第26話 出会いと別れ

 エリスは興奮していた。

「見て! ルーデウス!」

と、国境山脈の上を飛んでいる赤竜を指さして

「アレを倒してみたい!」


 その手をルーデウスが取って

「やめてください! どうせ、ドラゴン化して倒すのでしょう! 周囲がめちゃくちゃになります!」

 エリスを止める。


 エリスが

「赤竜の肉ってもの凄くおいしいらしいわよ! 食べてみたいでしょう!」


 ルーデウスが手を引いて止めつつ

「エリスがボレアスに帰って、家族に顔を見せたら、ぼくも付き合いますから! それまで辛抱してください!」


 エリスがルーデウスへ顔を近づけて

「約束よ! 帰ったら赤竜を狩ってパーティーをする!」


 ルーデウスが項垂れて

「はいはい」


 微笑ましい光景にルイジェルドが笑んでいると、ルーデウスが

「ルイジェルドさん。何時もぼくにエリスの相手を押しつけて、たまには手伝ってくださいよ」


 ルイジェルドが笑みながら

「エリスはルーデウスの言う事しか聞かない。ルーデウスが相手をするのが一番だ」


「はぁ…」とルーデウスは項垂れる。


 こうして賑やかに三人は、国境山脈を越えていく。


 そうして、とある片側が開いている通路の洞窟道路を歩いていく。

 普段の国境山脈越えは、魔導具馬車や飛空艇を使うが、魔石化嵐の影響で魔導具馬車や飛空艇が動けないので、徒歩での移動である。

 道のりとしては、朝から出て夕方前には歩いてでも到着するくらいの道のりだ。

 広い道も作られているし、道なりに進めば、アスラ帝国の国境のある町に到着する。


 遭難という心配をする程でもない。


 三人が歩いて進んでいると、目の前から二人が歩いてくる。

 一人は眼鏡を掛けていて、もう一人はどことなく目に隈がある、男二人組だ。


 エリスもルイジェルドも警戒していない。


 ルーデウスは前から来る二人を見つめる。

 眼鏡を掛けた男が僅かに揺らいで見える。


 ルーデウス達と交差する二組。

 ルーデウス達と同じく魔導具馬車や飛空艇が使えないから、徒歩での移動なのだろう。


 よくある事。

 そんな程度で交差したが…ルーデウスが

「あの…」

と、二人を止める。


 二人が立ち止まり、眼鏡をした黒髪の男がルーデウスを見て

「なんだ?」


 ルーデウスが眼鏡黒髪の男を見つめて

「もしかして…龍族の方ですか?」


 それを聞いて、眼鏡黒髪の男の隣にある目に隈がある男がルーデウスを見る。


 眼鏡黒髪の男が頷き

「そうだが…なぜ、分かった。魔力や気配を抑えていたのに…」


 ルーデウスがエメラルドの事を思い返し

「似たような龍族の方を知っていまして、その方も龍族の威圧で周囲が硬直しないように、気配や魔力を抑えていましたから…」


 眼鏡黒髪の男は頷き

「そうか…で? 私に何の用事だね?」


 ルーデウスが

「龍族の方達は、アスラ帝国のフィアット領で起こった転移災害の救援を行っていると…それで、何かそれに関して情報とかを…」


 眼鏡黒髪の龍族の男は

「すまんな。私は龍族の中でも、龍族の一門から抜けてしまっていて、そういう情報は持っていないし、転移災害の救援にも参加していないのだよ。転移災害は本当に痛ましい災害だった。お悔やみを申す」


 ルーデウスが頭を下げて

「ありがとうございます。もし、何か…転移災害での情報を入手しましたら…どうか、関係者にご提供をお願いします。ぼくの父は、龍族の方達と共に転移災害で消えた方の捜索をしていますので…」


