第28話 老デウスの日記最後のページ
それはとある神の眼の信徒を追っていた途中だった。
アレキサンドライトと行動を共にする男ジャギアの話だ。
ジャギアは、第一次世界群大戦の生き残りの人族らしい。
「え?」とルーデウスは困惑する。
確か、百年以上前…とルーデウスは勘定してしまう。
偶々、ルーデウスが一人の時にアレキサンドライトとジャギアが来て、一晩を休憩する時にジャギアから身の上の話を聞いた。
ジャギアは、力こそ全て龍族に襲われた人族の生き残りで、その襲撃された時にアレキサンドライトに助けられた。
体は半分ほど失っていたが…アレキサンドライトが血盟秘術をジャギアにして、何とか生かして、アレキサンドライトの隠れ施設で様々な種族の因子を掛け合わせて肉体を再構築したハイブリットだと…。
形は人だが、その性質は龍族と人族、魔族の掛け合わせである…と。
ジャギアは言う
「ぼくは、力に溺れる龍族が許せない。もし、神のような力があったら…人族だけの世界で色んな種族が暮らす楽園を作りたいよ」
その言葉には、悲壮が混じっていた。
そして、神の眼の信徒を捕縛して、何時ものようにアレキサンドライト達はいなくなった。
今回の事案を終えて、家族に土産を買って帰ろうとして立ち寄った町で、本当に偶然だった。
土産を買って通り過ぎる人波に、妙な気配を…それはアレキサンドライトが身を隠していたのと同じ作用を放つプラチナブロンドの女性が通りかかって
「あの…」
と、二十代後半のルーデウスがその呼び止める。
プラチナブロンドの女性が立ち止まり
「何か?」
ルーデウスが女性を凝視して
「もしかして…」
その腕を掴む者がいた。
「ウチの娘に…って、え?」
と、腕を掴んだ人物が偽装したアレキサンドライトだった。
ルーデウスと偽装したアレキサンドライトが無言で見つめ合う。
プラチナブロンドの女性が
「父さんの知り合いなの?」
こうして、アレキサンドライトの家族と遭遇したルーデウスは、アレキサンドライトの娘ベリルのお招きで家に来た。
アレキサンドライトがルーデウスに「ばらすなよ」と迫る。
ルーデウスが「言わないよ」と返す。
そして、ベリルから色々と話を聞く。
アレキサンドライトは、龍族から去った後、世界を放浪して、奴隷として売られた人族の娘を助けた。
それが、ベリルの母だった。
アレキサンドライトは、ある程度の自立が出来たら離れるつもりだったのに、ベリルの母は、アレキサンドライトと一緒に過ごす事を選び。
そして、アレキサンドライトと心を通わせて、ベリルが産まれた。
ベリルは龍族のクォーターだ。
つまり、ここがアレキサンドライトの帰るべき家だった。
ベリルの母は人族としての寿命を終えて、そして…この町で龍族ではなく、色んな種族のハーフとして様々な薬の調合をして色んな店舗に入れている。
アレキサンドライトは、ルーデウスへこの事をばらさない事を誓わせて帰した。
ルーデウスも秘密にするつもりだ。
二十代後半のルーデウスは、たまに聖龍帝ティリアの一団、シルフィとロキシーにエリスのいる部隊と共に神の眼の信徒の捕縛を行う。
一緒に行動する事もあった四人だが、それは終始無言で必要以外は喋らなかった。
ルーデウスにとっては、苦しい感じだが、仕事なので割り切っていた。
シルフィとエリスにとっては、無言でルーデウスと共にいられる大切な時間だった。
ロキシーは、師弟として接するので、そこだけは…良かった。
そして、神の眼の信徒の最後の大規模な活動が起こった。
なんと、アスラ帝国の皇帝であるアリエルを人質にして、今までに捕まった神の眼の信徒の解放を迫った。
その混乱に乗じて、仲間を捕縛し続けたルーデウスの殺害が行われた。
神の眼の信徒に通じる龍族達がルーデウスの第二の故郷を襲った。
ルーデウスは、アスラ帝国のアリエル女帝救出で、アスラ帝国の首都にいた。
その凶報を聞いて、全力を持って中央大陸の家に戻ったが…全ては遅かった。
村は壊滅、生き残っていた者達は連れ去られ…。
そこには、守ろうと必死に戦った父パウロと妻サラの遺体が残っていた。
ルーデウスの家族、息子のアルスとジーク、姉妹のアイシャ、母達ゼニスとリーリャの五人が連れ去れて、ノルンはルイジェルドへ嫁入りしていたので助かっていた。
そして、最悪な事にアレキサンドライトの娘ベリルも誘拐されていた。
どうして、所在が分かったのか?
