第13話 ターニングポイント

 ディーオ達四人を乗せた飛空艇テセウスがフィアット領へ向かう。

 旅の最終地点へ向かう。

 航路としては、一日もあれば十分だ。

 この旅が終われば、直ぐにミルボッツ領へ帰還して、そこでは四人の挙式と家が完成している。

 四人の生活が始まり数ヶ月後には、グレイラート騎士団の編成した飛空艇の艦隊で北にあるであろう探査物資の捜索が始まる。


 まあ、問題はない。

 一ヶ月程度で発見して、最初にアクエリアスかリーブラスを回収。

 それをアスラ帝国の帝都アルスの沿岸にある王竜島に接岸。

 王竜達と共に、アスラ帝国を拠点としてこの世界にある六つの世界維持の神殿を発見しつつ、残りの探査物資を回収。

 六つの神殿を繋いで、この世界の中心エルガルザドへ向かい、制圧しつつ人神を倒して終わり。

 確実に一年以内に達成できるだろう。

 人神の妨害が…どの程度あるか…。

 それだけが問題だが…。グレイラート騎士団のネットワークは凄まじい。

 なんとなるのは目に見えている。


 ヒトガミ(人神)の妨害は、問題ない。

 だが…ヘオスポロスからの…。

 そっちの方が問題だ。

 ヘオスポロスの侵攻は目に見えない。巧妙に仕組まれる。

 同じヘオスポロスの兵士だったディーオだからこそ、分かる。


 とにかく、そのヘオスポロスの侵攻を早く潰す事が…。


 そう、ディーオは思いつつフィアット領へ帆を進める。


 風を受けて進むテセウスの操舵を握るディーオにリリアが来て

「ディーオ」

と、呼びかける。


 ディーオは操舵を固定させ

「どうした?」


 リリアがディーオの後ろに来て

「もう、この旅も終わりだね」


 ディーオが頷き

「ああ…そうだな」


 リリアが遠くを見て

「これの旅が終わって、後はミルボッツへ帰ればアタシ達の生活が始まるよね」


 ディーオが心配げに

「もしかして、何か…不安な事でもあるのか?」


 リリアは首を横に振って

「んん…。ただ…もう少し四人で旅がしたかったなぁ…って」


 ディーオはホホを掻く。

 リリアの気持ちが分かる。

 この旅が終われば、確実にディーオはグレイラート騎士団に駆り出されて、各地へ飛んでいくだろう。

 無論、必ず帰ってはくる。

 だが、それはディーオだけの旅であって、四人が一緒にの旅ではない。

 もしかしたら…四人で過ごすのも、これで終わりかもしれない。

 四人が結ばれて、子供が出来て、そうなれば…こうして四人だけの時間は無くなるだろう。

 それは、それで幸せだが…。


 ディーオが

「終わったら…ちょっとだけ、四人で一週間くらい気楽に旅をしよう」


 リリアが微笑み

「うん。そうしようか…」


 もう少しでフィアットの城塞都市が見えてくる。

 かつて、フィアットの城塞都市は、クリスタルヴァイドの襲撃によって大きく損壊したが、グレイラート騎士団の誕生と設備拡大の為に、大きくなり、その様子は一種の攻撃要塞都市のようになっていた。

 市街は、三重もの頑強な壁に囲まれ、その中心にはバベルの塔の如き多重の要塞城がある。

 更に、城下町から近い場所に空中でも停泊可能な飛空艇港があり、そこに多数の飛空艇達が停泊している。

 後少しで、そこの飛空艇達の港に到着する。



 ーーー

 一方、フィアットの城塞都市にある中心要塞城で待ち構えるルーデウス達が着実に近づくディーオ達のテセウスを捉えていた。


 ルーデウスがテセウスを額に手を当てて見詰め

「おお…予定通りだな」


 ルーデウスの隣には、ナナホシがいて

「あの子達、ちゃんと来てくれたわね」


 ルーデウスが

「いや、普通に来るだろう。この後…ミルボッツ領へ戻って四人で挙式なんだから」


 ナナホシが

「いや、だってまだ…15だよね。アタシだったら、そんな早くに結婚なんて考えないわ」


 ルーデウスが肩をすくめて

「そうだったら、16でシルフィーと結婚したオレは、どうなんだ?」


 ナナホシが微妙な顔をして

「それはそうだけど…」


 ルーデウスが笑み

「大丈夫だよ。こっちは日本みたいに個人で何とかしろ! なんて自己責任の考えは強くないんだから。苦しいならみんなで助け合えばいいさ。それに…ディーオは、オレなんかの時は違ってそれなりに能力も元から高いんだ。心配するだけ無駄さ」


