第27話 老デウス 十五歳からの…

 ルーデウスは雪深い山の…いや、人工的に魔法で豪雪地帯となった山を登っていた。

「はぁ…寒い」

と、白い息を吐く。

 その前には

「こっちだ」

と、雪道をラッセルして進むアレキサンドライトとジャギアがいた。


 十五歳のルーデウス、体が大きく青年になったルーデウスは、アレキサンドライト達と共に神の眼の信徒の暴走を止める為に戦っていた。


 アレキサンドライトは、ルーデウスがピンチの時に駆けつける何処かのセイント戦士のお兄ちゃんみたいな立ち位置になっていた。


 今回も、また…神の眼の信徒は、神の眼の力を自分だけの独占しようして暴走、その施設がある周囲を豪雪地帯にして隠していた。


 豪雪地帯のど真ん中にその施設である塔が見えて、そこへ侵入するルーデウスとアレキサンドライトにジャギア。


 施設を制圧して、周辺環境を操作する魔導装置を停止、実験しようとしていた神の眼の装置も停止、破壊した。

 そして、捕縛した者達の中に龍族がいた。

 神の眼の信徒は、大抵は人族で構築されているが、稀に龍族も混じっている。

 神の眼の信徒と混じる龍族とは、かつて第一次世界群大戦で、龍族世界から離れた者達だ。

 離れた龍族達は、神の眼の信徒と結託して、再び強大な龍族の権威を取り戻す…として参加している。


 事が終わってオルステッド達が乗る飛空艇が近づく頃になると、アレキサンドライトとジャギアがいなくなるが、ルーデウスが

「ありがとう。助かったよ」


 いなくなる寸前に去ろうとするアレキサンドライト達に告げる。

 アレキサンドライトが

「お前を何時でも見ているからな」


 こうして、事案は終わり。


 ルーデウスは、家に帰る。

 ルーデウスが帰る場所、そこは…パウロ達家族がいる場所だ。

 ルーデウス達は、中央大陸の方に新しい住居を構えた。

 

 転移災害の捜索はルーデウスが十三歳の時に一区切り付いて、パウロは今まで出会ったツテから、アスラ帝国の中央大陸の小国達があった場所の領地で、新たな常駐騎士として魔物を狩る仕事を得た。

 そこも、かつてのブエナ村のように静かな村で、様々な農産物を作っている。

 パウロは元から腕の立つ冒険者で、村を襲ってくる魔物達を倒していたり、村の子供達に武術を教えたりしている。

 無論、ゼニスも村で医療者として活動もしている。


 ルーデウスは、家に帰ってくる。

「お帰りなさいルーデウス様」

と、リーリャが迎えてくれる。

「お帰りお兄ちゃん」

と、リーリャと共に洗濯物を取り入れるアイシャ。

 二人はメイド服ではない。

 普通の服だ。

 

