最終話 出来の良い息子へ
久しぶりに地球へ来たエピオン。
その服装は私服である。
周囲の風景と似たような、ありふれた服で着地した時空戦艦から下りるエピオン。
そして、その時空戦艦へ向かってくる者達がいる。
男性ばかりだ。
全員が共通して虚無を背負っている。
エピオンが降りて来た時空戦艦はヘオスポロスに向かう。
そう、彼らはヘオスポロスに向かって、そこで同じくアームズ・ウェポン(兵器人類)になる事を了承した者達だ。
その者達の列に、とある男性が呼びかける。
「行くのをやめましょう! 貴方達だって家族が、親や兄弟、姉妹、そして…子供達や妻だっているはずだ! こんな事をしたって意味は無い。一緒の家族で話し合って困難を乗り越えましょう」
その列を止めようとしているのだ。
だが、直ぐに警備ドローンが来て
「下がってください。公務執行妨害で逮捕されます」
と、男と列の間に入り込んで反重力フィールドを形成して、男を下げる。
男はそれでも叫ぶ
「聞いてくれ、私には引きこもりの弟がいた。弟は…トラックに引かれて死んだ。自殺だった。私は…親の葬式にも出ない、引きこもり弟を弟妹と一緒に外に追い出した。それを…今でも後悔している。どうして…もっと寄り添えなかったのか…。だから…頼む。もう一度、家族を信じて、やり直そうとしてくれ…」
現在の人類の寿命は、飛躍的に向上して二百歳が平均年齢だ。
つまり、この男性は、見た目は五十代だが、その倍の年齢を持っている。
エピオンは、現在の地球時間を見る。
2122年 4月25日
任務に出発したのは、今から十年前だ。
「長い任務だったのだなぁ…」
と、エピオンは振り返る。
エピオンがヘオスポロスに向かう時空戦艦の発着所から出てくると、止めようとした男がエピオンに駆けつけて
「君は…もしかして、行くのを諦めてくれた人かい?」
まるで救いを求めるような顔をしている。
エピオンは、自分の左鎖骨を見せて
「残念だが、私は行った側だ」
ヘオスポロスに行って変化した人間の左鎖骨下には、そのヘオスポロスでのナンバーが金で刻印され、その数字の周りに電子回路模様が広がっている。
そんなエピオンに男が縋るように肩を掴み
「なぁ…教えてくれ。どうして、アンタは向かったんだ? どうして…こんな事になっているんだ」
悲しみだけの感情に振り回されている男にエピオンは
「簡単な話だ。全てに限界があるからだ。社会にも人間にも家族にも、この世の全てには限界がある。
社会は、不完全だ。新たな技術が誕生すれば、それによって産業が生まれ、それによって新たな価値と常識が誕生して、それによって人間の考えも変わる。
この世にとって絶対というは、犯罪と罪罰だけであって、それ以外は流動的で限界まみれのパッチワークだ」
男が
「じゃあ、どうすれば…良いんだ? どうすれば、これを、ヘオスポロスに向かうのを止められるんだ? 社会が…人間がやる事が全て不完全なら、どうすれば救われるんだ?」
エピオンは溜息で
「救う? お前は勘違いしているだろう。お前が救われたいからだろう。かつての後悔した自分を救いたいから、誰かを救う事で、その傷を舐めて癒やしている。結局は、他人の為と偽った自分の為だよ」
と、告げて男を払い
「答えた欲しいなら、言ってやる。諦めろ。明らかにして受け入れる。それしかない。
お前のようなバカは、世界を滅ぼす害悪だ。
全てに限界がある。家族だからって解決できる事なんてない。
家族には限界がある。
それを分かったから…彼らはヘオスポロスに向かうんだ。
良かったな。今、世界で自殺する者達は一人もいない。
そういう者達を全員、ヘオスポロスが受け入れているのだからな。