 眼鏡黒髪の男が頷き

「分かった。協力しよう」


 ルーデウスが自分の胸に手を置いて

「父の名はパウロ・グレイラット、ぼくは息子のルーデウス・グレイラットです。どうぞ、ご協力のほど、お願い致します」


 眼鏡黒髪の男は頷き

「私の名はウラル。隣は、ジャギア…憶えて置こう」


 ルーデウスが不意に妙な事を思い返して

「ありがとうございます。それと…ヒトガミについて…何か知っていますか?」


 ウラルが首を傾げ

「人神ルナティア様の事か? 知り合いなのか?」


 ルーデウスが首を横に振り

「いえ、何でもありません」

 どうやら、ヒトガミという存在は、本当にいないようだ。

 誰しもがヒトガミと言うと、この人族世界を治める人神ルナティアしか言わない。


 ルーデウスが「では」と去ろうとする背中にウラルが

「ルーデウス殿、もしかして…汝は、前世の記憶を有しているのか?」


 ルーデウスが驚きで振り向き

「もしかして、ウラルさんも」

と、告げた瞬間、鋭い突きがルーデウスに向かってきた。


 それをルイジェルドが持っている槍で防護して、エリスが急いでルーデウスのマントを引いて下げさせた。


 突きを放ったのはウラルだった。


 ルイジェルドがウラルの突きを押さえながら

「キサマ…何をする…」


 突きを放ったウラルの顔がみるみる般若に染まり

「小僧! キサマ! 神の眼の使徒かぁぁぁぁ!」

と、怒声を荒げる。


 一瞬にして様変わりしたウラルに困惑するも、ルイジェルドがウラルを弾き、ウラルの顔に槍の一閃を浴びせると眼鏡が外れた。

 ウラルの眼鏡が外れた瞬間、ウラルの髪が一瞬にして深紅の長髪に変わった。

 姿を偽装していた。

 そして、抑えていた力が噴出する。


 強烈な魔力と圧倒的強者の圧。


 ウラルだった者の後ろにいたジャギアが

「アレキサンドライト、その子供が…神の眼の信徒で間違いないのか?」


 ルーデウスが強大な魔力の火炎球をウラルだったアレキサンドライトに放つと、アレキサンドライトは、それを左手の片手で止めて消滅させた。

 火炎を究極まで加速させた閃光火炎魔法、その温度は数千万度を優に超えているのに、煙を消すように潰した。


 アレキサンドライトはその攻撃を受けて確信する。

「間違いない。この強大な魔力と波紋、神の眼から力を受けている」

と、アレキサンドライトがルーデウスに狙いを定める。


 ルイジェルドが

「エリス! コイツは最強とされるアレキサンドライトだ! ルーデウスを連れて逃げろ!」


 エリスがルーデウスを連れて逃げようとした先、アレキサンドライトが指を鳴らすと、その先に巨大で分厚い氷の壁が瞬時に形成されて塞ぐ。


 絶対零度の氷壁は、瞬時に周囲の熱を奪おうと冷気の波紋を広げて、エリスがそれに触れた瞬間、瞬間凍結しそうになり下がった。


 ルイジェルドがアレキサンドライトに突進して、

「おおおおおおおおおおおおおおお!」

と、残像を残す程の槍の突きをアレキサンドライトに浴びせる。


 それにアレキサンドライトは手も動かさず防御もしない。


 まさに百にもなっているルイジェルドの槍の突きを全身で浴びているが、全くの無傷なのだ。

 何一つ傷を付ける事が出来ない。

 まるで、絶対に壊れない壁に向かって突きを放っているルイジェルドへ、その絶対壁のアレキサンドライトが近づき腹部に拳を浴びせた。


 その一撃でルイジェルドが跳ね上がり天井の壁にぶつかって埋まった後、落ちた。

 

 動かなくなったルイジェルド。


 アレキサンドライトがルーデウスに近づくが、エリスが

「でああああああああ!」

 腰にある巨大な剣でアレキサンドライトの首を狙う。


 間違いなくアレキサンドライトの首に刃が向かい、首が飛ぶではなく、首の表面で刃が止まった。

 今のエリスは、エメラルドから龍族の力の一端をもらい受けている。前の時のエリスとは比べものにならないくらいに強いのに…。

 アレキサンドライトに傷一つさえ付かない。

 

