3―4

「戦士たちは何故一、二年で引退してしまうのか。異形化を果たしても何故初めから全力を出さないのか。怪獣もまたおおよそ一週間に一度とある程度のペースで出現するのか。この世界で生きていて疑問に思わない事は無いはず。

 それでも納得してしまうのは都市においては二〇〇年かけて築き上げてきた教育という名の伝統が、外側においては正しい知識を手に入れる場が少ないという機会の無さが原因ね。怪獣は自然災害と結びつけやすいし、超人・妖精は外からの来訪者。人間には自分の理解を超えたものを見てしまうと考える事を止めてしまう怠惰な性質がある」

「……」

「最初の疑問は出会った時に説明したわね。超人の力を使いすぎると人体はその身に宿した妖精と癒着し、分離体を維持できなくなる。晶みたいに左目だけならそこまで驚きは少ないだろうけど、十兵衛みたいに形だけ人でも部品が別物になったらなかなか受け入れられない。

 ま、私は器が広いから気にしないけど――アイツ自分で自分の姿を恥ずかしいってフード被っちゃって……せめて私といる時くらいはすっぴんでいて欲しかったわ」

「………」

「別に異形化を果たしたところで行きつく先は超人の姿にかなり近い。私ならミイラ女、アンタなら狐娘か。よかったわね、可愛らしくって。きっとみんな『コスプレカワイイ』って言ってくれるわ。

 もしくはあの化け狐よね。都市には動物園ってのがあるんでしょ。そこで飼われるのもアリじゃない。人間に飽きたら森に逃げて獣として生きていく事も出来そう。生物ベースで得したわね」

「…………」

「ところがどっこい、異形化には続きがある。これは怪獣の発生とも関わる事だからちゃんと聞いておきなさい。

 人類が妖精と接触した旧時代、超人派の人々は超人の凄まじい力をほしいままに悠々と暮らしていたわ。怪獣を相手に大暴れはもちろん、その力の矛先は自分達を虐げてきた富裕層、無能な政治家、笑っちゃう事に少し視線が合っただけの気に入らない相手にまで……とにかく人間にも向けられた。旧時代は元々分断を抱えていた時代だったんでしょうね……失うものが無い人間が力を得たら凄いわよ、自分の肉体が化け物になるなんて知ったこっちゃない、やれ復讐だ、破壊だって超人の力は主に守るためでなく攻撃のために振るわれた。

 その事は妖精たちとしても都合が良かった。地球に留まるためには物理的な肉体が必要不可欠。ジャムの瓶の中でジッとなんてしていたら窮屈で仕方ないだろうし、余裕のある保守的な富裕層とのんびり過ごすよりか手が早い人間と手を組んで肉体の感覚を十全に味わいたかった。

 結果として人類は怪獣を滅ぼす力を得たけど同時に文明を大幅に後退させ弱肉強食の原始的な時代に。よくもまぁ統合暦まで私たちは続いているわね。人類ってなかなかにしぶといわ」

「……………」

「そうやって地上を荒らしまわってこの世の春を謳歌してきた超人だけど暴れる中でふと気づいた。『戦っても戦っても、怪獣の数が減らない。むしろ増えているぞ』ってね。

 怪獣は知的生命体の精神エネルギーを食料としている。破壊行為はその手段に過ぎない。

 人間と妖精が融合して生まれた超人。それは人間態・分離体の状態でも怪獣から見ると花理のカロリー源らしく、それが超人態、発光態ともなればエネルギーの総量は計り知れない。超人は怪獣を倒す能力を秘めていると同時にヤツらにとっては涎が止まらないほどの御馳走ってわけね。

 万能に見える超人も疲労を感じる事はアンタも理解しているはず。超人達は次第に弱い者いじめしている暇が無くなって怪獣相手に泥沼の戦いを強いられるようになっていった」

「………………」

「ここにきてようやく人類は一つになった。お互いイジメ合っていた双方の和解、なんて言っちゃうと感動的だけど実態は行き詰っただけね。とにかく戦えそうな人間全員が妖精と合体して怪獣を食い止めなければいけなくなった。最終的に人類のどれくらいが超人になったのか分からないけどまぁ、半分は確実に超えているでしょうね。

