第17話 結界の作戦
王竜島とされる王竜が管理する島。
その隣の海に工業生産戦艦アクエリアスが浮かび、王竜島と橋を渡している。
アクエリアスの艦内に入るディーオに
「予定通りの到着だな」
と、声をかける金髪の男性がいた。
ディーオが男性に近づき
「どうですか? ドレイコさん…施設に関しては…」
ドレイコが頷き
「脳内ナノマシン学習システム…とかいうのか? 便利だ。大体の事は分かった」
ディーオは安堵して
「よかった。王竜から人型への変異をオールステッドさんから授けられて、なんかそれで色々と面倒になっていたら…大変ですから」
ドレイコ、そう…ディーオが助けた王竜が、オールステッドから秘術を授けられて人型に変化しているのだ。
元から知性が高いので、オールステッドも教えるに苦労しなかったらしい。
ドレイコが
「ディーオには感謝している。妻達や子供達の安住の地を用意してくれたのだから…。これからも忠誠を尽くすと約束しよう」
ディーオが
「良いですよ。これからもこっちがお世話になるかもしれませんねので」
ドレイコが
「さっそくだが、今、リーブラスを呼び寄せている。その呼び寄せている間に、リーブラスとアクエリアスの探査力を連結させて、人界にあるエレメンタルタワーを探している」
ディーオが
「で、いくつ発見されました?」
ドレイコが
「まず、三つだ。魔大陸の東南にある青龍山脈西部、海に面している場所。イーストポートとウェストポートの間の海、そして…迷宮都市ラパンの西にある山脈だ」
ディーオが頷きつつ
「やはり、六芒星の形ですね」
ドレイコが
「予想できる位置の検討は?」
ディーオが鋭い顔で
「候補として、魔大陸の北部にある巨大な湖、ビヘイリル王国の鬼ヶ島、龍鳴山」
ドレイコが頷き
「何かしら、地形に特徴がある所にエレメンタルタワーがあるのだな」
ディーオが
「ええ…世界のシステム、環境をコントロールシステムですから。必然的にそういう位置になりますよ」
ドレイコが
「すんなりと攻略が進むと思うか?」
ディーオが怪しむ笑みで
「無理でしょう。フェイト…ヒトガミが何らかの妨害をしてくるのは目に見えている。それを見越して準備をしましょう」
ドレイコが頷き
「グレイラート騎士団の面子にも呼びかけている。今日中には全員が揃うだろう」
ディーオが
「それじゃあ、頼れるメンバーが揃ったら、まずは、一つを攻略しましょう」
ドレイコが
「移動には時間が掛かるな」
ディーオが肩をすくめて
「問題ありません。ホーリートライアングルの船を使わせてもらいますよ。あれには位相転移装置がありますから」
ドレイコが微妙な顔で
「なんだ? その…位相転移装置とは?」
ディーオがんん…と困りつつ
「まあ、空間をちょっといじって瞬間移動する装置みたいなもんですよ。すぐに飛びたい場所へ移動できる便利アイテムですから」
ドレイコが
「ほう…さすが、進んだ世界は違うな」
ディーオが頷き
「ええ…とくに、ホーリートライアングルは空間をコントロールする技術に関して飛び抜けていますから」
ーーー
そこは、世界の夢の境
「頼むよ…お願いだ」
と、フェイトことヒトガミが誰かに拝み頼んでいた。
その人物は、仮面を被った老人だ。
老人は仮面の下にある口を笑みに細め
「全く、こっちに来てみれば…お前は…」
人型の霧のように曖昧なフェイトは
「僕だって努力したんだよ。でも…連中の方が強すぎて…それに、僕が干渉できるタイミングも色々とあるし…」
仮面の老人、フルフェイス01が呆れ気味に
「久しぶりに会えて懐かしさに浸れると思ったのに、相変わらず人使いが荒いな、ストレイト、いや…ジャギアか?」
フェイトは
「今は、ヒトガミだよ」
フルフェイス01は、溜息を漏らして
「分かった。仕込んでやるよ。だが、期待はするなよ」
フェイトが
「ありがとう! とにかく、時間さえ稼げば…何とかなるから」
フルフェイス01が
「どのくらい時間を稼いで欲しい?」
フェイトが
「半年くらい…」
フルフェイス01が顎をさすり
「本当にそれで生じるのか? 魔神ラプラスが…」
フェイトが頷き
「本来なら、まだまだ先だけど。見たんだよ。魔神ラプラスが発生する。それを…」
フルフェイス01が考えるように
「まさか…我らが…いや、神の眼の影響か?」
