第31話 最後のヒトガミ

 ディーオ達を乗せた時空戦艦ラグナロクが別の世界へ出る。

 そこには…城がある。

 その城の中心には巨大な魔方陣が設置されていて、それはディーオ達が乗った時空戦艦ラグナロクの時空の穴へ向かって何かの力を放っている。


 時空戦艦ラグナロクがその城の脇に着地すると、城から兵隊と一人も魔道士の老婦人が出てくる。

 篠原 秋人が最初に出て

「アイシャさん。ただいま…」


 それに続くディーオ達が驚きの顔をする。

 アイシャって、自分達の世界のルーデウスの息子アルスの奥さんだ。


 付いてきた別世界のララ達も、ララが

「アイシャおばさん…どうして…」


 この別世界のアイシャは首を傾げて

「はて、アタシはアンタ達を知らないが…」


 篠原 秋人が

「この人は、アナタ達の世界にいるアイシャさんじゃあない」


 ディーオが

「ここが…その四つある内の別世界…」


 篠原 秋人が頷き

「そうだ。再生の神子リリアが、リリアが囚われた世界だ」


 この世界のアイシャは溜息交じりに

「ちょっと話をしようじゃあないかい…」


 城に招かれてディーオ達と話をする。

 この城は、空に出現した穴、時空の穴から落ちてくる遺物や、魔物達を倒す為に作られた要塞で、とある戦争の時に発生して、そこから強大な力を持つ魔物が落ちてきたり、ドンでもない技術を秘めた遺物が落ちてくるので回収して利用したりと…色々とやっていた。


 ディーオ達は自分達の事を話す。

 自分達の世界であった事、龍神の大賢者ルーデウスの世界であった事。


 その次にララ達が自分達の世界であった事を話す。


 魔道士アイシャは話を聞き終えると、篠原 秋人に

「アキト、ララ達を元の世界に帰しておやり」


 篠原 秋人が

「でも…」


 魔道士アイシャが

「もし、何か変わった事が起こって帰れなくなったらダメだろう。今なら出来るはずさね。そうだろう」


 篠原 秋人が頷き

「分かった」


 ララ達はディーオ達に

「これは場所を越えて繋がり会話が出来る魔導具です。もし、具体的な事が分かったら…教えてください」

と、とある結晶がハマったリングの魔導具をディーオに渡した後、篠原 秋人が時空戦艦ラグナロクでララ達を元の世界へ帰しに行った。


 その間、魔道士アイシャが

「そうかい、兄さんが…」


 ディーオが

「あの…もしかして、この世界って…龍神の大賢者ルーデウスの始まり、第二の転生の…」


 魔道士アイシャが頷き

「おそらく…そうだろうね。兄さん、ロキシーさんを魔石病で亡くして潰れて…シルフィさんも亡くして…」


 ディーオが考える。

 アレ? 確か…ルーデウスさんから聞いた前の話では、タイムスリップした未来のルーデウスの日記ではアイシャさんが死んでいて…

「あの…その未来から来た二回目の老人ルーデウスの話では、アイシャさんは死んでいる…と」


 魔道士アイシャが微笑み

「ザノバさんが、精巧なアタシの人形を作ってくれてね。それが身代わりとなってアタシは逃げられて、ほとぼりが冷めるまでひっそりと暮らしていたのさ。そして…消えた兄さんの…いや、過去に戻った兄さんの研究所を見つけて、それを勉強して受け継いだのさ」


 ディーオは頷き

「なるほど…」


 リリアが

「つまり、ここは…龍神の大賢者ルーデウスの前世の世界…で」


 魔道士アイシャが頷き

「間違いないだろうね」


 ダリスが

「何があったんですか? ここで?」


 その問いに魔道士アイシャが答える。

 この世界では、アスラ王国と山脈を接して中欧と西に別れていた国が戦争を起こしていた。

 その戦争には、異世界の転移者が使われた。

 異世界転移する者には、その次元を越えた作用にて特別な力を付与されると分かっていたので、アスラ王国と敵対する国の二つが、こぞって異世界の転移者を召喚して戦争をしていた。

 その一人に篠原 秋人がいた。

 篠原 秋人の力は強力な力を放つ波紋と、なんと未来を…いや、正確には死んだ後に召喚した時まで意識が戻るタイムリープの二つがあった。

 何度も何度も敗れてはタイムリープを繰り返す篠原 秋人。

 そんな中で、とある娘と仲良くなった。

 それが再生の神子リリアだった。

 リリアは、どんな存在でも前の状態に戻す力を持っていた。

 故に、再生の神子と呼ばれていた。


 篠原 秋人とリリアが近しくなって、篠原 秋人は気付いた。

 リリアが同じタイムリープをしていると…。

 二人は互いに約束した。

 このタイムリープの悲劇から抜けようと…。

 

