拍手を重ねていた。
「我が輩が、びっくりマジックショーを、披露いたしまするニャ」
皆が、ネコ人間の指差した小屋の中に、導かれていった。30名近くは、いたようだ。
「あれ?ここに、小屋なんてあったか?」
先ほどまでは何もなさそうだった林の一角に、学校の1教室大のログハウスが、建てられていた。
まわりの人皆が、そこに導かれていた。
「ほら、あなたも」
「ボーッと、立っていないでください」
「もしかして、自分自身で動かなくても、座っていれば声がかかる生活に、慣れてしまったのですか?フフ」
「ほら、ほら」
「突っ立っていないでください」
「ほら。マジックショーが、始まるそうですよ?」
「そ、そうなんですか?」
自然と彼も、マジシャン小屋に導かれた。
が、彼だけは、マジシャン小屋の入り口に阻まれてしまったのだった。
「何だ?今度は、違う友達なのか?」
彼を、制止してきた者がいた。それは、ネコではなく、イヌの被り物をした人だった。
「おや、おや。お客様?」
イヌ人間の声は、男性のものと思えた。
「なんすか?」
非常に、気分の悪い制止だった。イヌ人間は、半ばぶっきらぼうにも、制止を続けた。
「お客様は、通れませんよ?」
「なぜだ!」
「サンダル履きを、しているからですよ」
「何?」
「礼儀が、感じられません」
「何だって?」
「しかもあなたは、サンダル履きに嫌気がさしていながらも、我慢をして、サンダルを履きを続けていました。靴をもっていながらも、靴を履かない。履かない。それとも、履けないのですか?そんな根性では、この島を歩けません」
「なぜ、靴をもっているとわかった?」
「おや。引っかかった。あなた方から裏を聞き出すのは、簡単」
「こいつ…」
この言葉が、なお強く、蘇ってきた。
「これからいく島は、デリケートな島。サンダル履きでなければ、よろしくないのですね」
騙されたのか…?
「わかったよ、履けば良いんだろう?」
靴に、履き替えた。
イヌ人間は、しかし、穏やかでなかった。
「それでもあなたは、入場できません」
頭に、きた。
「どうして、入場できないんだよ!」
するとイヌ人間も、当然のように言った。
「靴に履き替えるだけで見かけを良くし、まわりの許しをもらおうなどと、考えたからですよ。事実あなたは、靴を履きました。それまで苦労を重ねてきたサンダルを捨て、満足してしまいました。あのクセが、まだ、抜けないとはねえ。皆と同じ恰好なら良いと、思ったのですか?困った世代、ですよ」
開いた口が、ふさがらなかった。
イヌ人間には、こうも、言われた。
「あなたは、途中から、入ろうとしてきたから。そういうことだから、入場できないのですよ」
「何だって?」
「皆、並んでいたのですよ?まわりが、見えなかったのですか?最強オンリーワン世代のあなたには、まわりが醜くて、見られませんでしたか?」
「バカに、するなよ!」
やっぱり、反発するしかなかった。
「バカになど、してはおりませんよ。他の皆様は、努力をして、我慢をして、並んでいたのですよ?それに横入りをしようとするあなたの根性が、理解できませんでしたね。ふん。並んでいた人を押しのけるのも、良いでしょう。他人の金を奪いとって逃げ得する役人であっても、良いでしょう。いえ、いえ。良いといいますか、訴追できない。それだけのことですがね」
「はあ?」
気味の悪さが、増した。
「よろしいですか?やってはならないことが、あります」
…?
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