それは…ベリルが薬を下ろしている店舗からだ。
ベリルの作る薬には、僅かだが…龍族しか作れないモノがあった。
それをベイルは、自分は魔族と龍族に人族のトリプルクォーターだから…と説明していた。
それで店主も納得していた。
だが、それを神の眼の信徒の一人が買って、怪しんで掴んだ。
大切な娘のベリルも誘拐されたアレキサンドライトは激怒する。
それによって、アレキサンドライトはオルステッド達に加わり、あっという間に首都にいた神の眼の信徒達は制圧された。
だが、神の眼の信徒の作戦は終わっていない。
なんと、龍族世界にある神の眼の巨塔を制圧して、娘ベリルと、アレキサンドライトとエメラルドの血盟秘術を受けたルーデウスの血を引く子供達を使って、神の眼を完全制御する実験を行うと…。
直ぐに、オルステッドは超音速で飛行する飛空艇の神龍船にルーデウスとアレキサンドライト、ジャギア、オルステッドとエメラルド、聖龍帝ティリア、そして…シルフィとロキシーにエリスも乗せて神の眼の巨塔へ向かった。
神の眼の巨塔、最奥、神の眼の間
そこは巨大なドームで、電子回路のような模様が広がり、中央にある黄金の目の形をした結晶、神の眼があった。
その神の眼の下で、アレキサンドライトの娘とルーデウスの子供達を入れた三つの装置の棺を使って神の眼を制御した龍族の男がいた。
ロキだ。
かつて、第一次世界群大戦で、力の信奉者の龍族を纏めた男が
「これで! 我らの黄金時代が訪れるのだぁぁぁぁぁ!」
神の眼の力を解放、世界中に強大な魔力嵐が吹き荒れる。
ロキが叫ぶ
「オレが全ての神となって、世界を再創造してやる! 神の眼よ! 我は願い乞う!」
それに怒れるルーデウスとアレキサンドライトとエメラルドが攻撃して、龍神オルステッドと聖龍帝ティリア、 ジャギア、シルフィとロキシーにエリスも加勢する。
ロキの力がルーデウスの強烈な魔法攻撃を弾き、アレキサンドライトがエメラルドと共に先陣を切って、二人で一つであるアレキサンドライトとエメラルドが力を合わせて絶対防御で攻撃を弾き、それにオルステッドと聖龍帝ティリア達が続く。
ロキの強烈な力が、盾となっているアレキサンドライトとエメラルドを突き抜け、後ろに隠れるオルステッドに届くも、そこにはオルステッド達がいない。
ロキの寸前までオルステッド達が届き、オルステッドが神刀と、聖龍帝ティリア達が各々の最強の武器、神器の攻撃でロキを殲滅したが、最後のロキの攻撃にルーデウスとジャギアがやられた。
ロキは倒されたが…神の眼を操作する装置が暴走する。
ルーデウスが体を引きずり
「アルス…ジーク」
と、息子達がいる棺に手を伸ばす。
最強とされるアレキサンドライトも深いダメージを負っている。
そして、隣には同じ重傷のエメラルドもいる。
ジャギアも同じ重傷だ。
アレキサンドライトとエメラルドが互いに肩を組んで、ルーデウスが向かう装置へ歩みだす。
だが、遅い。
そこへジャギアも来て手伝う。
ルーデウスを追い抜かす三人。
アレキサンドライトとエメラルド、ジャギアが神の眼を操作する装置に触れて、ジャギアが叫ぶ
「神の眼よ! 我は願い乞う!」
アレキサンドライトとエメラルドが、装置に触れて最後の力を振り絞る。
神の眼から膨大な力の光が三人に降り注ぐ。
そこへ聖龍帝ティリアが
「アレキ!」
と、アレキサンドライトの名を告げる。
アレキサンドライトが
「聖龍帝ティリアよ。誠に勝手だが…娘を…ベリルの事を頼みたい」
ティリアが首を横に振り否定して
「いや! 私はアナタの為に…アナタが消えたら…私は生きていけない」
アレキサンドライトが
「すまん。約束は出来ない。だが、汝は聖龍帝ティリアよ。お主はオレが無くても生きていける。だから…生きろ! そして…すまなかった。私は未熟だったよ。龍族ならそうするのが当然だった。だから、すなまかった。君に酷い事をしてしまって…」
ティリアが手を伸ばしたが、膨大な力の奔流が放出されて弾き飛ばされた。
神の眼の巨塔が黄金に光り膨大な力の奔流を空へ登らせる。
アレキサンドライトとエメラルドが消失する。
自らの命と力を引き換えに、神の眼の力を制御する。
そして、ジャギアはその溢れる力を別の場所へ移動させる転移魔法を使う。
ジャギアの転移魔法と神の眼の力が混じり合って時空の穴が形成され、そこに溢れた神の眼の力が収束する。
世界を魔石化する力は、そこに呑み込まれて消えていく。
アレキサンドライトとエメラルドは消えて、ジャギアは自らを引き換えに神の眼から溢れた膨大な力を別時空へ逃す起点となって、時空の穴へ呑み込まれた。
ジャギアは願った。