 エリスはそれでも諦める事なく、何度も何度もアレキサンドライトへ斬撃を浴びせるも、アレキサンドライトにとってそよ風程度で無傷だ。


 アレキサンドライトがエリスの目の前で指を鳴らした瞬間、エリスが目を剥いて倒れた。


「あ、ああ…る…ルーデウス…に、逃げ…」

と、痙攣するエリスは、ルーデウスに逃げるように告げる。


「エリス!」

と、ルーデウスは強力な魔法をアレキサンドライトに放つ。

 雷撃の龍、火炎の獅子、嵐のグリフォン。

 どれも神級以上の魔法、絶対必滅の攻撃だが。

 アレキサンドライトが右手に赤い光で構築された剣を握り、左腕の斧と鉄甲が一体化した装備を召喚して付けて、その二つの武器でルーデウスの必滅の攻撃を粉砕する。


 そして、アレキサンドライトはルーデウスの眼前に来る。

 ルーデウスが逃げようとするも全身を何かの力に固定されて動かせない。


 アレキサンドライトが冷徹な目で

「運の尽きだったな」

と、赤い光の剣でルーデウスの胸部を突き刺した。


「あ…ゴフ」

と、ルーデウスは吐血して、アレキサンドライトが剣を抜くとルーデウスは倒れる。

 そんな、まさか…前世と同じように…ここで…。


 倒れるエリスの目の前でルーデウスが…エリスが

「イヤ…誰か…お父様、お母様、おじいさま、ギレーヌ、ルイジェルド、お願い…誰か…ルーデウスを助けて…イヤ…」


 ルーデウスは回復魔法を使って傷を塞ごうとするもできない。

 アレキサンドライトの剣には、魔法効果を無効化する力が付いていた。


 ルーデウスは意識が消えそうになる中で

 そんな、やっと、家族と幸せに…イヤだった。そんな…


 そこへジャギアが来て

「子供を殺して良いんですか?」


 アレキサンドライトがジャギアを見つめる。

 

 ジャギアが

「神の眼の信徒とはいえ、子供だ。まだ、道を間違わない可能性だってあるんですよ。娘さんがアナタのやった事を聞いたら…」


 アレキサンドライトが溜息を漏らして

「分かった」

と、告げた後に刺したルーデウスを、とある魔力の力場で包み浮かせる。

 それを倒れるエリスが見つめている。


 浮いて仰向けになるルーデウスにアレキサンドライトが左手へ、赤い光の剣の刃を刺して自身の龍族の血をルーデウスへ注ぐ。


 アレキサンドライトの龍族の血は、ルーデウスの出血する心臓から入り込みルーデウスの全身を巡る。


 その反応からアレキサンドライトが

「おまえ、エメラルドから血盟秘術を受けていたのか…なるほど、なら…」


 ルーデウスと融合しているエメラルドの龍族の血とアレキサンドライトの血が混じって一つになり、ルーデウスと融合すると同時にルーデウスの傷が一瞬で完治する。


 それが終わると、ルーデウスがゴハと肺に入った血を吐き出して

「どうして、ぼくを…生かすのですか?」

と、アレキサンドライトに問う。


 アレキサンドライトは、それに背を向けてエリスとルイジェルドを回復魔法で治療して

「神の眼の信徒は、その持つ強大な力によって間違った道へ進む。甚大な被害を与える前にオレは、始末してきたが…お前がどうなるか…見てみようと思った。それだけだ」


 ルーデウスが呆然としていると、自分達が来た方向から走ってくる一団がいた。

 エメラルドとオルステッドの一行だ。


 エメラルドとオルステッドは、アレキサンドライトを見つけて

「アレキ…」とエメラルドが

「兄上」とオルステッドが

 強大な力の気配を察して急いで来たのだ。


 アレキサンドライトは溜息を吐き

「面倒くさい、ジャギア」


 ジャギアは頷き

「了解」

と、告げた瞬間、ジャギアを中心に目眩ましする闇の霧が爆発して、アレキサンドライトとジャギアはその場から消えた。


 その去り際にルーデウスの耳元でアレキサンドライトが

「オレは、お前を見ているぞ」

と、告げた。



 その後、ルーデウスはオルステッドとエメラルドに色々と体を調べて貰うと、どうやら…アレキサンドライトの血盟秘術によって力を分け与えられているのが分かると、オルステッドが

