第12話 王竜狩り

 帝都アルスで過ごすディーオ達。

 依頼という依頼をしてはいない。

 ディーオは、帝都アルスに用意された研究室で、魔法で作る極小機械機構、メタトロンの製造を行って、その量産化の方法を探っていた。

 偶に、劣化した剣や防具の修理もしている。

 リリアにエレナとダリスの三人は、ミルボッツ領から来た両親達と共に今後、暮らす家の場所の選定を行っていた。

 ミルボッツ領の城塞都市ノアの中でも最近、拡張された場所に屋敷を建てようと相談しているらしい。

 そういう大事な事を関わらなくて良いのかなぁ…とディーオは思うも、彼女達三人は任せて!と頑張ってくれている。

 そのお陰で、この魔導素材式メタトロンの様々なバージョンの試作品が作れるのだから良しとしよう。

 恐らくだが、この幾つもの材料を使った魔導式メタトロン達の中で、最も作りやすいモノがグレイラート騎士団の開発部へ行き、量産化されるだろう。



 ---


ディーオが様々なメタトロンの試作品を作っている最中で、ダリスやリリアにエレナの三人は両親達と共に、どんな屋敷にするのか?

 その話し合いをしていた。

 エレナの母親ウルティマが

「ディーオくんを話し合いに加えなくて良いの?」


 エレナが母親の

「いいの。ディーオは大事な研究をしているんだから」


 それにリリアとダリスは文句を言わない。

 ディーオは、完成したメタトロンの試作品を彼女達三人に見せた。

 魔力を込めるだけで自在に変化する金属。

 それを見ただけで、技術に疎い彼女達でも分かった。

 これが広まれば、必ず世の中は変わる。

 ディーオにとっては大した事ではない。

 だが、それを使う事になる彼女達三人といった多くの者達には衝撃だ。

 