 ナナホシが呆れつつ

「あんまり順調だと、後でとんでもない落とし穴があるから…」


 ルーデウスが頭を振って呆れ

「どこにそんなフラグがあるんだよ。大丈夫だって」


 ナナホシが

「杞憂なら良いんだけどね」



 ーーー


 ディーオ達が乗ったテセウスが後少しの所まで来た。


 ディーオがテセウスの舵を握り、その甲板にリリア、ダリス、エレナの三人もいる。

 エレナが目的地を指差して

「ディーオ、もう少しだね」


 ダリスが感慨深い顔で

「もう、終わりなんだ」


 エレナがダリスに

「どうしたの?」


 ダリスが寂しい顔で

「みんなと家族になるのに不満は無いけど…。でも、もう少し…四人で旅を続けたかったなぁ…」


 エレナも同じ寂しい顔で

「そうだね。もう少し…アタシ達だけで続けたかったなぁ…」


 それを来てディーオとリリアは笑み、ディーオが

「なぁ…この旅が終わったら帰りを長く、一週間くらいにしてもらって、少しだけ四人の旅を続けないか?」


 エレナがそれを聞いて「賛成!」と手を上げる。


 ダリスがリリアを見て「リリアは?」


 リリアは頷き

「アタシもそう思っていたわ」


 ダリスとリリアも手を上げて賛同した。


 ディーオが嬉しげに

「よし! それじゃあ…少しだけ旅の延長を頼むか!」

と、意気揚々と舵取りをした次に、エピオンのシステムがとある波長を探知した。


 それはディーオからエピオンに繋がる三人、リリアとダリスにエレナにも伝わる。


 リリアが

「何? この感覚?」


 ディーオが青ざめ

「おい、ちょっと待て! 時空震動だと!」

と、告げた次に、フィアットの城塞都市の隣に目のような裂け目が出現して、その中心に瞳孔のような渦巻きが発生する。


 その渦巻きの引力にテセウスが引っ張られる。


「マズい!」とディーオは、引力から逃げようと舵を切るも、遅かった。


 テセウスを飲み込もうとする目のような裂け目に引き寄せられる。

 ディーオは舵取りを固定させ、両手にエピオンクローの楯を装備させた後、クローでリリアとダリスにエレナの三人を引き寄せて、自分から離れないようにクローの鎧で縛った。


 急速に引っ張られるテセウス。

 それにエレナが

「何が起こっているの!」


 ディーオが

「時空の裂け目に」

と、叫んだ時には、裂け目に飲み込まれていた。


 無論、それを助けようとルーデウス達が大型の飛空艦艇を出撃させたが…遅かった。


 ルーデウスが青ざめて

「まさか…そんな…」


 飛空艦艇の甲板で飲み込まれたそれを見たルーデウスの隣にエリスが来て

「まさか…私達の時と同じ…裂け目に飲み込まれるなんて…」


 裂け目は、とある存在を放出させながら閉じてしまった。

 それは無数の結晶である。

 クリスタルヴァイドの塊だ。


 嘗て根絶させた筈のクリスタルヴァイドが出現した。



 ーーー


 ディーオ達は、裂け目に飲み込まれてしまい、その中はデタラメに引力が作用する嵐だった。

