第5話 誘拐と力

 八歳になったディーオ。

 ミルボッツ領の領主の娘の一人、リリアの友人兼教育も任されている。

 無論、それにダリスやエレナも加わって、ディーオ、ダリス、エレナ、リリアの四人が一緒に遊び、友人のようになっていった。


 エレナは、友人が出来た事で心が安定して、魔法を暴発する事は無くなった。

 

 ディーオ、エレナ、ダリス、リリアにはそれぞれの得意分野が出て来た。


 エレナは、強大な魔法力。

 ダリスは、魔法と剣士の力。

 リリアは、剣士の力が主軸で魔法が使える。

 ディーオは、治癒魔法が得意な剣士。


 ダリスとリリアは、魔法剣士。

 エレナは典型的な魔法使い。

 ディーオは希な治癒魔法専門の聖騎士。


 それをララが見て思う

「この子達、パーティーを組んだら…」


 それとは関係なく、ディーオは北神流と、水神流の剣術を鍛える。

 剣王ディリーナが剣神流も教えようか?と尋ねたが…。

 なんとなく、カウンターの水神流や、色んな手管がある北神流が面白いので、こっちをチャンとしてから剣神流を習う事にした。


 リリアとダリスにエレナとディーオは、ディーオの家で祖父ゼロスと剣王ディリーナの指導の下で剣術を研鑽する。


 リリアが「退屈!」と木刀を投げ出して庭へ転がる。

 そこへ見学のララが、相棒の狼犬レオと共に来て

「なら、魔法を習いますか?」

と、魔法の教本を見せて微笑む。


 リリアは微妙な顔をして立ち上がり

「やっぱり、剣術をやる」

と、ディーオとダリスにエレナの三人に並んで木刀を振るう。


 ララは下がって四人が頑張る庭を見詰める指定席へ座る。

 懐かしい風景だ。ララも父ルーデウスや、母達の一人エリスから剣術を習った。

 そんな日々を思い出して微笑む。


 ディーオは一心不乱に木刀を振るう。

 手首を返して上段で振るう型をずっと、一時間も続けている。

 その隣にダリスも並んで、同じ型で振るう。


 エリスは魔術師志望なので、手軽に動けるナイフ剣術を祖父ゼロスから教わる。


 剣王ディリーナは、ディーオとダリスがピッタリの呼吸で剣を振る続ける姿に頷く。

 そこへリリアも来て、三人並んで木刀を振るうも、リリアだけが遅れたり早くなったりして合わない。

 人によって剣を振るう速度に違いはある。

 それにダリスとディーオは、付き合いがリリアより長い。

 だからこそ、呼吸が合うのかもしれない。


 ディーオとダリスが型の練習を終えると、リリアも続いて終えて、剣王ディリーナが家の裏からとある木の棒を持って来て、三つ庭に打ち付ける。


 三つの木の棒を、軽く庭に立てて植えた後、剣神流の無音の太刀とされる音を置き去りにする斬撃で木の棒を打つ付けて深く埋めた。


 ディーオは、音を置き去りにする程の剣速なんて、前世では見た事がない。

 音を置き去りにするのだから、相当の加速質量が付いて強力なのは分かる。


 ディーオはディリーナに近づき

「どうやって、そんな速度で切っているんですか」


 ディリーナがディーオの頭をなで

「ディーオも訓練して行くと分かるが、全ての存在には魔力が宿っている。その内部に宿る魔力の拡散を抑えて固める事で身体能力を飛躍させる。それを闘気と言うんだが…分かるか?」


