第2話 祖父の話
アーマードラゴン歴、AD442年
彼は生を受けた。
まさか…赤ん坊に転生とは…。
周囲を確認する。
ええ…目の前で抱いているだろう女性は…金髪の人、多分、私を産んだ母親か…。
そして、他に覗いている二人、壮年の男性と女性。
女性の方は産んだ母親に似ているから、女性の母、つまり、祖母か…
で…まさか…この壮年が…父親?
DNAチェック
「ぎああああああああ」
アレ? 鳴き声しか使えない。
目の前に《脳内のシステム整備がまだです。お待ちください》
その次に、DNAチェックがされた。
ああ…おじいちゃんか…。良かった。
母親は二十歳まえの十八で、祖父母は、四十代後半とは…いやはや、若老人ですなぁ…。
言葉は、イマイチ理解できないが、時間を掛ければ…。
そして、数ヶ月後に名前が分かった。
ディーオ・アマルガム。
アマルガム家の子供として生を受けた。
父親は…諸事情によって伏せられている。
場所は、ノトス家が治める領地、ミルボッツ領で祖父ゼロスは騎士の駐在員をしている。
現在、ミルボッツ領の領主はルークとされる人物で、典型的な貴族の領主様。
そして、このルークの弟で、ルークの補佐をしているルディーオが父親だ。
それを、知ったのは私が生まれて名前が分かった時だ。
ルディーオ・ノトスが家に来た。
建前は、配下が出産したお祝いだ。
だが、違う。
自分の子供を確認しに来たのだ。
母親レディスが、ルディーオに抱かせると、ルディーオは小声で
「すまん…こんな愚かな父を許してくれ」
と、呟いた。
DNAチェックでも分かった。
この人が父親だ。
そして、ルディーオには離婚不可能な嫁がいる。
ルディーオの妻はエウロス家のヴィシル領主の娘だ。
要するに貴族同士の繋がりを持つ為の政略結婚だ。
ルディーオ、母レディス、そしてルディーオの妻ウルティアの三人と、横に私がいる赤ん坊のベッドを横に話し合いが進む。
ルディーオは謝る。
「すまん。本当にすまない」
ウルティアと母レディスは黙っている。
話によると、ルディーオにはウルティアとの間に先に生まれた長女がいるらしい。
さらに、ウルティアのお腹には次女が…。
それを聞いて私はドン引きする。
なんだこの世界は?
性的に見境がない動物のような人達が多いのか?と思ってしまうが、それが人間のサガ、男の性質という事で、この世界に受け入れられているなら仕方ない。
ルディーオは、今後の養育に関する費用の約束と、ウルティアとレディスに謝罪を続けて、話し合いを済ました。
レディスが
「この子は、必ず…お二人の子を守る騎士にしてみせます」
こうして、誓いを済ませて、ルディーオ達が帰って行くと、祖父ゼロスが
「良かったのか?」
レディスが頷くも涙して
「うん。これで良かったわ」
と、納得させているように見えた。
一歳になり、歩けるようになる。
システムにアクセスする。
《現在、肉体の成長が追いついていません。全ての復元には十年ほどの時間が掛かりますが…緊急モードで二時間程度の行使は可能です》
十年か…と私はその長さを考える。
その夜、夢の中にアイツが現れた。
「やあ、無事に転生、おめでとう」
協力者のフェイトである。
夢の中でのヤツの姿は、真っ白な人型に不気味な笑みの歯を並べる人型擬きだ。
本体は、この世界の深部にあるらしい。
その本体を見た時は、ゲス笑みを浮かべる三下の顔をしていた。
人神とも呼ばれているらしいが、所詮、この世界を作った創造主のシステムを乗っ取った出来損ないでしかない。
本来の目的は…。
まあいい、それはこちらとしては関係ない。
ディーオは、現地協力者フェイトに
「おい、どういう事だ? こんな家庭的に問題ある産まれだとは聞いていないぞ」
フェイトは怪しげな笑みで
「こうするしか、君の肉体を再現できなかったんだよ。でも無事に力は受け継いでいるよね」
