第20話 復讐鬼

 それは苛烈な戦場だった。


 鬼ヶ島にあるエレメンタルタワーを攻略しにオールステッドを始め、アレク、ルーデウス、ビリヘイル王国の魔王アトーフェとその部隊、まさにこの世界での最強の布陣だが…一人の男に勝てない。


 フェイス01だ。


 フェイス01は宙に浮かび両脇に黒と白の杖を並ばせて浮かび、座禅を組んで

「ヘブン アンド アース(天地開闢)」

と、世界を操作する神法を発動する。


 龍神オールステッドが最強の神刀で一刀両断しようにも、その力が光る風に包まれて防がれる。

 アレクは両手を再生させて、重力を操作する王竜剣で重力の塊を発射する。

 全てを飲み込んでいく漆黒の球体を、光の稲妻が貫き霧散させる。


 そこへ、アレクの祖母である魔神アトーフェが突っ込むも、白き刃が貫いて不死の魔神であるアトーフェを凍結で動けなくする。

 その後、吹雪の嵐が降臨してアトーフェの部隊が立ち止まってしまう。


 その全てを同時にフェイス01がやった。


 ルーデウスは驚愕する。

 圧倒的な実力の差。

 この世界で最強とされる者達が力を集結させて挑んでもフェイス01に勝てない。


 フェイス01が仮面から見える口元を笑み

「どうしたのかね? それでも龍神ですかな? そちらも方々も名だたる魔王なのに…」


 ルーデウスが魔法を唱えようとしたが…。


「無駄よ」とフェイス01が何かを発動させた。

「ゼツゲツ」

 フェイス01の背後に七色の曼荼羅が出現した瞬間、魔法が、いや、この周囲数キロの魔力が喪失した。


 オールステッドが胸部を押さえる。

 魔力が全身から放出される。

 完全回復している龍神の魔力が世界に吸収されていく。


 ルーデウスが駆け寄り

「社長!」

と、魔力を回復するポーション、エーテルターボをオールステッドに処方するが、それでも魔力が座れる。


 全ての魔力を喪失させる曼荼羅を背負うフェイス01。

「はは…所詮、魔力が無ければ…全員、ただの生命よ」


 アレクが王竜剣を振るい力を放とうとするも何も出ない。

「クソ!」


 この場の全ての魔力が消えていく。

 そこへディーオ達四人が飛んでくる。

 全身に深紅の装甲エピオンを纏ってフェイス01へ斬りかかる。

 エピオンは純粋物理で動く。

 なので魔法がない世界でも戦闘力を発揮する。


 エレナは、遠くで転移魔法を発動させてルーデウス達を転移させて下げる。

 ルーデウス達が消えた後、ディーオ達三人、ディーオ、リリア、ダリスがエピオン装甲で攻撃する。


 フェイス01が

「喰らえ、ヨルムンガンド」

と、フェイス01の周囲に巨大な光の蛇が出現する。

 その光の大蛇がディーオ達三人へ突進する。

 光の速度で突進する光の大蛇ヨルムンガンドがディーオ達三人を吹き飛ばすが、ディーオだけは体勢を直して、フェイス01へ斬りかかる。


「でぇぇぇぇぇぇ!」

 超音速を越えた亜光速の一閃がフェイス01へ迫るも、フェイス01が左腕を伸ばす。

 その腕は人から赤き鱗が備わった竜人の腕であり、その腕でディーオの亜光速の一閃を止めた。


 ディーオは驚きを向けて

「キサマ…オールステッドさんと同じ…龍族か?」


 フェイス01が

「ちと、違うなぁ…まあ、後付けの紛い物かなぁ…」

と、告げた瞬間、強烈な力の波動を受け止めた左龍腕で放ち、ディーオを吹き飛ばした。

 ディーオは、そのまま吹き飛ばされてエレメンタルタワーの床に埋まる。