 けれど人類に妖精の総力を持ってしても地球に迫る脅威を排除できない。流石に数が揃ったのか冷静に考えられるようになって来た。『問題は数じゃない。ただ戦うだけでは今までと同じだ。発想を変えなければ戦いは永遠に終わらないぞ』と誰かが気付いた」

「…………………」

「そこで超人たちは一つの解決策を導き出した。『一度怪獣に目を付けられてしまったら逃れる術は無い。それは妖精界が崩壊した事で証明された。ならば、せめて主戦場を地球からズラすことが出来れば時間稼ぎ程度は出来るのではないだろうか』と。

 怪獣は次元の壁を超えてやってくる。超人たちはそのプロセスに注目し、自分達が壁と融合することで怪獣をせき止めるための第一の防壁と化した。私達はそれを『最前線』と呼んでいるわ。

 異形化の行きつく先が怪獣のエサになる性質を利用したまさに逆転の発想ね。旧時代の超人たちはそれぞれ三つのグループに分かれた。『最前線』に連なり怪獣の地球への侵攻を遅らせる者。『城壁』と化して地上への侵入経路の誘導装置と化し、同時に人類の揺り籠『都市』構築の望みを託した者。そして最前線からの撃ち漏らしを迎え撃つために城壁の周辺を守護する者……。

 妖精たちは地球で力を堪能できる代償として、異形化が最大限になった時に超人を最前線に送るように縛られている。人間にしたって人類を守るためとはいえそんな物騒な所に送られるのは勘弁してほしいって事でビビッて全力を出したくなくなっている。なんてことないエゴの問題ね。

 これが昴衆に伝わるこの世界と妖精・超人の秘密。どう? 面白いでしょ」

「……………………」

「そろそろ嘘寝は止めなさいよ。とっくに起きているの気付いているのよ」

「……いや……だって……」

 前半は正直意識が曖昧で寝ていたようなものだ。晶さんの眼力による強制睡眠は夢すら見せない。おかげで起きても意識と肉体の感覚がバラバラですり合わせに苦労した。

 やっとこさ落ち着いた所でさっきの話である。たづなの話は確かに理に適っていて、体験した出来事の証明としてこれ以上無いだろう。

 だからと言って……そんなスケールの大きな話をいきなり聞かせられて私にどうしろと……その話が本当なのだとしたら……。

「……行き詰っている」

 生活圏と誘導地点とを兼ねた防衛都市。人類はそこで安定した生活を送れるのだろうけど、壁という装置そのものが結局のところ人口に科学技術の発展を限定的にしている。

 だからと言ってさらなる人口増加と発展を求めて外へ出たとしても結果は同じだ。最前線から漏れた小型の怪獣に襲われたり、怪獣を退けたとしても外側という過酷な環境では異形化の進行度が早く志半ばで最前線へ送られたり……何をどうした所で人類と妖精が出来る事は限られている。

 それなのに……目の前のたづなから感じる自信はなんなのだろう。彼女の瞳は真実を知りながら動揺していない、希望を捨てていない、打ちのめされていない。それどころか……世界の仕組みそのものに挑戦してやろうと瞳が野望で燃え上がっている。

「ようやく私の話を聞く気になった?」

「!……別にそんなんじゃ――」

「世界を変えるのはいつだって若者の野心よ。二〇〇年を超える慣習に慣れてしまった大人たちはこのシステムの安定しか考えていない。それでは駄目。状況は根底から変える必要がある。ハルもその必要を見出したからこそ今そこで絶望している」

