第11.5話 帝国へ
四日目、五隻の飛空艇が赤竜山脈から帰ってきた。
レッドドラゴンの群れの一つを壊滅させて、二十体ものドラゴン素材を運んできた。
ドラゴンチェン街は、それを讃えてお祭りだった。
ドラゴン一体の価値は、金貨数百枚に相当する。
ドラゴンの素材は、肉は高級食材から、骨は鎧や兜、鉱物に混ぜる合金素材、革は高級な道具の素材になる。
肉の一片までも活用されるドラゴンが連日、運ばれる異常事態というかお祭り騒ぎにドラゴンチェン街は湧いていた。
街中は、レッドドラゴン祭りなんて湧いているのに、それをやった当人達は
「この辺のレッドドラゴンは、そんなに強い部類じゃあないなぁ…」
と、ディーオが告げる。
同じテーブルにいる妻達のリリアとダリスにエレナの三人。
リリアが
「比較的、中型くらいのサイズしかいなかったし…」
ダリスが
「本来の大型は、やはり…赤竜山脈の奥地だね」
エレナが
「レッドドラゴンにも勢力争いがあるみたいだし、弱い個体は…端に流されるんだろうね」
ディーオが腕を組み
「ドラゴンでも弱い個体ばかりを相手にしたんだ…驕らないようにしないとな。何時だって驕り高ぶった瞬間から足下を掬われる」
それに彼女達三人は頷いて「そうね」「確かに」「だね」とリリア、ダリス、エレナは同意した。
それを隣で見ていたルーデウスは、行き過ぎる謙遜って嫌みに見えるって分かった気がする…と思っていた。
そこへ、街の冒険者の騎士ダガルが来て
「おいおい、一番の祭りの花がこんな所でシケた話し合いか? 一緒に飲んで食べて祭りを楽しもうぜ」
ディーオが
「すまない、ダルガさん。予定が繰り上がって明日には帝都アルスへ出発だ。オレ達は休ませて貰うよ」
ダルガが驚き
「おい、待て! もう少し居ろよ。他の連中もお前等のドラゴン討伐を見たいって言っているんだぞ。そんな急いで」
ディーオが厳しい顔で
「オレ達にはやるべき事がある。すまん」
と、頭を下げる。
ダルガは苛立ち気味に頭を掻いて、隣にいるルーデウスに
「ルーデウスさん。頼むよ。後…三日、いや、二日でいい。伸ばしてくれないか?」
ルーデウスも微妙な顔で
「ごめんね。これでも仕えている身で…そうそう文句は言えないのよ」
ダルガは苛立ち気味に、ディーオの首を腕にはさみ
「いいか、必ず近い内に、年内には、また…来いよ」
ディーオが呆れ気味に
「酒臭い。まあ、命令されたら来るよ」
ダルガはルーデウスを凝視して
「ルーデウスさん!」
ルーデウスが困り顔で
「分かった分かった。オールステッド様に伝えて置くよ」
こうして、酔っ払いの絡みから解放された後、ディーオが
「ルーデウスさん。今後の話で…探査物資達のアクエリアスとリーブラスに関してですが…」
ルーデウスが頷き
「どんな事だい?」
話し合いをした。
それを聞いたルーデウスは驚きの次に
「分かったよ。何とか…伝手を頼ってみる」
ディーオが頭を下げて
「すいません。色々と…」
ルーデウスが微笑んで肩をすくめ
「いいさ、それくらい…ディーオくんは、この世界で生きて行くって決めたんだろう」
「はい」とディーオは頷いた次にリリアとエレナにダレスの顔を見た。
彼女達三人は、嬉しげに微笑んだ。
その夜中、祭りが終わって静かになった時間帯に、ディーオは目を覚ました。
また、泣いていた。
昔の夢を見た。
今の自分が遠くから、昔の自分を見詰めている過去夢。
機械のように冷徹で、正確な判断を下すヘオスポロスの超兵器エピオンが、とある現場で戦争協定違反をしようとした兵士に士官の数名を殺した夢だった。
その夢の続きは、家族を殺された士官と兵士達が、エピオンに詰め寄ると、エピオンは包み隠さず話した。
その士官と兵士達は、命令を過剰に受け止めて無関係な現地住民の虐殺を行おうとしたのを、エピオンと仲間のアルトロンとゼロウィングが止めたが、士官と兵士達は三人を殺しても行おうとした。
その情報は、正確にヘオスポロスに残っていた。
ヘオスポロスは、エピオンにアルトロンとゼロウィングの正当防衛を認証して、士官と兵士達が始末された。
無論、それを軍部は…訴える事はしなかった。