 ディーオが作る新素材メタトロンは、様々な形状が出来る。

 硬い金属から、柔らかいシルクまで、その質感までも再現でき、更に…シルクの布だったのが、一瞬で鋭いナイフや剣になる。


 それを宿泊客の屋敷にさせて貰っているエドワード達にも見せると、エドワード達も同じく度肝を抜かれて唖然としていた。


 魔力を込めれば思い描いた素材になる万能素材がそこにあった。


 ディーオの前世では、大した事ではない。

 だが、この世界では革命を起こす素材だ。


 エドワードや、ディーオの妻達ダリス、リリア、エレナの三人は改めてディーオが持っている前世の知識に驚愕する。

 そして、エドワードが母親である女帝アリエルの前で、一年でこのアスラ帝国を崩壊できると豪語した理由を改めて自覚する。

 これ程の万能素材を作れる叡智を持っているのだ。

 ディーオの中にある前世の超兵器兵士エピオンの持つポテンシャルが恐ろしいレベルであると…。


 だからこそ、ディーオが執着する存在、その望みを叶える事に全力を注ぐ事に力を入れる。

 そうしなければ、ディーオは、前世の超兵器兵士エピオンの気質を発露して、このアスラ帝国も、いや、この世界を破壊し尽くすかもしれない。


 そんな思惑とは裏腹に、ディーオは様々な試作品を作っては、それを箱に詰めてグレイラート騎士団の開発部へ送る。


 そうして一日が終えて、研究所としているグレイラート騎士団の職場から出て、エドワードの屋敷へ向かっていると…視線に気付く。

 ディーオは立ち止まって、後ろを向く。

 そこには誰もいない。

 誰一人の姿もない。


 ディーオは、エピオンで繋がるダリスやリリアにエレナの三人に通信のような念話で

《みんな、一時的にエピオンの探査システムを使えるようにしてくれないか?》


 その念話にダリスが

《どうしたの?》


 ディーオが

《誰かが追跡している。姿が見えない。魔法で姿を隠しているかもしれない》


 リリアが

《分かったわ》


 ディーオへ三人からエピオンの接続許可を得て、探査レーダを飛ばすと

「おいおい」

 そう、魔法を使って姿を隠している者達が三人いた。

 魔法を使って姿を隠しているのだ。

 さて…そんな姿を隠して警備なんて話、聞いていないぞ…。


 ディーオは考える。

 ここで、三人を捕まえるか…それとも…エドワードの屋敷まで行って、エドワードに伝えて…。


 ディーオは、一番に厄介になるフラグを選んだ。

 透明になっている三人へ近づく。

 魔法で不可視にしている三人は、真っ直ぐと近づくディーオに困惑して、自分達の姿を確認していると、ディーオが

「どうして、オレを付けている?」

と、三人に問う。


 ここで、姿を見せて事情を説明すれば、それなりに信用は置けるが…そうではなく戦闘へ移行した場合は…。


 透明になる魔法で姿を隠している三人は、その魔法を解除する。

 一人は中年の男と、その両脇に二十歳の男女の三人。

 装備は、剣を持ち胸部に軽装備の鎧。

 その中年の男がお辞儀して

「申し訳ありません。貴殿を隠れて警護するように言われて、このように…」


 ディーオは返事をした男を見詰めて

「誰に言われて警護していた?」


 その問いに中年の男が顔を上げて難しい顔をして

「さる…お方にとだけ…」


 ディーオは考え

「この事を誰かに報告しても…」


 中年の男が頷き

「構いません。その場合は、我々の主が判明するだけですので…」


 ディーオは三人を見詰めて

「貴方達の身柄は、大丈夫なのか? 極秘の警固がバレて、そうなれば…」


 三人は戸惑い気味に、二十歳の男が

「これ程までに能力があるとは、私達も想定していませんでしたので、責任は…取らないというか、警護から外されるだけなので…」


 ディーオが三人に

「名前だけ…聞いて良いか?」

 

 中年の男が自分を示し

「スタング・フォード、後ろには弟と妹のザランにサリアです」


 ディーオは頷き

「分かった。貴方達に害がないようには、話しておく」


 スタングは頭を再び下げ

「ありがとうございます」


 ディーオは手を振り

「じゃあ、そういう事で…」

と、エドワードの屋敷へ帰っていった。


 宿泊の屋敷で、主のエドワードにその事を伝えると、エドワードがハッとして

「なるほど、イエロースネーク家の家臣だな」


 ディーオがエドワードに

「顔見知りで?」


 エドワードは頷き

「我らアスラ帝国の金庫番の家の者、イエロースネーク家が抱える部下の中でもS級冒険者級の実力を持つ三名だ」


 ディーオがエドワードに

「どうして、そのような事を?」


 エドワードがディーオに近づき

「君が作ろうとしているメタトロン素材が原因だよ。貴族とは意外や…自分に利益がありそうな話の匂いを嗅ぎ取る力が強いヤツ等が多い。君が作り出そうとしているメタトロンは、今は…君しか作れない」