 そこへノルンも顔を見せ

「お兄ちゃん、おかえりなさい」


 ゼニスも顔を見せ

「お帰り、ルーデウス」


「ただいま」

と、ルーデウスが告げる背中にパウロが現れ

「お、お帰りルーデウス」


 暖かい家族の迎えがそこにあった。


 そう、これが今世のルーデウスが望んでいる風景があった。

 転移災害の時にやつれていたパウロも柔らかい顔になり、ゼニスもリーリャも穏やかな顔が多くなり、アイシャとノルンは意地の張り合いをするも仲良くしてくれる。


 ルーデウスが帰って来て、色んなお土産をみんなに配り、自分が体験した事を話す。

 夕食の中に、ルーデウスの話に花が咲き

「苦労が多いなぁ…」とパウロは苦笑い。

 ノルンが

「お兄ちゃん、当分の間、休みなんでしょう! 魔法を教えてよ!」

 アイシャが

「ずるい! ノルン、私も兄さんから教わるの!」


 そこには暖かな家族の風景があった。


 そして、ルーデウスが帰ってくると顔を見せる彼女がいる。

 ルーデウスと同じ金髪で冒険者の彼女サラだ。


 サラは、この村で生まれた弓矢の冒険者で、特殊な弓を使う。

 この弓は、二つの剣を合わせた弓で、遠距離は弓、近距離は双剣として使う。

 サラは、最初はルーデウス達を警戒していたが…ルーデウスの力やパウロ達の実力を知り、そして…あの転移災害の犠牲者でもある…のも聞いて親しくなった。

 サラは、昔、転移災害で死んでしまった人を見た事があったのも理由だ。


 最近のサラは、ルーデウスが帰ってくると必ず顔を見せる。

 何度かルーデウス達と一緒に周辺の魔物を退治した事があり、その時に見せたルーデウスの凄まじい力を見た。

 最初は、それを鼻に掛ける野郎だと、思っていたが…ルーデウスが

「え? ぼくが強いって? 冗談を…ぼくだって手足が出ないくらい強い人達がたくさん世の中にはいるよ」


 謙遜だと思ったけど、ルーデウスが遠くを見るように見つめる姿に、それを知っているのだ…とサラは分かった。


 そして、ルーデウスの噂を聞いた。

 龍神オルステッドの右腕にして、人族でありながら龍族に勝てる男。

 昔、最強とされるアレキサンドライトに襲われるも生き残った猛者である。

 天変地異を起こせる大魔道士。


 ルーデウスは、人族の中でも最強の部類に入る強さを持っているのに、それをひけらかさない。


 サラの知り合いがルーデウスに最強ってどういう事なんだ?と訪ねたら

 ルーデウスが

「最強は、幻想さ。所詮、力は力に負ける。本当の強さってのは優しさや、愛する心さ。だから、愛する心が深い女には勝てないって事さ」

と、返答した。


 それを聞いたサラは、もっとルーデウスの事が知りたくなり、ルーデウスがオルステッド達の任務から帰って来たら、必ず翌日にはルーデウスの家に来るようになった。


 ルーデウスが帰ってくると訪ねてくるサラと共に、姉妹のノルンとアイシャが、ルーデウスから魔法を習っている。


 強いのに優しい、威張らないルーデウス。

 ルーデウスほどの強さがあるなら、男ならオレは凄いって偉そうにしている連中ばかり見るのに、ルーデウスは違う。

 たまに、ルーデウスに戦いを挑む人達もいるけど、あっという間にルーデウスに倒される。

 正確には、全ての攻撃が魔法の防壁で防がれて、動きを遅くする重力魔法で体力を浪費させ、疲れさせる。

 疲労して負けた連中は、魔法なんてズルい卑怯だ!と泣き言を言うが、ルーデウスは微笑みながら

「そうだね。君の得意分野なら、君が勝つだろう。でも、世の中の争いは、勝てば全てって思っている怖い人達ばかりだ。どんな手段を使ってでも、毒殺であっても相手より勝てば良いってのが大半だ。そんな怖い人に君は成りたいの?」


