第19話 新たな主 

 ディーオ達と、篠原 秋人にバディーガーディーが戦っている現場に閃光が飛んでくる。

 エピオン装甲装備のディーオ達と戦っているのは、ほぼバディーガーディーだけで篠原 秋人は、エレナが飛ばす魔法攻撃を防御するだけで手一杯だった。


 そのディーオにダリスとエレナの三人が、完全闘神鎧装備バディーガーディーが戦う間に一閃の光が飛んできて、ディーオ達とバディーガーディーは離れた。


 その飛んできた方向をバディーガーディーが見ると、神刀を構えていたオールステッドがいた。

 どうやら、その攻撃はオールステッドが飛ばしたモノらしい。

 オールステッドがディーオを見て

「一旦、退却する」


 ディーオ達が困惑する。


 それにオールステッドの隣にいたルーデウスが

「頼む。ここは、退いてくれ」


 ディーオ達四人は、視線を合わせてアイコンタクトすると、四人同時に煙幕妨害の火炎玉を放つ。

 一瞬にして通路が濃密な煙に包まれ

「待てーーーーー」

と、篠原 秋人が煙を払おうとするが、まるで水飴のように煙が纏わり付いて視界を塞ぐ。


 そこへバディーガーディーが近づき

「落ち着け」

と、篠原 秋人に呼びかける。


 次第に煙が消えてくると、そこには誰もいない。


 篠原 秋人がバディーガーディーに

「オレ達、ここを守れたのか?」


 バディーガーディーが多腕の一つを組み

「この塔の状態は?」


 篠原 秋人はまとっている青い闘神鎧を使って調べると

「マスターは変わっていない」


 バディーガーディーが顎をさすり

「なら、防衛できたという事だ」




 ディーオは一斉にエレメンタルタワーから脱出する。

 ディーオ達はエピオン装甲から翼を広げて飛び。

 ルーデウスは飛行用の魔導アイテム、バードウィングで魔法の翼を構築して飛行する。

 その隣を龍族の翼をはやしたオールステッドが併走する。


 ディーオがルーデウスとオールステッドに

「どうしたんですか? もう、奥に行って権限を変えたのですか?」


 ルーデウスが難しい顔をして

「ディーオくん。どうやら…君の情報とは違う事がこの世界で起こっているらしい」


 ディーオの隣で飛ぶエレナとダリスにリリアの三人が疑問の顔をする。


 ディーオが鋭い顔で

「何かあったんですね」


 オールステッドが溜息の後

「やはり、容易くはいかないという事だ」


 脱出したディーオ達は、別の空中で避難している戦艦飛空艇へ帰還する。


 そしてエレメンタルタワーの上空で苛烈な爆発の応酬をしている者達は、ディーオ達が去って行くのを見て

「ははは…やはり、退散したか…」

と、空中にいるフェイス01が告げる。

 攻撃を止めていた。


 その前に戦いを挑んだ彼女達三人も静止して、プラチナブロンドの女が

「ねぇ…もう、止めよう。こんな事に意味なんてないよ」


 青髪のおさげの娘も

「そうですよ。帰りましょう…貴方の子供達も心配しています」


 赤毛の女が剣をしまって

「私は、頭が悪いからうまく言えないでも…。もう、あの人は…アレキサンドライトは、死んだのよ」

と、顔の全てを覆う仮面を外すとそこには、二十歳の美しい赤い瞳の顔があった。

 それは、アスラ地方特有の整った顔立ちで、エリスと似ていた。


 フェイス01は同じく仮面を外す。

 そこの顔立ちは、堀が深く赤毛の女と同じアスラ地方特有の整った顔立ちに口ひげを生やす賢者のような顔である。

 それに笑みを浮かべて

「今更、過去には戻れない。前に進むだけさ」

 その笑みは、どこかルーデウスと似ていた。


 プラチナブロンドの女が仮面を外す

「そうだよ。私たちがこうなってしまった過去は変えられない。でも…未来は始められる。ここからでも今でも…」

と、告げる顔立ちはエルフの耳と顔立ちで、どことなく同じエルフのエリナリーゼと似ている。


 フェイス01は駄々っ子を見る老人のような笑みで

「お前達は、この世界を見て…希望を感じたのだな。だが、所詮…ここの事はこの世界での事、アレは…」