「――人の事さも知っているように話を進めないでよ」

「はいストップ!」

「ヘブ」「ウエッ」

 私達の間に一美ちゃんが割り込んでくる。私はともかくとして……たづなの顔面まで鷲掴みにするだなんてものすごい度胸……。

「たづな様いい加減働いて下さい。帰って来てからずーーーっとハルちゃんの寝顔見てバッカリで……今日の水汲み晶さんですよ! 水の量期待できないじゃないですか」

「いやいや水汲みなんて誰でも――」

「ここの家政を私に任せたのはたづな様です! おうちの事に関しては私に一切の責任と権限があるんです! たづな様が晶さんに水汲みを任せたおかげで今日の狩りの当番はたづな様ですよ。相性が逆、たづな様自分が狩りが下手くそなこと自覚していますよね」

「いや……ごめんって……」

 一美ちゃんの事しっかりした子だって前から思っていたけど……凄い、あの偉そうなたづなが子供を前にペコペコしている……‼ 私がこの子の言うことを聞いていたのは打算もあったけど――誰かを従わせる才能があるのかもしれない……。

「ハルちゃんも!」

「はい!」

 そんな末恐ろしい視線が私にも向けられる。

「何があったのか知らないけど、せめて三太の前ではダサい顔をしないで。二郎は察せるけど、あの子はまだ小さいんだから……そんな顔見せていたら心配しちゃう。ハルちゃん素直なのはいいけど大人になる事も覚えて」

 都市じゃ知らないけどここでは立派に大人なんだから。そう言って一美ちゃんは私達の顔面から手を放し、作業に戻った。

「……」

 三太君を見る。私の事をおどおどと伺うように見て……目が合うとビクッと慌てて視線を逸らした。

「……大丈夫! もう元気だから! ね!」

 私は少し大げさに腕を振ったり、力こぶを作ったりして見た。これこそ空元気そのものなのだけど――

「……!」

 三太君の表情が少しだけ明るくなった。ふぅー良かったぁ……。

「子供っていうのはなかなか良いものだと思わない? 一緒にいると気分が明るくなる。一美も三太も、ここにいない二郎もみんな立派に育って誇らしいわね。流石私の教育のたまものだわ」

「自画自賛の部分だけ余計だよ……。あなたどれだけ自信家なの?」

「少なくとももう一度ガチでやり合えばハルに勝てる。いや、今の腑抜けたあなたなら小指一本で充分」

「……」

 小指一本とは大した自信。でもある意味的確かもしれない。

 今の私にはたづながピンと伸ばした左小指の指先程の気力も無い。未だに感じる浮遊感は決して晶さんの強制催眠の余波だけが原因じゃない。

 私が暴れたことでまもりお姉ちゃんを異形化に追い込み、かつての精鋭たちに十兵衛さんまでもを「最前線」なる場所へ送り込んでしまった。

 超人に必要なのは想像力。戦うためのイメージ。まもりお姉ちゃんのそれは結果論だとしてもあの戦火の中から私を守ってくれた。姿が変わろうとも、お姉ちゃんの中では誰かを守ろうという志が揺らがずに存在している……。

 ならば私の「変身」は何に根ざしているのだろう。私にだって誰かを守りたい気持ちはある。この思いは嘘じゃない。けれど実態は自分が体験してきた攻撃のイメージを取り込んでは猿真似して破壊を拡大再生産しているだけ。私がやってきた事は怪獣と大して変わらないじゃないか……。

「……ハクは?」

 そう言えば私と暴れまわった悪友の姿を見かけない。散々私の監視を請け負っていたセンジュまで……たづなはともかく、三太君の側にすらいないのはどうして――

「妖精たちなら外よ。アイツら暴れるときは好き放題する癖に自分達の耳の痛い話が聞こえるとすぐに逃げ出すの。全く都合が良いったらありゃしない」

「ははは……」

 そりゃ調子に乗るために地球に来たのに耳元でそんな話をされたら溜まったものじゃないだろう。まぁ、私が聞いた時点でハクも聞いているも同然。だったらせめて顔を合わせたくないって所か。