こんな悲劇がない。
一つの世界で色んな種族達が暮らす楽園があれば…。
力だけの強者(龍族)に怯える事の無い世界を…。
と、時空の穴へ消えた。
その時空の穴には、あの少女を閉じ込めた赤き結晶の怪物がいた。
暴走した神の眼の力は時空の穴に消え、アレキサンドライトとエメラルドとジャギアも消えた。
そして、そこには無事なベリルとアレスにジークの三人が残った。
ルーデウスは息子の二人を抱きしめて涙した。
最後の神の眼の信徒達の暴走から、数十年が経過した。
世界は、多少の混乱はあったにせよ。
回っていく。
神の眼の信徒が残した技術は、後々に神の眼の信徒の残党を生み出し、それの処理が続いた。
ルーデウスは、それを倒し捕らえる事をオルステッド達と共に行った。
聖龍帝ティリアは、一時期、塞ぎ込んだが、ベリルというアレキサンドライトが残した娘を自分の養女にして、一緒に暮らしている。
ルーデウスは、壊された村を復興させ、今では色んな種族が行き交う町となった。
アイシャは、事件の時に助けてくれた騎士と結ばれて、近くに立てた家で暮らし、ゼニスやリーリャの顔を見に来て世話を焼いている。
ルーデウスの息子のアルスやジークは、神の眼の接続装置とされた事で神の眼と接触して、神の眼の適合者となり、オルステッド達が保護し仲間にしている。
二人の息子は、オルステッドの血盟秘術によって龍族の力を譲渡され、そして…ルーデウスと共に世界を回って出会った娘と結ばれて、産まれた故郷で暮らしている。
アルスは龍族のクォーターの娘と、ジークはエルフと龍族のクォーターの娘と結婚して、子供達をたくさんもうけた。
そして、六十になったルーデウス。
思い返すのは、前世での六十だった。
前世では何かも失って自暴自棄になって、そして、過去に戻って…。
だが、今世は違う。
悲しみを受け入れて立ち、前に進み。
今でも世界の危機には立ち上がり、その為の人材を育成をする大賢者となった。
前世の落ちぶれた時とは遙かに違っていた。
その風格、叡智ある神と言われる程で、鋭い目は先を見通している。
周りの者達は、龍神の大賢者ルーデウスと讃えている。
そんな龍神の大賢者ルーデウスでも、心配な事がある。
それは、神の眼の暴走だ。
あくまでもアレキサンドライト達がやった制御は一時的な事だ。
いずれは、その暴走が…。そして、それを悪用する者が出てくる。
それをどうにかしなければ…と龍神の大賢者ルーデウスは考えていた。
そこへ、とある男が接触してきた。
それは、エピオンと…篠原 秋人だった。
そして、龍神の大賢者ルーデウスは、消えた。
ディーオ達が読んでいたルーデウスの日記の最後には、こう記されていた。
ワシは、絶対にこの世界を守って見せる。
例え、幾万幾億と呪われようとも…我が命よりも大切な家族を守ってみせる。
龍神の大賢者ルーデウスとされる大英傑の鬼迫が籠もったメッセージが残っていた。
それをディーオ達は読み終わって…閉じた。
ディーオは、ルーデウスが残した日記を見て項垂れる。
凄まじい人生だ。
もし、自分が同じ状況なら…
そして、理解した。
ここは…自分が産まれた世界と何らかの繋がりがある別世界だ。
ディーオが真剣に考えている両隣にいるディーオの伴侶達、リリアとダリスにエレナが、ディーオに
「ディーオ…これって」
と、リリアが口にする。
ディーオが頷き
「あの仮面の老人の事だ」
目の前に席には、龍神オルステッドとその部下で眷属のアルスがいて、龍神オルステッドが
「君達の話を聞かせて欲しい」
アルスが
「君達は、巨大な時空の穴から飛び出して来た。フィアット領の上に発生した時空の穴から光となって飛び出して、そして…この近くに着地した。神の眼と父さんに何らかの関係があると思う」
ディーオは、この世界の龍神とアルスに、自分達の世界の事を話した。
それに、この世界の龍神オルステッドとアルスは驚き
「父さんは…やっぱり、この世界の為に戦っているんだ」
と、アルスが感慨深く告げた。
オルステッドが厳しい顔で
「なるほど、聖龍帝ティリアの眷属であるシルフィとロキシーにエリスが消えたのも納得できる。ルーデウスを追っていたというなら…」
ディーオが
「すこし、自分達で調べたい事がありますので…」
オルステッドが頷き
「協力する。こちらの世界の事は心配するな」
ディーオが頭を下げ
「ありがとうございます」
こうして、ディーオはこの別世界で、オルステッドの庇護下でお世話になる事にした。
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