と、退散していくルーデウス達の戦艦飛空艇を見る。

 視線は、甲板にいて指示をするルーデウスだ。


 フェイス01は懐かしそうな顔で

「そうさな…ここは、ワシが、ワシの前世の前世がある世界で、その望むべく事が叶った夢の場所なのだろう」


 青髪のおさげの娘が仮面を外す。

「夢…なんかじゃあ、ありません。今からでも遅くありませんよ」

と、その顔立ちは14歳の娘で、一番若く整った顔立ちはロキシーの系統と同じミグルド族に近い。


 フェイス01は仮面を被り

「若いな。そうやって夢を捨てきれんのだから。なぁ…師匠」

と、告げた瞬間、背後から無数の閃光が放たれて攪乱される。


 エリスと似た赤毛の女は

「待って! 話を…」


 目の前にはフェイス01がいなかった。どこかへ逃亡したのだ。


 エリスに似た赤毛の女は

「なんで、こうなっちゃんだろう…」



 ーーー


 ディーオ達は、龍鳴山の麓の町へ戻りそこの宿屋の一室で話し合っていた。


 ディーオはそれを聞いて驚愕の顔をして

「この世界は、別の力で閉じ込められている?」


 オールステッドが頷き

「エレメンタルタワーがそう答えた」


 ディーオが暫し考え

「そんなバカな。だって、えええ…」


 そこへノックがされて「オレだ」とラプターの声がして、ルーデウスが開けるとラプターがいた。


「邪魔するぜ」とラプターが入ると、話し合っているルーデウス、オールステッド、ディーオ達四人、オールステッドの秘書のアルスの面子を見て

「なんか、悩み事か?」


 ディーオがラプターに

「なぁ…アンタは、この世界の上空に来て」


 ラプターが渋い顔で

「ああ…見たぜ。この世界はなんだ?」


 それにディーオは驚きの顔をして

「まさか…宇宙じゃあないのか?」


 ラプターが首を横に振って否定し

「ああ…閉鎖された世界の四方が見えたぜ」


 ディーオが困惑して口元を押さえていると、ルーデウスが

「なぁ…ナナホシ達の所へ行こう。そこでもっと意見を取り入れて考えよう」



 ディーオはペテルギウス・ドーラの空中城へ来る。


 銀髪で王座に座るドーラと隣にナナホシがいる中央の間、そこには、ディーオ達四人とオールステッド、ルーデウス、アレク、アルス、ラプターがいる。


 ペテルギウス・ドーラがオールステッドから説明を聞いて顎髭を摩り

「なるほど…」


 オールステッドが

「思った以上に我らの現状は、マズいようだ」


 ナナホシが端末を広げて

「でも、これで…未来の私が残した資料の意味が分かったわ。ヒトガミは倒されずに封印された」


 ルーデウスが

「つまり、ヒトガミの何らかの力でこの世界が維持されている。それが分かるまでヒトガミを倒せなかった」


 ディーオが

「加えて、ヒトガミは…フェイトは、エルザルガドのシステムバグ、力の欠陥から生まれた残滓ではなかった。エルザルガドは止まっていて…フェイトが持つ力でこの世界は…維持されている」


 ペテルギウス・ドーラが難しい顔で

「オールステッドが知った事、ララをエルザルガドの正当な継承者としても、その未知の力がある限り、ヒトガミは…殺せないか…」


 アルスがディーオに

「ねぇ…もしかして、ディーオくんが知っているこの世界の情報って、どこから来たの?」


 ディーオはそれを思い出して

「ヘオスポロスからです。ですが…まさか…」

と、最悪な結論がよぎる。

「全ては想定済み…だった?」

と、ディーオが口にした瞬間、何かを背後で感じた。

 それに怖気が走る。

 それは、笑っていた。


 唐突に、ディーオは後ろを振り向いてしまう。


 ディーオの隣にいるリリアが

「どうしたの?」


 ディーオは頭を振って

「何でも無い。気のせいだ」


 オールステッドが腕を組みただでさえ怖い顔を怖くさせ

「つまりか、ディーオがこちら側へ付く事は、予定されていた事…か」


 ディーオが渋い顔をして

 まさか…と思うも、別の声がする。

”それは、想定済みだ。それがヘオスポロスだ”