「そうね……話ついでにもう少し付き合いなさい」

「え、ちょっと、何する気?」

「何って外の空気吸いに行くのよ。どうせまだふらふらしているんでしょ。この私が気分転換に誘ってあげているんだからありがたく受け取りなさい」

「いやいやいや」

 さっきから善意の押し売りしか受けていない……。だからと言って拒否する気力も無い私はされるがままにたづなに引っ張られ、ゲルの外へと引きずり出された。

「すー……はー……アレね、ここで深呼吸しても喉が渇くだけで落ち着かない」

「…………」

 見渡す限りの荒野。ここから湿度のある場所へと移動するには一時間弱かかる。気分転換を図るのであればもう少し色彩豊かな場所でやるべきなんじゃ……。

「そう言えばさ、たづなはどうしてこんな辺鄙な場所に基地を立てたわけ? 確かに超人私達がいれば何かと便利だけど、たづなは昴衆の仕事とかで留守にしがちなんでしょ。定期的に何かやってきているみたいだけど、それでも子供たちだけだと不便なんてものじゃない。ここでの生活は詰む。それを理解していないはずが無いと思うんだけど……」

 自給自足のスローライフと言えば聞こえはいいけど、実態はハードそのもの。子供たちの手は都市の労働者階級に匹敵するほど手仕事の勲章でいっぱいだ。あの年齢でそれなのだ。

 外側の生活のすべてを私は知らない。けれど、「昴衆」なんてものを名乗るのであればそれは一定規模の集団である事は間違いないだろう。たづなに、子供たちを見れば彼らが高度な教育・教養を施せる事は明白。だったら、都市ほど過保護でなくても子供たちを安全な場所に置いておくことこそ理に適っているはず……。

「ああその事。簡単な話よ、私人望が無いの」

「……は?」

 ふふふ、と不敵に笑いながらたづなは両手を広げる。荒野中全てを手中に収めようとするかのように大きく、大きく。

「すー……はー……。この荒野はね。元々都市だったの。それがとある怪獣の登場で丸ごと滅んだ。幸い都市と外側の超人の協力で件の怪獣は滅ぼすことが出来たけど大勢の命と引き換えに怪獣一体しか倒せないなんてどうしようも無いわね」

「この荒野が……都市……⁉」

 草一本生えていないむき出しの大地。この場所にかつて誰かが住んでいたことなんて誰が想像できるだろうか。

 同時に、腑に落ちる部分もある。このゲルを中心に水源も、森も円周上に等距離に位置している。それが城壁の外周の名残なのだとしたら――

「あの子達と出会ったのは二年前、ちょうどこの辺を周回していた頃だったかしら。人間って不思議ね、この何も無くなった場所にも郷愁に駆られるみたいで僅かな生き残りがここで細々と生計を立てていた。アンタたちが言う所の労働者階級だったのか知らないけど、妖精を拒んで水を求めてあっちへ、食料を求めてこっちへなんて無茶な生活をして、始めこそ人数がいて何とかなっていたんでしょうけどいつの間にかあの子達だけになっていたわね」

「そんな……昴衆は助けなかったの⁉」

「助けるわけないじゃない。好む好まざるにかかわらず外側で生き残るためには超人化が必須。十四歳のルールは外側にもあるけどいざとなれば子供だろうとリスクを冒して超人化する。それが生きるって事。

 確かに外側にもおせっかいな人間はいる。昴衆の誰かしらがここの事を私に教えてくれたから、身内も何かやろうとしたんでしょうね。でも何も出来なかった。彼らは自分達の意思で超人化せずに労働者としての志を全うしようとしたんでしょうね。そんな人間を強制的に超人にさせるなんて逆に残酷だと思わない? その場しのぎの恒常性と引き換えにこの先一生続くかもしれない怪獣との戦いをあなたは強制できる?」

「それは……そうだけど……でもそれは子供たちを助けた事と矛盾しないの⁉」

「しないわよ。アンタたち都市のルールに則れば十四歳未満は子供でしょ? 子供はまだ何者でもない。だから私はあの子達に問いかけた『私と来れば生き残れる。その代わりこき使ってやるけどついてくるか?』ってね。答えは二つ返事で返ってきた。あの時の一美の目は凄かったわ……大人たちの死骸をまるでゴミみたいに……相当恨んでいたんでしょうね、干からびるほど衰弱していたのに唾を吐き捨ててありったけの恨み言をぶつけたわ」