 ディーオは考えた後に

「つまり、体になる魔力を漏らさないようにして身体を強化するんですよね」


 ディリーナはフン…と鼻息を荒げ、ディーオの頭を荒くなで回し

「たまには、子供らしくおバカな答えを言うもんだぞ」


 その反応は当たりだったらしい。


 闘気という力を使うには、それなりに長い年月の訓練が必要らしい。自然とそれらしい事が身に付くが、それでもかなりのレベルまで上げるには才能と努力が必要である。


 ディーオは考える。

 自分達、地球という世界、物理世界では、その物質が持つ性質が絶対だ。

 なので、こんな魔力だけで身体能力を強化するなんて不可能だ。

 ただ、唯一例外があった。

 ナナホシ博士が構築したセブン理論だ。

 それが…。

 なるほど、セブン理論は、この世界の事があったから…構築できたのか…。


 考え込んでいるディーオにディリーナが

「何か、思い当たる事でも?」


 ディーオが微笑み

「いえ、考える事が趣味みたいなもんですから…」


 ディリーナが

「そうか…ならば、次の訓練に入るぞ」

 次の修行が用意されていた。

 それは、ディリーナが打ち付けた木の棒を木刀で叩き続けるというモノだ。


 リリアが勢い巻いて

「この木の棒をぶち壊してやるわ!」


 ディーオは、ええ…と引いてしまう。

 木は最も硬いであろうアカガシの色をしている。

 しかも、筋肉隆々のディリーナの腕と同じくらい逞しい太さだ。


 ディリーナが

「リリア、いいぞ! 何度も打ち付けて壊してしまえ!」


 ディーオは修行の内容を察する。

 木を打ち付ける事で、振り下ろす力を付けさせる訓練だ。

 昔の書籍情報で立木打ちとかいう訓練を読んだ事がある。

 まさにそれだ。


 リリアは楽しそうだが、ディーオとダリスは、着実に打ち込んでダメージを…

 ムリだ。何度、打ち付けてもビクともしていない。

 意味があるのは分かる。でも…まあ、いいか。


 リリアとディーオとダリスの三人は、立木打ちで訓練する。

 ディリーナが腰の入っていないディーオに

「ディーオ! ムリだと思って怠けるな! 本気で切り倒すつもりで打ち付けろ!」


 厳しい檄を背中から受けたディーオは苛立ち

 こんなの切れる訳がない。でも…

と、呼吸を深く整える。

 魔力は呼吸と似ている。呼吸や体全体から吸い込むように魔力を取り込む。

 これは前世の世界では無かった事だ。

 あ、いや、呼吸はあったか…。

 ディーオが立ち止まり、呼吸を整えているのをディリーナは見て、集中していると思った。


 両脇にいたリリアもダリスも、ディーオが集中し始めて黙っていると分かり、なぜか手を止めてしまった。


 はぁぁぁぁぁぁ すぅぅぅぅぅ

 ディーオは何度も深い呼吸を繰り返す間に、体に満ちる魔力の流れを感じる。

 瞑想した時に感じる血流に近い。

 その魔力の血流にドラゴンオーラの力を乗せる。

 何度も打ち付けると体力や体にダメージが入るので、その回復の為にだが…そのドラゴンオーラが持っている木刀まで伝わり、まるで木刀を自分の一部であるような感覚に包まれる。


 なんだコレ?

 まるで、前世の時にあったシステム装甲一致と同じだぞ。

 前世であった装備とリンクする感覚と近い事に気付く。

 そして、そのリンクした感覚を使って、流れが繋がった木刀の周囲に鋭い流れを作る。

 

