3―3

 ハクが戻って来た。力の半分を取り戻した私は飛行速度をさらに上げてゆく。

 正直一か八かの賭けだったけど……ここまで見事に成功するだなんて思わなかった。

 分離体であるハクは本体である私を基準にしたスケールの変身能力を持つ。ならば、私が超人態になった状態でハクを分離できるとしたらどうなるだろうか。お互いが半身になっているので全力は出せない。発光態なんてもってのほか。けれど――似たような気配を持つ分身として超人の肉体を二つ用意することが出来る。

 たづなの能力は強力だ。触れれば力を奪える帯、その幅そのものが攻撃範囲というとんでもないスケール。四〇メートル級の怪獣をすっぽり包んで余りあるのだから対人戦において射程距離は無限大と表現して差し支えないだろう。

 しかしながらそんな攻撃範囲にも弱点がある。それは視界の確保だ。一度にあれだけの帯を吐きだせば、それで相手を包み込めば、自分の視界には帯しか映らないだろう。帯が触覚を持つにしても外見が瓜二つの物を判別するのは至難の業……。

 これもまたビギナーズラック。相手が私を相手に油断していることが前提の悪戯みたいなものだ。油断ならないたづなの事、二度と同じ手は使えまい。

「でも――」

 騙すのは一度きりでいいのだ。目の前にはもう懐かしの城壁が、都市についてしまえばこっちのもの。流石のたづなも二度目は無い。たどり着いてしまえば私は都市の戦士として迎えられる!

「まもりお姉ちゃん……」

〈ご主人様〉

「どうしたの? ひょっとしてハクも飛びたい?」

〈体の制御権をいただけるのはやぶさかではございませんが――〉

「⁉――」

 ガクン!と高度が下がる。頭からいきなり真っ逆さまに落ちて――

「ハク⁉ 何で――」

 疑問はすぐに解消した。さっきまで飛んでいた高度に火炎弾が通過したのだ。

〈お楽しみのところ失礼。ですが、敵ですわ――〉

「……敵?」

 そのまま地面に着地する。城壁は目と鼻の先、そんな場所に一体誰が……。

「貴様、見たことない超人だが外側のどの所属だ。なぜ我々の領域に入り込んだ」

 しゃべる度に男の全身から熱気が噴き出す。ボディビルめいたたくましい筋肉を覆う冷えた溶岩のようなゴツゴツとした黒い肌。その肌理は男の呼吸に合わせてマグマの光りを漏らしている。この特徴は――

「ひょっとして……戦士マイティマグマ?」

「⁉ 何故俺の名前を!」

「何故って……コード01690029、戦士マイティマグマの活躍は習いましたよ。怪獣を一撃で燃やしつくす火炎弾の使い手。鍛えられた肉体と超人の力を合わせたマグママッスルのフィジカルだけでも怪獣を落とせる……訓練生であなたの記録を見ない事はありえないです」

「⁉ 訓練生? お前、この都市の出身なのか?」

 空気が冷え始める。誤解が解けたみたいだ。そうそう、同じ都市の出身同士今はいがみ合っている場合じゃない。

「私はコード01860086。先日立志式で拉致された訓練生です。敵の基地から逃げ出してきました。都市への帰還を、保護を求めます!」

 やっと……やっと帰って来られた。ここには守ってくれる戦士がいる。これでもう安心だ……。

「いや……その事なんだが……難しいかもしれん」

「え?……何故……」

「お前いぎ……いや、知らないってで送り届ければ……だがそもそも子供が壁の外に出る事態なんて想定されていないしな……俺達の部隊の存在自体都市じゃタブーだ……」

「ええっと……」

「おい01860086、お前口は堅い方か?」

「……どういうことです?」

「お前がここで見たこと、俺の姿、とにかく全部墓の中まで持っていけるならあそこに戻れる可能性がある」

「墓の中って……そんな大げさな――」

「そうだ変身も解除しろ。それでに戻れるよな! あの事件なら俺も知っている。たかが三日でものじゃない。今なら戻れるはずだ」

「………………」

 とぼけた私にもようやく何かマズい事になったのが理解できた。マイティマグマが言いかけた言葉。それが「異形化」なのだとしたら……。自分が変身できるようになって感覚が麻痺している。マイティマグマの全盛期は煌々と輝く活火山のような盛り上がった姿。今でも十分にたくましいけど……決して休火山のように落ち着いた人のスケールに収まるものではなかったはずだ。

