2―3

「――そこまで」

「⁉……痛つっ……」

 声と共に現実に呼び戻される。浮遊した意識が一気に肉体へ。あの時引きずり回されたみたいに脳がグラグラする……。

「これでアンタが何をしでかしたのか大体理解出来たでしょ」

「私が……化け物……?」

「そう。そう言えばまだ名乗っていなかったわね。私の名前は昴たづな。アンタたち都市の上層部が『外側』と呼ぶ壁の外側に住む人類よ」

「壁の……外側……?」

「で、アンタ名前は?」

「……コード01860086」

「そうじゃ無くて戦士名とか呼び名ってやつは無いの? 数字まみれだと呼びにくいんだけど」

「そう言われても……」

 都市の人口を管理するのにコードによる名づけは非常に合理的だ。上四桁が誕生年、下四桁が生まれた順。創作物の登場人物は自由に名づけを行っていたようだけど、同時代に名前が重複していたら不便だとしか思わない。誰を呼んでいるのか分からなくなるじゃないか。

「姫、戦士名は戦士になってから自薦で付けるものです。この少女はまだ……」

「ああ、そうだったわね。でも私の秘蔵の妖精を奪ったのだからもう立派に超人じゃない。ねえ、そろそろ名前が無いと呼びづらいのだけど、特に希望が無いなら適当に付けるわよ」

「ハル! 呼び名は一応ある!」

 私とまもりお姉ちゃんの間で名付けた数字遊び。都市で戦士になってから正式に名乗ろうと思っていたけど変な名前を付けられたらたまった物じゃない。私は反射的に名乗りを上げた。

「そ。ハルね、悪くないわ。じゃあ自分の名前ついでにそいつにも名前をやってちょうだいな」

 そう言うと少女・たづなは私の襟を掴んで持ち上げる。……この子には暴力以外のコミュニケーション手段は無いの……。

〈ちょっと……うるさいですわよ……。人がせっかくご主人様の中でまどろんでいましたのに騒々しいったら無いですわ〉

「……ひぃ」

 ツナギの胸元が膨らみ始める。女子の平均だったそれがまもりお姉ちゃんサイズに、さらに膨らみ続けて、バリッ、とジッパーを引き裂く。

〈あら〉

 割れ目から白銀の毛玉が零れ落ちた。毛玉は宙で一回転を決めると華麗に着地を決める。畳んだ四足、丸めた尾を広げるとそこには幻覚で観た銀狐のミニチュア版と呼べる可愛らしい狐の姿が。

〈お初にお目にかかりますわ、ご主人様〉

 狐はペコリと頭を下げる。

「あ、これは丁寧にどうも」

「ハル、アンタ自分の妖精に何で下手なのよ」

「いや、だって……」

 お辞儀があまりに堂に入っているものだからつい……――って⁉

「この子が……私の妖精……?」

「そう。我らが『昴衆』が保管していた『白銀はくぎん』、最強の妖精の内の一体であり、あの時ハルが私から奪ったそこの畜生よ」

 腕が疲れた。そう言ってたづなは私を解放した。再び崩れる私の体、カーペットもなかなかに臭う……。

 低い姿勢で狐と目が合う。徐々に話が繋がってくる。外側がどこだか見当がつかないけど、この不審者集団は何らかの目的で私を求めていた。本来であれば戦士として無能である「器」の状態で私を回収しようとしたのだけど、怪獣に妖精・私にイレギュラーがあったために苦労したって所だろうか……。あれだけ痛めつけられたのだから、私の扱いも腫物同然になるわけだ。