 ディーオを外から見ている者達には、ディーオの全身が淡く輝いて、それが木刀まで伝わっている。


 ディリーナが驚きの顔で

「まさか…闘気なのか?」


 ディーオは、そのまま素早く立木打ちの木へ光が纏わり付いた木刀で上段下ろしの斬撃を放つ。


 硬いアカガシの立木が切断された。

 乾いた音を響かせて切断した部分が転がった。


 全体に静かな沈黙が訪れる。

「え?」と切った本人であるディーオが困惑する。


 この原因の解析をララが行ってくれた。

「この切れた木の断面から、僅かですが…魔力の反応があります」


 ディリーナが

「つまり、魔法を木刀に掛けて切った…と?」


 ララが首を傾げて

「それにしては、術的な感じは一切ありません。なんというか…闘気で殴った痕に近い感じがしますね」


 ディリーナが腕を組み

「つまり、ディーオの話を推察するに、ディーオは闘気が使えて、それを体の一部でない木刀にまで及ばせた…と」


 ララが隣にいるディーオに

「ディーオ、間違いないのですよね」


 ディーオは頷き

「はい。呼吸をして魔力を取り込んで闘気のようにしようとして、どうせ…打つとダメージが来るからドラゴンオーラを発動して纏ったら…」


 ララが顎に手を置き

「有り得ない話ではないかもしれませんね。ディーオは珍しいタイプでドラゴンオーラが使えます。ドラゴンオーラは、全ての生物、万物を再生させる力がある。再生させるという事は強化も出来る」


 ディリーナが頷き

「なるほど、癒やすという事は、強化に通じるか…」


 ララが

「ですが…」

と、ディーオの木刀を持つと、簡単にへし折った。

 そんなに簡単にへし折れるような強度ではないのに、折れた次にそこから木の枝が吹き出して葉っぱや枝が伸びて木に戻った。

「諸刃の剣ですね。恐らくですが、素材の強化をした場合、素材の力が飛躍的に向上して強度も増しますが…それが切れた場合は…強化、活性化した事によって、このように素材になる前の本来の姿に戻る」


 ディリーナが「鉱物なら…」と尋ねる。


 ララは考え

「木刀とは違って大丈夫でしょうが…。ですが、試してみないと…」


 ディリーナが脇にある剣の一つを手にして

「これは、鉄で出来た剣だ。やってみよう」

と、ディーオに渡した。


 ディーオは、先程と同じように魔力を圧縮して闘気を纏い、ドラゴンオーラと混ぜて剣に伝えると、それで別の立木を切った。

 簡単に切れた。

 立木の木はアカガシという硬い木で、鉄でも弾く事があるが、ディーオの力も合わさって切れた。


 そして、切り終わった鉄の剣が砕けた。

 えええ…なんで?

 ディーオは首を傾げる。


 それを見たララとディリーナが鋭い視線をしている。

 ララが

「なるほど、鉱物の道具は魔力をため込みやすい。これは…つまり、この剣は…」


 ディリーナが

「使えればいいという、粗悪な一品だ」


 ララの結論

「つまり、ディーオの特殊な力は、持つ武器やモノの強度を飛躍的に上げるが…生物由来のモノは、使用後に元の素材に戻る。だけど鉱物は、その活性強化する力に耐えきれず、砕ける」


 ディリーナが

「かなりの上物の品なら耐えられるだろうが…こういう使えればいい程度の下級品は耐えられないか…」


 その後、色々と実験をして分かった事。

 ディーオのドラゴンオーラを使った素材強化の力は、ドラゴンファングと命名された。

 そして、最大で元の素材強度の数十倍まで上げられるが、生物由来のモノでは、ドラゴンファングを解除した次に、元の加工前の素材へ戻る。

 革で作られた鞭は、その革が加工前の状態へ戻った。

 完全に生物に戻るではなく、加工前に戻るようだ。

 鉱物は、その活性化に耐えられないので砕ける。

 かなりの上物の品なら耐えられる。


 このドラゴンファングを生きた存在、偶々いたネズミに掛けても、ドラゴンオーラと同じ超再生になるだけだった。

 

 凄いようで、大した力ではない。

 医者になるなら、凄い力だが…こちとら、医者になんてなるつもりはないのだから…。



 で、翌日、当然だけどドラゴンファングは使わないで剣術の訓練がなされて、午後はララの授業を聞いて、算術は、前世からあったソロバンを使った。

 リリアが紙の計算では出来ないというので、前世であったソロバンを作って憶えさせたら、もの凄い早さで上達、それにダリスにエレナも、何故か知らないがディリーナも加わり、ソロバンで算術をやるようになった。