 相手を諭す事が出来る。

 それは世界の広さを知っているからだ。

 そんな姿を見ているサラは、何時しかルーデウスの事が好きになっていった。


 だから、ルーデウスに告白するサラだが、ルーデウスは昔、エリスにフラれた事を思い出して辛いから…と。

 それをサラは聞いて、自分は裏切らないから信じて欲しい…と。


 ルーデウスは、考えたいとして、少し距離を置いた。

 本当に信じて良いのだろうか?とルーデウスは、迷っていた。

 でも、それをパウロが

「なぁ…ルーデウス、お前はサラちゃんを信じられないのか? もう…前に進んで良いんじゃないのか?」


 次の日、ルーデウスがサラの家に行くと、サラに

「こんな、ぼくでよければ…一緒になって欲しい」

と、手をサラに差し向け、サラは涙してその手を握った。


 ルーデウスは、サラと結ばれた。

 ルーデウスの実家の隣に、新たな家が建てられ、そこでルーデウスとサラが結ばれて暮らし始める。


 月に二・三度、オルステッドの任務で外出して、後は村で過ごす。

 そうして、サラとルーデウスの間に子供が誕生した。

 アルスだ。


 ルーデウスの家族達とサラとの関係は良好で、まるでルーデウスと同じ子のようにパウロ達はサラを受け入れて、産まれたアルスと共に面倒を見てくれる。


 ルーデウスがオルステッドの任務で外出している時にパウロの家にフィリップが訪ねてきた。

 驚いたパウロだったが、久しぶりに話に花を咲かせてフィリップが、ルーデウスが結婚した事を聞いた。

 無論、嬉しそうにパウロはサラと産まれた赤子のアルスを紹介すると、フィリップは微妙な顔だった。

 フィリップはパウロと二人きりの時に、エリスがルーデウスの為に修行に言っている事を伝えた。

 パウロは、驚く。ルーデウスから、エリスにフラれた…と聞いていたからだ。

 フィリップには予感があった。

 もしかして、娘エリスとルーデウスは、行き違いしているのではないか…と、それが当たってしまった。

 ルーデウスにとって、エリスの事は終わっている。

 だが、娘エリスにとっては、未だに約束が続いている。

 フィリップは悩んだが、娘エリスに決断を託すとして、この事を秘密にして欲しいと打ち明けたパウロに約束させた。




 その頃、ルーデウスはオルステッドの任務で、アスラ帝国の首都に来ていた。

 首都に神の眼の信徒が入り込んでいるという情報を元に、首都内で痕跡を探していた。

 それに次期帝位のアリエル達が加わっていた。

 上の帝位を譲った兄達に代わって、アリエルがアスラ帝国の皇帝となるのだが、兄達と違って実績がない。

 ルーデウスもアリエルの兄達、皇子の二人に会った事があり、完全に帝位より自分がやっている商売や商品開発の方が楽しいとして、貴族の実家の援助で資産を作った他の廃嫡貴族子息達と一緒に、世の中を回す事に夢中だ。