 それをディーオは、テセウスに付いている足からエピオンの力を伝達させ、テセウスを深紅の鎧戦艦に形状変化させた。

 その鎧戦艦の力に守られて時空の裂け目の内部を航行する。


 稲妻がデタラメに飛び交う世界で、ディーオは見た。

 時空の裂け目の内部の最奥、巨大な赤い結晶で構築された昆虫のような怪物を。

 大きさとして二百メートル、タガメのような形状で、胸部に赤い髪をした少女がクリスタルの中に閉じ込められている。


 ディーオは青くなり

「あれは…まさか…」

と、告げた頃に、何処かに出る時空の裂け目から元の世界へ放出された。


 青空の中、下は砂漠地帯。

 飛び出された慣性力が凄まじいので、鎧戦艦の力で逆ベクトルの慣性力を発生させて中和しつつ、砂漠に着陸した。


 勢いをある程度、殺せたのと鎧戦艦としていた強度で、テセウスの船体は無事だった。


 ディーオは安堵すると、ディーオの背中に縛り付けているリリアとダリスにエレナが

「ディーオ!」

と、三人同時に叫ぶ。

 その目の前に、大地のドラゴン、アークドラゴンが現れてテセウスを襲おうとした。


 ディーオは

「一難去ってまた一難か!」

と、四人を縛るエピオンクローを解除した瞬間、ディーオを襲おうとしたアークドラゴンの首が飛んで倒された。

 倒したのは

「お主等…無事かい?」

 白い外套に白い髭を蓄えたガッチリした体型の老人だった。


 老人は槍の一撃でアークドラゴンを倒した。


 老人は槍に付いたアークドラゴンの血を払って

「空の裂け目から突然、出て来て驚いたが…無事そうで何よりじゃな」


 ディーオが老人に近づき

「あの…助けて頂いてありがとうございます。それで…ここは…?」


 老人が微笑み

「ココは、魔族が住んでいる魔大陸じゃよ」


 四人は無言で、ええええええ!と驚く。

 フィアットの城塞都市とから遙か彼方まで飛ばされたのだ。


 老人が困惑の顔をしているディーオ達に苦笑して

「ああいう、裂け目から出て来たって事は…相当な遠方から飛ばされて来たんじゃろう。詳しい場所の説明をするから、ワシの船に来んか?」

と、槍でテセウスの隣の岩に縛り付けている鋼の小型飛空艇を示す。


「は、はい…」

と、ディーオは頷き説明を受ける事にした。



 ーーー

 

 ご老体の小型飛空艇にお呼ばれしたディーオ達、その飛空艇の甲板でご老体が地図を広げて

「ええ…この地図でいうなら…現在、位置はここかのうぉ…」


 ディーオ達は「えええ…」と押し黙るような声を漏らす。

 魔大陸とされる大陸の東の端だ。

 そこまで人族のいる場所の大陸まで…相当な距離がある。


 ディーオが

「あ、でも…こちら側の反対を行けば」

と、現在位置から東へ向かうルートを示す。

 確かに、球体という世界の価値観でなら…近いだろう。


 ご老体は笑み

「そっちは、滅んだ魔族の世界がある。この世界は6つの世界が合体した六面の世界じゃ。お主が考えるルートを通ると、ここの人族の世界と同じ広さの世界達、滅んだ。魔族の世界、龍族の世界、獣人族の世界を通る。大冒険になるぞ」