「……ありがとう、

〈いえいえどういたしまして。ご主人様の役に立つことが妖精の、私ハクの幸せでございますから〉

 白銀だからハク、ってのは安直すぎるけど少なくとも私が無事なのはこの子のおかげ。名前も気に入ってくれたみたいだしひとまず良かったかな。

「素晴らしいな。妖精と素早く良好な関係を築けている。姫、こいつは将来有望ですよ」

 水晶目の男がうんうんと唸る。

「……あなた……コード01810121、戦士名クリスタルアイズ?」

「……お前さん俺の事を知っているのか⁉」

 クリスタルアイズの目がパッと輝く。結晶化した眼球にも表情が見える辺り相当だ。

 私が彼の事を覚えていたのは偶然だ。誕生年がまもりお姉ちゃんと同じ。あの日私が助けられたから初めて暗記した戦士達の年代がそこだったってだけだ。

「でもあなたがなんでこんな所に……。戦士クリスタルアイズは三年前に引退なされたはずじゃ……」

 戦士の寿命は一~二年。ゴールデンエイジを終えた戦士は引退して職業訓練を受けて労働者階級になり、都市の循環の中に戻されるはずだ。

 決して「外側」だなんて得体のしれない場所にいるはずは……。

「だったらここはやっぱり……都市?」

「……いや、外側だ……」

 クリスタルアイズは輝きを曇らせながらうつむきがちに答えた。都市の戦士は嘘を付けない。マントの内側には戦士階級を示すツナギが。成長によりつんつるてんになったそれを懐かしむように撫でる様子……彼の反応はあまりに素直だった。

「ねえあきら都市の出身アンタたちってみんな湿っぽいの?」

「仕方ないでしょう。都市の人間、とりわけ戦士階級は戦士以外に関わる知識を極端に制限される。教育によって人生の選択肢を奪われているんだ。ここで三年間も過ごしているはずなのにいまだに馴れませんよ」

 コイツはきっともっと腰を抜かします。そう言うと今は晶と呼ばれている戦士は私を憐れむように見下ろして来た。

「そうね、どんな場所で暮らそうにも人間に一番必要なのは教育だわ」

 全部説明してあげるからついてらっしゃい。そういうとたづなを先頭にみんなぞろぞろとゲルを抜け出し始める。

「お姉ちゃんも」

「早く早く」

「とろいとたづな様に小突かれるよ」

「小突かれるって……」

 無人のゲルの中、残ったのは狐と左手首という奇妙な組み合わせ。

「……一応聞くけど、英気を養って明日とかダメ?」

〈簀巻きにされたいってなら話は別だぜ〉

 ……私に選択肢は無い。まあ、今は情報が無さすぎる。いざとなればハクの力を借りれば良いし、話だけでも聞いておいて損は無いか……。

 私は二体の異形に先導されるようにゲルの仕切りに手をかける。

「――⁉ これは……」

 満天の星空が果てしなく広がる。それは都市を守ってくれる城壁に遮られることなく私達を星明りで満たしてくれる絶景。人工的な明かりが無くても星の光だけでこの場の何もかもが見渡せる。

「……何なの……」

 しかしながら綺麗なのは空だけ……照らされる下界の様子は惨憺たるもの。

 城壁が無い。これはたづなの言葉を信じてここが外側であることの証だから無視できる。だとしても、この場所には何もかも

 旧時代、都市の郊外は緑で溢れていたと言われる。人間が生活する範囲を抜けるとそこは手つかずの大自然が支配する緑の空間であると。けれど、ここには樹木一本どころか草すら生えていない。茶色や灰色をした土がむき出しになった無人の荒野、これが星空と対になるように無限に広がっているのだ。

 旧時代には国土の七割が山岳地帯と言われていた高低差のある土地も私の目が正しければ地平線が見えてしまうほどに平ら。文明の匂いと言えば私の背後にあるゲルがポツンとあるだけ……これは……これじゃあ都市の中の方がまだだ!

「どう? これが私達の住む『外側』よ。少しは話を聞く気になったかしら?」

「…………」

 これだけの物を見せつけられて「話を聞かない」という選択肢は無いだろう。一体この景色と私が拉致された事との間にどんな関係があるのか、知らない方が罪な気がする。

「センジュ! そして……ハク、こっちに来なさい」

 私の側から二体が離れてゆく。彼らもまた説明役を担わされるのだろう。

「まずはハル、あなたは都市と妖精と怪獣の事をどれだけ知っているのかしら?」

「……」

 旧時代、怪獣と呼ばれる異次元の災害が出現し地球を蹂躙し始めた事。二〇メートル以上の体長を誇る別位相の存在に人類はなすすべが無かったこと。その窮地を異世界からの来訪者である妖精が救いの手を差し伸べ、彼らと人類が合体して超人になる事で事態の打開を図った事。妖精がもたらしてくれた城壁を基礎に防衛都市を構築し、二〇〇年もの間人類は平和と繁栄を取り戻し始めた事。

