あるいは、愛すべきものはあの超新星
俺が問いかけた瞬間、藍子はカアアッと音が出そうな勢いで頰を赤くした。
口説き文句と勘違いしたのだろうかと訝しんでいると、藍子は上目遣いでこちらを見ながら「えっと、それって、火薙天体観測センターでデートしたときのことを言ってる?」
「小学校の課外授業でペルセウス座流星群を観にいっただけだろ。じゃなくて」
俺は軽くため息をついて、壁の時計に視線を走らす。ま、話自体は短いし、五時限目はロングホームルームだ。ギリいけるだろう。そう結論づけて、あのことについて語ることにする。
「三限目の化学が定刻より早く終わったこともあってな。俺が昼飯を食べ終わったのは、正午のチャイムより前だった」
「むー」
「いきなりなんだ」
「どうせカロリーメイトの昼食なんだろうなって思って」
「調子に乗って本を買い過ぎたんだよ。今月は熱エネルギーの友に頼るしかない」
「毎日だと栄養偏るよ? またお弁当作ってあげよっか?」
あまり甘やかさないでくれ。俺は心の中でだけそう言って、かぶりを振る。
「話を戻すぞ。飯を食って歯を磨いた俺は、いつもの場所で本を読もうとしたんだが、昼の陽気のせいでうとうとしてしまってな。30ページも読まないうちに肘を枕に眠り込んでしまったんだ」
「七瀬ちゃんにしては珍しいね」
いつもの場所ってどこ? と尋ねてこないあたり、俺の隠れ家はとっくに突き止められているらしい。やれやれ、お気に入りの場所だったんだが。
「……昨日から読んでる『万物理論』が闇雲に面白いんだけど、読んでいると眠くなるんだよ。ただまあ、寝てたのはせいぜい十分かそこらだ。何か強い衝撃を感じたような気がして、はっと目を開けたんだ」
覚醒して最初に見たもの。それは、一面の青空だった――しかし。
「しかし、すぐに視界が薄暗くなった」
「薄暗くなった?」
「そうなんだ。そして俺はその薄暗い闇に、いくつもの星が流れるのを確かに見たんだ」
「それで真昼に流れる星というわけなんだね」
「そういうこと。実際のところあれが流星だったのかどうかはわからないが、俺の第一印象はまさにそうだった」
星が流れたのは一瞬だった。すぐに視界は明るくなり、また元の通りの青空が広がったのだった。
「それからしばらくは、ぼうっと空を見上げたままだった」
「七瀬ちゃん寝起き弱いしね」
「否定はしない」
茫然自失から立ち直って、上体を起こすまで、数分はかかっただろう。その間、空は変わらず晴れ渡っていて、校舎も変わらずお昼時の賑わいをみせていた。
「ともかく七瀬ちゃんはその流星の正体が何であるのかを知りたいんだね」
「だから名探偵に会いに来たんだ」
「なるほどね」
藍子はそう言って、どこかつまらなそうに、それでいてどこかほっとしたように口をもにゅもにゅさせた。
「よろしい。そういうことならその事件、わたしが五――」
「五?」
「五時限目が終わるまでに全て解き明かしてみせるね! 放課後を楽しみにしていてね、七瀬ちゃん!」
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