人の限界を知って絶望して、ヘオスポロスで人を捨てる事を選んだ。
これも人の可能性だ」
と、男に真実を告げて去っていた。
エピオンに訪ねた男は、その場にうずくまり頭を抱えた。
それを警備ドローンと共に来た警備者達が保護した。
エピオンは歩きながら空を見上げる。
そう、この世界は…あのディーオ達がいる世界とは違う。
魔法も、ファンタジーもない、限界だらけの現実なのだ。
だからこそ、技術と叡智だけが真実なのだ。
神も宗教も、妄想である現実なのだ。
エピオンが歩いている前に
「久しぶりね」
と、声を掛けたのは、あの幼なじみの女だった。
エピオンが
「ああ…久しぶりだな」
幼なじみの女が
「元気だった?」
エピオンが淡々と
「ネオデウス・ウェポンの私にそれを聞くか?」
幼なじみの女は笑み
「ごめんなさい。そうね…もう、人じゃあないもんね。ねぇ…どこかでお茶をしない?」
エピオンは
「ああ…いいだろう。どうせ、休暇中の暇人だからな」
エピオンと幼なじみの女は、とある喫茶店に入り、テーブルにある端末で飲み物を頼んで、それをドローン達が運んでくる。
エピオンと対面する幼なじみの女の前にドローン達が注文の品を置いて、幼なじみの女が
「見て、これ」
と、立体映像端末を起動させて、自分の娘の画像をエピオンに見せる。
幼なじみの女の娘は、二十歳後半となり、ナナホシ博士がいるセブン理論の研究所で研究員として働いていて、そこで出会った男性と結婚するつもりらしい。
幸せそうに話す幼なじみの女をエピオンは淡々と見つめる。
幼なじみの女が
「アタシも、おばあちゃんになるかもね」
と、嬉しそうだ。
エピオンが静かに聞いていると、幼なじみの女が
「アナタは…何か変わった事は無い?」
エピオンは
「長期の任務を終えた。概要は…後で公開されるだろう」
幼なじみの女は頷き
「そう…」
エピオンが飲み物を手にして
「そうやって、私が人だった頃の遺伝子情報を使って、精子を作って産んだ子供の話をしても、私の考えは変わらないぞ」
幼なじみの女は驚きの顔で
「知っていたの…」
エピオンが鋭い目で
「二十年前にここへ訪れた時に、君はその娘と一緒と共に私と会って少し食事したり、君の娘の相手を私にさせた時に…ネオデウス・ウェポンの能力を使って遺伝子を調べた」
と、告げて飲み物を口にした後
「なぜ、そんな事をした?」
幼なじみの女は
「人を捨てたアナタには、分からないでしょうね」
エピオンは淡々と
「そうだな、分析して分かる事は出来るが、共感は別だ」
幼なじみの女が鋭い目で
「それは、ただ…データを集積させて分析して活用した機械よ。人としての気持ちの繋がりを、今のアナタには分からないでしょうね」
エピオンがフンと笑み
「君がどう思っているのかは、どうでもいいが。私にだって感情がある。人の時のようには暴走はしないが、それでも感情と呼べる感覚はある。それを分かれと押しつけても、意味は無い。理解し合えない事こそ多様性なのだから」
幼なじみの女が
「私は、どんな事になっても、アナタの繋がりをこの世界に残したかっただけよ」
エピオンが淡々と「そうか…」とだけ答えた。
幼なじみの女は
「機械みたいなアナタには、子供がどれ程に素晴らしいか、分からないでしょうね」
エピオンが顎を摩り
「実は、任務中に子供が出来た」
幼なじみの女は「え?」と驚きの顔を向ける。
エピオンは笑み
「無論、その子は伴侶達を得て、幸せになった。私は、ある程度の知恵と方針に、成長の援助をしただけで、その子は私と違った方向へ成長して…私は離れたが…。
それでも、私を父と呼んでくれた。少しだけ嬉しかったのを憶えている」
と、告げて立ち上がり