 ディーオは頭を掻いて

「つまり、誘拐して…」


 エドワードは頷いて

「その通りだ。それを作らせて…一儲けなんて考える者達は多いだろう。それに君は…俗物的な考えがある。女に弱いってね」


 ディーオは目の前で、エドワードの妻のクリスティーナと話している、自分の伴侶達三人、ダリスやリリアにエレナを見て

「確かに…三人も女を欲して手にしましたからね」


 エドワードが

「誘拐して、女を抱かせれば…言う事を聞くと思われているのかもしれない」


 ディーオが頭を振って

「そりゃあ、好きな女を抱かせて貰えれば、好きな女の言う通りになっちゃいますよ」


 エドワードがフッと笑み

「そうかい。まあ、とにかくだ。君を金の卵を産む雌鶏と見ている連中は多い。どうするかね?」


 ディーオは頷きながら

「なら、魔除けが必要ですね」


 エドワードが首を傾げ

「魔除け?」


 翌日、ディーオは早朝の研究室へ向かう最中、例のスタング達三人が道中の警護をする。

 これが、魔除けである。

 アスラ皇家とドップリのイエロースネーク家の者達によって、ディーオが警護される事は、ディーオはアスラ皇家に組み込まれている事を示す。

 エドワードの元にいるのは、たんにグレイラート騎士団の食客ではなく、アスラ皇家に忠誠を誓う者という印象を与える事で、他の貴族達が入り込む余地を塞いだ。


 そうしてから二日、試作品メタトロンの研究を続けていると、そこにオールステッド達が来た。

 アルスを伴ってオールステッドがディーオの研究室へ入り

「研究は順調か?」


 ディーオは、何種類かのメタトロンを並べて

「様々な素材で、メタトロンの候補を作っています。どれが量産に適しているかは…そちらへ送った研究部門が考えてくれるでしょう。今日はどのような用事で?」


 オールステッドがアルスを見ると、アルスは頷き

「この帝都アルスの遠海で黄金輝く竜の目撃情報があった」


 オールステッドが

「おそらく、赤竜の何倍もある王竜だろう」


 ディーオが鋭い顔をして

「それを…」


 オールステッドが

「お前達が狩ってみせろ。出来るか?」


 ディーオが頷き

「やってみます」


 オールステッドが

「もしもの場合は、我らが対処する。それと…その王竜を狩る事について」

とある条件を出した。


 ディーオはニヤリと笑み

「なるほど、確かに」


 オールステッドが頷き

「そういう事だ。アスラ帝国に更なる恩を売って置く必要がある」


 ディーオは頷き

「分かりました。帰ったら妻達と話し合います。それと、その王竜に関しての…」


 アルスが資料の束をディーオに渡して

「これが、王竜に関する文献です」


 ディーオは受け取り

「王竜を僕たちで退治して、その退治した王竜の骸に槍の旗印を皇家のエドワード皇太子に刺してもらい、王竜討伐の手柄をアスラ帝国の皇家にもたらす…で」


 オールステッドが頷き

「頼んだぞ」



 -----


 ディーオ達は、オールステッド達から持たされた王竜の資料を見ていた。

 リリアが

「王竜は重力魔法を使うのか…」


 ダリスが

「全長が四十メートル前後…」


 エレナが

「前に狩った赤竜の四倍か…」


 ディーオが厳しい顔で

「これ程の存在を狩るには…全員にエピオンの力を付与させるしかないな」


 リリアが

「それは許可されているの?」


 ディーオは頷き

「ああ…多分、オールステッド達のエピオンの力の下見もあるんだろう」


 ダリスにリリアとエレナの三人は、顔を見合わせてエレナが

「どのくらいまで、エピオンの力を使うの?」


 ディーオが真剣な顔で

「対処できるレベルまでだ。無論、王竜は素材としても超貴重品だ。素材として残して倒す事が…」


 リリアが

「まあ、エピオンの全力を持てば…何とかなるでしょう」


「そうだな…」とディーオが資料の文献を見ているとダリスが

「何か気になる事でも?」


 ディーオが真剣な顔で

「この現れた王竜に関して…実質的な被害はない。目撃情報だけで…沿岸で、大きな竜、リヴァイアサンを捕獲して持って行き、その残骸を海に投棄しているようだ」


 エレナが

「どこかで食べて、残骸を捨てているの?」


 ディーオが真剣な目で

「だったら…その場で食べれば良いが…何処かへ運んで、食べれない骨や魔導石を海に投棄している。つまり…巣があるかもしれない」


 ダリスやリリアにエレナの三人がハッとして、ダリスが

「つまり…子供を育ている可能性が…」


 ディーオが文献を持ち

「王竜は知性があるようだ。それなら…同じ王竜がいる王竜山脈で育てる方が…。そもそもだ。なぜ、生息域でない場所にいるのか…」


 リリアが

「でも、昔…王竜王国で暴れ回って甚大な被害を」


 ディーオが鋭い目で

「その被害を作ったのは、王竜王国の連中だ。王竜王国の王が不老不死を求めて、王竜の巣を襲撃して、結果…怒りを買ってボコボコにされた。因果応報だ」


 ダリスが

「何時か、被害が出るかも…」


 ディーオが鋭い目で

「被害がないのに、怖いからという理由で狩るのは、野蛮人の発想だ。私は…それほど愚かではない。もしそんな愚か者がいるのなら」

 ディーオの口調が鋭く威圧を伴う。それは…まるで何処かの絶大な王のような雰囲気だ。

 ディーオはハッとして意識を戻して

「すまん。言い過ぎた…そうだな。その前に…被害を未然に防ごう」

と、ディーオは頭を抱えた。

 

