第8話 ターニングポイント

 ディーオ達が誘拐される数日前、ナナホシが時間凍結冬眠する空中要塞カオスブレイクでは、オールステッドと同じ龍族が異世界から来たナナホシを元の異世界へ戻す為の研究が続けられている。


 その空中要塞カオスブレイクの主、ベテルギウス・ドーラのドーラは銀髪金眼で角張ったひげ面の、何処かの将軍のような様相で、多くの魔導装置達を操作して、とある魔法陣を形成する。


 その魔法陣の中心にあるのは、小さなハンカチだ。


 ドーラの隷の精霊の一人、白い制服で女性の精霊トロフィロスが

「ドーラ様…これを使って…」


 ドーラは頷き

「ああ…ナナホシが来た異世界への送還を試みる」


 トロフィロスが

「成功するのでしょうか?」


 ドーラは厳しい顔で

「ナナホシがこの世界に来た時、ナナホシが身につけていたガクセイ服なる服も、ナナホシと同じく不老に似た損耗をしなかった。どんなに強力な魔法で壊そうとしても」


 トロフィロスが頷き

「確かに、全ての契約を破壊するドーラ様の隷のトッドパーズでさえ、出来ませんでした」


 ドーラが

「つまりだ。このナナホシが身につけていた品も、ナナホシが召喚された時に付与された力に影響されている…そういう事だ。逆に考えれば、この世界の影響を受けていないという事は、ナナホシの世界と繋がっている可能性がある」


 トロフィロスは頷き

「なるほど、つまり、これはナナホシ様自身ではないが、ナナホシ様、同様に影響されている。それはつまり、ナナホシ様の世界に通じている」


 ドーラが

「コレを上手く送り返す事が出来れば、ナナホシの仮説通りに何かを終えなければ、ナナホシは帰れないが、これはナナホシ自身ではない。故に送還できた場合、その矛盾を探し出す事ができるかもしれん。それによって…」


 トロフィロスは頷き

「やってみましょう」


 ドーラ達は装置を動かして、ナナホシの持ち物である異世界からのハンカチの送還を開始した。


 魔法陣が煌めき、ハンカチが異世界送還によって転移する寸前。

 その閃光のゲートから、膨大なエネルギーが噴き出した。


「なんだ!!!!」とドーラ達は防壁を張って防いでいる間に、そのゲートから一枚の金属板と、何かの箱が落ちて来た。

 それによってゲートが消えた。


 ドーラが困惑して

「何が起こったのだ?」

と、壊れた魔法陣の上に落ちた金属板と何かの箱の傍に来ると、その金属板から音声が放たれる。

「聞こえる? 誰か! 聞こえますか?」


 ドーラは、女の声がする金属板をサーチ魔法で調べて害がない力が出ていない事を調べて、反応が無かったので拾い

「お主は誰だ?」


 金属板から音声で

「その声は、カオスブレイクのドーラなの?」


 ドーラとトロフィロスは困惑して、トロフィロスが

「お主、我が主に不敬であるぞ」


 金属板から音声が

「聞いて、大変な事がそっちで…起ころうと…して…」

 音声が途切れ途切れになる。

「この装置を七星 静佳に渡して、そして…一緒に来た箱も渡して!」


 ドーラが

「お主、何者だ? なぜ、ナナホシを知っている?」


 その問いに金属板から音声の女が

「私は、ナナ…なの。世界が、そっちの歴史が…改変…変化…始まっているわ」


 ドーラが困惑して

「歴史が改変、変化? どういう事だ」


 金属板から音声の女が

「お願い…コレ…ナナホシ…渡せば…分かる…だから」

 ブチッと切れた音をさせて音声が切れた。


 ドーラ達は困惑するも、言われた通りにナナホシへこれを渡す。

 それは丁度、ナナホシが目覚める月に一度の日だった。


 ドーラは、金属板と幾何学模様の箱を渡す。

 ナナホシが金属板を受け取り、椅子に座り。

「これを…私に?」


 ドーラは頷き

「うむ。お主の異世界送還の実験中に現れて、その金属板がお主に渡せ…と」


 ナナホシが、その金属板の上に手を置いた瞬間、金属板が電子回路模様を脈動させる。「え?」と困惑するナナホシ。

 ドーラが「すぐに捨てよ!」と叫ぶ。


 ナナホシがその金属板を投げた瞬間、金属板が浮かび上がってナナホシの周囲に光のリングを構築して、様々な立体画面を投影させる。


 そのリングから音声が流れる。

《ユグドラシルOS起動、所有者の七星 静佳を認証》


 ドーラが困惑して、ナナホシが囲む光のリングとパソコンのような画面達を見て

「これって、もしかして…パソコン?」


 ドーラが

「パソコンとは何だ?」


 ナナホシが考えつつ

「要するに色んな情報を溜め込んで読み出したり、書き出したりする装置、本が進化したモノよ」


 ドーラが驚きで、ナナホシの周囲を囲むシステムリングを見詰め

「これが…書籍? なのか…うむ…凄まじい叡智だ」


 ナナホシはシステムリングに触れると、本当にパソコンのように操作できて

「色んなデータが、情報が…入っている」

 ナナホシはそのデータを開示していく。

 膨大な素材や、兵器に関するデータ。ヘオスポロスという組織が持つシステムに関してと、そして…共に来た幾何学模様の箱には、デウス型ナノマシンで構築されたネオデウスクリスタルがある…と。


