子供部屋おじさんの異世界奇譚~なんとか頑張ってみます~

赤地 鎌

第1話 プロローグ

 俺、30歳派遣社員で夜勤の帰り。

人生の全てに絶望した。

 本日、2012年 11月22日をもちまして派遣先の会社から契約を打ち切られました。

 無職です。

 

 相当にブラックな環境ではあったが…何とかやってこれた。

 仕事に対してもやる気はあった。

 そして、24歳から勤めて6年、何時かは正社員になれると思ったのに。

 正社員になったのは、口だけが上手いリア充の25歳の野郎だった。


 ソイツは仕事が出来なくて、何時も俺が尻拭いしていた。

 なのに、ソイツはアピールだけが上手い、ナルシストクソ野郎だった。

 そんで、女にもモテる。

 ヤリモクで、女を引っかけては、消える。


 俺はソイツをパコリストなんて、内心で皮肉って思っていたが…。

 ソイツに正社員を取られて、俺は…クビになった。


 このご時世、30になると、就職先なんて皆無だ。

 俺と同じ年代の連中は、みんな必死に派遣社員でもいいから、働いた。

 社会的に許せない事があっても。


 その会社の上司が、俺の同期の仲が良かった女の子をレイプした。

 それを警察に訴えても、警察は、された女が悪いって言って取り合わなかった。

 後で知ったが…その上司とその受け付けた警察官は、つるんでいた。

 会社の裏金を使って買収して、警察関係の仕事を貰っていた関係だった。

 汚い。

 これが人間の本性だ。


 俺はそれをもの凄く見てきた。

 金、女、物でコネを作って仕事を貰う。

 これが現実だ。

 そんな絶望するだけの現実で生きている俺のような世代をロスジェネというらしい。


 俺がクビになる二年前に、その女の子はクビになった。

 そのクソ上司によって…だ。

 そして、その女の子は自殺した。


 警察に訴えても取り合ってくれないとなったら…上司は何度もその女の子をレイプした。

 俺は理解した。

 人間なんて、獣以下だ。

 人間なんて、ヒト擬きのバケモノ、畜生以下だ。


 上司になるヤツなんて悪魔みたいなヤツで、そして、上司に選ばれる連中は、その悪魔の選ぶ次の悪魔だ。

 偉いヤツ全員なんて、女とセックスするしか考えていないパコリストだ。


 とある占い師が言っていた。

 女をヤルだけで使い捨てる偉いヤツは、マザーだと。

 母親以外の女、全てとセックスしたから。


 ああ…神様、どうしてこんな地獄を作ったんですか?

 人間が高等な生き物?

 おいおい、パコリスト生命体の間違いじゃあないのか?

 いや、俺が間違っていた。

 人間なんて動物だ。

 そこで、今、パコっている犬や猫と同じだ。


 ははははは。

 俺も人間、動物か…。

 ちきしょう。

 こんなに落ち込んでいるのに、セックスだけはしたい。

 パコりたいなんて、心の隅で思っている。

 

 ああ…下らない。

 帰ってアニメのハイスクールDDやモーレツパイレーツなんかを見てヌいた後、賢者モードになって考えるかなぁ…。

 謎の彼女Xも良かったなぁ…。


 思い返すと過去には、ロクな事はなかったなぁ…。


 中学の時にバブル経済が弾けた。

 高校にいっても就職先なんて皆無、専門学校に行っても、厳しかった。

 それでも、まだ何とかなるって、みんなは思っていたが…今や何ともならん世の中になった。

 思い出すね…男子高校だったから、サルみたいなヤツ等ばかり。

 バカだったから工業の不良高へ行った。

 男子校だったからなのか…もの凄く彼女がいる率は高かった。

 みんな、女の子とパコパコしたかったんだろう。

 基本、不良しかいなかったし、勉強もそんなに難しくなかった。

 そんな不良の巣窟みたいな学校を出たのに、不良にならなかったのは、友人ゼロだったからなぁ…。

 ああ…そういえば…何処かの共学で、肩にぶつかって偉そうに説教したヤツをボコボコにして柱に縛ったヤツ等が退学になって、こっちに来たなぁ…。

 でも、結局は学校になじめず、一人一人って辞めていった。

 そんなに厳しいか?

 ルールに従えって生きれば、良いじゃないか?