 だが、無情にも篠原 秋人は最後の国同士の戦争中に殺されて…。

 それによってリリアが力を暴走させた。

 その最後の戦場が、このフィアット領であり、この空の穴、時空の穴がある場所だ。


 その空の穴、時空の穴から様々な厄災が現れるようになって、それによって国同士の争いは終わり、共に対処する事態となっている。

 ちなみに死ぬはずだった篠原 秋人は、最後のリリアの力で復活して…今に至る。


 魔道士アイシャが

「そんで、今に至るって訳で…その後に空の穴から、とある人物が降りて来た。今のアキトが乗っているラグナロクに乗って、赤い装甲を纏っているエピオンという人物が、アキトに色々と教えた。リリアが空の穴の奥で囚われている事、他の世界がある事、そして…リリアを助ける方法を…」


 そして、轟音が響く。篠原 秋人が送り終わったようだ。


 数分後に篠原 秋人も入ってきて

「アイシャさん。話は?」


 魔道士アイシャが

「だいたいは終わったよ。アキト、アンタの番だよ」


 篠原 秋人は告げる。

「リリアが囚われているのは分かっているよな」


 ディーオは記憶を思い返す。

「あの深淵の底にいた…」


 篠原 秋人が頷き

「そうだ。あのバケモノの中にリリアが囚われている。それを助けたい。囚われている原因を作っているのはヒトガミだ。ヒトガミが神の眼の力を行使する為にリリアが使われている」