前々から、その士官と兵士達には、その嫌疑が掛かっていて、後始末に困っていた。
それをエピオン達に押し付けたのだ。
命令違反したのは士官と兵士達で、エピオン達は命令と規定、戦争協定に従って無関係な住民の虐殺を防いだ…と。
兵士とは忠実に命令を熟す事が一番に必要な事で、感情や私情に流されて活動する事は違法であり重罪なのだ。
兵士が殺して良いのは、同じ戦闘員の兵士だけであって、他を殺したり強姦したり、窃盗したり詐欺をしたり、搾取した場合は、同じく罪に問われる。
軍だから、兵士だから、と言って特別ではない。
それを理解する兵士は少ない。
制御されない暴力は、罪だ。
制御される暴力は、力となり合法である。
それが戦争の真実なのに、愚かな復讐や報復の連鎖は戦争ではなく虐殺である。
そして、それをエピオンは家族達に説明した。
その士官の娘は泣いていた。
「父は、罪人なんですか?」
エピオンは迷わず
「罪人です。彼は…過剰なまでに犯罪行為に傾倒した」
娘は泣いていた。その肩を抱き泣く母親。
娘にとっては立派な兵士であったろう。だが、現実は、人殺しのクソ野郎だった。
良くある現実だ。
これが自ら高等と叫ぶ知性ある種の現状だ。
娘はエルフのような形状である。
父親は、別の時空の種族で、母親はこの時空に多くいるエルフ型の種族だ。
娘は現実を理解する事無く、エピオンを罵倒した。
人でなし、機械、お前なんて殺人マシンだ!
エピオンは、笑う事もなく真っ直ぐと娘を見詰めて
「父親と同じですな。知性がない。自分の感情に振られて虐殺者になった。私は貴女に期待していたのです。代を経れば、そんな野蛮さは消えると…。残念です。私に絶望をありがとう」
と、娘に伝えた瞬間、娘は愕然とした。
娘は膝を崩してエピオンを見上げた。
唖然として、揺るがないエピオンに
「何時か、アナタも…人の気持ちが」
エピオンは嘲笑を向け
「貴女が言ったでしょう。私をマシンと…人の気持ちが分かる時が来る? 永遠に来ませんよ。なぜなら、この私を作ったのは貴女達なんですから…」
ワザとエピオンは嫌われる事をする。
幾ら真実を告げようとも、こういう感情という反射神経が優位な者は、絶対に真実を現実を受け入れる事は無い。
下手に平和に納めようとしても無意味、嫌われるが有意義であると知っている。
その後、この娘は数年後に成長してナナホシ博士達と共に、ヘオスポロスにあるネオデウス兵士達、ネオデウス・ウェポンの中枢システムに侵入してテロを行う。
その目的は、ネオデウス・ウェポン達に感情という機能を付加させる為に…。
だが、失敗する。ネオデウス・ウェポンの中枢システムにある多くの兵器化した者達の意識が、そのプログラムを無効化。
彼女達が行った、リターン・ヒューマン計画は瓦解した。
彼女達が捕まり連行される。今回は、精々、不法侵入とデータ改ざんという執行猶予付きの刑罰だろう。
捕まり連行される中にナナホシ博士達、その娘がいて、エピオンを見つけて叫ぶ
「アナタだって、人だったはずよ! 思い出して! 人だった頃の気持ちを…優しさを…誰かを愛していた気持ちを」
エピオンと共に移動するアルトロンとゼロウィング、デスサイズ、ヘビーアーム、ロックサウンドの六人の超兵器ネオデウス・ウェポン達。
それにアルトロンが
「はぁ…愛は認めているが…愛にも限界がある」
と、娘に告げた。
それにエピオン達全員は否定しない。
その昔の光景を見て、今のディーオは泣いていた。
エピオン達の気持ちも分かる。だが、彼女達の気持ちも分かる。
彼女達が伝えたかった事は…そんな事では無かった。
ただ…そう…
そこで夢が終わってディーオは目を覚まして泣いていた。
それにリリアが気付いて起き上がる。
四人が眠るベッド、全員が裸だ。四人で致す事が最近は、習慣になっている。
いや、ディーオが求めてしまう。
正直、言ってディーオが彼女達リリアとダリスにエレナの三人にのめり込んでしまっている。
そんな致した後の夜中、ディーオがまた…過去夢を見て泣いていた。
リリアがディーオを抱き締めて
「何があったの?」