 私は座学で学んだ知識をありったけたづなにぶつけた。けれど、どの説明もたづなの心を動かさない。引っかかりを見せた部分で彼女は必ず侮蔑と共に顔を顰める。フードの男と三人の子供たちも「何だそれは?」と信じられない物を見る目つきで視線を送る。唯一晶さんだけ懐かしむように頷いてくれた。

「成程ね。昔晶から聞いたまんま。アイツらは貴重な戦力の価値を腐らせたまま使い潰し続けているのね」

 背景はよく分からないけど、たづなが都市に対して良くない感情を持っている事は間違いない。一方で戦士・超人に並々ならぬ期待をしている事も。

「あなたが知っている都市の真実って……一体何なの」

「……そうね……無知な事はそれだけで罪じゃない。ハルにも私の野望のために役立ってもらうのだからこの世界の事実をアップデートしてもらわないといけないわね」

 まずは何から話そうかしら。そう言うとたづなはセンジュの手首を掴んでは、彼の指を地面に当てて地表に図形を描き始めた。

 旧時代、怪獣が地球を蹂躙した事実は私達都市側の知識と相違なかった。

 異なるのは妖精が人類に救いの手を差し伸べたという点。妖精が人類に手を貸した、それは結果論であり因果は少し異なる。地面に私達の世界である地球ともう一つ別の世界「妖精界」が書き加えられる。先に世界を攻撃されたのは人類では無く妖精の方だった。空間の破壊現象である怪獣はどの世界も平等に訪れる災害現象。住む場所を失った彼らは怪獣から逃れるために方々の世界へと避難を開始した。生き延びた妖精たちはたまたま地球にたどり着き、そして地球もちょうど怪獣災害に巻き込まれていたのだった。

 地球にやって来た妖精たちは自分達が貧乏くじを引いたと悲観した。怪獣から逃れるために異空間を移動したのにその先に自分達の世界を滅ぼした憎き元凶が存在している。しかも、物理法則が支配する地球では精神生命体である妖精の本来の力を十分に発揮できない。散々な言い分だけど、私も同じ状況に追い込まれれば……状況が逼迫しているだけ絶望も深いだろう。

 しかしながら、妖精たちは諦めなかった。妖精界と異なり地球では怪獣の侵攻スピードがはるかに遅いらしい。この世界でも脅威である事は間違いないが、今の怪獣であれば自分達でも対処できるのではないだろうか。物理法則が支配する世界であるのなら、自分達もまた同じ状態に変化出来れば怪獣に対抗できるのではないだろうか。よく見れば、この世界にはそこら中に自分達の「器」たりえる人間いきものがうじゃうじゃいるではないか。

 追い詰められた生物がわずかな可能性に飛び込むのはどの世界も共通らしい。自分達が生き延びるために人類を器にする。超人の誕生は決して異次元の知的生命体の勇気ある共同作業などでは無く、一方的なエゴが生み出した偶然の産物だった。

 結果として超人が生まれたのだから、少なくとも地球においては平和が訪れるはずだ。防衛都市における二〇〇年の平和。たづなたちに拉致されるまで私はそれを享受してきた。

「ええ、確かに。平和でしょうね」

 センジュの指先がうっ血を起こす程に押し付けられる。たづなはその筆圧のまま都市の事実を描き続ける。

 超人の誕生によって地球には平和が訪れる。事実怪獣を退けたことで地球には物事を考える余裕が出来た。

 ここで人類は妖精と積極的に融合して人類の進化の新たな段階を迎えたい「超人派」と、妖精はあくまで異世界人、そんな存在を受け入れて異形の姿に変化する事を良しとしない「保守派」に別れた。

