第14話 またまた夫婦は、怒鳴りあい

 「それでも、この国で生きる以上は、この国のルールに則って生きなければならない…。たとえ、時限爆弾があっても、我慢するしかないのだろうか?男の人風にいえば、身分を守るための我慢って、いうのかな?嫌な、感じ」

 さらに、真相が迫ってきたような気がしていた。

 夫婦の語りがこうなったら、困ったものだ。

 「単なる、怒鳴り合い」

 早く、治療しましょう。

 こうなってしまえば、なぜ口論をしていたのかが、わからなくなっていく。進歩のない戦いだ。

 口論の目的が、相手を言い負かすことだけになってしまうことがあったからだ。ただ単に、キレるケンカになってしまっていた。

 これは、定年退職世代のおじさんに多い行動と、いわれた。

 なぜ、おじさんたちに多かったのだろう?

 キレるといえば、定年退職世代のおじさんの得意技だ。このことに、このステージを切り抜ける鍵が、ありそうだった。

 それまでは、家庭の大黒柱だった、おじさんたち。

 「あら、あなた。今日も仕事に、お疲れさま」

 「パパ!小遣い、ちょうだい!」

 家族に愛された、おじさんたち。

 そう、定年退職をするまでは…。

 だがそれも、定年退職をして働かなくなれば、社会の、不良債権だ。家族を養ってきたプライドをズタズタにされ、いき場をなくしていくのみ。

 うろつく、ゾンビ街道、まっしぐら。

 定年退職をしてしまった以上、職場には、戻れなくなった。ここが、問題だ。

 家にいれば邪魔者扱いされ、さらにいき場をなくしていく。

 そして、キレていく。

 若者を見れば、文句ばかり。

 「あの若い奴らは、働いていない。そんな社会人は、クズだよ。結婚すら、していないのか。責任感が、ないんだよ。24時間働いた俺たちを、見習えよな。困ったものだ。子どもをもってこそ、誰かを養えてこそ、一人前じゃないのか?社会を、何だと思っているのか。働けば働いたで、日中は、ごろごろしている。帰宅時間が、早すぎる。一日中働かないとは、何を考えているのか。若者は、わからない」

 すぐに、キレた。

 キレることでしか、自分自身を、維持できなくなっていた。文句を言うことで、満足してしまっていた。

 「俺は、このだらしのない社会に、物申している。なんて私は、教育的な存在か。若者よ、良く、私を見ておくんだな」

 1人満足する、定年退職世代。

 社会の、迷惑世代だ。

 おじさんの言葉を、整理してみたい。

 「あの若い奴らは、働いていない」

 若い世代が働かないことを危惧するのは、ある意味では、もっともなことだ。が、働かないのではなく、働けない若者が多いのだ。

 若者だって、働きたい人は多い。

 しかし、社会が選んでくれない以上は、働けないのだ。社会状況が違う中で、若者は働かないからダメだと言ってしまえば、議論にならない。おじさんたちには、それが、わからない。

 「社会が、選んでくれなかっただと?生意気を、言うんじゃない!」

 そうしてキレるおじさんも、いるようだ。

 病的だ。

 その若者を選ぶ権限をもつ人こそが、あなた方、面接官。人事課。おじさん世代だというのに…。自己分析も、できなかったのだ。

 「結婚すら、していないのか。責任感がないんだ。子どもをもってこそ」

 こう言う世代が、本当に、いたのだ。

 結婚しないのではなく、結婚できない状況の苦しさが、定年退職世代のおじさんたちには、理解できなかったのだろう。

 「誰かを養えてこそ、一人前じゃないか」

 一見正論のようだが、的が、外れていた。

 孤独で生きるしかない人の立場が、傷付けられた。

 それに、仮に結婚できたとして、子どもをもたない生き方も選択できるわけだ。他人が、多様な生き方にたいして、簡単にとやかく言えることではないのでは。その意味ではもう、おじさんたちの言葉は、絶対に、響かない。

 時代錯誤の、爆弾だ。

 そういう人の奥様方は、その人を、これからずっと、介護していくことになる。これって、ハードモードだ。

 夫婦の口論以上に、覚悟が必要?

 「働けば働いたで、日中は、ごろごろしている。帰宅時間が、早すぎる。一日中働けないなんて、何を考えているのか」

 おじさんたちは、これも、本当に言ってきた。

 夜勤シフトに回る非正規の疲れなんて、知らなかった。

 日中ごろごろしているように見えても、夜勤の仕事に向けて、鋭気を養っている人もいたのに。

 それが、わからなかったのだろうか?

 定年退職世代のおじさんたちは、良い社会で、働きすぎた。

 朝から晩までフルに働いて、誰かを養えた。帰宅し、自分の汗で稼いだ金で家族が持続できることに、どれだけのプライドを感じられたことか。

 そのプライドが持てない若者の苦しみには、どうやっても、わからなかったんだろうか?

 ただ、キレるのみ。

 アフター5といった、今の社会では死語のミラクルを味わえない人たちには、気持ちを寄り添えなかった。

 「今どきの若者は、理解できん!」

 それは、そうかもしれなかった。

 今どきの若者は理解できないと言うが、そういうことを平気で言えるおじさんたちのほうが、理解できないものだ。

 こうしたキャラクターが口論をすれば、大変だ。

 ゲームバランスが、大幅に、崩れていく。

 「口論をして、相手を、参りましたと言わせてやる!」

 それだけを、目標にしてしまうからだ。

 困ったものだ。






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