ディーオはリリアを求めながら、それを繋がりながら話した。
それで、ディーオの中にあった心の悲しみが半分になる。
ここには、かつてのエピオンはいない。
その過去を持って新たに生き直したディーオという青年がいるのだ。
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翌朝、ディーオ達は飛空艇テセウスに乗って帝都アルスへ向かう。
ここでルーデウスとはお別れで、ルーデウスは各都市や国々の主要機関にある転移魔法陣によって移動して、別の用事を済ますらしい。
多分、昨日にディーオが話した事への下準備だろう。
ディーオ達の飛空艇テセウスが帝都アルスに到着するのは半日後の夕方。
それまでに、色々と話し合いが終わっているだろう。
帝都アルスに到着して、現地にいるルーデウスの妻の一人シルフィーと一緒に行動して欲しいと、ルーデウスは命じた。
巨大都市、帝都アルスをシルフィーの案内と共に進むディーオ達。
その中心にあるアスラ帝国の女帝、アリエルが住む皇帝城へ。
巨大な正面門を前にすると、幾人の門番がシルフィーを見て敬礼して、正面門の脇にある客人用のゲートを通る。
正面門は、国家元首級の人物が来た場合に開くらしく、それ以外は隣脇にある客人用のゲートから入るのが通例らしい。
ディーオは見上げる程の巨大門を見上げて
まあ…そうか…
と、思う。
絶えずこんな巨大な門を開いたり閉めたりしては、労力がバカにならない。
見栄えが良いから、そういう重要人物が通る演出にはピッタリだろう…と。
しかし、シルフィーさんは、簡単に出入りできるなんて…。
普通なら、皇帝城の出入りは厳しい。
どんな貴族でも証明する何かが無ければ簡単に通してはくれない。
それが顔パスで入れる。
余程、ルーデウスか、そのグレイラート騎士団に信用があるのか。
グレイラート騎士団の信用力の高さを感じた。
広い豪勢な皇帝城内をシルフィーが先頭で進むディーオ達。
リリアが
「あの…こんな格好で良いのでしょうか?」
シルフィーに尋ねる。
こんな格好、軽装の鎧と武器を携える冒険者の様相は、この煌びやかな宮殿には似つかわしくない。
シルフィーはそれなりにフォーマルな格好だ。
そっちの方が合っているように思える。
シルフィーが四人を見て
「そうだね。これは公式な面会じゃあないし、武装は…城内へ入る前に外されるから…問題はないだろうし…」
リリアが不安げに
「でも、アリエル女皇様と…面会でありますので…」
ディーオは、ハッと気付く。
そうだ。この帝国で最も偉い人と面会するのだ。それなりの格好というモノがあるはずだ。
シルフィーが微笑み
「大丈夫。アリエルには、お茶会での話し相手という形にしてあるから。問題ないよ」
ディーオは不安な顔をして、それをダリスやエレナも察する。
リリアが微妙な顔で「はぁ…」と答える。
シルフィーが「さあ、こっちだよ」と前に出て案内する。
ディーオ達は、シルフィーの案内で宮殿内を進む。
その通路には、白磁器の廊下には幾つもの絵画と調度品が置かれている。
その雰囲気は美術館と言っても差し支えない。
そんな豪華な廊下を歩くと、とある扉の前に来る。
その扉の前にいる黄金の鎧を纏う大男と、柔和な笑みをする美女がディーオ達のチェックと装備を預かる。
黄金の鎧の大男にシルフィーが
「お疲れ様、ドーガ、イゾルデ」
黄金の鎧の男ドーガと、隣に並ぶ美女の剣士イゾルデは微笑み
「中でアリエル様と、エドワード様にクリスティーナ様がお待ちですよ」
と、ドアを開く。
シルフィーが先に入り
「アリエル、連れて来たよ」
外の庭園が一望できるテラスのテーブルに座る四十代後半の女性と、その前にいる青年と赤い髪の女性。
ディーオが三名を見て、チェックする。
白を基調とした四十代の女性の前にディーオは跪き
「貴女様が…アリエル陛下でありますか?」
四十代の女性は真っ直ぐと、跪くディーオを見詰め、隣にいる青年と赤い髪の女性は驚きを向ける。
四十代の女性が微笑み
「さっそくの騎士としての礼儀、ありがとう」
青年が戸惑い気味に
「君は、母上の尊顔を知っていたのかい?」