 ナナホシは、その使い方を調べて、その中に装備者の治療という項目に、魔素蓄積病を治療する方法があった。


 ナナホシは驚く。

 自分が異世界人であるが故に、魔力を蓄積して病になってしまう病気の完全治療方法があるのだ。 

 その方法とは、体内に蓄積する魔力は細胞内を変質させるラプラス因子の影響で、体を改造させて弱っていくという事だ。

 つまり、魔力自体が悪者ではなく、魔力とセットになるラプラス因子が作用して体内で悪さをするというのだ。

 そのラプラス因子を分解して機能不全にすれば、魔力は体内に正常に蓄積され、魔法が使えるようになる。

 では、どうやってラプラス因子が入り込むのか?

 この世界には、ラプラス因子を含む生物が多くいる。

 ラプラス因子とは病気にならずに生体に潜むウィルスで、そのラプラス因子ウィルスは、何れ復活する魔神ラプラスの為に活動していて、魔神ラプラスの復活に適した生体があると、その中で魔神ラプラス化を行う。


 その説明を聞いたドーラが頷き

「そういう事だったのか…」


 ナナホシが

「世界に散らばる、神の子達や、ルーデウスのように強力な魔術を使える者達…その理由がコレなのね」


 ドーラが頷き

「この世界に病巣の如く広がるラプラスの因子が原因で、ナナホシのような病気があり、そして…それが魔神ラプラス化への鍵だったとは…」


 ナナホシは、金属板のスーパーパソコンと一緒に来た幾何学模様の箱を両手に握ると、スーパーパソコンの通りにその箱のロックを解除して、内部にあったネオデウスクリスタルを手にする。

 そして、金属板のスーパーパソコンとネオデウスクリスタルをリンクさせると、ネオデウス・クリスタルから、ネオデウスの端子が伸びてナナホシの中へ入る。

 それによって、ナナホシが患っている魔素蓄積病を治療を開始して、ナナホシが握るネオデウス・クリスタルから滴るように蓄積した魔素と、ラプラス因子を落として、床に落ちた瞬間に結晶になった。

 それをドーラが拾い

「これがナナホシの体を改造しようとして損害を与えていたラプラス因子と」


 ナナホシが頷き

「それに付いていた魔素よ」


 ドーラがナナホシに

「その治療が終わった…という事は…」


 ナナホシが頷き

「ええ…このネオデウス・クリスタルのナノマシン? 物質達が私の体を守ってくれるし、魔法も使えるようになるみたい」


 ドーラは

「これを誰に知らせれば…」


 ナナホシが考え

「まずは、オールステッドとルーデウスに…」


 ドーラは頷き

「直ぐに呼んでくる」

と、同じ龍族のオールステッドと、その右腕ルーデウスを呼び出しにいった。


 その間、ナナホシは送られたスーパーパソコンを操作して、その中にある様々な資料を見る。

 そこには、今後、帰還する方法、つまり、どうすれば帰れるのか?の理由と方法に、そして…こう記されている。

 更に、自分達の今とは違う歴史の、この異世界の資料が四つあり、未来のナナホシが、今、この異世界にいるナナホシに当てたメッセージがあった。


 エピオンを探して。


 そのメッセージの後、何が地球で起こって、何がこの異世界で起ころうとしているのか?

そして…現在、進行形で歴史が組み変わっているという事実が…。


 ナナホシは驚き驚愕する事ばかりだった。


 ナナホシは、将来、地球へ帰る事が出来た。

 それは篠原秋人と共にだ。

 だが、その歴史は違っていた。

 ルーデウスが亡くなって数年後、ルーデウスの子孫達にオールステッドと共に人神を倒して、それによってナナホシ達が帰る手段を手にする。

 そこには、とある地域の災害級の転移事件、そして、飛空艇といった技術もなかった。


 つまり、アスラ帝国の前身、アスラ王国のとある地方で起こる筈の大規模転移災害事件が起こらず、その代わりにクリスタルヴァイド達の出現が起こった。


 ナナホシが

「フィアット領の事ね…」

 歴史の書き換えが起こっている。

 

 未来のナナホシが告げる。

 今、私の中にあるそっちの異世界の記憶が二つになっている。 

 一つ目は、AD500年にヒトガミ=フェイトを討伐、永劫封印して帰還する過去。

 二つ目は、今、現在進行形で新たな過去が刻まれている。


 今、ナナホシがいるこの世界は、新たな過去を現在進行で形成しているのだ。

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