「コード01690029!」

 私めがけて殺気が飛んでくる。

「⁉」

 堅牢で……何処か懐かしい温かな衝撃。それを避けて、第二波に備えようと――

「……な――」

「外側の人間には情け無用のはずだ。浮浪者……それも超人を迎え入れる余裕は我が都市には無いぞ!」

「隊長、しかしながらこの子はコード01860086です。先日立志式で拉致された訓練生です! 彼女であればまだ受け入れられ――」

「だったら尚更だ! 彼女には異形化の判定が下された事を知っているだろう。都市の平穏を脅かす存在は受け入れる訳には――」

「まもりお姉ちゃん!」

 変身を解いて……目の前の彼女に向かって両手を上げる。

 足元にめり込んだ黄金の盾、黄金の鎧を纏った戦乙女、視線こそ冷たいけど……あの日助けてもらったあの人の闘気・優しさは怪獣の恐怖と同じくらいこの身に刻まれている。超人になって鋭敏になった感覚がさらに後押ししてくれる。

「まもりお姉ちゃん……」

 だとしたら、何で……お姉ちゃんは何で私をそんな目で見るの……。

「……コード01860086」

「――っ‼」

 もう一撃、盾の一撃が放たれる。私に向かって真っすぐ。三日前までは持って殴りつけていたそれ。今では闘気そのものを操れるのか……威力も、厚みも確実に殺せるやつ――

「‼」

「⁉」

 瞬間的に変身、爪の一撃で盾を切り裂く。

「無防備な市民相手にこれだけやるなんて……戦士まもりの仕事はみんなを守ることじゃ無かったの……」

「あなたに……そんな事言われたく……無い……っ!」

 黄金のオーラが拡散し、お姉ちゃんの変身が足元から解ける。

「それは……」

 そこにいたのは普段通りのまもりお姉ちゃんだった。抜群のプロポーションをツナギに包み込んだ子供たちの憧れの女の人。違うのは温かな笑顔の代わりに悲しみと憎悪に泣きぬれているのと――先祖返りの金髪が黄金の質量を残したままであるということ。

「あの戦いで私は異形化を顕在化させてしまった……。コード01860086、あなたが暴走さえしなければまだ猶予はあったのに……」

「そんな……でも、異形化しても私達超人は人間でしょ? だったら説明すれば分かってもらえるって。旧時代から統合暦にかけてもう二〇〇年以上経っているじゃない。今更超人派と保守派に分かれるなんておかしいよ」

「ええ……私もそう思っていたわよ。だから労働者階級に、人間に混ざって人間と同じように行動してきた……。超人から歩み寄れば、きっとみんな私達の事を理解してくれる。例え異形化を果たしてもみんな受け入れてくれるって……」

「なら……」

「でも――」

 まもりお姉ちゃんは再び黄金のオーラを纏う。丸みを帯びていた鎧は所々尖り、施されていた飾りもどこか荒々しい。

「医学的な正しさも! 超人が身を粉にして人類を守って来た実績も! 二〇〇年もの間守られることが当たり前だった彼らには価値の無いものだった!

 ねぇ知ってる? あの戦いで私は戦死者として宣伝されたの……私はここで生きているのに壁の内側では『怪物相手に都市を守った英霊』だって……。そこにいる01690029も似たようなもの。見た目がちょっと変わっただけで化け物扱い、戦死者扱い‼

 なんで市長が労働者階級から選ばれるか知っている? 『武力を行使する人間が政治を支配するのはさらなる暴力を招くから。種族間の公平性を保つため』だって……笑っちゃうよね……。確かに私達は優れた力を使うかもしれない。でもそれは体が変化する不安と引き換えの物で怖いよ!……私達だって怖くないはずが無い。人間として恐怖を感じている。

 それなのにあの人たちは無責任に私達を非難して『強いんだからまもるのが当たり前』『違うのだから差別されるのが当たり前』『世話してやっているんだから自分達のために働け』って。その言葉だけで十分暴力的だよ‼ じゃあ私達は今まで何を守って来たの? 私達の事を誰が守ってくれるの!」