「それは…多分、想定していたでしょう。ヘオスポロスは、そういう組織ですから」


 ルーデウスが嫌そうな顔で

「じゃあ、さあ…もしかして、こうなる事も全部、そのヘオスポロスの想定済みなんじゃない? だとしたら…」


 それにアレクが

「そんな神の眼のように見通す存在に、どう戦えば…」


 沈黙が全体に訪れる。


 ディーオも考えが浮かばないが…。

”エルザルガドの正当な継承者の確保だけはして置いた方がいい”

と、ディーオの脳裏に過り

「どんな事態であれ、この世界の力を維持するエルザルガドの正当な継承者を保護して置いた方が良いには決まっています」


 それにオールステッドが

「そうだな。急いでララを保護するとしよう」


 ルーデウスが

「今、全力でララの所在を探していますので…直ぐに見つかるかと…」


 そこへグレイラート騎士団の使いが来て「ルーデウス様」と耳打ちする。

「え?」

と、ルーデウスが驚きの声を放つ。


 オールステッドが

「どうした?」


 ルーデウスが青ざめた顔で

「キシリカの魔眼の力を使ってララを探してもらっていましたが…見えないそうです」


 アルスが

「まさか! やられて…」


 ルーデウスが

「そうだとしても、死体が残るから…見つけられるけど、存在そのモノが見えないって」


 オールステッドが

「そんなバカな…」


 ディーオが額を押さえて考え

「この世界の力以外の力で隠されている…とか?」


 ラプターが「ありえるぜ」と答えた。


 全員がラプターへ視線を集中させ、ラプターが

「オレ達がこの世界へ来た時に、オレ達を見張ったヤツがいた。まあ、この世界にくる交換条件としてフェイトから、バディーガーディーってヤツの解放を頼まれたし、それに…」


 ディーオが

「それに?」


 ラプターが

「力の一部を譲渡しろって言われて渡した」


 オールステッドが

「どんな力だ?」


 ラプターは平然と

「この世界でいうなら魔力か、それを集積させて自在に加工する力だ」


 ディーオはそれを聞いて嫌な予感がする。

 これは…早急な解決が必要だ。

「オールステッド様、エレメンタルタワーの権限は?」


 オールステッドが

「第二権限までの登録が可能なようだ」


 ディーオが

「なら、他のエレメンタルタワーもオールステッド様の登録を済ませましょう」


 ルーデウスが

「でも、ララは?」


 ディーオが

「ララ先生を見つける為にも必要です。最低でも三つの権限を得れば、ララ先生を助ける為に正当な継承者を守るとして、正確な位置を探知できるはず」


 グレイラート騎士団の使いが

「あの、キシリカ様のお話では、一緒にいた聖獣も誘拐されているようなので…」


 ルーデウスが

「レオが守ってくれている…と」


 オールステッドが

「ルーデウス、それが最も早い手段なら…」


 ルーデウスは頷き

「分かりました。直ぐにやりましょう」


 ディーオが

「近場の二つ、鬼ヶ島の所と、迷宮都市ラパンの西山脈のエレメンタルタワーから権限を取得して」


 オールステッドが頷き

「善は急げだな」





 ララとレオは、とある場所にいた。

「参ったです」


 そこは、どこへ進んでも同じ場所に戻ってくる不思議な世界だ。

 王竜王国からイーストポートに向かっていた道中だった。

 異変に気づいたのは空のお陰だ。

 空が七色の飴のように変化して、雷鳴の次に気づいたらこの場にある木を支点として、どんな方向へ行こうとも、この木へ戻って来てしまう。


 ララは隣にいるレオを撫でる。

「疲れました」

と、魔法で水を生じさせて飲む。

 魔法は使える。食料は、木が生やす実がある。

 まあ、他にもリュックや聖獣レオの背中に背負わせた保存食もある。

 余裕で半月はいけるだろう。

 