 医学上超人になったところで次世代の子供たちに奇形などの異常が現れない事は現代でも証明されている。けれどそんな事実を知らない旧時代の人類はパニックを起こし、元々抱えていた経済や人種の分裂を加速させる形で二派にわかれて争った。

「そんな奇形だなんて……言い過ぎよ! 超人は確かに変身するけどそれは能力を使う時だけで……」

「じゃあハルは晶の目をみてどう思う」

「それは……」

 ブリリアントカットの水晶の眼球。訓練次第で超人は自身の姿を部分的に変化させる事も出来る。けれど基本的に変身は全身で行わなければ意味が無い。怪獣相手に一部分だけ位相を変えても傷つくリスクが増えるだけだ。

「これが俺が外側にいる理由。都市が訓練生にひた隠しにしている変身の代償、異形化さ」

 融合を果たした妖精は基本的に分離体として物理干渉できる肉体を得る。目の前のセンジュやハクが良い例らしい。外側の妖精はこのように生物の形態をとることが多い。反対に、都市の妖精はペンダントや腕輪等アクセサリーの形状を取る無生物型。どちらの分離体になるのかは極端な話宿主と妖精の間の想像力の問題で、この傾向はあくまで大まかな物。しかしながら、都市で行われる立志式は新たな戦士の妖精の形状を矯正する場として機能している……。

「なんでそんな事を……」

「その方が異形化が始まった瞬間にパニックを起こしにくいからさ。生物型の場合都市じゃマスコット扱いされて目立つだろうし、戦士本人としても目の前からいきなり相棒がいなくなったらひっくり返っちまう」

 ま、俺の場合はなっちまったがね……。晶さんはそう言って左目をこすった。

 変身を繰り返したり、能力を使いすぎたりすると人間と妖精の肉体は不可逆的に混ざり合い、分離することが出来なくなる。妖精が分離体を形成できなくなった時、異形化は始まるらしい。

 それは晶さんの目のように体の一部が恒久的に異質なものになったり、人間と妖精の人格が混ざり合ってどちらでもない別人格になったりと、症状は様々だけどある日いきなり変わる事に保守派もそうだし、力を謳歌していた超人派も次第に恐怖を覚えるようになっていった。

「そこで人類と妖精は妥協案とあの城壁を生み出す事にした」

 争いの中、世界の人口が四分の一になった所でようやく両者は冷静になった。

 人類としては異形化のないまっさらな個体を種として残したい。妖精としては全人口が長期間にわたって超人の能力を発揮できる器・人間が欲しい。

 協議の結果、妖精と超人はその能力を使って世界各地に防衛都市の礎となる城壁を生み出した。城壁は一種の誘導装置の役割を果たしている。これによってランダムだった怪獣の出現は城壁の周辺に絞ることが出来る。これによって都市は内側を中心に徐々に人口を増やし、文明を繁栄させることが可能になった。また、妖精も新生児の中から器を見出し、超人となって都市の防衛に貢献する形で物理世界での万能感を味わえる。不都合な真実は外側に廃棄してしまえば問題ない。事実超人は怪我も病気もしない。恐ろしいのは怪獣程度のお気楽な生活ではないか――

「そうやって二〇〇年もの間都市はアンタみたいな純真な訓練生をだまして来たってわけ。分かる?」

「…………」

 たづなの話をまるっきり「嘘だ!」と否定できない。彼女の話は理屈に沿っているし、何より目の前にハク、センジュ……クリスタルアイズと生きた証拠が存在する。反論は出来そうもない。

 ……だけど――

「……だとしても……私は都市の戦士。みんなを守ることが……っ私の使命……よ」

 だからって教官殿の愛のムチに、仲間と切磋琢磨した時間、まもりお姉ちゃんとの日常全部が嘘だったなんて私には思えない!