 そこへリリアとダリスが来て

「大丈夫?」

と、二人がディーオを助け出す。


 ディーオが二人に抱えられながら

「参った…コイツは…」

と、見上げるそこに、阿弥陀如来のごとく座するフェイス01が浮かんでいる。

 エピオンの全力でなければ…コイツは…。

 だが、それを発揮すれば、この世界は…。


 フェイス01が

「忌々しいか…小僧よ。全力を発揮できんというのは…。ワシは、どのくらいの力を行使すれば影響がないのを分かっている。それが経験の差というヤツだし、それに…他に被害を広げない方法を幾つも持っている。それがないお主は…大変じゃなぁ…」

と、告げて天を仰ぎ

「この世界は、閉鎖された空間だ。そこで全力を振るえば、世界が崩壊する。さて…どうするか?」

と、待ち構える。


 ディーオは念話で

”エレナ…そっちは、どうだ?”


 

 エレナは、オールステッド達を連れてエレメンタルタワーの別の入口を探していた。

”見つけた! エレメンタルタワーにある別の入口から今、オールステッド様達が入ったよ”


 ディーオは立ち上がって

”分かった。もう少し…時間稼ぎする”

と、ディーオが構えて、それにリリアとダリスも続く。


 フェイス01はそれに笑みを向け

「元気な若人は好きだよ。もう少し…遊んであげよう」

と、フェイス01は阿弥陀如来の座りから足を組んだ座禅に座りに変えて

「オン・マハーカーラー」

と、発動する。

 フェイス01の背中に曼荼羅が広がる。

 そこから稲妻の魔神と、稲妻の獣が出現する。


 ディーオが構える。

 先程の攻撃なぞ小さいと思える程の桁違いな質量がその二つにある。

 ディーオの元へリリアとダリスが来る。

 三人が準備を終えたのを余裕でフェイス01が見つめ

「では、いくぞ」

と、稲妻の魔神と獣を放った。

 雷鳴と轟音、光の速さで魔神と獣がディーオを襲撃する。

 それを最大出力のエピオンのシールドで受け止める三人。

 その三人の防壁に割れて稲妻の津波が左右を走る。


 エレメンタルタワーの遙か彼方まで稲妻の津波が駆け巡る。


 一撃だ。惑星が爆発する程の威力を防ぐエピオンのシールドが完全に破壊される。

 

 フェイス01が次の攻撃を放とうとする。

 曼荼羅から稲妻の嵐が出現する。

 フェイス01が嬉しそうに

「これは…どうかなぁ…」

 稲妻で構築された巨大な渦がそこにある。


 ディーオがリリアとダリスを後ろに

「二人は逃げてくれ…」


 リリアとダリスは察する。

 リリアが

「ディーオ、まさか」


 ディーオの全身が漆黒の装甲に包まれる。

 それは龍の鱗のように全身を覆う。

 体皮と一体化した深紅の装甲、その背中から幾つもの鎧の翼手と、エピオンのヒートロッドの尾達が伸びる。

 完全解放したエピオンにディーオはなる。

 これで無ければ…勝てない。

 

 深紅の装甲魔神と化したディーオに、フェイス01が笑み

「さて、楽しませて貰うとしよう…。宇宙を時空を股にかける超兵器人の力とやらを…」


 フェイス01の稲妻嵐と、ディーオのエピオンが対峙するそこへ、三人が降り立つ。

 最初のエレメンタルタワーに来た彼女達だ。


 それにフェイス01が

「やれやれ、せっかくのお楽しみだったのに…」

と、稲妻嵐を小さくしていく。


 ディーオは彼女達三人の背中を見つめる。

 また、現れた。なぜ? どうして? 一体…何の関係が…?