青年はアリエルの息子、皇子エドワードで、その隣にいるのは妻のクリスティーナだった。
ディーオは跪いて頭を垂れたまま、否定で首を振り
「いいえ、全く存じ上げませんでした。ですが…私は…多くの国家を破壊して来た。その中には王族の方々が治める国もありました。その方々の顔を…良く知っておりますので、その特徴に…」
四十代後半の女性、女帝アリエルは満足げに笑み
「なるほど、ルークから聞いた通りの、相当な人物のようですね」
と、告げた後、手を叩き
「ルーク…」
カーテンの裏に隠れていたルークと、それにルディーオも顔を見せる。
ルークがアリエルに近づき
「気に入って頂けましたか? アリエル」
アリエルが微笑み
「ええ…話を聞きましょう」
ディーオ達を正面にするテーブルで、ディーオが座る両脇、右に座るリリアとダリス、左に座るエレナは緊張している。
ディーオだけは真っ直ぐと正面に座るアリエルと、ルークにシルフィー、エドワードとクリスティーナ達を見詰める。
その後ろにはルディーオが立ち、アリエルが
「ディーオくん。一つ…君は謝る事があるのでは?」
ディーオは、渋い顔をする。
アリエルは後ろにいるルディーオに
「彼は、ルディーオは貴方の父親です。それを貴方は…傷つけた。理由は理解できますが…でも貴方は、そんな父親と似たようになった。彼女達と結ばれる事はめでたいですが。それは、貴方が昔に、父親に告げた言葉を否定する事になる。分かりますね」
ディーオは、立ち上がってルディーオを見詰めて
「父さん。ごめんなさい。僕が…間違っていました」
と、頭を下げる。
ルークはそれを見て満足そうに笑み、ルディーオは目頭が熱くなって顔を隠した。
アリエルはそれを見て満足そうに微笑む。
アリエルがディーオに
「親子の話し合いは、後でたっぷりとして貰う事にして、貴方が…ディーオくん。君の提案なのですが…」
エドワードが
「どうも、信用が置けない」
ディーオは真っ直ぐと見詰め
「今後、ぼく達が回収した工業生産戦艦を、王族の下で管理運用するという事ですね」
アリエルが頷き
「貴方の話はルーデウスから聞いているわ。正直、信じられないのだけど…。でも、わたくしを見抜いた事、それに…提供された話の規模の物量を生産可能なら…どうして、我々王族が持つ資産の一つとして組み込む必要があるのかしら?」
エドワードが
「それほどの価値を生み出すモノを、簡単に提供しますから信用してくれと言われる程、我々は、出来た人間ではない。普通は疑う」
ディーオは微笑み
「いやはや、これで確信しました。やはり、工業生産戦艦アクエリアスは、皆様の下で生かすべきだと…。
理由は、とても明確です。
ぼくは、この世界で彼女達と共に生きていきたいのです」
と、両脇にいるリリア、ダリス、エレナを見る。
そして
「その為には、安定した国家を形成する必要性が生じるのは当たり前です。
もし、私がこの国を破壊して新たな傀儡国家を作るとしたら…ここにはいません」
ディーオは自分の胸に右手を置いて鋭い顔で
「アリエル陛下、エドワード殿下、私は…ここに転生する前、百年近くも…様々な国家を破壊して来ました。
目の前にいるのは、どうすれば…国家を破壊する事が可能なのか知っている兵士です」
ディーオが左手を挙げて人差し指を立て
「一年です。それだけあれば…私は、この国を破壊できる。物量ではない。内部からジワジワと反乱の目を育て、あらゆる混乱を生み出して…完膚なきまでにこの国家を破壊できる」
そう告げる瞳には力強さがあるのを、アリエル達は感じる。
アリエルはシルフィーへ
「シルフィー」
シルフィーは頷き、別の部屋に行ってとある老婦人をつれて来る。
「ゼニスお母様…」
柔らかい笑みの老婦人ゼニスは、シルフィーの席に座って
「どうも…」
と、お辞儀してディーオを見詰める。
アリエルが
「先程の話は…本当なのですか?」
ディーオは頷き
「はい。再度、申しますが…。私は、ここへ転生する前に、幾つもの国家を破壊して来た」
それを口にした次にゼニスが
「ああ…そう、そんなに辛い思いを…して」
アリエルがゼニスを見て