 因みに、このソロバンはララによって色んな場所で使われるように、技術を伝播させたらしい。

 城塞都市ノアの露店で、ソロバンを使って計算する店の人が増えていった。


 あと、数ヶ月で九歳になる。

 順調に体は育っている。

 身長も一つ年上のダリスとリリアと同じくらいだ。

 この年齢の女の子は男の子より大きい。

 だが、自分は、ちょっと違うらしい。

 三人仲良く、エレナはちょっと小さいが育っていった。


 そんなある日だった。

 その日は偶然に、ディリーナが用事で呼ばれて、先に帰ってしまった。

 夕暮れで帰りが夜遅くなるので、祖父ゼロスがリリアの安全の為に家に止める事にした。

 その知らせはリリアの家に届いて、リリアは泊まる事になり、リリアとエレナにララ、ダリスがディーオの家に泊まる。

 

 その夜、ディーオの部屋で子供達が眠る時に、ララが寝かしつけに本を読んでくれた。

 リリアとエレナ、ダリスは眠り、ディーオだけが起きていた。


 ララが

「ディーオだけでも眠れますよね」


 ディーオは頷き

「おやすみなさい」


 ララが、相棒の狼犬レオと共に隣の部屋へ行く。


 ディーオが眠ると、そこはあのフェイトとの会話する場所だった。

「何の用だ?」

と、この世界でのディーオ、紅蓮の装甲に身を包み鋭いサソリの毒尾のような先端が密集する翼を持つエピオンが目の前にいる白い人型フェイトに尋ねる。


 フェイトは不気味に笑み

「もの凄いイベントがあるんだよね。きっと力を試せると思うよ」


 エピオンが鋭い目で

「力を試すだと?」


 フェイトが頷き

「そう。この世界に来て、本当に力を、その姿になれるのか? 疑問があるだろう。だから、その為の場を用意してあげる」


 エピオンが目を見開き

「キサマ!」


 ワンワンワン! 

 大声で鳴く犬の声が聞こえて目が覚めると、そこは誰かに捕まるディーオと、ララの相棒の狼犬レオが、その捕まえている者達に飛びかかっている姿だった。


「クソ!」と誘拐者達は叫び


「レオ!」とララが部屋に駆け込む。


 ディーオが気付くと、体を縛られ猿ぐつわをされているリリアとダリスに自分、そして、レオが噛みついた事で離したエレナが床に

「逃げるぞ!」

と、誘拐者達は、ディーオにリリアとダリスの三人を誘拐して走って行った。

 