フェイトが
「そんなの、どうでも良いよ。とにかく、僕はそれで無敵の力を手に入れられるんだ。今度こそ、失敗なんてしないさ」
フルフェイス01が頷き
「分かったよ。何とかやってみるさ」
フェイトが
「ありがとう! 持つべきは、別世界の友人だね」
フルフェイス01が背を向けて
「なぁ…ジャギア…ワシは、昔…そう、別世界から転生した者なんじゃよ。それは生まれた世界とは別の世界で、そこでワシは、ヒトガミによって家族を失った。いや、策略に嵌められて大切な妻の一人を亡くし、そして家族を壊してしまった。その前世でワシは…お主と同じヒトガミを呪って、過去に戻り、その悲劇の前の若いワシに危機を伝え、日記を渡した」
フェイトが
「え、それ…初耳なんだけど」
フルフェイス01が
「ああ…言わなかったさ」
フェイトが
「それを言うって事は、つまり…僕を…」
フルフェイス01がイタズラな笑みで
「それは前世での話、今は…恨みはないさ。それにお前がどうして、そういう事をやったのか…理由も知っているしな」
フェイトが慎重に
「まさか…裏切る…なんて」
フルフェイス01が
「裏切るなんてしなさいさ。ワシにはやるべき事がある。その為にもお前さんには存在してもらわんと困るからな。まあ、とにかく…やる事はやるさ」
フェイトが
「その…なんだ。僕は君を裏切ってなんていないさ。この世界の君の彼もね」
フルフェイス01が杖を具現化させ
「この世界のワシは、ワシじゃあない。気にするな」
と、告げて転移して消えた。
フェイトが
「どうしよう…心配だから…」
ーーー
ディーオがいる王竜島にリーブラスが到着した。
5つの菱形合体して構築されておる戦術兵器戦艦リーブラス。
アクエリアスは工業生産に特化して、リーブラスは文字通り攻撃戦術に特化している。
この二つがあってお互いが機能する。
アクエリアスは、リーブラスとドッキングすると、王竜島の隣の海の上に浮かぶ。
不思議な形だ。
一言で言うなら、花と言った方が正しい。
リーブラスの5つの菱形が重なった船体に、アクエリアスから先端が伸びて合体している。
海面に浮かぶ花のようだ。
だが、その規模は、遙か天空を越えている程に高い。
実際、二つの合体によって高さは二十キロを超えている。
天高い機械の花がそこで鎮座している迫力な光景だ。
早速、ディーオとドレイコは、リーブラスの中央へエレベーターを使って登り、到着。
人界にあるエレメンタルタワーを探し出す。
反応は…ディーオが
「やっぱり、青龍山脈西部、迷宮都市ラパンの西にある山脈、ウェストポートとサウスポートとの間、龍鳴山、魔大陸北部にある巨大な湖、そしてビリヘイル王国の鬼ヶ島か…」
ドレイコが
「どこから攻略するのが良いか…」
ディーオが
「なるべく近い所から行きましょう。迷宮都市ラパンの西にある山脈と、ビリヘイル王国の鬼ヶ島、龍鳴山の三つから」
警報がディーオ達がいる中央に鳴り響く。
「どうしたんだ?」
と、ディーオが端末を操作すると、巨大画面、遙か上空から目的に六つを捉えた映像に異変が生じる。
エレメンタルタワーがあるであろう地域全体を巨大な積乱雲が包み込む。
それは、明らかに巨大な結界だった。
ディーオがリーブラスの探査システムを振る活用して
「どういう事だ? 何が起こっている?」
ドレイコが
「もしや…妨害では?」
ディーオがドレイコを見て
「そんなバカな…あんな規模の現象を起こせるなんて…無理だ」
ドレイコが厳しい顔で
「ヒトガミの使徒には、そういう輩がいるのかもしれん」
ディーオが額を抱えて
「直ぐにルーデウスさん達に連絡を…」
ーーー
リーブラスの施設内にルーデウス達が集まっている。
オールステッドを筆頭に、ルーデウス、オールステッドの秘書でルーデウスの息子のアルス、そしてアスラ帝国からはエドワードがアリエル皇帝の名代として
ルーデウスが厳しい顔で
「参ったなぁ…巨大な力で構築された結界だぞ」
オールステッドが
「まさか…これほどの使い手がまだ、この世界に居ようとは…」
ディーオが
「どうしますか? 結界を破壊して…」
六つのエレメンタルタワーを封印する巨大な積乱雲の結界を凝視してオールステッドが
「多くの術士を導入して、穴を開けるか…」
そこへホーリートライアングルのラプターが来て