「ゼニス様…彼の言っている事は…」
ゼニスが立ち上がって、ディーオに近づきその手を取り
「辛かったでしょう。沢山、傷ついて…人として生きる事を捨てて、強大な武器に己を変えて…。そんな生き方を続けて来て…辛かったわよね」
と、涙する。
それをエレナやダリス、リリアが見詰めていると、ディーオの目から涙が零れてしまう。
「あ、いや、これは」
ゼニスが、握るディーオの手にダリスやリリアとエレナの手を重ねて
「でも、貴方の心は、この子達によって救われつつあるわ。絶対にこの手を離してはダメよ」
ディーオはボロボロと涙して、涙するディーオをダリスとリリアにエレナの三人は見詰めるも、エレナがディーオを抱き締める。
ゼニスが
「アリエル陛下、彼が言っている事は、全て真実です」
アリエルはフッと笑み「そうですか…」と頷く。
ゼニスは、人の心を読める神子の能力を持っている老婦人である。
それがディーオの言葉を真実であると…。
その後、スムーズに話し合いが進む。
一応、持ち主はディーオという事で、その生産物を一括アスラ王家が販売を引き受け、それに必要な資源や物品もアスラ王家が購入するとした。
エドワードが唐突に、ならば、将来はこっちの王族の誰かをディーオの下へ嫁がせては?も提案したが、ディーオは即断って、自分達から生まれる子供達が将来、そっちに婿か嫁に行く事で…と決着させた。
ほとんどの話をルーデウス達が決着させていたのも功を奏していたのは間違いない。
色んな場所に恩を作るも、これは、この国が安定的に続く事で恩返しをしよう。
そう、ディーオは心に誓う。
その後、ルークとルディーオ、ディーオ達四人との話し合いになった。
そこでもディーオは
「本当に、父さん、ごめんなさい」
と、謝る。
アリエルがいた手前で謝った事ではない。本当の謝罪に、ルディーオは満足して、ルークが得意げに
「今後とも、真摯な態度でよろしくな。ディーオ。それと…娘、リリアを頼むよ」
「はい」とディーオは深く頷いた。
そして、ディーオ達四人が暮らす家、屋敷をルークとルディーオが用意してくれる事になった。
ディーオの錬金術と武器鍛冶屋を兼用する作業室と、四人が十分に子供を生んでも暮らせる屋敷を、父親達ルークとルディーオが用意してくれる…と。
ちょっとディーオは引いた。
家を買ってくるなんて、どこぞの金持ち…
ああ…そうだった。領主とその領主の兄に仕える弟の町長の二人が目の前にいた。
意識はしていなかったが…二人は貴族、資産家だった。
話によるとアリエルからも支援もあったらしい。
この冒険が終わり、ミルボッツ領へ帰って来た後は、四人の婚礼の後、もう…一緒に住めるように手筈が整う。
着実に、順調に、ディーオがこの世界で家族を持って暮らす準備が整っていく。
いや、外堀を埋めるようにカッチリと決まってしまう。
不満はない、だが、ここまでして貰えるなんて…感謝と共に驚きだ。
その感謝に報いる為に頑張ろう…とディーオは思う。
そして、帝都に滞在中、用意された屋敷でディーオは、とある研究をする。
その研究室で、二人の男性を前にする。
髭を生やした眼帯の男性と、眼鏡を掛けた長身の男性。
眼帯の男性はクリフで、眼鏡の男性はザノバだ。
ディーオは二人にお辞儀して
「どうも、お久しぶりです」
クリフは頷き
「大きくなったね」
ディーオは微妙な顔で
「一年前ですよ」
ザノバは首を横に振り
「いいや、身長が伸びた。成長した」
ディーオは気恥ずかしく
「恥ずかしいです」
三人はとある事で顔を合わせていた。
ディーオが前世持ちというので、その知識に興味を持ってザノバやクリフが顔合わせをしたのだ。
ディーオは、さっそく研究室で作った魔導鉱石の結晶を見せる。
それを魔導式の顕微鏡で見るザノバとクリフが唸っている。
ディーオがその結晶に魔力を送り
「見て下さい」
と、告げた瞬間、魔導鉱石結晶が鋭いナイフの刃に変わった。
それを手にするザノバが
「信じられない。これが…汝が作った極小の魔導装置の集合体を変形させて」
ディーオは頷き
「理論的には、どんな形状にも変化可能で、その込めた魔力の強さによって強度が上がります」