 だが、やはり、実績がある兄達の方が帝位を継ぐべきでは?という声に、アリエル達の実績作りにルーデウス達が使われる事になった。


 そこで、ルーデウスはフィッツと…男装の麗人であるシルフィと遭遇した。


 シルフィであるフィッツとルーデウスはチームとなり、首都にいる神の眼の信徒の捜索を行う。

 ルーデウスは、前世の事で気付いていた。 

 フィッツがシルフィである事を…だが、繋がるつもりはない。

 前世とは違って、アリエルの帝位は確実である事、何よりここで自分が前世の時にように結ばれれば、アリエルの帝位に影響して…最悪な事に成りかねない。

 だから、ルーデウスはフィッツに深入りしないようにしていたが…ダメだった。


 とある任務で、急な雨にやられて別々の部屋に泊まったのに、ルーデウスの部屋にシルフィが来て、思いを告白した。

 シルフィである事、ルーデウスを愛していると…。

 それをルーデウスは、断った。

 自分には妻子がいる。それを裏切れない…として。

 シルフィは、それでも…隠れた関係でも良いから、ルーデウスと結ばれたい…と。


 ルーデウスは、否定して、シルフィがいる宿屋から出て行った。

 全てはアリエルのシルフィを思う策略だった。


 ルーデウスは直ぐにオルステッドとエメラルドに相談して、シルフィとルーデウスは離されて別の部隊となった。


 その後、神の眼の信徒による首都騒乱が起こり、それをアリエルが中心とした部隊で制圧、それを手見上げにアリエルは帝位を確定させた。

 だが、実質は、ルーデウスやオルステッド達による活動のお陰であった。

 そして、アリエルの後見として聖龍帝ティリアが付いた。


 アリエルは、その後見人の聖龍帝ティリアにお願いして、ルーデウスを自分の部下に加えるようにお願いした。

 アリエルは、どうしても親友であるシルフィの思いを遂げさせたかった。

 ルーデウスには妻子がいる。だが、男だ…そばにシルフィを置けば、いずれは手を出す瞬間がある筈だ。シルフィにチャンスを…。

 ティリアも同じ、大切な男と思いを遂げられなかったからこそ、シルフィに味方してオルステッドに依頼するも、ダメだった。


 シルフィとルーデウスは、結ばれる事はなかった。



 そして、ルーデウスがオルステッド達と神の眼の信徒を追って世界中を旅する時にロキシーと会う事もあった。


 ロキシーは素晴らしい青年になったルーデウスに、日に日に目を奪われる事になり、気付いたら、ルーデウスが関わりそうな案件を選んでいた。

 でも、ルーデウスがロキシーに求めていたのは、師弟であって恋人ではない。

 それが分かっているロキシーは、思いを口にする事はなかった。

 何より、ルーデウスがサラ達、妻子を大事に思っているのを知っていたからだ。

 ルーデウスには師弟、ロキシーには…そんな気持ちを秘めてロキシーは…。



 シルフィとロキシーはルーデウスと結ばれない。

 ルーデウスは良かったと思っている。

 シルフィは、帝位確定のアリエルと共に生きていくだろう。

 ロキシーも、冒険者や学者として生き続けるだろう。

 自分と結ばれて不幸になった前世のように同じ事をする必要は無い。

 それで良い…と。


 そして、別の頃、聖龍帝ティリアは他の種族から血盟秘術を結ぶ者達を数名選んだ。

 その中にシルフィとロキシーがいて、そして…エリスもいた。 

 エリスは、天族世界にて凄まじい速度で武術を極め、剣以外に槍や弓、高位の魔法も習得し武王エリスと言われる程になった。

 聖龍帝ティリアは、女性で力がある者を自分の血盟秘術を結ぶ者として、シルフィとロキシーにエリスと他数名の各種族の女性達と共に龍族の力の一端を譲渡した。


 エリスにはエメラルドの血盟秘術も加わっていて、エリスは年齢を取る速度が劇的に遅くなる。

 それは、エルフ族のシルフィと同じレベルになった。

 エリスは、ドラゴンヒューマン(竜人)という半龍族になった。


 力を付けたエリスは、今の自分ならルーデウスに相応しいとして、ルーデウスと家族になろう…とフィアット領に帰って来た。

 無論、聖龍帝ティリアの眷属となったエリスを家族は喜んで迎えたが…。

 エリスが、ルーデウスの所在を尋ねる…と誰しもが口を閉じて、父フィリップが

「良いかいエリス。ルーデウスくんは…」


 それを聞いたエリスは青ざめて急いでルーデウスのいる中央大陸へ向かい。

 久しぶりにルーデウスと再会した。

 そこには、サラと一緒に子供アルスの世話をするルーデウスがいた。


 ルーデウスがエリスに気付いて

「やあ…」


 エリスはルーデウスに殴りかかった。

 裏切り者! 酷い! 私を裏切って!

と、エリスはルーデウスを馬乗りになって殴り、それを偶々来ていたエメラルドとオルステッドが引き剥がした。

 というか、ドラゴンヒューマンになったエリスを引き離せるのは、龍族であるエメラルドとオルステッドの二人だけだ。

 

 こうして、エメラルドとオルステッドが立ち会いの下で、エリスとルーデウスが話し合いをする。

 エリスは、ルーデウスを罵った後、大泣きして…そして、それでもルーデウスと家族になりたい…と願ったが。

 ルーデウスは、キッパリと断った。

 ルーデウスにとってエリスの事は終わった昔なのだ。

 今は、この妻サラと息子アルス、そして…サラのお腹にいる二人目のジークと共にある事が未来だった。


 エリスは、それでも妾でも良いから…と縋ったが…ルーデウスは逆に怒った!

「自分を貶めるな! 気高いエリスは何処に行った! オレにフラれた位でメソメソするな!」 

と、怒鳴り散らした。


 エリスはフィリップやギレーヌに連れられて帰って行った。

 エリスと共に修行の旅をしたギレーヌが

「ルーデウス、キサマは最低だ!」

と、怒った。


 ルーデウスが

「じゃあ、もう…二度と関わらないようにしましょう」

 

 その頬をギレーヌは叩いた。

 ルーデウスが

「それで気が済みましたか?」


 これで、全ての縁が変わった。

 ルーデウスとシルフィ、ロキシー、エリスが結ばれない。

 別の世界がそこにあった。


 ルーデウスと一緒に歩む道が断たれたエリスは、暫し引きこもるも…立ち上がって、聖龍帝ティリアの下で仕事をするようになった。

 

 エリスは、とある望みを持つ。

 ルーデウスは自分と同じ龍族の血盟秘術を授かっている。

 それによって寿命は、人族より長くなっているはずだ。

 女性が龍族から血盟秘術を授かると、エルフのシルフィのようになるが、男性が同じ血盟秘術を授かるとその半分くらいの寿命にはなり、老化はする。 

 だいたい六十歳くらいで止まるらしい。

 ルーデウスの今の妻は、人族だ。

 長くて七十年か八十年の寿命だ。ルーデウスはその後もある。

 その時にルーデウスと結ばれよう。

 それにエリスは縋る事にした。

 それは他の二人も同じだった。

 シルフィ、ロキシーもだ。

 エリスの事を聞いて、シルフィとロキシーが話し掛けて仲良くなった。

 そして、同じ思いを背負った。

 ルーデウスの最後の寿命の時に共にルーデウスと結ばれよう…と。

 妙な共同体がそこに誕生したが…彼女達、三人はそれで良かった。

 それを信じて未来へ進めた。



 だが、運命は残酷を用意していた。

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