第3話 「闇の部族、男の身分ゲーム」

 とはいえ、その、彼女自身で固く誓ったはずの沈黙は、いとも簡単に、決壊。馴れ馴れしく、夫に語りかけてしまうのだった。

 「ねえ?闇の部族…、じゃなかった、あなた?ちょっとさあ、こっちにきてくれないかしら?」

 何も言えなくなる妻どころか、おしゃべりをしなくてはいられない妻を、演じていたようだ。

 「だから、何だよ?」

 「TVの、ニュース番組でさ…」

 「うん」

 「だからあ!光の風を復活させて何かをしようとした妻が、逮捕されたんだって!」

  「ふうん」

 「驚いたり、しないの?」

 「そりゃあ、驚かないさ。詳細が、さっぱり、わからないんだものな」

 「あら、そう」

 「何で、光の風っていうのを、復活させようとしたんだろうな?」

 「さあ、知らないわ」

 本当は、知っていたが、言うわけにはいかなかった。光の風を復活させるのは、夫を倒すためだなんて明かしてしまったら、大問題だった。何を逆襲されるか、わかったものでは、なかったためだ。

 それに、この夫婦ゲームでは、寡黙にならなければならなかった。

 基本的なゲーム条件を思い出して、ハッとなった。

 「ほら、あなた?私たちのゲームは、もうはじまったんだからね!」

 「はあ?何、それ?」

 変わった夫婦、だった。

 「参ったなあ」

 「参ったのは、こっちよ!苦しいのは、あなたじゃないでしょう?」

 「私、しゃべりませんからね!光の風を復活させて、良い関係になるんだもんね!」

 「何を、言っているんだ?また、新しいゲームなのか?お前は、創意工夫のゲームが、好きだよなあ。お前が、心配だ」

 心配だと言いながら、本当のところは、妻に、いなくなって欲しかったのだろう。心の中では、ケンカを繰り返していた。

 「まったく…。女は、わきまえてもらいたいよな。沈黙を、守れ!それこそ、何かの着ぐるみでも着て、しゃべりたくてもしゃべれないピエロにでもなってもらいたいよ」

 「参ったなあ…」

 「あなた、また、言っているのね!参ったのは、こっちじゃないの」

 いつも通りのいがみ合いが、続けられた。

 お互い、どんなリアクションをおこなえば未来が輝けそうか、まるで、見えてこなかった。

 「とりあえず私たちは、日常を、維持したい。だから私たちは、いつも通りに、ケンカをしてしまうしかないのよね」

 都合良く、捉えていた。

 夫婦のR PGゲームとは、いかに、難しいものであったか。

 「ねえ、聞いているの?光の風を復活させようとした妻が、逮捕されたのよ?」

 「…」

 「聞いているの?」

 「聞いているさ」

 「怖くないの?」

 「さあ?」

 「じゃあ…。もしも、光の風を復活させる理由が、夫を消すためであったりしたら、どうするのよ?」

 「ない、ない。そういうのは、ないって」

 夫は、ただ、笑い飛ばしていた。

 光どころか、夫婦のいがみ合いが復活しそうな予感、だった。

 夫婦の事件は、休む暇も、なかった。

 ある日彼女は、足首を変な方向にねじってしまったことで、病院いきを、余儀なくされた。ある意味、仕方のないことであったとはいえ、大失敗の元となった。

 彼女1人では病院にいけなかったために、夫に、送迎をしてもらうことにした。これで、嫌な経験が増えた。

 結論的に、男という生き物は、近くに、自分自身よりも弱いと思われる誰かを置いて、「俺様が養ってやっているんだぞ感」を出さなければ満足して生きていけない存在だったいうことが、わかってきた。

 彼女には、男のその性質こそが、社会のアンバランスを作っていたんじゃないのかとも考えられた。

 「このバランスの悪さが、定年退職世代のおじさんなどという、時限爆弾を生んだわけか。そのおじさんたちの奥様方が、気の毒だわ…。定年退職をする前は、存在価値があった。でも、おじさんタイマーが満期を迎えれば、どうなることか。まさに、時限…。やめよう。おじさんたちに、ゴミ出しをする能力が生まれなくても構わない。その代わりに、少なくも定年退職以降は、集積所に運ばれるゴミになってもらいたいわ」

 それって、男性は怒っただろうが、女性にとっては、当然の思いだったのでは?

 この感覚に最も近いのではないかと考えられるのが、学校の先生だ。

 学校の先生というのは、学校の中だけなら、尊敬される人だった。

 「先生って、偉いわよね!」

 「さすがは、俺たちの先生だ!」

 「先生?今度は、この問題を、教えて!」

 児童生徒らが、集まってきた。

 学校という教育現場の中でなら、先生は、どれだけ、素晴らしい人だったか。

 が、学校という場から出されると、急激に、粗大ゴミと化していく。

 「…え?何?あの先生たちって、良く考えたら、偉くなんか、ないじゃん」

 「俺、先生を尊敬して、損した」

 「社会に出たら、先生に教わったこと、役に立たなくない?」

 「だよねー」

 「あの人って、新卒教師だったよね?」

 「あ、そうそう」

 「時限爆弾だよね?」

 「だよねー」

 その通り。

 新卒の若い先生も、ある意味、時限爆弾。定年退職する前は、児童生徒らに、尊敬される。存在価値が、あった。

 若い世代の先生にもなれば、高校生レベルの勉強には、ついていけないといわれる。が養育現場でのゴミ集めの対象に、なっていく。が、その先生らは、教育者の仮面を辞めない。

 なぜか?

 それは、後々わかってくることだが、身分を失いたくないためだ。

 身分、身分。

 身分は、彼女の考えたこの夫婦ゲームの、大きなテーマとなっていく。

 学校の先生は、身分ゲームのとりこだ。

 定年退職をして、教育現場から家庭に集めされ、分別され、運ばれる前は、地方公務員としての絶対的な身分を手に入れることができた。

 …何てことだ!

 学校の先生は、ゴミ出しゲームのキャラクターだったのだ!

 学校の先生は、退職すると、存在価値が消えていく。もう、偽りのタイマーが動かなくなってしまったためだ。

 社会に出た児童生徒らは、こう、気付く。

 「…あれ?そういえば私たちって、何で、あんな人に教わっていたんだろう?教わったことを社会で応用したら、笑われたし。君は、どこで、そんなやり方を覚えたんだって、課長に怒られたし。え?私、学校で教わりました。先生が、いっていました。そう答えたら、バカ扱いされたし。学校の先生の教えは、社会では、役に立たないのよね。役に立たないどころか、間違っていたっぽいし。じゃあ、何で私たち、わざわざ学校にいって、教わっちゃったのかしら。塚、あいつ、新卒教師だったよね?あたおか」

 学校の先生イコール時限爆弾の説に、社会は、どう見てくれるだろうか?

 結構、良い線いっていたんじゃないだろうか?

 では、病院の送迎で、何が起こされたのだろうか?

 「こういう思いをする人って、私以外にも、多いんだろうなあ?」






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