 ルールが明確だったし、挨拶をしっかりやれば、先生達は認めてくれたし、まあ、体罰は凄かったけど。

 それも変な事をしなければ、問題ないだろう。

 まあ、仕方ないか…若気の至りをしたいヤツばっかりだったし。

 なんか、色々と思い出すなぁ…。

 アイツ、どうしているなぁ…。

 パソコン詳しくて、眼鏡を掛けて、アニメも好きで。

 高校になったら離ればなれになって…。

 そういえば、脱サラしたアイツ、店が上手く行っているかなぁ?


 昔、見たWEB漫画、とあるヤツが書いていた作品。

 好きだったなぁ…。

 ある日、更新が止まって、それ以来、見ていない。

 また、再開してくれないかなぁ…。


 まあいいや、クビになったんだから、次の職が見つかるまで、小説でも書いて貯めるか。

 賞に応募しても落選するだろうけど…。

 色んなライトノベルの大賞に応募したけど、全部、落ち続けて10年だな。

 ええ、電~とかM~、集英社のヤツとか、ほとんど出したよなぁ…。

 全部、落選だけど。


 うわ、雨かよ…。


 こんな、晴れない雨みたいな人生だ。

 結婚もしていないし、まあ、その当たりは弟か妹がやって、両親を喜ばせるだろう。

 俺は俺一人の生き方をする。

 子供部屋おじさんってか!

 ははははははは!


 人生、30年も生きれば結婚できるヤツと出来ないヤツが区別できる。

 俺は、後者の出来ないヤツさ。

 ああ…思い出してきた。

 婚活パーティーとかで、会った女に小説が趣味って言ったら小馬鹿にされたなぁ…。

「そんなの意味あるの? アナタ…暇人なんですね」

 その後、アタシはこんだけ凄いって自慢話だったわ…。


 とある会社の上司に「気合い、入れてやる!」ってボコボコに殴られたよなぁ…。

 俺以外も、その会社の上司は殴っていたなぁ…。

 上司の仕事は殴る事だ! 何てよく言っていたぜ。


 キャバクラ嬢にも

「なに? アンタ…その年でそんな年収? 終わってるーーーー 子孫残す価値ないわーーー」

ってキャバクラ嬢に言われたっけ。

 そうですよ。

 俺は派遣社員、年収は平均値の半分にも満たないですよ。

 良いんじゃない?