「ルーデウス・グレイラット。汝を我が龍族で保護したい。理由は分かるな…」


 アレキサンドライトと繋がっている。

 龍族にとって、こんな貴重な手がかりは無かった。



 その後、ルーデウスは、無事にフィアット領へ帰って来た。



 ーーー


 フィアット領のボレアス領主城へ来ると、エリスの両親、父フィリップと母ヒルダ、そしてあの頑固親父の祖父サウロスも無事だ。

 フィアット領は、龍族からの支援によってボレアス城塞都市も修復されて活気が戻って来ているが…

 ルーデウスの故郷である村へ来ると…ブエナ村が完全に消失して巨大な窪地ばかりだった。

 ブエナ村の村民は、その九割が死亡していた。

 シルフィの両親も…シルフィだけは、まだ遺体が確認されていないので行方不明という扱いだが…。


 ルーデウスは悲惨な故郷の現状を見て項垂れる。

 あの大好きだった家も、庭も、風景も何もかも…消えていた。

 村落の復旧に目途が立たず。ここは放棄されていた。

 故郷は失った。

 でも、家族だけは生きている。

 それだけが救いだった。


 

 故郷を失って項垂れるルーデウスは、一人…被災者用に用意された集合集落の一室で塞ぎこんでいた。


 前世ではテントの集落だったのに、この世界ではチャンとした部屋の被災集合集落がある。

 つまり、前世の世界とは違って進歩している部分が多い。


 そんな落ち込んでいるルーデウスにオルステッドとエメラルドが来て、とある提案をする。

 オルステッドが

「兄上が汝を神の眼の信徒と言っていたという事は…神の眼の力を引き出す適合力があるという事だ」


 ルーデウスが無限に汲み出す事ができる魔力は、適合している神の眼からもたらされているらしい。

 神の眼の信徒…とアレキサンドライトは言った。


 エメラルドが

「神の眼の信徒は、その強大な力を持て余して度々、問題を起こしている。それを我々は秘密裏に対処している」


 ルーデウスが

「公開しないんですか?」


 オルステッドが呆れた感じで

「神の眼の信徒がいるというのは公開しているが、それを知った神の眼の信徒は、何時も暴走して最悪な事を起こしている」


 エメラルドが

「国家を破壊して、多くの民に被害をもたらしている。実はね、この転移災害もそういう神の眼の信徒が原因なんだよ」


 オルステッドが

「表向きは、神の眼の研究が原因としているが…実は、その研究者達の中で神の眼の信徒と通じる者達によって神の眼を己が物としようして暴走した結果、起こった」


 エメラルドも

「実はね、アレキサンドライトがそういった神の眼の信徒を退治しているというのを前々から知っていたんだよ。アレキサンドライトだけが、神の眼の信徒を見つける事ができる。我々にはその違いが分からない」


 オルステッドが

「我らにはそれを見破る力が無い。どうだ? 協力してくれまいか? ルーデウス・グレイラットよ」


 ルーデウスは俯きながら

「すいません。ちょっと、色々とあって…結論は待ってください」


 エメラルドとオルステッドが頷き合って、オルステッドが

「急いではいない。十分に熟慮して欲しい」

と、二人は去って行った。



 その頃、エリスはボレアス領主城で外を見つめていた。

 これまでの事を思い返していた。

 ルーデウスと共に旅をして、ルーデウスと一緒に暮らして、楽しかった。

 心の何処かで、このままずっと続けば良いとさえ思っていた。


 ルイジェルドとも別れて、ルイジェルドは魔族世界へ帰って行った。

 悲しかったけど、仕方ないと分かった。

 でも、ルーデウスとだけは…。

 今のルーデウスには、帰る場所が無い。家族は無事でも、これから…。

 そう、なら…


 エリスは父フィリップと母ヒルダに思いを打ち明けた。

「ルーデウスと家族になりたい」

 二人は許してくれた。これまでの事をエリスから聞いて、ルーデウスにしかエリスは、任せられない…と。


 即行動のエリスは、ルーデウスがいる集合集落の一室へ来ると、ルーデウスに

「家族になりましょう!」

と、ルーデウスに告白した。


 ルーデウスが肩をすくめて

「え? 弟になるのですか?」


 エリスがルーデウスの頭を叩き

「違うわよ」


 ルーデウスが叩かれた頭を摩り

「エリス、ぼくは、今…傷ついています。まともな判断ができません。だから…そんな時に…」


 エリスが「ああ、まどろっこしい」と無理矢理にルーデウスの唇を塞いで

「私、バカだから行動でしか表せない」


 ちょっと強引な感じだが、エリスとルーデウスは褥を重ねたが…。


 ルーデウスが目を覚ますとエリスはいなかった。

 また、前世と同じで、同じく手紙で

(旅に出ます。今の私にはムリです)