と、フェイス01を見つめると、フェイス01が何かの水晶を取り出して

「どうやら、龍神オルステッドとその一味、ルーデウス・グレイラート達は、ここにアクセスしたようだな」

 その水晶には、このエレメンタルタワーの中央に触れたオールステッド達が映っていた。


 フェイス01が水晶をしまって

「では、帰るとしよう」

 去ろうとするフェイス01にプラチナブロンドのエルフ女が

「ねぇ…ルー」


 フェイス01が

「その名で呼ぶな!」

と、声を荒げる。

 フェイス01から強烈な殺気が放たれる。


 フェイス01が仮面を押さえて

「ワシは、ワイズマン…。それだけ」

と、告げた瞬間、目映い目眩ましを放って消えた。


 ディーオがエピオンを解除して

「あの…ありがとうございます」


 フェイス01が去ったのは、彼女達が影響しているのは間違いない。


 ディーオが彼女達と対面している所へリリアとダリスも来る。

 ディーオの両脇に並ぶリリアとダリス。

 それを見てプラチナブロンドのエルフ女が仮面を外す。


 それを見てディーオが

 あれ? どこかで見た事があるようなぁ…。


 プラチナブロンドのエルフ女がリリアとダリスを見て

「二人にとって、彼は大切な人かい?」


 リリアとダリスは戸惑いつつ、ダリスが

「はい、生涯を共にする夫ですから…」


 プラチナブロンドのエルフ女は悲しげに笑み

「絶対に手放してはいけないよ。一瞬でも手放せば…永遠に絆は戻ってこないから」

と、告げて仮面を被って去って行った。


 ディーオは困惑していると、リリアが

「なんか、ルーデウスさんの奥さんのシルフィーさんと似ていたなぁ…」


 ダリスが

「同じエルフ族みたいだし近いのかなぁ…」


 ディーオは三人の雰囲気から似た人達を考える。

 そうだ。ルーデウスさんの奥さん達だ。

 体格、髪の色、雰囲気、似ている…。

 それにルー、もしかして…ルーデウスって…え?

 困惑するディーオに

”思い違いだ。似た者達は多い”

と、過り。

 そうだな…。

と、ディーオはその考えを消した。


 ディーオは

「二人とも、ここで三カ所目がオールステッドさんの傘下に入った」


 リリアが

「じゃあ、ララ先生を探し出して…」


 ディーオが頷き

「直ぐに見つかるだろう」

と、行っている間にルーデウスから預かった通信の魔導具が振動する。

 ディーオはソレを手にして

「ルーデウスさん、こちらは、何とか…なりましたよ」


 ルーデウスが通信で

「こっちはララの居場所が分かった。シーローン王国とイーストポートの間にある陸地にいるようだ。行方不明から一週間だ。こっちで急いで助け出すから。君達はアスラ帝国へ戻って待機してくれ」