 そういう貴女様には、貢いでくれる男の人がいるんでしょう。

 俺には関係ない。

 そして、二度とキャバクラに行くか! 未来永劫、行かないぜ。


 雨の中、コンビニ入って、傘でも買って…


「アレ? ○○くん?」


 俺は振り向くと、そこには小学校時代からの幼馴染みの女がいた。

 最初は、誰だ?と思ったが…口元の雰囲気、そして、その呼び名。

 遠い記憶を呼び起こして

「ああ…久しぶりですね」


 その同年配の幼馴染みの女は、微笑み

「元気だった?」


 俺は作り笑みで

「ええ…何とか…」


 幼馴染みの女は

「背広、似合っているよ。肩が濡れて…」


 俺は肩をすくめ

「ええ…その…クビになって、職探しですから」


 幼馴染みの女は、ハッとした次に微笑み

「時間ある? 少しある?」


 コンビニで立ち止まるより、外で話した方が楽だったので、コンビニの屋根の下で、久しぶりに幼馴染みの女と話をした。

 彼女は、頭が良かった。

 中学でも成績が良く、進学校へ行った。

 その前に小学校から中学へ上がった時に交流が途絶えた。

 みんな、知らないだろうが。中学は成績でクラスを分けている。

 一番に成績が良いのが一組で、それから下は成績の順で最下位が八組。

 俺は、それを中学二年の時に知った。

 彼女は、成績優秀な一組だった。


 そんな彼女の口から、目映いばかりの人生が語られる。

 進学校へ行き、東大の研究室、量子力学研究へ向かい、アメリカへ留学、MITに入り、そこで最新の量子力学の研究をしている。

 博士号を持っていて…画期的な論文や、実験の装置を作ったり。

 本当にスペシャルな人生を送っている。


 俺とは違う。

 人は罪を犯せば平等に裁かれるが、社会として不平等だ。

 チャンスは、誰の上にもない。

 彼女の両親は、裕福で彼女の未来を応援してくれた。


 その幼馴染みの女は、目を輝かせながら

「私が、この道に入ったのも、○○くんのお陰なんだよ」


 俺は首を傾げて

「そうだったかなぁ…。いや、違うよ。君が優秀だったからだ」


 幼馴染みの女は、あの頃の純真な瞳で

「○○くん、小学校の頃、君は難しい本を読んで宇宙の事を勉強していたわ。それに私は知ったかぶりをしたくて、勉強して教えたよね」


 俺は思い出した。

 ああ…そうだったなぁ…この子は、色々と教えてくれた。


 幼馴染みの女は続ける。

「それに、○○くんが作るお話、わたし、好きだったなぁ…。あの時の○○くん、目が輝いていたもん。何時かこんな世界が来るって。だから…わたし勉強して…それを知ろうって頑張った。今でもそんな気持ちが原動力なんだ」


 俺は遠くを見る。

 何か言い争っている女子高生と二人の男子高生の三人組、そして、離れた所にズブ濡れの眼鏡を掛けた太ったおっさんがいた。

 ボロボロのスエット姿で、虚ろに歩くおっさん。

 青春よろしく見たいに騒いでいる女子高生と男子高校生の二人。


 ああ…あのボロボロのスエット姿のおっさんが、俺で

 アッチの青春している高校生が、この子か…。


 同じ世界に生きているが、立っている社会的立場が違う。


 俺は傘を差して

「君はスペシャルだ。俺はモブだ。スペシャルな君の人生に…何か与えれただけ、良かったよ」


 幼馴染みの女が袖を掴み

「待って、もし困っているなら…」

 

 俺はそれを振り解こうとした時、トラックが高校生達に飛び込んで来るのが見えた。

 居眠り運転だったのが見えた。

 あのスエット姿のおっさんが、飛び出して救おうとした。

 一人の男子高生は助かり、そしておっさんと男女の高校生が消えた。

 え?

 消えた。閃光に包まれて男女二人の高校生と、おっさんの体半分、上半身が消えた。

 そして、おっさんの体の残り半分、下半身が、トラックが突っ込む先の壁に当たり、そこへトラックが突っ込み、おっさんの残った部分を潰した。

 

 それを見た俺と幼馴染みの女が驚きに包まれていると、その壁に突っ込んだトラックの脇に光が生じて消えた片方の女子高生が出現した。


 幼馴染みの女が

「どういう事?」


 俺は鋭い顔をする。

 まさか…転移? 空間を…。


 出現した女子高生は雨に濡れながら周囲を見渡すと、次にその隣に光が出現して、さっきケンカしていた男子高生が現れると、二人は抱き合った。

「帰って来た…」

と、女子高生が泣いていた。


 そこへ難を逃れたもう一人の男子高生が来た。

「どうしたんだ? 何があったんだ?」


 そんな感じで騒いでいるが…光から現れた女子高生と男子高校生が、難を逃れた男子高生に抱きついた。


 俺は事態が理解できない。

 何が起こったんだ?

 だが、唐突に頭痛が俺を襲った。

「う、ぐ…」

 俺は立っていられなくなって跪く。


 幼馴染みの女が

「どうしたの?」


 俺が脳みそを直で殴られるような痛みの次に

 ゲートを確認。

と、響いた。

「えええ…」

 俺は困惑する。


 雨の中、光から現れた男女の女子高生は、トラックで潰れたおっさんの下へ行き、手を合わせて祈った。


 その次に、その頭上で閃光が放たれる。

 雷鳴のようが轟音と共に無数の閃光が、雨空で瞬き、そこから鳥型の巨大な存在達が出現した。


 俺は、立ち上がると…その空を覆い尽くす存在達から、全身をローブに包む男がUFOの降臨のように前に降り立ち、俺を見て笑った。

 

 笑いながらソイツは

「よろしい。因子の覚醒と」

と、女子高生と男子高校生二人の方を向き

「ゲートの確認を終わった」


 俺は直ぐに分かった。

 社会なんて、人間の繋がりなんて脆弱だ。

 変わる時は、変わる。

 それに合わせて変貌した方が楽だ。

 変わる事が当然だった。

 自分の意思や、人らしい幸せなんて、俺の人生には用意されていない。

 俺は、俺の人生を生きればいい。

 どんな状況になっても。





 それから歳月が流れ

「ナンバー19820305、任務だ」

と、俺の前に命令する存在がいた。


 軍隊の制服を纏う俺は

「ナンバー19820305、任務受領、致します」

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