「俺らの力を借るか?」
ルーデウスが
「出来るのかい?」
ホーリートライアングルのラプターが頷き
「できるが、その際にこの世界に被害を広げない対策が必要だ。この結界を消し飛ばす為に、その消し飛ばす力を広げない為の結界が必要だ」
アルスが
「どんな方法なんですか?」
ラプターが
「俺らエクスデウスは、世界を作り替える力がある。それを使って結界を破壊するだけだ」
ディーオが頭を抱えて
「強大な力を持つ爆弾を、更に強大な力を持つ爆弾で消し飛ばすようなモノだ」
オールステッドが
「ディーオ、詳しく説明しろ」
ディーオが困り顔で
「ホーリートライアングルのエクスデウスは、世界を創造する力があります」
ルーデウスが驚き顔で
「いや、世界を創造する力ってそんなバカな」
ディーオが首を横に振り
「文字通り、世界を創造する力、創造主に匹敵する力があります。それは自分の世界を構築する力であり、その発動に際して、自分がいる場所の世界を自分の世界に再構築します。世界創造の力は、いわば、世界改変の力でもある」
ラプターが
「この世界の次元階位じゃあ、オレが力を発動した瞬間、この世界を飲み込んで作り替えてしまう。それを防ぐ為に、それを封印する結界が必要って事だ」
ルーデウス達は黙ってしまう。
レベルが…自分達の考えられる世界が追いつかない。
ルーデウスが額を呆れて掻き
「それってチートってヤツだよね」
アルスが
「父さん、チートって何です?」
ルーデウスが微妙な顔で
「無敵って事だよ」
ディーオが首を横に振り
「この力が決して無敵ではありませんよ。これに対応できるレベルは幾らでもいますから」
オールステッドが
「ディーオ、お前は…そのなんだ。エクスデウスという者と戦った事があるのか?」
ディーオは微妙な顔で
「彼ではありませんが…。数人がかりで」
ラプターが笑み
「確か、パンテーラあたりか?」
ディーオが嫌そうな顔で
「その一人に対して多くのヘオスポロスの人員を投入し、時空一つが消し飛ぶ寸前になりましたけどね」
ルーデウスは頭を抱える。
もう、話している世界の次元が違いすぎる。だが
「ともかく、協力してくれるなら…頼ろうかなぁ…」
オールステッドが
「それなりに協力するのだから、報酬は…」
ラプターが
「なぁ…に、これもオレ達がここで活動するのをスムーズにする為の投資さ」
ーーー
ディーオ達は、ホーリートライアングルの時空戦艦アセウスの瞬間移動装置を使って最初のエレメンタルタワー攻略へ向かう。
無論、近場として龍鳴山へ来た。
普段なら数千メートル級の頂である龍鳴山が下から上まで巨大な積乱雲の結界に包まれて入れない。
ちなみに、この龍鳴山には人界で最も深いダンジョンがあるが…そこは外れていた。
ディーオ達が龍鳴山へ到着すると、麓の町は大騒ぎだった。
町を進むディーオの耳に、龍鳴山を覆った弾く雲海に困っている冒険者達の声が聞こえた。
龍鳴山の麓町で宿を取ったディーオ達一行。
そこでテーブルを囲むオールステッドとアルス、ルーデウスにエリス、ディーオとリリアにダリスとエレナ、そして…目の前には、アルスの妻のアイシャがいた。
アイシャがディーオ達に挨拶をする。
「初めまして、アルスの妻でグレイラート騎士団の魔法分析をしていますアイシャ・グレラートです」
ディーオが頭を下げ
「初めまして。アルスさんの嫁さんで」
アイシャは微笑み
「ええ…夫がお世話になっています」
オールステッドが
「アイシャは、様々な魔法研究の才能があってな。ペテルギウスの元へ修行に行かせて、今ではグレイラート騎士団で一番の魔法顧問だ」
アイシャが微笑み
「褒めすぎですよ。兄さんには、到底、かなわないですよ」
ディーオが
「兄さん?」
ルーデウスが
「オレの妹なんだよ」
ディーオが困惑気味に
「え? ルーデウスさんの妹さんと、ルーデウスさんのアルスさんが…」
前世の世界の倫理ではアウトかもしれないが、ここは違う世界。
自分の時もエレナと結ばれたので、そういうのは違うんだろう。
気にしないで。
「ああ…そうですか。で…」
アイシャが
「ここも合わせて、残り五カ所にも強力な魔道士を配備して結界を構築します。作戦は聞いていますが…兄さん」
ルーデウスが面倒な感じで頭を掻き