 ディーオは頷き

「分かりました。アスラ帝国に戻ります」


 ディーオ達はアスラ帝国へ帰還し、ルーデウス達オールステッドを伴った者達は、ララが捕まっている場所へ向かった。



 ーーー


 ディーオがアスラ帝国首都にあるグレイラート騎士団の宿泊所で休息を取り

「はぁ…疲れた…」


 ディーオが座るソファーにリリアが座り

「ええ…本当にとんでもないヤツね」


 ダリスとエレナは、体を洗いに宿泊所にある魔法温泉浴場へ向かっていた。


 ディーオとリリアがのんびりしていると、ドアがノックされて

「誰だ?」

と、ディーオがドアを開けるとそこにアリエルの使いがいた。


「失礼します」

と、使いの兵士がとある手紙を渡して

「これを…」


 ディーオが受け取ると、それはアスラ帝国女帝アリエルの押印が押された手紙だ。

「これは…?」


 兵士が

「ディーオ様へ」


 ディーオが頷き

「ありがとうございます」


 兵士が「では…」と去って行く。


 ディーオが手紙を開けると、そこにはアリエルの手紙が入っていて、首都の皇帝城へ来て欲しいとの事だった。

 用件は、新たに開発する新素材メタトロンの流通経路について、息子で皇太子のエドワードを交えて話したいようだ。

 そこへダリスとエレナが帰ってきた。

 手紙を読んでいるディーオにエレナが

「なんの手紙を読んでいるの?」


 ディーオが二人に見せて

「新素材メタトロンの今後について話し合いって」


 ダリスが

「アタシ達も行く?」


 ディーオは肩をすくめて

「いいさ。どうせ、こういう感じで流通させますって話だろうし…。聞いて終わりだろう。オレ一人で行くから…三人は休んでいてよ」


 それを聞いてリリアとダリスにエレナは頷きリリアが

「分かったわ。気をつけてね。夕方前だから」


 ディーオは「ああ…分かった。なるべく早くに帰ってくるよ」と出かけて行った。



 そして、入れ違いにラプターが宿泊所へ来た。

 ラプターがディーオがいない彼女達を見て

「旦那は?」

と、ディーオについて訪ねる。


 リリアが

「皇帝城に用事があるって出かけたわ」


 ラプターが頷き「そうか…じゃあ」と脇のポケットから何かが入った小袋を取り出して、近くにいるダリスに渡す。


 ダリスが中身を開けて

「これは…」

 それは四人分の指輪だった。

 黒と白の陰陽の印の宝石が埋まる指輪で、エレナが手に取って

「へぇ…きれい」


 ラプターが

「これは双極の指輪ってヤツなんだが…」


 エレナが双極の指輪を見つめて

「これ…何かの力を感じる…」


 ラプターが

「この指輪をした男女は、お互いに深く精神的にも繋がる。それこそ…魂の領域までな」


 リリアも双極の指輪を手にして

「これを…どうして私達に?」


 ラプターが微妙な顔で

「まあ、なんだ…。お前達…四人で夫婦だろう。別れるつもりなんてないだろう」


 エレナ、ダリス、リリアの三人は視線を合わせてリリアが

「ええ…まあ…」


 ラプターが

「ディーオは、その…力あるじゃんか。どこかへ遠くへ出張するかもしれんし、その時にお互いに感じ合えて寂しくないように…って思ってよ。その、昔、ちょっとコレクションしたヤツにあったから…」


 彼女達三人は瞬きをする。


 ラプターが後頭部を掻いて

「要らないなら…」


 ダリスが握り

「いいえ、貰っておく。ありがとう」


 ラプターが

「オリジナルじゃあないんだよ。オリジナルに近い模倣で、オリジナルは指にはめたら、一生取れないんだけど。コイツは…外せる。こっちの青いのが男で、赤いのが女がはめる方だ」


 ダリスの貰った双極の指輪は、赤が三つと青が一つの丁度のモノだった。


 ラプターが

「男の方は、付けた女が外さないと外れない仕様だからよ」


「ありがとう」とエレナがお礼を告げる。


 ラプターが手を上げて

「じゃあ、オレ等、ちょっと、離れるからよ」


 リリアが

「離れるって、どこに行くの?」


 ラプターが

「アスラ帝国の南、シーローン王国がある場所に何か、不気味な反応を検知してよ。それを調べてくる。ディーオによろしく言ってくれ」

と、去って行く。


 その背にエレナが

「気をつけてね」


 去る背中のラプターが手を上げて答える。




 ーーー


 ディーオは皇帝城に到着して、直ぐに女帝アリエル達がいる部屋へ通された。

「どうも、おそくなり…ん?」

 ディーオが部屋に入ると、そこには女帝アリエルとエドワードがいるは分かるが、エドワードの妻クリスティーナと、クレイオルの妻ヴィオラと、ヴィオラの父でイエロースネーク家の当主カーターがいた。