「君は、私を機械だと言っているが、それは君が自分の思い通りにならない私を見て、君の主観で判断しているにすぎない。私は機械ではない。ネオデウス・ウェポンだ。進化している生命なんだよ」
と、告げて去って行った。
ーーー
エピオンは、ナナホシ博士がいるセブン理論の研究所へ来た。
ピラミッドとビル群が並ぶ特別な研究機関のゲートをくぐってナナホシ博士へ会いに行った。
ナナホシ博士は驚きで迎えて、私室に通してコーヒーを出して
「アナタが来るなんて…驚きだわ」
エピオンが
「話を聞きに来た。アナタは、あの世界、ディーオ達の世界の記憶と、そうではない世界の記憶の二つを持っているはずだ」
ナナホシ博士が頷き
「ええ…そうよ。おそらくだけど、神子リリアの力の影響でしょう。二つの違う世界の私が一緒になって今の私がいる。それは、一緒に帰って来たアキトもそうだったわ」
エピオンが
「篠原博士は、どう…」
ナナホシ博士が
「アキトは、アナタがあの世界へ向かった時に、アナタの移動する時空戦艦ラグナロクのシステムにハッキングの枝を残して、それを辿ってアナタの世界へ向かったわ。
おそらく、解放されて生まれ変わったリリアと出会ったと…思うわ」
エピオンがフンと笑み
「相当な年齢差だな。いきなり十六歳の少年から、三十代のおっさんになって、戻ってくるのだから」
ナナホシ博士が少し悲しそうな顔で
「それ程までに、リリアの事が大切だったのよ。全てはその為に色々とやっていたから…」
エピオンが
「フラれてショックか?」
ナナホシ博士が微笑み
「若い頃の思い出よ。それより、何を聞きたいの? ディーオ達の事? それとも…? 私の事?」
エピオンが
「まずは、ナナホシ博士達の事だ。帰還した手順は?」
ナナホシ博士が自分の手を見て
「少しずつだけど、私はゆっくりと時間を掛けて、あの世界で存在する質量を失っていったわ。アーマードラゴン歴 五〇〇年、ちょっとした事件があったけど、それを解決して…そして、あの世界での質量を失って、ここへ戻って来たわ。帰るのが分かった時には…不思議だったわ。あの世界にもう少しだけ居たかったって思ったもの」
エピオンは頷き
「なるほど、では、ディーオ達の事だが」
ナナホシ博士が「聞きたい?」と嬉しげに話す。
エピオンが頷き
「なるほど、では、もし…こちらから少しの干渉をすれば、ナナホシ博士の記憶も少し変わるのかな?」
ナナホシ博士が
「それはそれで、もしかしたら…別の平行世界になるかもねって、行けるの?」
エピオンが
「僅かな一瞬だが、シグナルをキャッチする事がある。それも弱まっているが…。その一瞬にな」
と、微笑む。
ーーー
ディーオは、ルーデウスと共に放棄した世界達の復活をしていた。
ヘオスポロスの技術であるアクエリアスとリーブラスを使い、崩壊した世界環境を魔法も交えて修復している。
グレイラート騎士団は、今や世界復旧の組織となり、様々な民族の争いの調停や、生産、医療、国家安寧を維持する世界組織になった。
あの事件から八ヶ月後、ディーオの妻達、リリアとダリスにエレナの三人は、三人同時に妊娠していた。
まさか、一気に三人も懐妊させるなんて…ディーオの親達はびっくりだったが。
エレナが
「そりゃあ、あんだけ求められれば、子供が出来ないのがおかしいって」
それを聞いてディーオは恥ずかしくなった。
ちなみにルーデウスは、四十代にして再び父親となる。
ルーデウスの子供達は驚きと呆れだった。
シルフィーにロキシーとエリスの三人が妊娠した。
エリスは超高齢出産だなとルーデウスが告げると、顔面パンチをエリスがお見舞いした。
どうして、ルーデウスが頑張ってしまったのか?