ディーオは
「十年しないと、マトモに動かないぞ。それに…十年後では送り込む探査物資達が到達する。その前までには、復元を完了したかった」
フェイトが怪しく笑みながら
「良いじゃないか! 探査物資達が到着した時に、それで復元して貰えば…」
ディーオはチィと舌打ちして
「キサマの目的は分かっているな…」
フェイトは怪しい笑みで頷き
「分かっているよ。君達の手伝いだ。それによって僕は…生存を可能にする」
ディーオは笑み
「お前…裏切ったら…お前が見た最悪な未来より、もっと最悪な未来に落としてやるからな」
フェイトは引きつり笑みで
「わ、分かっているよ。ちゃんとやるから」
ディーオは赤ん坊の姿の後ろに本来の姿である全身が深紅の装甲に包まれた禍々しい兵装の存在を見せて威圧する。
それにフェイトは、怯えながら
「とにかくだ。色々とイベントが目白押しだから、産まれた場所は、剣術の使い手でもある。鍛えるには十分だよ」
ディーオは溜息を吐き「分かった」と告げる。
フェイトは「じゃあ、よろしく」と消えた。
フェイトは夢での対話を終えたと、だが、ディーオ、ナンバー19820305の対話は終わっていない。
夢の風景が変貌する。
時空を登る虹色の回廊、そして、ナンバー19820305のトップであるヘオスポロスのエグゼクティブが座るシステムの王座が現れた。
エグゼクティブが
「無事に転生完了、おめでとう」
転生体ディーオ、ナンバー19820305は
「肉体が人間に転生しています。本来は…」
エグゼクティブは
「ああ…ヤツの説明では、その方が効率が良いとしてあるが、ウソだ」
転生体ディーオが
「どうしますか? 十年後に始末しますか?」
エグゼクティブは笑み
「約束は約束だ。それはあくまでも我とのな。汝の言う通り、十年後に始末して変わりのシステムを置いても問題はないが…面倒だ」
転生体ディーオが
「ヤツは、我々の目的に気付いていないのでしょうね…」
エグゼクティブが
「その方がコントロールし易い。我々は、この世界を侵略する為に来た…という事にして置けばな」
転生体ディーオが笑み
「そうですね」
エグゼクティブが
「では、今後とも、この世界の住人として情報を収集、十年後に…探査物資の二つが届く。ああ…それと、ナナホシ博士には会わないように。会ったとしても…我々の事は極秘に…」
転生体ディーオが頷き
「ええ…そうしないと、色々と不便ですから…」
ディーオは目を覚ます。母親レディスの腕の中で。
朝の日差しが戸の隙間から漏れている。
一歳のディーオは母親のホホを撫でると、母親レディスは目を覚まして
「ああ…おはよう、ディーオ」
こうして、新たな生であるディーオの毎日が始まった。
ディーオの母親レディス。
レディスの父にして祖父のゼロスと祖母レリス。
三人ともミリス教徒らしく、その教えに従っている。
他にも色んな宗教があるらしいが…この地方の多くはミリス教徒のようだ。
母親レディスは、ディーオが一歳半を迎えると再び、主であるルディーオへ仕官する。
子供は、祖父母のゼロスとレリスが面倒みる。
ゼロスとレリスに、本の文字を指差してディーオは言葉を習う。
父親がいない以外は…順調に生育が進む。
二年後の三歳、ディーオは家にあった本を読む。
魔導書とされる本を読んで、ブラストとされる魔法を発動させた。
無詠唱魔術、著作 サイレント・セブンスターを読んでやってみた。
この理論は、あのナナホシ博士が構築したセブン理論と似ていた。
ハッ、そうか…コイツが…ナナホシ博士が戯言のように言っていた…。
この魔導書の著作者に何時か会ってみたい。
そして、魔法が使えると見た祖父ゼロスは、ディーオに色んな事を教える。
剣術や世界の事。
祖父ゼロスは、魔物を退治したりする冒険者でもあるので、詳しかった。
そんな祖父ゼロスが