 前世の時よりもっとキツい言い方でフラれた…が、なんかそれほどでもない。

 前々からこうなるって分かっているとある程度、楽な事ってある。

 そして、ここは前世とは違う。

 父パウロ、母ゼニス、リーリャに妹達のノルンとアイシャも全員が無事だ。

 ここからもう、前世とは違う未来が待っている。

 そう感じていた。


 そして、ルーデウスは直ぐに向かった。

 オルステッドとエメラルドの元へ。

 その前に、ボレアス領主城へ向かい、フィリップとヒルダにサウロスに今までのお礼の挨拶をして、サウロスが

「ルーデウス! まだまだ、お前は未熟者だった。だからエリスは、行った。分かっておろうな」


 エリスは、ギレーヌと共に更なる力を得る為に、修行へ行った。

 剣術と武術を極める為に、武術が集まる天族世界へ。


 なるほど、前世でも自分が弱いから…とルーデウスは納得して

「分かりました。では…」


 ルーデウスは、フラれたとして。

 


 エリスは違っていた。

 ルーデウスと共にした時に、ルーデウスに体に残るアレキサンドライトの剣の傷跡を見て恐怖した。

 もしかしたら…ルーデウスを失うかもしれない…と。

 あの時、自分が弱かったから、ルーデウスが…。

 強くならねば…ルーデウスを守る為に。

 自分の命を全部使っても。


 ルーデウスの元から帰って来たエリスは、それを素直に両親と祖父に打ち明けた。

 ワガママ娘が、これ程に成長している事に感激する祖父。

 そして、旅を更なる修行を許した。

 剣王ギレーヌも、天族世界にある数多の武術を習得して、強さを手に入れている。

 エリスも同じように…。


 エリスは、ルーデウスの事を本気で愛している。

 どんな事があってもルーデウスを守る。

 その為に自分の命が潰えても後悔はない。

 それ程までに愛している。

 だから、もっと強くなってルーデウスを守れるようになって、本当の家族になろうと…。



 ルーデウスは、エリスが自分に相応しくない弱い男だと思われてフラれたと。

 全てが行き違い、すれ違い。

 そして、それぞれが思いを抱えて旅立った。



 ルーデウスは、オルステッドとエメラルドの龍族の者達へ入り、神の眼の信徒の暴走を止める為に。

 エリスは、ルーデウスを守る為に。


 そして、もう一人の彼女シルフィは、生き残っていた。

 ルーデウスの前世と同じく、アスラ王国ではなく、アスラ帝国の皇女アリエルと、ノトス家のルークと出会い、一人前の魔法戦士として成長する。

 シルフィは、フィッツという男装の麗人としてアリエルに仕えた。

 その思いとは、立派に成長した自分が何時か…ルーデウスと出会って…。

 

 この世界では、アスラ帝国は、山脈を挟んで隣の中央大陸の小国達を取り込んで大きな国になった。

 飛空艇によって交通の革命が起こり、高い山脈を越えて行き来が楽になり、その小国達を纏めたのは、なんとアスラ帝国の第一皇子グラーヴァルと第二皇子ハルファスだった。

 二人はアスラ王国にある王族資産を使って、小国達の経済を纏めて、更に龍族の強い武力を後ろ盾にして、小国達の戦争を平定、各地区で安定した領地経営を行い。

 アスラ帝国という巨大帝国を作った。

 そして、アスラ帝国の帝位は、アリエルが継ぐことになった。

 それにグラーヴァルとハルファスは、同意している。

 帝位なんかよりも、中央大陸の経済を回す事が面白かった。

 何より、アレキサンドライトの影響によって、王位や帝位といった権威なんかよりも、世の中を回す事が大事であると…。


 そう、パックスの時もそうだが、この人族世界では、貴族の子息達や、各地区の王族達の子息達が、自分達で独立して自ら王位継承を廃嫡する事が当たり前になっていた。

 権威を持った所で、所詮は何かの首切りの為の道具でしかない…と。


 この世界は、見た目や魔法という共通な部分はルーデウスの前世と同じだが、思想や考え方、魔導具が復旧している、六つの広大な世界と繋がっているという違った世界なのだ。


 

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