 白き狼犬レオが追跡しようとするも、逃げる男が何かを放つ。

 それは北神流にある相手を止める粘液だった。

 それにレオは捕まって、取り逃がした。



 誘拐されたディーオ達は、とある部屋に投げ入れた。

 縛られて部屋に残されるディーオとリリアにダリスの三人、リリアが「んんん!」と暴れる。

 ダリスが周囲を見渡し、部屋に転がっていた錆びていたナイフまで行き、それを後ろで縛られている手に掴んで転がって、ディーオに渡した。

 ディーオはドラゴンファングでナイフを活性強化すると、錆びが取れて切れ味が増して、手を縛るロープと猿ぐつわを外して、リリアとダリスのロープも切って外した。


 リリアが怒り気味に

「アイツ等」

と、叫ぼうとした口をディーオが塞ぎ

「黙って」


 リリアはイライラした顔をするも頷く。

 ディーオは、外が見える高い窓へ昇ると、ここが何処なのか分かった。

 自分達の村から離れた場所にある風車小屋だ。

 栽培期である風車小屋は閉鎖されて人も、点検で月に一度程度しかこない。

 そして、その風車小屋の隣には二十メートルくらいに古びたブリッグ級の戦艦飛空艇が見えた。

 その戦艦飛空艇の側には、同じく攫われたであろう子供達が十人も並んでいた。


 ディーオはそれで察した。

 これは人攫いだ。しかも子供を狙った。


 ダリスが不安げに

「ディーオ、どうする?」


 ディーオはシーと指を立てドアに耳を当てて話を聞く。

 誘拐犯達が話をしている。

「ああ…くそ、あの犬…ぶっ殺してやりてぇ」

「ほら、薬だ」

「しかし、しけた所だな…子供が少ねぇぜ」

「中心にある城塞都市ノアならタンマリいる。そこで後、五人も手に入れれば十分さ」

「女の子は、貴族共の慰み奴隷で、男は暗殺者か傭兵に育てるなんて…」

「いいじゃねぇか、オレ等はそれでお金を貰う。それだけさ」

「しかしまあ、このブリッグ級の飛空艇をちょろまかしたお陰で、楽なったよなぁ…」

「これも援助してくれる貴族様のお陰さ」


 ディーオは耳をドアから離す。

 リリアが同じく聞いていて

「どうするのよ?」


 ダリスが

「逃げないと…」


 ディーオは考える。

 逃げてもいい。だが、連中はまだ、ここに残る。

 そうなると誘拐される子供達が増える。

 エレナが…

 は、まさか…

 フェイトの言っていた事を思い出した。

 ヤツが仕組んだ事か…。

 

 そう、この誘拐団を誘導したのはフェイトで、この誘拐団をディーオの力の下見に用意した。


 癪だな。まあいい。

 アクセス、システム。限定的使用はどのくらいまで可能だ?

《二時間程度ですが、物理的な攻撃しかできません》

 どうすれば、能力が拡大する?

《バックアップが必要です》


 ディーオは、リリアとダリスを見る。

 そう、バックアップに二人を使えば…。

「二人とも、協力して貰っていい?」


 リリアとダリスは、困惑を見せて、リリアが

「協力って何?」


 ディーオは

「連中を始末する。このまま逃げても誘拐される子は増えるだけだ。エレナに及ぶかもしれない。なら、ここで終わらせる。その為に…とある力を使う。それには二人の力が必要だ。でも…秘密にしてくれるかい?」


 リリアとダリスは見つめ合い、リリアが

「悪い奴をやっつけるなら、手伝うわ」

 ダリスも「うん」と頷く。


 ディーオが右手を前に出して

「じゃあ、ここでの事はずっと三人だけの秘密だよ」


 リリアとダリスも手を置いて合わせて「分かった」と答えた。


 そして、ディーオは右にダリス、左にリリアを抱きしめると、ドラゴンファングで二人と繋いで

「アクセス、エピオン起動」

 ディーオだけの力では、エピオンを起動できない。

 だから、リリアとダリスの二人の力を借りて起動させる。


 ダリスとリリアは、ディーオと重なる体と体から、何かが接続される感覚を感じて戸惑う。

 それは魔力の流れに似ているが違う。


 ディーオが両脇に抱きしめるリリアとダリスの三人は浮かび上がると同時に周囲に光の環を形成して、それがシステムディスプレイに変貌する。

 歯車のようなそれが噛み合う。

 そして、システム画面を構築して、三人が目の前に円形の立体画面が出現すると、その画面に

《システム、エピオン起動。モード選択、鬼骸しか出来ません。本来の能力の0.000,000,000,000,001しか発動できませんが…》


 ディーオが

「それで十分だ」


 システム画面が

《了解、エピオン、鬼骸で起動します》


 ディーオの背中から紅蓮の結晶が吹き出す。服を突き破って紅蓮の結晶は人体のように変貌して、肋骨の骨格がディーオ達を包み込む。

 その肋骨から頭部と、腕部、脚部の骨格が形成される。

 それは鬼だった。鋭い角を、ドラゴンのような角を持つ巨鬼の骨格が出現して、それに受肉と鎧の装甲が形成され、背面に無数のサソリの毒尾のような連なる金属の触手が生えて伸びる。

 それは鬼骸とされる鎧の巨鬼で、背面に無数の鋭い金属の触手群を伸ばしている。


 地面が沈む震動を響かせる。


 その震動を部屋の外で感じた誘拐犯達は「何だ?」とディーオ達がいる部屋のドアに手を掛けた瞬間、ドアを突き破って、人の胴体を片手で握る鬼骸の手が伸びてドアにいた誘拐犯を掴む。