 ダリスやリリアにエレナが困惑した顔で、ダリスが

「ディーオ。もし何か…話したい事があるなら…私達、聞くよ」


 ディーオが額を抱えて

「最近、おかしいんだ。前の…エピオンの時ではない、別の…そう、別の世界が見えるんだよ。そんな筈ないのに…。ちょっともしかしたら…見えない疲れに」


 それに彼女達三人は顔を見合わせて、リリアがディーオの手を握り

「これが終わったら…四人でゆっくり休もう。ディーオは最近、研究室に籠もってばかりだから、頭が疲れたんだよ」


 ディーオは頷き

「そうだな、新しいメタトロンの素材候補を作る事で、疲れているのかも」


 ディーオの脳裏に、不思議な記憶がよぎる。

 その記憶とは、巨大な時空連合体を支配していた絶大な皇帝だった頃の…。

 きっと、疲れて認知機能がおかしくなっているのだろう…とディーオは思った。



-----


 飛空艇の艦隊と共にディーオ達は、その王竜が目撃される海域へ向かった。

 帝都アリスから北へ数十キロの海域、僅かな岩礁地帯が広がっている。


 ディーオ達は、グレイラート騎士団の戦艦に乗って先を見詰める。

 広い海原、まだ日が昇る前。


 ディーオが海を凝視していると「いた」と巨大な竜の姿を発見する。

 全長が四十メートル前後、黄金に輝く竜の王、王竜が海の上に浮いて留まり海面を見ている。


 ディーオの背にオールステッドと、エドワード達が来て、オールステッドが

「準備は良いか?」


 ディーオが向いて頷く時に、リリアにエレナとダリスの三人も来た。


 ディーオがオールステッドを見詰め

「何時でも…」


 オールステッドが頷き

「では、行ってこい」


 ディーオ達は船首へ走り、背中からエピオンの翼を伸ばすと船首から飛んで行った。


 エドワードが飛んで行くディーオ達を見詰めて

「大丈夫でしょうか?」


 オールステッドが厳しい顔で

「問題ない。それぐらいの実力は持っている」



 ディーオ達は、飛翔して海面の上に浮かぶ王竜を目指す。


 王竜がこっちの気配に気付くと、ディーオ達は構える。


 王竜が吼える。

 そして、自分を浮かせている重力魔法を使って衝撃波を作り、それをディーオ達に向ける。


 だが、ディーオ達は…ディーオを戦闘にダリス、リリア、エレナと並んで、ディーオは左腕にエピオンクローの盾を構えると、エレナが魔法を発動させる。

「全てを惹き付ける闇よ。その力を槍と変えよ」

 グラビティ・ランス


 ディーオのエピオンクローに重力魔法で作られた槍が形成され、王竜が放った衝撃波を貫く。


 王竜は勢いが衰えないディーオ達に焦り、咆吼の火炎を放つ。

 それにディーオ達は散会、リリアとエレナ、ダリスとディーオの二組に分かれ、エレナが

「光よ槍となって降り注げ」

 シャイニング・ランス!