と、ディーオは告げた後に頭を掻いて
「この世界は、卑怯ですよ。私達の世界で似たような装置を作ろうとして、とんでもなく苦労したのに…こっちでは魔力を使えば簡単に出来た」
ディーオは、自身のドラゴンオーラという特殊能力を使えば、この世界にある物質、素材の結晶構造を自在に操作できるので、それを応用して前世であった特殊な極小機械機構を再現した。
クリフがナイフの刃となった結晶に再び魔力を込めると、今度はペンダントになった。
「すごい。これを大量に生産できれば…革命が起きるぞ」
ザノバが
「この技術を使えば、我らが目指す魔導鎧の最終、闘神鎧の完全体が作れる」
ディーオが
「でも大量は、ムリですよ。それだけでも相当に時間は掛かりましたから…」
まあ、簡単に作れた分、量産は出来ないので、そこは安堵してはいた。
ザノバとクリフが頷き合い、ザノバが
「どのように作るかは…」
「こちらに」とディーオは作る方法を記した書籍をクリフに渡す。
クリフが捲りながら
「なるほど…土系統の魔法と…雷系統の魔法…」
隣でザノバも読みながら
「あと、動力に光系統と、重力系統か…」
ディーオが自分を示し
「今後、私がアクエリアスを持ち帰れば、その生産装置で大量にこの素材を作れる筈です。どうしますか? アクエリアスで生産される物資は、アスラ王家が専属で管理する事になっています。それを…お二人にも融通するように…」
ザノバが
「その心配はない。我らはグレイラート騎士団を介してアスラ帝国とも繋がっている。今後、魔導鎧製造の為に我らに優先的に来るだろう」
ディーオは頷いて
「そうです。それと…例の…」
クリフとザノバは頷き、ザノバが懐から
「君が設計した…魔力を回復させるポーションを更に強化した、自己体内にある魔力の半分以上を瞬時に回復させるエーテルの試作品だ」
と、光る結晶が入った三センチサイズのカプセルを見せる。
それをディーオが受け取って
「まさか…本当に出来るなんて…」
クリフが腕を組み
「君が、魔力結晶を手にした時に、特定の波長を放っていると言っていて、それを変調する事で、人族や魔族、獣人族、龍族といった各種族の魔力を回復させるアイテムを作れないかって提案してくれなかったら…出来なかったよ」
ディーオは魔力を回復させるポーション、エーテルを掲げ
「この素材となる魔力結晶は…」
クリフが頷き
「私の妻のエリナリーゼが…体内で生成するのだよ。まあ、それが原因で…妻は、今まで色んな…面倒な事に巻き込まれて来たが…」
ディーオがクリフを見詰めて
「そのクリフさんの奥方は…」
クリフが扉へ「エリナーー」と呼ぶと、ドアを強引に開けて、豪勢な髪型をしたエルフが飛んで来てクリフに抱きつき
「待っていましたわーーーー」
クリフは妻であるエルフのエリナリーゼを抱き締めて
「寂しい思いをさせたね。彼女がエリナリーゼだ」
ディーオは無意識にDNAチェックしてしまい
「ああ…シルフィーさんの…」
エリナリーゼはハッとして
「分かるんですの?」
ディーオは頭を下げ
「初めまして。その…ちょっと特殊な能力がありますので…それで」
クリフが
「さっそくだが…妻を君のDNAチェックという、形質を見る力で見てくれ」
ディーオは、正面にエリナリーゼを座らせ、同じ目線にして対面に座る。
ディーオは、エピオンにあるDNAチェックを使ってエリナリーゼのDNAを検査する。
それは不思議な光景で、ディーオの目が何度か点滅して様々な光を放っている様子に、エリナリーゼが
「おもしろ梟みたいですわね」
クリフが
「エリナ、しばしの辛抱だ」
ディーオがDNAチェックを終えて
「不思議ですね。元の形質である部分を、何かの装置によって変更されている形跡があります」
クリフとエリナリーゼが視線を合わせて、クリフが
「つまり、何かの方法で妻の元からある形質が、何かに書き換えられているという事か?」
ディーオが頷き
「その通りです。本来の形質は、体内にある魔力をある程度、貯蔵してここぞ!という時に火事場のバカ力のように発揮するのが本来の形質なんですが…」
クリフが