「ふ~ん……」

「……何よ」

「晶はすんなり話を受け入れてくれたけど、やっぱり異形化が進んでいないと事実を受け入れにくいのね」

「仮に人の姿じゃ無くなっても……私はみんなのために戦うわ!」

「うんうん。威勢がいいのは悪くない。頑固なところは気に入ったわ。事実を前に打ちのめされる奴よりはよっぽどいい。私の野望の道具はやっぱり色々と頑丈じゃないとね」

「私はあなたの道具じゃない! あんな話を聞いただけで『外側』に『昴衆』だなんて変な集団に協力する義務なんて無いわ!」

「でも私の話を聞いて少し不安になっているでしょ」

「それは……」

「それにあの話で全てじゃない。妖精と都市の関係には外側の人間でも限られた人間しか把握していない続きがある」

 たづなの瞳がグッと近づく。人の意見を聞かずに押し寄せる熱量。カリスマと言うのだろうか、彼女に睨まれるとつい心が掴まれてしまうそんな怪しい魅力がある。

「……何よ。もったいぶらないで教えなさいよ。私の事が欲しいのなら、最高の器にふさわしい投資をするべきだと思うけど」

「もちろん話の続きは近いうちに話すわ。でもこれを聞いて正気を保てるかどうかは分からない。見た所そんなやわじゃ無さそうだけど。おとなしい顔して都市の軟弱者共に私の事もずたずたにしたんだもの。器としての素質は評価する」

「!……」

「でもただ暴れるだけの駒は欲しくない。私は自分の道具に素質とそれに見合う能力が欲しい」

 そう言うとたづなは私から離れて晶さん、それにフードの男と共にゲルから離れてゆく。

「ちょっ……どこ行くのよ!」

「一週間期限をあげる。丁度ベビーシッターが欲しかったの」

「たづなさまちょっと!」

「僕たちもう大人がいなくても生活できるよ!」

「むしろハルちゃん晶さんより頼りなさそう……」

「俺そんな評価だったの⁉」

「ごめんごめん。そうね、アンタたちは十分に強い。親である私がそれを誇らないと嘘ね」

「え、ちょっと、私抜きで話を進めな――」

「私は忙しいの! 首領の娘としてやるべきことが山積み。能力も分からない小娘一人に構っている程余裕は無い。

 私から話を聞きたければ最低でも子供たちから認められなさい。外側は都市ほど甘くない。自分で生活できる能力が無ければ冗談抜きに死ぬわよ」

「……」

 私はテレパシーでハクに呼びかけた。能力はまだ使いこなせていないけど、映像から少なくとも超人態での能力はたづなを上回っている。力づくっていうのは戦士の心得に反するけどここは――

「ああ、言い忘れていた――」

〈よっ!〉

「⁉」

 右肩にセンジュが飛び乗る。するとハクとの繋がりが解けて力を全く感じない……!

「お目付け役としてセンジュを付けておく。子供たちはまだ人間なの。だから変な真似はしない事ね」

「戦士に誓って子供相手に乱暴しないわよ……! それに、あなたこそパートナーがいなくて平気なの! 妖精がいないと変身出来ないんじゃ……」

「いたとしてもどのみち変身出来ないわよ。普通の怪我と病気に無縁の超人でもアンタのせいで回復するまで時間がかかる。あの時は右足が引きちぎれるかと思ったわ……その辺のルールも留守の間に学びなさい。

 それに何のために晶と十兵衛がいると思ってんのよ。よほどのことが無い限り大将はドンと構える。これがリーダーとしての心得よ」

 どうやらフードの男は十兵衛と言うらしい。

 ……いやそんなことはどうでもいい。重要なのは今ここが外側のどこなのか分からないまま、しかも肝心かなめの能力を奪われた状態で放り出されたこと。

 晶さんは超人態に変身するとたづなを背負い飛行を始める。十兵衛さんもフードすがたまま浮遊を始め……星の海の中へとあっという間に飛び去ってしまう……。

「そんな……」

 相変わらずハクとのリンクは切れている。これ以上の抵抗は完全に無駄だ。

「……」

「……」「……」「……」

 残された私達はお互いに「マジかよ」と開いた口が塞がらなかった。材料が少ない状態じゃ選択肢は無い。首領の娘だか知らないけど、私は誘拐犯の言うことを聞く以外どうしようもなさそうだ。

 私の門出を祝う立志式が一転こんなところまで来てしまった。輝かしいはずの一日はこうして散々な形で終ったのだった。

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