 無数の光の槍の魔法がエレナから放たれ、王竜を襲う。


 王竜はそれに重力魔法のシールドを張って止めるも、その間にディーオとダリスが背後に回って王竜の背中を攻撃する。


 ディーオとダリスの左腕にあるエピオンクローを赤熱させ、王竜の背後を攻撃。

 高熱のクローの鞭が王竜を叩きのめす。


 体勢が崩れる王竜だが、重力魔法で留まり、ディーオとダリスに攻撃する。


 そこへリリアがタイム・リープを波形に発生させ

「エレナ!」


 エレナは、リリアの構えた剣に

「全てを惹き付ける闇よ、その力の加護を」

 ダーク・ウェイト

と、リリアの剣に重力魔法の付加を与えると、リリアがその剣を波形に動くタイム・リープへ放つ。

 威力の乗った重力魔法の塊が波形のタイム・リープを経て、増幅と加速を繰り返して超重力の塊となって、王竜を襲った。


 それを王竜は重力魔法のシールドで防ごうとしたが…。

 重力で作られた力は、シールドにした重力魔法を飲み込んで、王竜に衝突した。


 王竜はその一撃を受けて四十メートル前後の巨体が宙を舞って海面へ激しく叩き付けられて滑っていった。


 数キロまで飛んだ王竜をディーオ達は追跡する。


 ダメージを受けて海面に浮かぶ王竜。

 ディーオ達は、その上に浮かびディーオは鋭く動かない王竜を見下ろしている。

 ダリスが

「あんまり、エピオンの力を使わなかったね」


 ディーオは淡々と「ああ…」と頷いた。


 海面に浮かぶ王竜が顔を上げてリリアが

「まだ、息が!」

と、エレナとダリスが構える。


 ディーオが凝視していると、王竜は重力魔法で

「頼む…私を殺してくれても…構わない。私の命と引き換えに…妻と子供達を…助けてくれ」


 王竜が重力魔法で空気を震わせて喋る。

 それにダリスやリリアにエレナが驚きを向ける。


 王竜が

「頼む。戦士よ…私を倒した手柄に…妻と子を…守って、くれ…」


 そこへ飛空艇の艦隊が来て船首にいるエドワードと、オールステッドに部下のアレクもいた。

 アレクはエドワードと共に

「さあ、最後の一槍を」

と、瀕死の王竜に下りようとしたが…ディーオが王竜の上に下りて、ドラゴンオーラで治療した。


 それを見たオールステッドが鋭い顔で

「なんのつもりだ!」


 リリアにエレナとダリスの彼女達は、ディーオに駆け付け

「何をしているのディーオ!」

「どうしてそんな事したの!」

「ディーオ、なんで!」


 ディーオが静かに治療を終えた王竜から飛び立ち、エドワードの前に来ると跪く。

「エドワード皇子、頼みがあります」


 頭を垂れるディーオにエドワードが困惑して

「なぜ、王竜を治療した?」


 オールステッドが右腕に最近、開発した魔力を回復させるエーテルを握り

「全く、キサマ! 期待外れだ!」

 オールステッドが王竜を殺そうとするも、そこへ立ち上がったディーオが来て、オールステッドのエーテルを握る左手の手首を掴んで

「話を聞いてください」


 オールステッドは凄まじい形相で、その手を振り払おうとして左手のエーテルを砕いて魔力を回復させた。

 様々な魔力を回復させるアイテムでも龍族オールステッドの魔力は回復しなかったが…このエーテルだけは、オールステッドの魔力を回復させてくれた。

 全力を回復させたオールステッドが、ディーオを吹き飛ばそうと龍闘気を爆発させるも、ディーオはエピオンを発動させる。

 全身が深紅の装甲に包まれた赤き装甲の超兵士になり、甲板で吹き荒れる龍闘気を浴びても平然としている。


 オールステッドの龍闘気が空へ昇って天候を変える程に作用する。

 その威力にアレクはエドワードを守るように踏ん張り、エドワードが驚愕する。


 オールステッドは全力をもってエピオン・ディーオの掴みをはずそうとするも、全くエピオン・ディーオは動じない。

 オールステッドが溜息を吐く。

 