「本当にあれは酷かった。フィアット領の大災厄は…」
AD417年、それは突然に現れたらしい。
このアスラ帝国のフィアット領上空に巨大な異次元の穴が開き、そこから白き結晶の山が出現、地面を雷鳴で焼き払い、白き結晶の山がフィアット領城砦都市から離れた村の山に着陸、そこから無数の結晶のモンスターが出現して蹂躙が始まった。
その蹂躙に対応すべく、アスラ帝国では騎士団が結成、多くの騎士団が結成されて、その中でもパウロ・グレイラートを主にしたグレイラート騎士団は目覚ましい活躍をして、更に、その結晶モンスター、クリスタルヴァイドが現れる際に、転移雷鳴で消えてしまった息子のルーデウスも帰還して、長きに渡るクリスタルヴァイドの戦いに
AD423年に終止符が打たれたが…。
クリスタルヴァイドの最後の自爆から息子ルーデウスを守る為に父パウロは死亡。
グレイラート騎士団は、息子ルーデウスを騎士団長にして。
アスラ帝国第二皇女アリエル・アネモイ・アスラに帝位を継がせた。
クリスタルヴァイドの災厄は甚大で、アスラ帝国は山脈を隔てた紛争地帯にまで被害を拡大させた。
クリスタルヴァイドは、取り付いた山脈を粉々にしてアスラ帝国前のアスラ王国と小国が乱立する紛争地帯を分けていた山脈を破壊し平地に変え、紛争地帯を蹂躙した。
この甚大な大災厄を前に争っていた人族、魔族、獣人族といった各種族は纏まり、アスラ王国によって小国が乱立する紛争地帯は平定され、アスラ帝国が誕生。
一つにまとまった事によってクリスタルヴァイドの大災厄を退けた。
その話をする祖父ゼロスは悲しい顔をしていた。
ディーオが無邪気な顔で
「おじい様、その災厄の戦いに」
ゼロスは頷き
「ああ、グレイラート騎士団にいたさ。そこの騎士団長パウロは、まさに鬼神だった。最愛の息子を失った悲しみにくれ、奪ったクリスタルヴァイドに復讐を誓い。パウロは剣神流、水神流、北神流を極め、容赦なくクリスタルヴァイドを倒した」
ディーオが
「元からそんな人だったんですか?」
ゼロスは首を振り
「いいや、いい加減で才能ばかりに頼り、女たらしだったが…。やはり、親になると変わるのだな人は…。どうしようもない鼻の下を伸ばしていた顔は消えて、すさまじい戦士の顔をしていた。そして、息子が生きて帰って来た時には、息子ルーデウスに抱きついて大泣きして神への感謝を叫んでいた。それを見て、もう…昔のだらしないパウロはいないのだなぁ…と痛感したさ」
ディーオは頷き
「そうなんだ…」
ゼロスが遠くを見て
「パウロの死に際は、笑っていた。自爆するクリスタルヴァイドの巨城、国を隔てていた山脈達を喰らって出来た白き結晶の天空を突く巨城が大爆発して、それから息子のルーデウスを守って笑っていた。焼け焦げて治療不能なパウロが笑いながら無事だった息子ルーデウスに、お前を守れて幸せだった。母さん達を頼むぞ。幸せになれ…と、父親としての本懐を遂げて、見事だった」
ディーオは祖父に
「それを…おじ様は見ていたのですね」
ゼロスは頷き
「ああ…隣でな。そして、息子ルーデウスは亡くなった父を見て叫き泣き、もっと上手くやれたはずだ! 俺は…なんてバカだったんだ!と、自分を責めた。自暴自棄になった所を魔族の女でルーデウスの師匠だったロキシーがルーデウスを受け入れて、まあ、その後、ロキシーはルーデウスの妻となり、その前にエルフのシルフィー殿と結婚して二人目の妻だったが…そして、三人目があの狂剣王エリスとは…運命とは分からん」
ディーオは
「色々とあるんですね」
ゼロスは孫ディーオの頭をなで
「ああ…そうだな。そういう事だ」
祖父ゼロスは、北神流と水神流の使い手だ。
五歳になれば、その剣術を教えてくれるようだ。
ディーオは順調に成長していった。
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