「うあああああああ」

 ドアの向こうにいた鬼骸エピオンの悲鳴を上げる誘拐犯。


 それに仲間の誘拐犯達が、青ざめて動きを止めたのが運の尽きだ。

 鬼骸エピオンの背面にある金属触手が素早い速度で伸びて、部屋にいた全員を絡め取って引きずる。

「うぎゃあああああああ」

と、誘拐犯達は悲鳴を上げて部屋に引っ張られる。


「助けてくれ!!!!」

 叫ぶ誘拐犯達は、掴まれた鬼骸エピオンの金属触手に締め上げられ、別の金属触手がヌルと生々しく不気味な音を出して鋭い針の束を伸ばす。


 それを誘拐犯の眉間に突き刺した。

「ごぉ」と誘拐犯達は白目を剥いた。


 鬼骸エピオンは誘拐犯達の脳内を分析、記憶情報を抜き取る。


 鬼骸エピオンの意識であるディーオは、その記憶情報を読み取り

 なるほど、愚かな貴族の支援を受ける犯罪者達か…。

 全員が碌でもないクズばかり、強姦、殺人、詐欺、窃盗。

 確実に地球の法律では死刑に相当するレベルだ。

 生かす価値はないか…。

 

 鬼骸エピオンによって記憶データの全てを強制的に抜かれた瞬間、脳髄が弾けて死んだ。

 ワザとそうした。


 その光景を鬼骸の意識から見ているリリアとダリスは、愕然として沈黙していた。


 そして、意識の目の前にいるディーオを見ると、ディーオとその後ろに黒髪の大人がいた。

 その大人は、このエピオンの深部までつながり、ディーオと繋がっている。


 鬼骸エピオンが壁を破壊して外に出る。


 六メートルサイズの鬼の巨人が出現して、外にいた誘拐犯達が悲鳴を上げる。

 鬼骸エピオンの腕は足の膝以上まで伸びる長手で、深紅の鎧と鬼の仮面を被り、背中にある無数の金属の触手達が蠢く。


「このバケモノ!」と誘拐犯達の中にいる魔術師が攻撃を放つ。

 大火球や、火炎弾を放つが、それに鬼骸エピオンは走って行く。

 大爆発して、鬼骸エピオンにダメージが入る事はない。

 鬼骸エピオンは、人を掴める程の長手で魔術師達を掴むと、金属触手の端子針を突き刺し、記憶データを抜き取って脳髄を爆破死させる。


「うぎゃあああああああ!」


 逃げる誘拐犯達達、だが鬼骸エピオンは逃がさない。

 その巨体に見合わない程の脚力で、誘拐犯達に追いつき逃げる全員を金属触手達や両手に捕まえて、全員の記憶データを抜く過負荷脳髄爆発で殺す。


 それに誘拐された子供達は怯えていた。

 