 それを回復した王竜が見詰めて海上で立ち止まっていた。

 動かない王竜にオールステッドは、龍闘気を収めて

「どういうつもりだ?」


 ディーオもエピオンの形態を解除して

「この王竜は…何の被害も与えていない。なのに…恐怖だけで狩るのは愚の骨頂です」


 オールステッドが

「何時か…被害を与えるかもしれないのだぞ」


 ディーオが暫し考え

「それはこちらが…相手に被害を与えた場合でしょう」

と、ディーオはオールステッドの左手から手を離し、一歩下がって目の前でオールステッドに土下座する。

「お願いします。話を…聞いてください」


 オールステッドは王竜とディーオを見て

「もし、何かあった場合は…即座に屠る。良いな」


 こうして、飛空艇でディーオを挟んで王竜とエドワードは対話する。


 王竜は、自分の妻と子を守る為に狩られる危険性がある王竜山脈から、こっちに引っ越しただけで、人族に被害を与えるつもりはない…と。


 確かに、目撃例だけで人族に被害は出ていない。

 安住の地を王竜は求めているだけ。


 それにエドワードが考えると、ディーオが

「エドワード皇子、武力を示して国を治めるより、人として情や愛を持って国を治める事こそ大事だと思われます。かつて、排斥された者達の多くを拾って国を成した偉大な王がとある時空にいました。その国は…今も、繁栄しております。その王が亡き」

と、告げた瞬間、ディーオの脳裏に様々な事がよぎる。


 言葉を止めたディーオにエドワードが

「どうした?」


 ディーオが顔を上げた瞬間、ディーオの目から涙が零れる。

 ああ…あの時…オレは…

 そんな、後悔の念が襲いかかる。


 それにエドワード達が困惑して、エドワードが

「どうしたのだ?」


 ディーオは頭を振って

「その王は、その王が亡き後も、その世界の王国は…今もあります。その王座は、その王が…座るべくして、帰還を…民達が待ち望んでいます。皇子、武力と利益だけを求める国は必ず滅びます。それは…確実に、国を滅ぼす種を内在させます。ここで王竜という強者を…情や愛によって受け入れる事で、必ずアスラ帝国にとっても得なるはずです」


 エドワードが厳しい顔で

「もし、何か…被害が起こったら…」


 ディーオが

「その時は、私が彼を…殺します」

と、真剣な顔を向け、王竜にも向けると王竜が

「エドワード皇子、わたくし達は静かに暮らしたいのです。お願いです。ここで生きて行く許可を…」


 エドワードが暫し考え

「分かった。だた…住む場所は」


 ディーオが

「心配ありません。エドワード皇子、ここで海底噴火を起こさせて島を作る許可を頂けないでしょうか?」


 エドワードが驚きを見せて

「出来るのか?」


 ディーオは頷き

「出来ます。そして、後々にその島を私が回収したアクエリアスの停泊地にしたいと…」


 エドワードが頷き

「分かった。許そう」


 ディーオは跪き

「ありがとうございます」



 こうして、ディーオはエピオンの装甲を纏って海底に下りる。

 深紅の装甲の各部のエネルギー放出口を開いて、強烈なエネルギーを伴って地面へ突貫すると、海底を掘削してマグマまで到達、海底噴火が起こって、マグマが噴き出してモノの数時間で島が形成された。


 更にディーオは、エピオンのクローとエネルギー放出を使って島を整えて、そこへ王竜達が卵を持って移住した。

 その後、その島は王竜島と命名され、月に何度か皇家の使者が来る事になった。


 

 大々的にエドワードの広告が打たれる。

 彷徨う王竜のツガイをエドワード皇子達が保護して、その移住地を与えた。

 アスラ皇家は、武力や財力といった支配ではなく、情に寄り添った裁定を下した。

 アスラ帝国が力だけの国ではない…と国内外に宣伝される。


 この宣伝は、大きな効力を示し、力による武勲ではなく、気持ちという平和や愛の望みによってアスラ帝国がある事は、まさに周辺国でも一目を置かれる事になる。

 力ある竜の王、王竜はその気持ちに打たれてアスラ皇家に仕えるというプラスの宣伝効果は絶大で、その話に心打たれた諸外国の貴族達との交渉がスムーズに行くのは、後々に分かる事であった。