「詳しい概要はディーオくんから聞いてくれ」
ディーオが
「この作戦で問題ありません」
結界を消す作戦はこうだ。
六カ所全部に結界を破壊する被害を広げない結界を構築、そこへラプターがエクスデウスの力を放ち、同時に六カ所の結界を破壊、そして、同時にエレメンタルタワーの攻略を開始する。
だが、それには、まず…オールステッドがどこかのエレメンタルタワーを攻略して、一つを支配する事。
一つを落とせば、六つのエレメンタルタワーは連結しているので、その手中にした一つから色々と操作ができる。
アイシャが首を傾げて
「なんか…凄い作戦になっちゃっているわねぇ…」
ディーオが
「そんなに困る事もないでしょう。こちらにはルーデウスさんとオールステッド様もいるので…」
まあ、一番の妨害であったヘオスポロスが力を貸さないのだから、安心ではある。
アイシャが
「まあ、良いわ。明日までには準備が終わるから、兄さん達はエレメンタルタワーの攻略の為に英気を養って置いてね」
町へ繰り出すディーオ達四人、それにエリナリーゼがいた。
エリナリーゼが
「あっちのお店においしい物があるわよ」
と、案内してくれる。
ディーオが
「どうしてエリナリーゼさんがここに?」
エリナリーゼは感慨深い顔で結界に包まれる龍鳴山を見上げ
「だって、ここは…わたくしの大切な思い出の一つですものね。なんとしても、取り返したいわ」
エリナリーゼは、ディーオ達がアクエリアスを回収した時に、封印された記憶と本来の機能を復活させた。
それは、巨大な魔力の攻撃力だった。
そして、エリナリーゼの人格を持ちつつ、改造される前の記憶も復元された時に泣いていた。夫のクライブにも様々に話して…。
エリナリーゼにあの淫乱な発作は起こらない。
そして、本来のある強大な魔力の攻撃力を持って、協力をしてくれる。
ディーオと共にいるダリスが
「エリナリーゼさん。どんな記憶だったんですか?」
エリナリーゼが微笑み
「そうね。私にとって大切な大切な家族の記憶でしたわ」
と、次に遠くを見て
「ご主人様…元気かしら…」
ディーオ達四人は、どことなく遠くな感じのエリナリーゼを見て、色々とあるんだなぁ…と。
エリナリーゼが
「さあ、明日の為においしい物をいっぱい食べて元気になりましょう」
エリナリーゼの案内で、お店に入るディーオ達。
宿屋の部屋では、ルーデウスとオールステッドが話していた。
オールステッドが
「エリナリーゼは、ラプラスが改造を施した魔力結晶を生み出す装置だった」
ルーデウスが
「そうですか…色々とラプラスはやっていたんですね」
オールステッドが
「かつて、ラプラスが魔神ラプラスと技神ラプラスに分かれた原因もヒトガミがやった事だ。ヒトガミに踊らされた闘神とバディーガーディー、そして…ある男の作った術式で、ラプラスは分断された」
ルーデウスが
「それが魔神ラプラス…」
オールステッドが頷き
「魔神ラプラスは、いわば、魔力だけの生命体。ラプラス因子とされるラプラスの持つ強大な魔力因子をその身に取り込んだ術式を作った男は、その憎悪と共に世界を、人界を蹂躙した」
ルーデウスが
「そして、敗れて…」
オールステッドが頷き
「その憎しみを含んだラプラスの強大な魔力の因子を、この人界にばら撒いて、それが適正する肉体の主へ集まるようにして復活する」
ルーデウスが
「それが魔神ラプラスの復活なんですね。だったら、それを技神ラプラスに戻すのは…」
オールステッドが首を横に振り
「幾度かのループの時に試したが…無理だった。恐ろしい事に、術者の男は、ラプラス因子の中に世界中の憎しみを取り込む機能を持たせていたらしく、それによって…完全復活したラプラスを乗っ取り…」
ルーデウスが頷き
「なるほど、バットエンドですか…」
オールステッドは
「だからこそ、技神ラプラスは放置している。その方が世界中に技術を伝播させて有意義だったからな」
ルーデウスが
「でも、今回はディーオくんみたいな反則がいますから…」
オールステッドがふっと笑み
「やってもいいが。ただし、ヒトガミから勝利した後でな」
ルーデウスは頷き
「ですね」
こうして、着々と攻略が進んでいくが…。
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