 それに鬼骸エピオンが近づく。

 子供達は怯えて涙して、お漏らしをする者達もいた。

 だが、鬼骸エピオンは跪いて金属触手達を使って縛っているロープや猿ぐつわを切って外して

「あそこに、いなさい。助けが来る筈だ」

と、開けた風車小屋の穴を示す。

 それに子供達は従って、風車小屋の穴へ入り、風車小屋の中へ入ると、左から砲撃を貰う。

 逃げ出した誘拐犯達の数人が飛空艇を動かして大砲で攻撃してくる。


 鬼骸エピオンは、攻撃する誘拐犯達の飛空艇を見て

「逃げれば良かったのに…まあ、逃さないがなぁ…」

と、長手の両手を広げると、長手の関節で繋いでいる鎧が開いて、そこから水晶の如き球体が埋まっていた。


 誘拐犯達の飛空艇の大砲が届く前に、埋まる水晶達から放たれる力場によって当たる前に爆発する。

 そして、その長手の両腕にある水晶達から目映い閃光が放たれた瞬間、一瞬で誘拐犯達の飛空艇の真ん中が溶けて爆発、真っ二つに割れて墜落した。


 大爆発する飛空艇と、墜落する二つの破片。

 それは、かなりの遠方から見える程だ。


 その爆発を、城塞都市ノアにいた。ルーデウスの飛空艇の乗員が捉えていた。

 そして、ルーデウスを呼び出して爆発炎上するそこを指差して、ルーデウスがその現場を遠見の魔眼で見ると、悠然と歩く鬼骸エピオンを発見した。

「なんだ…アレ?」

と、ルーデウスは驚きを向ける。



 爆発炎上の現場、鬼骸エピオンは探査能力を使って落ちた飛空艇に残る誘拐犯達を探す。

 そして、生きて地面を這っている誘拐犯達を見つけては、金属触手で捉えて、後頭部から金属触手の針を刺して脳髄を焼き切って爆発させるまで記憶データを取り込む。


 鬼骸エピオンのディーオは冷淡な顔で

「誰か一人くらい、家族持ちが…いると思ったのに…」

 今回の事で死ぬ連中には、家族持ちが…いや、いた。

 犯罪を犯す者の中には、そういう例外もいる。

 

 地面を這って逃げる誘拐犯の男に、鬼骸エピオンが悠然と近づく。

 男は鬼骸エピオンを見上げて

「助けてくれ…お願いだ」


 鬼骸エピオンは、金属触手を伸ばし上げ

「お前は周囲の連中の記憶から家族を持っていると分かった」


 男が涙しながら

「頼む、もうこんな事はしない。だから…家族の元へ返してくれ…」


 鬼骸エピオンの鬼の仮面は無情を現し

「お前は、お前が誘拐した子供達にも家族があった。それを奪って置いて、反省しました? バカか? お前のやった罪は永遠に贖罪されない。いや、罪は永遠に贖う事はできない。

安心しろ、お前を殺した後、お前の家族の面倒は私が見てやる」

と、無情にも金属触手の針をその男の額に突き刺して、記憶データを抜き切って、脳髄爆発をさせて殺した。


 それを畑に隠れて見詰めている獣人の女がいた。

 鬼骸エピオンが、鬼の仮面の瞳をそこへ向ける。


 顔を引き攣らせて逃げようとしたが、鬼骸エピオンが追いつき、獣人の女を長手に掴む。


「だ、だずげで…ください。何でもします」

と、獣人の女は無様に泣く。


 鬼骸エピオンは掴む獣人の女を見詰める。

 こいつも誘拐犯達の仲間だ。だが…。

「名前は?」


 獣人の女は、お漏らしをしながら

「ヴァギャです」


 誘拐犯の男達から抜いた記憶データでは、さっきの男の家族との繋がりがある。

 コイツ等の本拠地は、シェーロン王国の西、竜の下顎とされる部分の近くだ。

 使えるか…。

 後々の探査物資達を探すに…。


 鬼骸エピオンはヴァギャを下ろして

「私はエピオン。分かるな」


 ヴァギャは何度も頷く。

 

 鬼骸エピオンは、先程、殺した男を指差し

「あの男とは、知り合いだな」


 ヴァギャは頷き

「はい。ギャザリスとは…知り合いです」


 鬼骸エピオンは、鬼の仮面の瞳を眼前に向け

「あの男と約束した。あの男の家族は助けると…ヴァギャ、お前はそこに戻って、あの男の家族を助けろ。後々に支援が届く筈だ。その家族を助けながら、後々、私の手伝いをしろ」