「……」

「外側で何を吹き込まれたのか私は知らない。例えこの世界の真実を知ったからって、あの人たちは変わらない。それでも……私はここ以外の生き方を知らない。だから――」

 まもりお姉ちゃんの後ろからゾロゾロと異形の戦士たちが集まる。マイティマグマも隊列に加わると変身、人型の活火山と化して私と対峙した。

「コード01860086、我々異形部隊は都市の命に従いあなたを処分する」

 怪獣の爪のように尖った盾、その先端が私に向けられる。鎧からは優しさが抜け、そこにあるのはむき出しの悲しみ。

「……そっか」

 たづなの話は全て本当だった。都市と超人の隔絶。異形化がもたらす嫌悪感。閉じた区画からひとたび出てしまえば、イレギュラーが受け入れられる事は無い。都市が誇っていた最高の器も、ひとたび傷物になれば脅威。現に……私はまもりお姉ちゃんに市民としての致命傷を与えてしまった……。

〈ご主人様、いかがいたします? 私達の実力ならこの程度の有象無象、余裕で蹴散らせますが〉

 私の中で嵐が生まれる。行き場のない怒り、悲しみ。ハクはそれをエネルギーに戦うための力を練り上げ、私達に向けられた戦意を一つ一つ舐めるようにみて舌なめずりをする。

「お風呂にだけは入っておきたかったなぁ……」

 洗濯ついでに一美ちゃんと湖で水浴びしたっけ。つい昨日の事なのにとても遠い場所に来てしまった気がする。冷水もサッパリするけど、私はお湯派。シャワーで汚れを落として、たっぷり張った浴場で全身を伸ばすのが最高なんだよなぁ……。

 先陣を切ったのはマイティマグマだった。私の背丈を軽々と超える巨大口径の火炎弾。飲み込まれたら一溜まりも無いだろう。

 一瞬申し訳なさそうな表情を伏し目がちにして隠す。ああ、この人は絶対にいい人だ。痛みを感じないように、せめて一瞬で――なんて思っていそう。

「でも――」

 私は袖から大量の糸を噴出させるとネットを作り、火炎弾を包む。

「何⁉」

 たづなの帯と怪獣の分解能力のコラボレーション。ネットは火炎弾の燃焼を相殺しつつ、優しく包み込む。

「はあっ!」

 勢いが止まった所で私は正面のネットを思い切り蹴った。火炎弾はそのまま逆方向に、戦士達の方へ飛んでゆく。

「バカな!」

「っ!」

 ガコン! と硬質な音が響いて火炎弾が崩れ落ちた。進行をせき止めたのは見るまでも無く黄金の盾だろう。

 その音を背景に私は空へと飛び立った。

「! 待て!」

 待たない。待つ意味が無い。もう都市ここには私がいる意味が無かったんだ……。それに、まもりお姉ちゃんに歴戦の勇士たち十人とまともに戦ってお互い無事でいられる自信は無い。

〈ちょっとご主人様! あれだけの技を見せておきながら戦わないなんて――〉

「だって――」

 うぬぼれる訳じゃないけどハクが練り上げた力は誇張なく戦士たちをずたずたに引き裂くことが出来る。それこそあの日の広場さながらの惨劇を繰り広げることが出来るだろう。

 でも……それは私が望む力の使い方じゃ無い。別に都市から支援を受けなくても、昴衆にかくまわれなくても戦士としての活動はいくらでもできるんだ。国を、世界を飛び回っては大小様々な怪獣を屠って行く。私の人生もうそれでいいじゃないか!

「舐めるな!」

「逃がすか!」

 戦士アイスエイジの凍結攻撃をバレルロールで回避。その攻撃で出来上がった氷の道を滑走路に戦士スピードスターが猛追。それを私は盾を出現させることでせき止める。

「ぐえっ……」

「……」

 防衛都市の城壁は壁の周囲に怪獣を誘導する性質がある。であれば壁の内側だけでなく外縁にも出現するのが道理。外側の存在を市民に知らせたくない都市としては異分子扱いの異形化した戦士たちを追放がてら防衛に当たらせるのが効率的と判断したのだろう。