 ディーオが困惑しつつ

「あの…陛下と皇太子様と…」


 アリエルが

「ディーオ、こっちに来なさい」


「はぁ…」とディーオが面子がいるテーブルに来る。


 アリエルが

「ディーオ、クレイオルについて…何か怪しい事はありませんでしたか?」


 ディーオが

「クレイオル? あの、そちらのイエロースネーク家の」

と、ヴィオラとカーターを見る。

 思い返す。

 クレイオルとは、クリスタルヴァイドについて意見を交わした。それはエレメンタルタワーの攻略前だ。

 クリスタルヴァイドが次元、世界との狭間に発生する時空境界間生命体である可能性やら…と色々と…。

 その様子は学者のようで怪しくはなかった。

「いえ、数日前、エレメンタルタワーの攻略前に話し合った時には、何も…」


 ディーオの言葉にアリエル達が落ち込むような感じになる。

「あの…何が?」

と、ディーオが訪ねる。


 椅子に座るヴィオラが震えている。


 アリエルが

「ディーオ、クレイオルは…アスラ帝国への復讐を考えていたようです」


「はぁ?」とディーオは困惑の顔になる。


 それは、昔の事になる。

 かつて、エドワードとヴィオラは許嫁の間柄だったらしいが。

 十代後半のアスラ学園卒業の時に、ヴィオラは醜態を晒した。

 それによって、ヴィオラとエドワードの許嫁は破綻、今のルーデウスの娘のクリスティーナと結ばれる事になった。


 その後、帝国の金庫番とされたイエロースネーク家は、地位を落として…そこへクレイオルが来た。

 クレイオルは、新たに領土となった東側で様々な資源開発をした盟主であり学者でもあった。

 クレイオルは、かつてアスラ帝国が潰した小国の王子だった過去もあり、過去にあった小国の基盤を使い大きな商会を作った。

 それをイエロースネーク家にもたらした。

 それによって信用が失墜していたイエロースネーク家は復興し、そして…クレイオルとヴィオラは結ばれた。

 だが、それには裏があった。

 ヴィオラは、自分達を失態に追い込んだエドワード達を憎んでいた。

 そして、小国の王子であったクレイオルもアスラ皇家を憎んでいた。

 二人は結託して、何時かアスラ帝国をアリエル達に復讐しようと…。

 だが、ヴィオラが

「お願いです。クレイオルの、夫の復讐を止めてください」


 ディーオのあの時、感じた違和感は合っていた。

 クレイオルとヴィオラは、夫婦という感じではない。どこかの姫と騎士とは、つまり…共に目標を叶える同志だった。

 だが、誤算が生じた。

 それは、ヴィオラがクレイオルを愛してしまった。

 全ての復讐の算段が整った日に、ヴィオラがクレイオルを裏切った。

 クレイオルは復讐の為だったら死ぬつもりでいた。


 アスラ帝国の首都に仕掛けられた特注の魔法爆弾の全ての場所をアリエル達に知らせて、それを安全な内に回収させた。

 そして、クレイオルを極秘に捉えようとしたが…イエロースネーク家の屋敷からクレイオルは消えていた。


 復讐を共に誓った二人だが、クレイオルは同志だった。

 ヴィオラは、違った。

 クレイオルは聡明で優しく、そしてヴィオラの気持ちを理解してくれた。

 自分の気持ちと向き合えるようになったヴィオラは、自分の復讐の目的が、なんとも浅はかで小さい事に気づいた。

 クレイオルは違う。

 家族をアスラ帝国によって奪われた。

 本物の憎しみだった。


 そして、ヴィオラは…苦悩して全てをさらけ出して吐いた。

 そして、アリエルの前で土下座までして頼み込んだ。

 夫クレイオルの復讐を止めて欲しいと、泣いて懇願した。


 それをアリエルは見た。

 かつてのアスラ学園にいた傲慢な令嬢はいなかった。

 大切な誰かの為に地面へ額を付けて懇願する程に…愛と勇気を持つ。

 正真正銘の淑女になっていた。


 ヴィオラの裏切りの後…クレイオルは消えていた。