 ディーオは項垂れる。

 そうだった…。


 ご老体が

「もし、お主等の故郷は…」


 リリアが「ここです」と地図にあるミルボッツ領を示す。


 ご老体が

「安全に時間を掛けられるなら、南の人がいるルートを通るか…。最短を狙うなら翼人族がいる天大陸を通るか…」


 ダリスが

「あの…この辺に、グレイラート騎士団に関する何とか…ありますか?」


 ご老体が記憶を思い出して

「クラスマの町に行けば…あるかもしれんぞ。そこの魔王はグレイラート騎士団と懇意らしいからの」


 ディーオ、リリア、ダリス、エレナの四人は視線を合わせて頷く。

 そこへ向かうしかない…と。


 ご老体が意気投合する四人を見て

「お主等…グレイラート騎士団の関係者かい?」


 ディーオが頷き

「はい、全員で訓練旅行中に…ちょっと…」


 ご老体が顎を摩り

「なるほど、んんん…」

と、四人を見定めている。そして…

「お主等…相当に腕が立つようじゃのう…」


 ディーオは鋭い視線で

「分かるんですか?」


 ご老体が微笑み

「纏っている装備、そして…感じる魔力。とくにお嬢ちゃんは…」

と、エレナを指差し

「飛び切りの魔法使いじゃろう。そして、お主」

と、ディーオを指差し

「お主は…なんじゃ、若いのにどこか…ワシより老成された雰囲気がある。そして、後の嬢ちゃん達二人は…体格的に相当に鍛えてあるのが分かる」


 ディーオが驚きの視線だ。

 この老人、只者ではない。


 ご老体は楽しげに

「そしてじゃ…お主達、夫婦じゃろう」


 四人ともビックと体を震わせる。

 それを見てご老体が

「それそれ。お主等…多分、長い付き合いから結ばれた者達じゃろう。何というか…呼吸といい、雰囲気といい、お互いの立ち位置といい。ピッタリと填まっておるからのう…」


 慧眼を持つご老体に、ディーオ達は驚きの視線を向ける。

 ご老体は手を叩き

「決めたぞ。ちょっとお主等に付き合うとしよう」


 ディーオが「ありがとうございます。でも、良いんですか?」と尋ねる。


 ご老体は嬉しそうに微笑み

「良いんじゃよ。お主等にとっても魔大陸は未知じゃろうから…色々と教えながら進むにのも面白い。まあ、年折りの暇つぶしじゃ」


 なんか、アークドラゴンを瞬殺した人物とは思えない程の柔和な感じにディーオも微笑み、ディーオが手を差し向けて

「よろしくお願いします。ええ…お名前は?」


 ご老体がディーオと握手して

「ピエール。ピエール・シモンじゃ。シモンと呼んでくれ」


 ディーオが

「シモンさん、よろしくお願いします」


 シモンは頷き

「ああ…こっちこそよろしく頼むぞい」


 こうして、突然に魔大陸へ飛ばされたディーオ達は、シモンという協力者を得て帰還を目指す旅へ向かう。




 ーーー


 ヴィヘィリル王国のとある上空。

 巨大な時空間転移の穴が出現して、そこから黄金に輝く物体が降臨する。

 周囲には黄金の翼のような物が周回して、その中心には槍先のような物体がある。

 それは全長五百メートル近くあり、その異様な様をまざまざと見せつけて、この世界での異物感を顕わにしていたが…唐突に、その物体がルービックキューブのように面を回転させながら形状を変化させる。