 語彙が少ないから可愛らしいものだったけど。そう言うとたづなは微笑みながら過去を懐かしんでいるけどそんな凄まじい画は慈愛の表情で振り返るものではない。

「ここが都市だと知ったのはこの子達を母屋へ父親に見せに行った時ね。そう言えば、って感じでここの顛末を教えてくれたわ。あの人今年で一五〇だから重要なことまで忘れて困る。そしたら母屋中どっかんどっかんよ。私が末娘だから余計な情報を耳に入れたくなかったんでしょうね。大の大人がたった三人の子供をやれ『捨ててこい』、やれ『排除しろ』、『疫病神』だのなんて狂っている」

 たづなは両手を下ろすとどこか遠くを見つめ始めた。捕えたものを縛り付ける黒き野望に燃える瞳。視線に混ざる殺気の切っ先は母屋の大人たちに向けられているのだろうか。

「先人たちが構築したシステムを全否定するつもりは無いわ。彼らの犠牲のおかげで私達はこうして束の間だけど平和を享受することが出来ている。大型は都市が集中的に、撃ち漏らしは外側で駆逐出来ている。

 けれどそれは結論を先送りしているに過ぎない。子供にあんな表情をさせる世界が私は正しいとは思えない。私はそう確信している。だからこそ私は私の野望を達成させるべく動き始めた」

 すべてはここから始める。たづなはそう言うとこの場所に己の存在を刻み込まれるようにむき出しの大地を強かに蹴りつける。乾いた地表はその衝撃を余すことなく荒野中に伝えた。

「……その野望と『器』にどんな関係があるの?」

「……器が強力であればあるほど異形化の進行を遅らせることが出来る。私の父親がそうであるように、最短でも一五〇年は活動することが出来る。私達は他の超人と比べてはるかに長いスパンで物事を考えることが出来る! 私の野望は――」

 再びたづなは腕を広げた。それに追随するようにセンジュも右肩にのり、手のひらを広げる。今度はこの荒野だけでなく、世界丸ごと自分の物にするかのように大きく……大きく――‼

「この世界を取り戻す! 壁に仕切られた内側で安住するのだけではなく、外側で怯えるだけでもない! ましてや最前線などといった集合体に個人を溶かす戦いに身を投じるのでもない! 真に平らかに! 子供たちが安心して暮らせる街を作り上げる! この荒野はその出発点よ。壁が取り払われたここからすべてを始める」

 今はまだゲルが一つだけど。たづなはそう言うと不敵な笑みで私の襟首をつかんで来た。

「今はやる気が無くて構わない。でも、最終的にあなたは戦場に引きずり出される事になる」

「――っ、勝手な! そんなのあなたのさじ加減じゃない。私は協力する気なんて……」

「晶の能力は知っているでしょ。未来予測、あと数日の間にここを壊滅させたのと同じタイプの怪獣がアンタの都市にやってくる」

「――!!!」

「ほらやる気になった。今は確かにこれっぽっちの人数だけど私は伊達に足を使っていないわ。協力者は外側はもちろん、都市にもいる。勢ぞろいしたらそれなりの軍隊、かつての戦いを再現できる程。それをアンタが見た時、私は動く方に賭ける」

 たづなはそう言い残すと私を放り投げて飛んで行ってしまった。多分狩に行ったのだろう。全く――

「――どこまでも身勝手な……」

 けれど……空っぽな私にたづなの言葉は魅力的だった。

 都市を丸ごと消滅させるほどの怪獣……それは……。

〈それはなんとも魅力的な話ですわ〉

「……」

 私の分身、破壊衝動を分け持ったハクが舌なめずり。それに対応するように心臓が跳ねる。

 空っぽな器、それは常に自己で無い誰かが運用してしまう。破壊することしか出来ない化け物はとうとう行きつくところまで来てしまった。持ち主が都市から外側に変わっただけで結局私は前に進めていない。

 世界を構築する大きなうねりの中、再びの迷走が始まる。

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