「もしかして、昔…迷宮に閉じ込められていたから…」
ディーオが首を傾げ
「それにしては、歪では無く、長い時間を掛けて安定的に形質を変化させているので…事故的な事ではないとおもいますし…それに…」
エリナリーゼが
「それに…とは?」
ディーオが
「エリナリーゼさん、過去の記憶の欠損が…ありますよね」
エリナリーゼは頷き
「ええ…昔の事、その迷宮から助け出される前の事が分からないんですのよ」
ディーオは考えながら
「エリナリーゼさんのような長耳族の方は、遺伝子、形質内に自分の記憶を保持する力を持っているんです。その脳内では収まらない記憶を、何らかの物質の圧縮として体内に保持しています。その圧縮されている記憶の物質に欠損があるようです」
クリフは暫し考え
「それは…直す事は…」
ディーオが微妙な顔をすると、クリフとエリナリーゼが察して
「出来ないのですね」
と、エリナリーゼが告げるが
ディーオは厳しい顔で
「完全とは言えませんが…ある程度の復元は可能です。妻達の力を借りないといけませんが…。ですが…それを復元する事によって、本人の今、ある人格に影響が出るかもしれません。人格は、記憶によって形成されますから、過去の…何かの強い記憶の影響で…人格が変貌する可能性が高いです」
クリフとエリナリーゼが、互いに見つめ合う。
クリフが
「エリナ…私はどんな事があっても君を愛している、どんな事になってもだ」
エリナリーゼは爪を噛んで苛立つ。迷っているのだ。
ディーオが頭を掻き
「あの…ぼく達が回収する戦艦アクエリアスには、今の人格を維持したまま、過去を他人のように見せる装置があります。それなら…今の人格を変貌させる事なく、過去を思い出せます。それにしますか?」
安全策を示されてエリナリーゼが
「それにしますわ」
ディーオは頷き「分かりました」と了承した。
その後、ディーオは妻達リリアとダリスにエレナの三人を呼んで、エピオンの端末リングでエリナリーゼを囲み、エリナリーゼに掛かっている呪いの部分だけを、自分でコントロールしやすいようにした。
男性の精を受けずに魔力結晶を排出できるようにした程度だが、エリナリーゼには相当の苦しみからの解放らしい。
ただ、その変更によって愛している殿方、夫クリフとの営みに関して…快楽感度が数十倍にもなる副作用が出てしまった。
当人達は喜んでいるので良しとした。
クリフにエリナリーゼとザノバの三人が帰った後、ディーオは、魔力回復のエーテルの試作品と設計方法を記した書類を見て
「んん…これなら、アクエリアスで生産可能か…」
この魔法の世界には、魔力を回復させるアイテムが存在していなかった。
このエーテルの試作品が完成され広まれば、この世界のほとんどの戦士は魔法騎士という魔法を主軸にした兵士になるのは目に見えていた。
この世界は、持っている魔力の体内量が戦力になる図式だったが…このエーテル回復を使えば、魔法さえ発動できれば、エーテルで回復し続けて強大な魔法を使える。
ちょっとしたパワーバランスが…。
その辺は、後々、制限が掛かるようになるだろう。
後々の事は、アクエリアスを得てからでも…
そうディーオが考えていると、今いる研究室のドアがノックされた。
時間は夜だが、待ち合わせしている人物がいた。
ディーオはドアを開けると、その人物がいた。
右目に眼鏡を填める男性の魔術師クレイオル・アルヴァードルだ。
ディーオは「どうぞ」とクレイオルを招き入れ
クレイオルは淡い金髪の頭を下げて
「失礼するよ…」
と、入るとクレイオルは懐からとある結晶が入ったケースを取り出す
「これが…クリスタルヴァイドから取れた結晶です」
ディーオはそれを受け取り
「これが…」
と、クリスタルヴァイドの結晶が収まるケースを凝視する。
クレイオルはクリスタルヴァイド結晶の研究者の魔術師だ。
ディーオは、クレイオルのお茶を出しながらクリスタルヴァイドの結晶が持つ効果を聞いた。
最初は、重力を打ち消してモノに浮力を与える魔石だと思われていたが…重力魔法関係なく、浮かぶ力を生成しているのが分かった。
では、どうして、浮力を発生させたりできるのだろうか?