 その形状は、この世界でありふれた大型飛空艇だ。

 飛空艇に変形し終えると、その甲板から白灰色の軍服を纏う一人の眼光が鋭い男が現れて眼下の大地を睨み

「おい、リュシュオル…本当に、ここに反応があったのか?」


 その後ろから、燃えるような赤髪に同じ白灰色の軍服を着た男装の麗人のような女性が現れ

「ええ…間違いないそうよ。ラプター」


 ラプターと呼ばれた男は、鋭い顔で

「謀れたんじゃないのか? こんなレベルの低い文明に御方が転生しているなんて怪しいぞ」


 リュシュオルと呼ばれた女性が

「アシュリード様も感じたそうよ」


 ラプターが呆れつつ

「ヘオスポロスのデータにハッキングして、ここに御方の転生体が送られたって情報も、もしかして…オレ達を嵌めるガセだって可能性があるぞ」


 リュシュオルが厳しい顔で

「でも、この世界は、ヘオスポロスの当て馬にされる価値がある世界らしいわよ。そうなれば…仮想敵として成長させる為に御方の転生体が使われるのも納得する理由よ」


 ラプターが呆れつつ

「分かったよ。で、例のフェイトってヤツが言っていた協力者は、どこにいる?」


 リュシュオルがとある渓谷を指差す。

「あそこの地中深くに封印されているらしいわ。名は、バティーガーティという多腕の種族らしいわ」


 ラプターが背伸びして

「じゃあ、行きますか!」


 リュシュオルが

「その前に、この世界の服装に合わせて」


 ラプターが「へいへい」と告げると、瞬時に服が光に変わって、この世界でいうなら冒険者装備の海賊の様相になる。

 それはリュシュオルも同じだった。


 ラプターが甲板に足を掛けて

「じゃあ、行ってくるぜ!」

と、蹴った瞬間、音速を超えた飛翔をして、その封印された協力者の元へ向かう。


 リュシュオルは呆れつつ

「全く、先走って」

 そこへ、兵士の一人が来て

「リュシュオル様…ラプター様に」


 リュシュオルが笑み

「必要ない。ラプターだけで何とか出来るわよ」


 兵士は溜息を漏らし

「ですな。ラプター様は…我らの中でも戦闘が最も得意で、経験豊富な方ですから」


 リュシュオルが背を向けて

「それよりも、他の者達も服装を…」


「は!」と兵士が胸に手を当てて敬礼した次に、光に包まれて兵士の軍服から、海賊の様相に服装が変貌した。


 その後、ラプターが向かった渓谷から轟音と光が放たれた。


 リュシュオルがそれを振り向き

「あのバカ…何をやっているのよ!」

と、甲板から飛翔してラプターが向かった場所へ来ると…。


 クレータのような場所が出来ていた。

 その中心では、ラプターが二メートル半の大男を前に仁王立ちしている。

 二メートル半の大男、幾つもの腕を持ち、傍には黄金の鎧と黄金の剣がある。


 ラプターの前で伏せる多腕の大男が

「ふはははははは! 今日から! お主は勇者だ!」


 ラプターが

「いや、要らんがな」


 多腕の大男がラプターの肩を抱き叩き

「胸を張れ、お主は何と、この魔王バティーガーティに勝ったのだぞ!」


 ラプターが

「そんな事より、フェイト…いや、ここじゃあ人神か?」


 バディーガーティが笑っていた顔を真剣にさせ

「お前等…人神の使徒か?」


 ラプターがフッと皮肉な感じで笑み

「いいや、協力者だ。ビジネス的な…ね」


 ふんん…とバティーガーティは鼻息を荒げ

「全く、アイツは…」


 ラプターが

「オレ達にちょっと力を貸してくれるか…ってか、知恵を貸して欲しい」


 バティーガーティが暫し考え

「お主等の目的は」


 ラプターがそれを説明すると、バティーガーティが嬉しげな顔で

「成る程! 忠義、結構! そこまで忠節を尽くすなら、協力しないでは漢が廃る!」


 どこか意気投合しているラプターとバティーガーティを横目にリュシュオルが頭を掻いていると、視線を感じてその方角を睨む。

 距離にして一キロ弱。

 リュシュオルは、一瞬で超音速に飛翔、亜光速を突破して光となって、その場に激突する。

 衝突した先は、山の頂上だ。

 山頂がリュシュオルの光速突貫で吹き飛んだが、その吹き飛ばされた破片に紛れて監視していた者が消えた。


 だが、それでもリュシュオルには追いつける範囲だ。

 炎の権神であるリュシュオルが、監視者のエネルギーを捉える。

 木々の上を疾走して逃げる人物。

 リュシュオルが炎を軽く纏い、業火となってその人物へ襲いかかる。

 

 逃げる人物は、リュシュオルの一閃を避けた。

 その弾みで纏っていた全身ローブとメガネが落ちた。


 リュシュオルが

「逃がさない」

と、炎の爪牙を纏った右手を掲げて狙いを定めた。


 だが、その人物から飛び出た手の形の獣がそれにぶつかって、リュシュオルは右手ごと弾かれた。

 その間に、逃走する者は、何かの液体を足下で砕き、それによって空間転移して消えた。


 逃がしてしまった。


 リュシュオルは、その場の地面に手を触れてテレポートさせた後を追跡するも、痕跡が途絶えていた。


 そこへラプターとバティーガーティが来て、ラプターが

「逃がしたのか? らしくねぇ…」


 リュシュオルが厳しい顔で

「どうも…厄介な存在が介入しているみたい」


 バティーガーティが

「先程の逃げるヤツの背中から出て来たバケモノの手は、何なのか…知っているか?」


 ラプターとリュシュオルが視線を合わせ、ラプターが

「まぁ…ね。色々とあるさ」


 バティーガーティが多腕の腕の一つを組んで

「今まで万年近く生きて来たが…あのような存在、見た事がない」


 リュシュオルが

「そうね…まだ、この世界のレベルでは遭遇するはずないから」


 ラプターが頭を掻いて面倒くさい感じで

「アレが関わっているとなると…ちょっとなぁ。それか…それを研究している連中か…」


 リュシュオルが

「どちらにせよ。私達がやる事は決まっている。そうでしょう」


 ラプターが「あ…そうだな」


 こうして、時空の穴から出て来た彼等は、バティーガーティを協力者に活動を開始する。



 

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