「いや、だって…ぼくと同じ感じの若い子が、あんだけ頑張っているのを見せつけられてねぇ…つい…」
と、ディーオを見るルーデウス。
他の仲間達も、ディーオに視線が集中したが、ディーオは
「あ、仕事がたまっていますので」
と、その場から逃げた。
ディーオが暮らす世界は、順調に成長している。
飛空艇は、魔導技術を使った反重力システムを生み出して、空を飛ぶ鉄の船となり、宇宙へも飛び出すようになった。
更に、世界中の様々な物品も良くなり、ナナホシは、再現される地球の料理と、この世界で誕生する絶品料理を食べて嬉しそうだ。
ナナホシは、更に技術が上がった世界の力を借りて、エンターテインメント施設を作るつもりらしい。
最近のナナホシは、楽しそうで、精力的に世界に関わっている。
「ここに居たくなっちゃう」
と、ナナホシは告げるも、やはり、ゆっくりとこの世界との質量を喪失しているらしく、やはり、地球に戻るのは確定のようだ。
その頃には、篠原 秋人も出現する。
その時に、全てを話す事だろう。
あと、ホーリートライアングルの人達とは、緩やかなお付き合いをしている。
過干渉せず、手が欲しい時に力を貸してくれる。
彼らの求めていた宗主は、もういないが…新たに生まれ変わったディーオに満足してくれている。
そして、最初にリリアが出産を迎えた。
ディーオは産まれて一週間が過ぎた我が娘を抱っこして
「リノア…」
と、名前を告げて嬉しそうだ。
次に控えているダリスとエレナが
「さあ、パパ。あと二人増えるんだから、面倒みる準備をしっかりしてね」
と、ダリスが
「そうだよ。しっかりと頼んだわよ。お父さん」
と、エレナが
二人は大きなお腹を摩る。
ディーオは力強く頷き
「分かっているさ」
リリアが来て
「食事が出来たから、一緒に食べましょう」
と、呼びに来る。
「ああ…そうだね」とディーオがリノアを抱いて動くと、轟音が空から響いて来た。
四人は戸惑い、ディーオは、リノアをリリアに抱かせて外へ出ると、逆噴射して着陸する小型ロケットの筒が空から降りて来た。
ディーオ達の家の庭先に、小型ロケットが着地すると四つに割れて、手紙と四つの青き結晶が露出する。
ディーオは、現れた手紙を手にして封を切ると
「はは…父さん。全く…」
手紙と、着地したロケットを抱えて
「もう一人の父さんから、リリアとダリスにエレナの出産祝いだって!」
それは、エピオンからのディーオの子供へ向けての出産祝いとなる、特別なシステムを運搬した小型ロケットだった。
手紙には…
出来の良い息子へ。
出来の悪い父より。産まれる子供達へのプレゼントを贈る。
ありがとう、出来の良い息子よ。
異世界タイムトラベル
子供部屋おじさんの異世界奇譚~なんとか頑張ってみます~ 完結
真の題名、クロスアヌンナキ〜時と願いの神の眼〜
〇〇〇
謝辞
まず、はじめに理不尽な孫の手先生への謝罪から
大変、申し訳ありません。
読んで頂けると分かりますが、これは無職転生をリスペクトした作品です。
様々な、個人的な解釈と思想が混じった作品で、作品を汚してしまい。
本当に申し訳ありません。
無職転生という小説は、新たなネット時代の小説を誕生させて
私もそれにリスペクトされて、ネット小説を始めました。
昨今、無職転生もアニメ化され、そのリスペクトした気持ちの暴走によってこのような作品を書いてしまい、理不尽な孫の手先生はお怒りと思います。
本当に申し訳ありません。
もし、問題が起こった場合は、直ぐに、この作品を停止にします。
そして、この作品を読んでいただいた方々
最後までお付き合いしていただき、ありがとうございます。
この作品は、これで完結です。
作品に残っている神の眼の謎は、わたくしの作品にあります。
とある作品を読んでいただければ、分かると思います。
最後に、本当に申し訳ありません。理不尽な孫の手先生。
そして、この作品に付き合って頂いた読者様、ありがとうございます。
長い話は、非常に不愉快になりますので、この位で終わらして頂きます
皆様のご健勝を願いまして。
敬具
子供部屋おじさんの異世界奇譚~なんとか頑張ってみます~ 赤地 鎌 @akatikama
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