 そして、今…アリエル達がいる場、そこへ兵士達が厳重に保管された箱を持ってきた。

 それは何十にも魔法結界の紋章が刻まれた箱で、兵士の一人が中から何かを取りだした。


 アリエルが

「ディーオ、それに見覚えは?」


 ディーオは兵士が見せた手で握れる程のガラスケースを見て息が止まる程に驚愕する。

「こ、これは…サタンヴァルデットの…」

 その硝子状のケースには小さなミイラの手がある。

 手の平には三つの花弁のような口と、三つの花弁のような眼が備わっている。


 ディーオが怒鳴る

「早く、それを! 保管していたケースに戻せ!」

 あまりの慌てように兵士は困惑するも

「良いから! 戻せ!」

と、ディーオは怒鳴り、兵士は急いで保管していたケースへ戻す。


 ディーオのあわてふためく様子に、アリエルが

「ディーオ、アレの正体を知っているのですね…」


 ディーオが頭を抱えて

「ウソだろう! 最悪だ!」


 エドワードが

「ディーオくん。知っているなら話してくれ」


 ディーオが頭を抱えて

「最悪だ、最悪だ…。アレは、罪喰いの獣、罪滅必罰をもたらすサタンヴァルデットという化け物に変わる為のコア、肉片です」


 アリエルが

「それがクレイオルの研究室から見つかりました。これはどういう意味なのか…ディーオは分かるのですね」


 ディーオが苦渋に染まる顔で

「怪しむべきだった。明らかに時空境界間生命体の理論について詳しかった。そうだ…知っていたら詳しかったんだ…。クレイオルはこの世界とは別の何かに繋がっていた。クソ…」


 クリスティーナが

「ねぇ。ディーオくん。ちゃんと説明して」


 ディーオは深く深呼吸した後

「結論から言います。クレイオルは、この世界とは違う別世界の勢力と通じていた。それはヘオスポロスとは違う勢力です。その勢力から…おそらく技術提供を受けていた。見返りは何かは、分かりませんが…。それが、先程のサタンヴァルデットの喰手触手のコアが証明しています。おそらく、クレイオルはその喰手触手を取り込んでいるでしょう」


 アリエルが

「事態は、どれほどの問題になるのですか?」


 ディーオは暫し考え

「ホーリートライアングルのラプターさん達なら、対応ができます」


 エドワードが

「なんて事だ。彼は怪しい力の反応があるとして、南のシーローン王国周辺へ向かったぞ」


 ディーオが

「直ぐに呼び戻してください。それとソレ!」

と、喰手触手のコアが保管される厳重ケースに

「ラプターさん達以外に絶対に触れさせないようにしてくださいね」


 アリエルが

「厳重な地下保管庫へ運びなさい」


「は!」と急いで兵士達は持って行く。


 ディーオが

「ラプターさん達の船なら、直ぐに戻れるはず」


 窓の向こう側の風景が七色に変わった。

 夕暮れで、夜に向かっているのに、空が七色に明るくなって変貌する。


 ディーオはそれを見て

「ウソだろう…」

と、窓の外、首都の沿岸に見えたそれに青ざめる。


 不気味な物体が浮かんでいる。

 赤黒く結晶のような突起の翼を伸ばし、幾つもの手の形をした龍の顎門を伸ばしている全長は二百メートルと巨大だ。

 その不気味な化け物の最上部に「ハハハハハハハハ!」と取り込まれているクレイオルが狂喜して

「さあぁぁぁぁぁ! 我の復讐を遂げようぞ!」


 アスラ帝国の首都全域を巨大な力の結界が包み込んで封鎖した。

 それを発生させているのは、クレイオルと融合している結晶の化け物だ。

 その情景をアスラ帝国の首都の遠くにある山から見つめる人物がいる。

 フェイス01だ。

「さて、彼奴の最後を見届けようか」


 フェイス01が渡した結晶によって、クレイオルと融合したサタンヴァルデットが更に増大か、クレイオルを飲み込み暴走して巨大化した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る