 ヴァギャが怯えながら

「手伝いってなんですか?」


 鬼骸エピオンは顔を外して

「世界を回って冒険するだけだ。その手伝いをしろ。良いな」


 ヴァギャは頷き、その前に胡座で座った鬼骸エピオンは、体を光に変えて消える。

 その中から、ディーオとリリアにダリスの三人が姿を見せる。


 ディーオが子供とは思えない残酷な笑みで

「約束、守ってね。守らないと…殺すぞ」


 ヴァギャは何度も頷き、ディーオが

「いけ」

と、告げた瞬間、ヴァギャは全力ダッシュで逃げようとしたが

「あ、待て!」

と、ディーオが止めて


 ヴァギャが怯えた顔で

「なんですか?」


 ディーオは、破壊された飛空艇へ向かい、そこに仕舞われたお金の袋を発見して、ヴァギャに渡して

「これ、帰りの旅の資金」


 ヴァギャは受け取り

「あ、ありがとうございます」


 ディーオは手を振って

「じゃあ、時が来るまで…来たら知らせるよ」


「はい」とヴァンギャは叫んで返事して逃げていった。



 全てが終えて、全体を見渡す。

「うわぁぁ」とディーオは唸る。

 戦場の痕って感じだ。

 燃えてる。子供達が逃げている風車小屋は無事だ。


 ディーオは考える。

 どう言い訳するか…。


 考えている袖をリリアとダリスが摘まみリリアが

「ディーオ、どうしてそんな力があるの?」


 ダリスも聞きたいという顔だ。


 ディーオは適当にウソを考え、そうだ…あの魔神ラプラスで誤魔化そう。

「夢の中にラプラスってヤツが現れて、ぼくに力をあげる代わりに、とある封印を解いて欲しいって言ったんだ。ぼくは、力を貰う代わりにその封印を解く約束をしたんだ。秘密ね」

と、口元で指を立てる。


 それを聞いてリリアとダリスは納得したようで、頷いてくれた。


 そして、更にダメだしで

「これがバレると、ぼくは殺されるらしい。だから、絶対に言わないでね。二人の事、信じているから」

と、ディーオはダリスとリリアの手を握った。


「うん」とダリスが、「分かった」とリリアが答えた。


 そして、数時間後に、ルーデウス達が乗る飛空艇と、ミルボッツ領の騎士団が来た。

 誘拐された子供達は保護され、無事に両親の元へ帰り、この誘拐犯達が残した痕跡に、関係する貴族達の証拠も残っていて、密かにその貴族達は始末された。


 ルーデウスは頭部が吹き飛んでいる誘拐犯達の遺体を見て困惑する。

「何が起こったんだ?」


 ルーデウスの隣にルーデウスが騎士団長をするグレイラート騎士団の騎士が来て

「誘拐犯と思われる連中の全てが、このように死んでいます」


 ルーデウスは額を掻き

「あの怪物は、消えたし…子供達から、助けてくれて隠れているように…と」


 グレイラート騎士団の騎士が

「もしかして、クリスタルヴァイドの亜種とか?」


 ルーデウスが難しい顔で

「クリスタルヴァイドには知性はない。子供達の話では喋っていたし、誘拐犯達だけしか襲っていない。謎が深まるばかりだ」


 この事件は未知な事として処理された。



 この事件から数日後、ディーオ達の関係性に変化が生じる。

 ディーオに対してダリスにリリアの二人が馴れ馴れしいというか、近い距離感なのだ。

 直ぐに二人はディーオの両腕に抱きつき、密着してくる。


 近い距離で話すようになったリリアとダリス。

 周囲から、誘拐事件の事で関係が密になったのだろう…と、それにエレナがホホを膨らませる事が多くなった。


 そしてディーオは

「こっちなの」と怒るエレナ。

「いや、こっち」と怒るダリス。

「貴女達、遠慮しなさいよ」と怒るリリア。


 その三人の三方向から引っ張られるディーオ。

 それを祖父ゼロスは見て微笑み

「女の子三人からモテて羨ましいのぅ」

と、微笑ましい光景に心が和む。


 三方向に引っ張られるディーオは、空を見上げ

 なんで、こんな面倒くさい事になっているの?

 正直、どうでも良かった。


 それに教師のララが

「なんか、父さんと母様達みたいです」


 ディリーナが

「モテる男はツラいという事だな」


 三人の女の子の達に引っ張られるディーオは

 ぼくは、任務を全う出来るのだろうか?

 一抹の不安を抱える。

 なぜなら、何時の世も、異世界でも、転生前の地球でも、目的が瓦解する理由は、女が原因なのだから。

 それが嫌だったから、女性関係を敬遠していたのに…。

 

 前世では、エピオンというシステムと融合していた超兵器だった。

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