 その裁定を女帝アリエルは聞いて「んん…」と唸っていた。

 その隣にはルーデウスとシルフィーがいて、ルーデウスが

「中々な事をしますね」

と、微笑む。


 女帝アリエスは頷き

「ええ…力での押さえつけではなく、気持ちによって王へ仕える。これは…絶大な宣伝効果です」


 シルフィーが

「アスラ皇家とエドワードの美談によって、周囲の評価はうなぎ登り、巷じゃあ、これを題材にする本が出る始末ですよ」


 アリエルは真剣な顔で

「ディーオが言っていた事、私は…本当に出来ると思っています」


 ルーデウスが

「どういう事を?」


 アリエルが

「この国を一年あれば…破壊できると…ね」


 ルーデウスとシルフィーは微妙な顔をする。



 ディーオが研究室でメタトロンの研究をしている所へアレクこと、アレクサンダー・ライバック三世が来て

「君は凄い」


 ディーオがアレクを見て

「どういう意味ですか?」


 アレクは腕を組んで背を壁に預け

「あのオールステッド様の全力に君は耐えたし、ぼくは…昔、負けた。それにあの王竜に勝ったんだ。君は僕より強い、きっとオールステッド様と同じ最強の」


 そこへディーオが来て額にデコピンをする。

 された額をアレクは擦る。


 ディーオが呆れ気味に

「ぼくは、最強じゃない。ぼくの元いたヘオスポロスには、ぼくより強いヤツなんて沢山いた。上を見上げれば切りはない」


 アレクは自分の手を見て

「ぼくは…最強を目指していた」


 ディーオが腕を組み

「そんなの幻想ですよ」


 アレクが苛立ちを見せ

「じゃあ、ぼくが目指してやって来た事は無駄だって言うのか!!!!」


 ディーオは冷静に

「無駄じゃあないですよ。身になっているでしょう。努力した事は無駄じゃあ無い。でも成果に結びつくのは別だ。確かに一つの競技において、それを極めれば最強はあるでしょう。ですが…なんでもありの世界では、最強なんてない。そう…」

と、自分の手をディーオを見詰めて

「あの時も…」

 記憶が深くループしていく。

 あの時も結局は、人の思いに…。

「本当の強さってのは、きっと…誰かを守る事で生まれるのかもしれません」


 アレクが俯き

「ぼくには…それは無いな…」


 ディーオが

「アレク様は、魔族と人間のクォーターで長命なんでしょう。きっと見つかって、たくさん抱えすぎてしまうかもしれませんよ」


 アレクが

「その時に、ぼくは…本当の強さを手にいれられるんだろうか?」


 ディーオは頷き

「ええ…きっと見つかりますよ。貴方なりの強さを…」



 

 その夜、ディーオはベッドから起き上がる。

 泣いている。

 ディーオは裸で、その両脇には同じ裸のリリアにダリスとエレナの妻達がいる。


 また…思い出して泣いていた。

 今度は、エピオンの頃の過去夢ではない。

 傲慢だったあの時を…思い出して泣いていた。


 そこへリリアが起き上がってディーオをその胸に抱き寄せ

「何があったの?」


 それにディーオは深く抱きつき

「分からない。でも…ちょっと思い出して…色々と…いや」

 その話を自然と口にするディーオ。


 それを聞くリリアは、頷き聞き終える。


 その背中にエレナが抱きつき

「大丈夫だよ」


 ダリスの起きていた。

「ディーオ、おいで…」


 こうして、ディーオが悲しくて苦しい心の隙間を、ダリスやエレナにリリアが埋めてくれる。

 ディーオは、三人を求めて抱く。

 

 メンタル的に、彼女達にディーオは寄りかかる。

 前世のエピオンの心の闇の谷間と、その前々世の傲慢な支配者の心の弱さが、彼女達のお陰で癒やされて強くなっていった。



 そして、翌日、ディーオ達は最後の地、フィアット領へ向かった。

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