 それが異形部隊の本質だ。たづなたちのように生粋の外側生まれと違って攻撃が全て対怪獣用の大味な物。飛んで、跳ねて、雨霰に能力をぶつけてくるけど……威力だけじゃ人型を捕えるには役不足だ。

 戦士ゆづるの連撃を躱して、戦士ローズの蔦状の拘束を爪の一撃で引き裂いてゆく。

「……いい加減うっとおしい!」

〈ですから言っているじゃありませんの。引き裂くのですわ。ちょっと殺す一歩手前まで痛めつける程度ですわ。それですべて解決じゃありませんか〉

「そうなんだけど……一つ気になる」

〈?〉

 戦士の寿命は平均すると一~二年。これは対怪獣のために全力で能力を使って……異形化するまでの期間のはずだ。

 身も蓋も無い言い方をすれば――まもりお姉ちゃんたちは異形化を終えている。私は訓練生のままだったから分からないけど、戦士はいずれかの段階で都市から異形化の恐怖を植え付けられるのだとしたら――すでにそれが終わっているならそれこそ私が銀狐に変身したように大規模に能力を発動させてもいいんじゃないだろうか。

 リミッターが外れた化け物同士一対十。いくら私とハクのコンビでも、私達十人分の超人相手に無事でいられる自信は無い。

 都市は隠し事をする最低な側面があるけれど、ある意味で適切なタイミングで重要な情報を戦士達に与える。外側で戦うなら対人戦のスキルに適切なタイミングで全力を出す事が必須なはずなのにそれを教えずに……代わりに何を吹き込んだ……?

「はあっ‼」

「⁉」

 まもりお姉ちゃんは回避の一瞬を狙っていたらしい。攻撃の波から逃れるべく飛び跳ねた私を黄金の膜が包み込む。

「手間をかけさせる……01860086はいつもそう、誰よりも才能があって人が苦労して身に着けた技を一瞬で自分の物にしてしまう」

「うっ……ぐっ……」

 球形の膜が内側へと圧縮を始める。守護天使が生み出した防御の力は叩いても爪を立てても傷一つつかない。怪獣のオーラも当然中和され……縮むごとに密度を増す完全防御、このままだと潰される!

「だからこの一瞬に賭けた! せめて私の手で……ひと思いに!」

「……ハク!」

〈ムリですムリです! さすがにこのレベルは想定外ですわ!〉

 流石まもりお姉ちゃん……私が憧れた戦士……どんな状況に追い込まれようとも戦士として常に私の一歩先を行っている。

 とうとう骨が軋みだして来た。限界は近い。このままいけば私はまあるい肉塊になって終わるのだろう。それもいいかもしれない。超人の能力は本人の想像力がそのまま反映される。私の全身を包むオーラは今や温もりを感じる。まもりお姉ちゃんは私を憎んでいる。でも同時に私の身を最後まで案じている事も伝わってくる。

「……」

 それでいいじゃないか。最期に器とか関係なしに自分の事を受け入れてくれる人が一人でもいてくれた。だったらこんな最期でも悔いは――

「それじゃ……困る……」

「――!!?」

 私達めがけてミサイルが一本飛び込んでくる。

 ……え? ミサイル⁉ 旧時代のもう製造できないそれが何でこんな場所に――

「器……届ける。これ……命令……」

 それはまもりお姉ちゃんの側に炸裂すると、その場の全員を巻き込んだ大爆発へと姿を変えた。頑丈な超人も爆発が生み出す衝撃波をまともに喰らえば一溜まりもない。皮肉にも私は球体の中にいたことで無事だった。

 そのオーラもお姉ちゃんが被弾した事で解放される。

「おおっ……」

「おっと……お嬢ちゃん無事か」

 自由落下から私を抱きとめて助けてくれたのは晶さんだった。星明りを受けて全身をキラキラと輝かせる水晶状の肉体。クリスタルアイズの戦士の姿だ。

「これ……晶さんがやったんですか……⁉」

「いや、俺の能力が地味だって事は勉強しているだろう。これをやったのは連れの方だよ」

「連れって……」

 晶さんの視線をトレースする。そこには――

「僕の……仕事……たづな様の……命令!」

 フード姿の大男、十兵衛。彼はそれを取り払い私の前に初めて姿を現した。

「なっ……‼」

 ミサイルポット、ランチャー、対物ライフル、マシンガン、砲台、旧時代の、いやこの世のありとあらゆる兵器が人型に寄せ集まった集合体。十兵衛さんが常にフードを被っていたのは自身の異形を隠すためだった――