様々な実験が成された結果、これは全ての世界の力に対して逆に働く力が生じているのでは?の仮説になった。
その理由としては、重力魔法を放つとそれとは逆向きの重力魔法を放って反発する。
雷撃の魔法を放つとそれとは逆の雷撃の魔法を放って反発する。
つまり、様々な外圧の力に対して全て逆、反発する力を生成し続けている事から、その仮説が立てられた。
その話を聞いた時、ディーオの顔が見る見る険しくなった。
それにクレイオルが訝しい顔で
「どうしたのかね?」
ディーオは頭を振って
「いいえ。その…本当に奇妙ですよね」
クレイオルは頷き
「まだまだ、研究は必要だけどね」
ディーオが両手に持つクリスタルヴァイドの結晶が入ったケースを掲げて
「ちょっと調べても」
クレイオルは微妙な顔で
「あまり…損耗させないで欲しい。33年前のクリスタルヴァイドの災厄の終焉以降、クリスタルヴァイドは現れていないから、貴重な素材なんだよ」
ディーオは
「少し、自分の力で観測するだけですから」
と、告げると、クレイオルは
「少しだけだよ」
クレイオルの許しを得てディーオは、DNAチェックでクリスタルヴァイドの結晶を測定する。そして…
「すいません。やっぱり自分の力では…分かりませんでした」
クレイオルは複雑な顔をする。
グレイラート騎士団からディーオは特殊な目の力を持っているという話で、何かしらクリスタルヴァイドの事が分かるかも…の期待はあったが
「そうか…まあ、未知な存在だ。仕方ないさ」
ディーオは、クリスタルヴァイドの研究材料をクレイオルに返して
「ありがとうございます」
クレイオルは微笑み「いいさ」と答えてくれた。
クレイオルを下まで見送ると、馬車にドレスを着た女性が立っていた。
年齢として二十歳くらいの茶色の金髪の女性だ。
その女性が、クレイオルに気付くと
「アナタ…お迎えに上がりました」
クレイオルは微笑み
「ありがとうヴィオラ」
ディーオは二人の様子から、夫婦ではなく、何処となく同士というか仲間に近い感じを受けた。
それは距離感だ。
愛し合っている男女の距離感はゼロに近い。
だが、この二人、クレイオルが僅かにヴィオラに距離を置いていて、それに追いつこうとヴィオラが並んでいるように見えた。
ヴィオラがディーオを見て
「アナタ…この方は?」
クレイオルが頷き
「彼は、グレイラート騎士団からの紹介で、様々な魔道具の素材の研究をしている若手の錬金術師だそうだ。これをね」
と、クリスタルヴァイドの結晶の見本を見せて
「これを見せて欲しいとグレイラート騎士団から勉強を頼まれてね」
ヴィオラがお辞儀をして
「初めまして、クレイオルの妻ヴィオラです」
ディーオもお辞儀して
「初めまして、グレイラート騎士団の…見習いですが。ディーオ・アマルガムです」
二人は挨拶を交わした。
その後、クレイオルはヴィオラが乗って来た馬車に乗って帰って行った。
その馬車に乗せる時、クレイオルがヴィオラの隣に立って、先にヴィオラを乗せた後、自分が後から乗った。
その様子は、まるで姫を守る騎士のようだった。
妙な光景だった。
夫婦、特に貴族とかルーデウス達もそうだが、妻を何かに乗せる場合は、先に自分が乗って、その入口で妻の手を引いて中に入れる。
なんでも妻を危険から守る為に、どんな時でも先に行き安全を確認してから妻を乗せるらしい。
あの馬車は、クレイオルの妻ヴィオラが用意した馬車なので、違ったのかもしれないが…何か、ズレを感じた。
まあ、いいか…とディーオは、自分の妻達ダリスやリリアにエレナの三人が待っている屋敷へ向かった。
帰ってくると私服のダリスやリリアにエレナの三人が、エドワード殿下…エドワードとクリスティーナの二人と話していた。
この屋敷は、エドワード殿下の邸宅なので当然だが…。
リリアが「あ、お帰り」と続き、ダリスにエレナが「お帰り…」
「ただいま」とディーオが三人の下へ来て三人の額にキスをする。
それを見てクリスティーナが
「あら、お熱いことで…」
エドワードが
「やけに帰宅が遅かったが…」
ディーオが難しい顔で
「クリスタルヴァイドについての話を、研究をしているクレイオル様から聞いていて…」
と、告げた次に、んん…とディーオが考える顔をする。
それにエドワードとクリスティーナは、顔を合わせ、エドワードが
「何か気になる事でも?」
ディーオは難しい顔で額を掻いて
「まだ、確証を得てはいませんが…クリスタルヴァイドは…ある存在と似ていると思いまして…」
クリスティーナが
「ある存在とは?」
ディーオが難しい顔で
「時空境界間生命体です」
変な単語が出て来たので、ディーオ以外が顔を見合わせ、エレナが
「説明してディーオ」
ディーオが考えて
「ええ…つまり、異世界と異世界の狭間、時空の境界線上に生まれる生命体で、通常ならこの世界、実体世界に出現なんて出来ないのです。つまり、時空の海を泳ぐ魚で、その時空の海から、実体世界、この世界に打ち上げられたら…生存はできないんです」
エドワードが
「つまり、その存在と…」
ディーオが
「貴重な、コアに近い部分の素材を見た時に…それと似ていたので…戸惑っています。なので、もしかしたら、知らない未知の存在かもしれませんから…」
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