 ララが

「何かの魔法災害にあったんでしょうか?」

と、不安を口にするもレオがララをなめて元気づける。

「そうですね。とにかく、何とかする為に頑張りましょう」



 そのララが閉じ込められた閉鎖空間を見下ろす者がいた。

 赤き鎧の装甲を全身に纏う者。

 その背にフェイト、ヒトガミが来て

「いやあああ、助かったよ」


 その赤き鎧の装甲の人物がフェイトを見て

「これで、時間は稼げるか…」


 フェイトが

「でも、やっぱり半年は待てないなぁ…」


 フンと赤き鎧の装甲の人物は嘆息して

「分かった。なら、例のモノを使って実験データを得ればいい」


 フェイトが

「ほんと、助かるよ。エピオン」


 そう、赤き鎧の装甲の者はエピオンだった。

 この世界の外側にいるエピオン。

 ヒトガミがいる領域にいる。


 エピオンは別の方へ空間の視点を合わせる。

 それはディーオだ。

 皆と話し合うディーオにエピオンがフッと笑み

「順調に育ってくれたよ」


 その隣にフェイトが来て

「よく、バレないで動かせたようね。この複製(ディーオ)を」


 ディーオ、エピオンの複製と呼んだそれに、エピオンは

「まあ、自分の人格を移植して作ったからな。矛盾を起こす非接合は、こちらで操作して…なんとか矛盾を起こさせないようにはしている」


 フェイトが

「君、ぼくよりエグいんじゃない?」


 エピオンがディーオを見つめながら

「全ては任務の為だ」


 フェイトが「ふ…ん」とつぶやき

「じゃあ、僕は、彼を使わせて貰うね」

と、呟いて空間から見たそこに、アスラ帝国にいるクレイオルがいた。


 


 ラノアにあるパウロの墓標の前にフェイス01が立っていた。

 フェイス01は仮面を外して

「父さん。この世界では…ちゃんと墓を作ってあげられたのに…」


 そこへ一人の青年、クレイオルが現れる。


 クレイオルがお辞儀して

「どうも…」


 フェイス01は仮面を被り

「ヒトガミのヤツに言われて来たのだろう」


 クレイオルは頷き

「では、人神様のお導きの通りに」


 フェイス01は、懐からとある握れるサイズのガラスの筒型ケースを取り出して

「ほれ…これじゃろう」

と、クレイオルに向ける。


 その片手に握られているのは、赤い結晶が入った液体のケースだ。


 クレイオルがそれを両手で受け取り

「ありがとうございます」


 フェイス01が渋い顔で

「良いのか? 本当に…」


 クレイオルは眉間を寄せて

「ええ…私の本願、アスラ帝国を滅ぼせれば良いのです」


 フェイス01がフンと息を荒げて

「しかし、難儀じゃなぁ…。お主と計画を共にするといった。女ヴィオラだったか? それに裏切られるなぞ…」


 クレイオルは悲しい顔で

「仕方ありません。計画を共にするとして婚姻した程度なのですから…」


 フェイス01が

「そのヴィオラ嬢が過去に、アスラ家の子息との婚姻破棄と、数々の失態のせいでイエロースネーク家は没落した。それをお主が様々な希少な魔導関係の鉱山を提供する事で復興させた。そして、その証としてそこの問題あった娘を嫁にした」

と、告げた次に空を見上げて

「筋書きとしては有り触れているが…誰しもが納得する理由だ」


 クレイオルは悲しい顔で

「私は、かつてアスラ帝国によって滅ぼされた小国の子息です。その国は今や…完全にアスラ帝国の一部となっています。私が憶えている限りでも…父は、良き統治者としては言えないが…それでも、私にとっては何者にも代えがたい家族だった」


 フェイス01は

「確か、潰された嫌疑は…ボレアス領の領主息子夫妻の誘拐だったな」


 クレイオルが

「あれは、突然に現れたのです。それを…」


 フェイス01は

「クリスタルヴァイドの発生によって多くの人々がフィアット領から何処かへ転移した事件があったな」


 クレイオルが空を見上げて涙して

「それによって、アスラ帝国は…自国民を取り戻すとして各地へ…。クリスタルヴァイドの発生によって東西を隔てていた山脈も消えて…」


 フェイス01が背を向けて

「まあいい。お主がそれに命をかけるなら…別に構わん。バディーガーディーの時の監視は助かったぞ」


 クレイオルが

「あの時は、助かりましたよ。アナタがくれたこれが無ければ…」

と、クレイオルの背中から手の形をした獣が伸びる。


 フェイス01が去りながら

「その結晶は、更にその獣、サタンヴァルデットの力を増幅する。そうなったら…生きては戻れない。さらばだ」


 クレイオルは去って行くフェイス01に頭を下げた。

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