「行く……ぞ……」

 十兵衛さんは荒野にドカッと両足を付けて兵器の展開を始める。ガチャガチャと兵装が展開する様子は人間武器庫なんてレベルじゃない。この世の兵器全てつぎ込んでも足りないくらいはちきれんばかりの破壊エネルギー。

「じゃ、行こうか」

「行くって……私たづなのところには――」

「だとしてもここを抜け出さないと話にならないだろう。十兵衛に任せればなんとかなる。俺達の仕事は逃げる事さ」

「ちょっと!――」

 ズガアアアアアアアアアアアアァアアン‼ と大地を震わせる強烈な一撃が。振り返るとそこには巨大なクレーターが出来上がっていた。

「……」「……」「……」「……」「……」

「ひ、怯むな!」

「そうだ! 旧時代の兵器なんて怪獣相手になんの効果も無い」

「俺達超人こそ最先端だ!」

 十兵衛さんの攻撃はお世辞にも綺麗とは言えない。全身から大小でたらめに砲身を生やしてはあちこちへと狙いも滅茶苦茶な攻撃を絶え間なく噴出させてゆく。

 ……いやいや、最先端の能力で旧時代の兵器を再現しているから恐ろしいんじゃないか。しかしながら戦士たちが空元気を出す気持ちも分かる。そうでもしないと――

「うわぁ!」

「あらよっと」

 逃げるはずの私達まで巻き添えに。十兵衛さんの一撃は弾丸一粒でも怪獣相手にオーバーキル。流石のマイティマグマにまもりお姉ちゃんも防御に徹して動けない。

 そんな戦火の中で私達が無事でいられるのはひとえに晶さんの能力のおかげ。クリスタルアイズの能力は過去と未来を見通す目。多分晶さんは砲撃の着弾点を先読みして銃撃の嵐の中を避けて通っている。全身が硬質で居心地が悪いけど今は抱き着いていないと死んじゃう!

「ははは。どうだ、すげえだろ。あいつ普段はシャイなんだけどやるときは男気を見せてくれるんだよ。やっぱりミリタリーは男のロマンだよな」

「ロマンって……そんな事言ってる場合ですか⁉ 死んじゃう! 殺されるーーー!!!」

「大丈夫だって。今のところ俺達がやられる未来は視えない」

「今のところって……じゃあヤバい時もあるんですか⁉」

「あいつがやり過ぎたら多分な。ちなみに俺は二、三回巻き込まれて死にかけた事がある」

「そんなの気休めになりませんよ~~~~」

 幸か不幸か、十分すぎる弾幕のおかげで私達は都市の領域から離脱しつつあった。爆心地から離れれば巻き込まれる確率も減る。彼らの守備範囲を超えた所で私は晶さんの腕を離れた。

「………………」

 本来であれば彼らが振るう力は怪獣に、世界を守るために使われるもの。それが互いの陣営の利益のために乱発されてしまっている。

「本当にこれでいいのかな……」

「……」

 危険な花火は次第に収束を始める。私達が逃げられた事を確信した十兵衛さんが砲撃を停止したのだろう。戦士達とて野良の超人相手に能力を無駄遣いする気は無いはずだ。私達の無意味な戦いはこうして滅茶苦茶な形で一区切りついた事になる……。

「………………ん?」

 地上から天空へと一条の光が飛びあがる。火薬が炸裂したような紅蓮。

 それに続くように氷河を連想させる蒼、バラの花弁のような紅と、三条の光は上空に波紋を作りながら吸い込まれてゆく。空気がひりつくこの感覚。怪獣が出現する時と同じ時空間の振動⁉

「あーあ。そろそろかと思っていたけど……十兵衛の奴行っちまったか。俺の未来視、長期は向いていないな」

「え、十兵衛さんに一体何が――」

 私は説明を求めて晶さんへと顔を向ける。

「それよりもお嬢ちゃん、俺の目を見てくれないか」

「え――」

 水晶の瞳が私の両目を覗き込む。三色の光を拡散し、プリズムの眩い光が飛び交った瞬間私の意識はブツンと途切れた。

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