 ディーオのリリアが

「どういう事?」


 篠原 秋人が

「再生の神子リリアは、神の眼の適合者だった。アレキサンドライトと同レベルのだ。この世界をヒトガミが裏から操れるのは、リリアの力があるからだ」


 ディーオのリリアとダリスにエレナが、四人の真ん中にいるディーオを見つめる。

 ディーオは考えて

「つまり、ヒトガミが…リリアを捕まえている事で、神の眼の力を引き出して、世界を自分の手中にしていると、そういう事なんだな」


 篠原 秋人が

「そうだ。存在するヒトガミを全て倒せば…リリアは解放される。残るヒトガミは、この世界のヒトガミだけだ」


 ディーオが考えていると、篠原 秋人が

「頼む…助けてくれ! ヒトガミは今まで世界を自分の思いのままにしてきたヒドいヤツだ。それにリリアが巻き込まれている。助けたい」


 ディーオは、少し溜息を漏らすも頷き

「分かった。今はそうするしかないだろうし、ヒトガミを放って置く事は危険だ」


 魔道士アイシャが

「じゃあ、行くなら…今日は休んでからにしな。それと…」

と、ディーオにとある通信の魔導具のリングを渡して

「これが何処まで繋がるか、分からないけど…連絡用には必要さね」


 ディーオ達は城の部屋で休む事にした。

 四人が夜を共にする大きなベッドで、ディーオの隣にいるダリスが

「ねぇ…ディーオ。色々とありすぎて…」


 ディーオは天井を見上げて

「ああ…だが、今は進むしかないだろう」


 ディーオの隣にいるリリアが

「良いのかなぁ…これで」


 ディーオは自分の上で寝ているエレナの頭を撫で

「駆け抜けるような事態でしかないなら、駆け抜けた後に…どうすれば良いか考えれば良い。結局は、選択していくしかないからだ」



 ーーー


 翌日、時空戦艦ラグナロクに乗ってディーオ達が出ようとした瞬間、空の穴、時空の穴から膨大な数の飛行魔物が噴出する。


 魔道士アイシャが

「ヒトガミの妨害かね?」


 篠原 秋人が「急ごう!」とディーオ達を乗せて時空戦艦ラグナロクで時空の穴へ突っ込む。


 時空の穴から発生する飛行魔物達を突き抜けながら、時空の穴へ突入。

 時空の穴を通り、そして…ヒトガミがいる場所へ。

 そこは、白い彗星から膨大な魔物が発生している場だった。

 その彗星の中心に、あの白い知覚できないヒトガミの姿があった。


「行くぞ、リリア、ダリス、エレナ」

と告げるディーオ。

「うん」と答える彼女達。


 四人はホワイトレガリアの力を発動させて白き神鎧を纏って時空戦艦ラグナロクの甲板に立つ。

 無数に迫る魔物達へ閃光の攻撃を放って倒すディーオ達。


 それにヒトガミが

「させない。ぼくは! 不滅だぁぁぁ! 人族世界だけを守る神なんだぁぁぁぁ!」


 ヒトガミの彗星は、大量の魔物を発生させてディーオ達を倒そうとするが…。

 ディーオ達のホワイトレガリアの力に敵わない。

 その放たれる閃光によって魔物達は瞬時に消えていく。


 ヒトガミが叫ぶ

「ぼくだけが! 人族を守れるんだぞ! 龍族や他の種族達に虐げられる人族を守れる! この力で、この未来を見れて、世界を管理する力で! ぼくは守護神だぁぁぁ!」


 どんな力を放っても、どんなに距離を取っても、神の眼の始まりである神人アルダ・メルキオールから受け取った超越の存在の力が、ディーオ達にはある。

 ヒトガミの障害を飛び越えてディーオ達は、ヒトガミに斬りかかる。


 魔物を発生させる巨大彗星であるヒトガミが、幾つものディーオ達の斬撃を浴びる。


 倒されるヒトガミが

「そんな、こんな…未来、ぼくは…見て…いない」


 ヒトガミの力の全てが消えて行くと、白き知覚を狂わせる外装が剥がれてジャギアとなったヒトガミが浮かぶ。


 それを前にするディーオ達と、その背後に時空戦艦ラグナロクが来た。

 そしてラグナロクから篠原 秋人が出て

「これでリリアが解放される…」


 だが、突如、ヒトガミの上に神の眼が出現して

「え?」と困惑する四人。


 ヒトガミが自分の上に現れた神の眼に手を逃して

「神の…眼…よ」

と、告げた瞬間、神の眼から赤き結晶が伸びてヒトガミであったジャギアを貫き、その胸部から赤き結晶を取り出す。

 ヒトガミだったジャギアは、吐血して

「ぼくは…人を救う…英雄に…なりたかった…」

と、砕けて消えた。


 そして、篠原 秋人が光の粒子になって消える。

「そんな、何が起こっているんだ!」

と、困惑する篠原 秋人。

「イヤだ! リリアを助けていない! イヤだぁぁぁぁぁぁ!」

と、篠原 秋人が光となって何処かへ消えた。


 呆然とするディーオ達、そして、デタラメな方向に力の奔流が発生して呑み込まれる。

 ディーオ達は固くお互いを抱き締め合って

「今度は…どうなるんだ?」

と、ディーオが告げると、また…あのリリアを閉じ込めた結晶のバケモノの深淵の穴が現れ、ディーオはそれと反対の方向へ飛ばされる。

 そこには光があった。


 その光をくぐった先に、なんと飛空艇の艦隊があった。

 それにディーオは着陸する。

 今度は、どこの世界だ?


 ディーオ達を見て

「ディーオくん、リリアくん、エレナくん、ダリスくん!」

と、名前を呼ぶのは、ルーデウスだった。

 着地した飛空艇の戦艦にディーオ達の世界のルーデウスが乗っていた。


 そう、ディーオ達の世界に帰って来た。


 ディーオがルーデウスに近づき

「ぼく達の世界のルーデウスさんですよね」


 ルーデウスは困惑気味に

「ああ…えええ? とにかく、驚いたよ。クリスタルヴァイドを発生させる穴が空に開いたままになって、飛空艇の戦艦を待機させていたら…君達が」


 ディーオが

「ルーデウスさん、オールステッド様は?」


 ルーデウスが後ろを向いて

「いるよ」


 オールステッドが近づき

「ディーオ、説明をして欲しいのだが…」


 ディーオが

「オールステッド様、アナタはルーデウスさんと何回目のタイムリープですか?」


 ルーデウスが

「いや、ぼくとは初めてだろう。今までのオールステッド様のループにぼくはいなかったから…」


 オールステッドが渋い顔をして

「何を知っている?」


 ディーオが

「お願いします。答えてください」


 オールステッドが指二本を立てて

「二回目だ。すまんな、ルーデウス…本当は二度目だ」


「え?」とルーデウスは驚く。


 そして、ディーオ達の世界の空が変貌する。

 空から幾つもの世界が落ちてくる。


 更にフィアット領の遙か向こう、中央大陸側の海に巨大な空まで突き抜ける塔が出現する。


 ラプター達の時空戦艦がディーオ達がいる飛空艇の戦艦の横付けされて、ラプターとリュシュオルが来て

 ラプターが

「どういう事だ? 幾つもの世界がこの世界に向かって衝突しようとしているぞ!」


 ディーオは、世界が衝突しようとしている空を見上げて

「これが…結果なのか?」


 そして、ディーオの残されたエピオンの機能から通信が入る。

 エピオンより、神の眼の巨塔で待つ…と。


 この世界に出現した神の眼の巨塔に来いというエピオンのメッセージだ。

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