第12話

 ◇


 さて、そんなこんなでダンジョン『蜥蜴谷』から帰還した俺達だったが、ガルムの酒場にて出迎えてくれたのは意外な人物だった。



「はぁい、エリオちゃん。おかえりなさい!案外はやかったわね」


 そうヤケにシナの効いた声で話しかけてくるのは真っ赤な髪をした、見た目だけは13歳位の少女だ。其の体つきは貧相で黒と白で統一されたボディーラインのはっきりでるミニスカートのセクシーな制服も虚しく映るばかりである。しかし感情に連動して頭の特徴的なアホ毛の先端ががハートを象るがいったいどういう仕組なのか……。


「げ……ルカ」


「げ、とは酷いわね」


「えっと……エリオさんのお知り合いでしょうか?」


 思わず素のリアクションをもらしてしまう俺にジト目で返すルカ。そんなやり取りをリーシャは少し不思議そうな目でみつめてくる。



 まあ端から見れば自分よりさらに年端も行かない少女が20も目前に控えた男に会いに来た訳なのだから異様にも映るだろう。


「ああ、ええっとだな……コイツはただの……」



 そう言いかけて説明にこまる。知り合い……と言うには世話になっているが、仲間という程の距離感じゃない。ならまあここは無難に役職の方でも言っておくとするか、そう考えたときだった。



 会話に詰まった一瞬のスキを付いてルカのバカが喋りだす。



「そうよ、私はただのエリオちゃんの『奴隷』なの!ご主人さまに会いたくてココまで来ちゃったのよん♡」


 そうヤケにエロい声を出しながら、いつの間にか首にはごっつい首輪をまき、ミニスカートをたくし上げる。晒された下腹部には『淫紋』と呼ばれる、奴隷の中でも性関連の愛玩用奴隷だけに刻まれる隷属印が浮かび上がっていた。



「ふえええええええええええええ!!!!!!!??やっ、やっぱりエリオさんってそういう趣味だったんですか!!!?」


「そうなのよん、この体も何度エリオちゃんに求められた事か」


「だあああああああああ!!!嘘を吹き込むな!!嘘を!!!」


「きゃん!!」


 

 思い切りルカの頭に手刀を叩き込む。


 無論、こいつの言う奴隷云々のくだりは嘘である。さっき付けていた首輪もコイツが保有しているレガリアのひとつだし、下腹部の淫紋は似せてつくったタトゥーシールだ。一瞬で装備を入れ替える【換装】のスキルの無駄遣いもはなはだしい。




「もう、ちょっとしたお茶目なのに~」


「お茶目で人のクランの人間関係に深刻な亀裂を入れるな」




「それにリーシャもこいつは…………さっき、やっぱりって言った……!!?」



 え、俺、こんな幼女みたいな奴隷とか持ってても、やっぱりって思われてるの!!?リーシャに!!?


「ふぇ?あ!いえ……!!その英雄色を好むっていいますし……!!それにほら血盟の女性のみなさんも……その……あははは、すいません!!」


 そう言ってリーシャはずびしと頭を下げてくる。



 確かにセレナはぺったんこだし、見た目……というか外見は完全に女性であるゼノンも白髪幼女だ。イチこそ一人お姉さん系な見た目ではあるものの、シノビの性故か、隷属することを至上としている。


 そんな奴らに慕われていては、端から見ればそういう趣味なのかと思われてもおかしくはないのか……???



 その事実に気づき俺はぐらりと崩れ落ちる。


「ショックだ……」


「あらん?今更じゃない??」


「それに気づいて無かったからショックなんだよ!!」



 別に貧相な体つきが嫌いなわけでもないが、俺の好みはもう少し世間一般的に普通と言われるあたりのものだ。特殊性癖になんざ目覚めちゃいない。多分。



「だ、大丈夫ですよ!エリオさん!!私そういうのもいいと思います!それに私に出来ることでしたら、エリオさんになら……がんばれますから!!」


「がんばらんでいい」


 やっぱりリーシャはリーシャですこしぶっ飛んでるなと俺はリーシャの評価を見直すことにした。



 ◇



「ええと、それでエリオさん……其の方は一体だれなんでしょうか?」


 喧騒もなんとか落ち着かせた後、そうおずおずとリーシャは問いかけてきた。なんというかルカのペースに呑まれて置いてきぼりにしてしまっていたのを申し訳なく思う。


「ああ、そうだったよな。悪い悪い、コイツは……まああれだな。連盟……ああ、【冒険者連盟】のギルドマスターだ」


「冒険者連盟って……あの!?」



 そうリーシャが素っ頓狂な声をだす。


 というのも、まあ仕方のないことだろう。



 冒険者連盟は国家を後ろ盾に個人の冒険者やパーティ、クランなどを管理する組織で昔はギルドなどと呼ばれていた組織だ。


 その名残を受けて連盟の支部長はギルドマスター(ギルマス等とも略される)という称号をもっている。ギルドマスターは国から派遣された文官が就く場合と、冒険者として成り上がり相応の実力と経験をもった叩き上げが就く場合とあるものの、確実に言えることは相当な実力者しか成ることはできない。



 帝都には人口の関係から管理する人間の数も膨大に成るため、変則的に3つの支部が置かれており、ルカはその支部の一つのギルドマスターという立ち位置になるわけだが、その実力は確かなものである。



「こんなちっちゃな子が……?」


 だからリーシャの戸惑いは仕方のないことだが……一つ勘違いしてることがある。



「リーシャ、見た目はこんなんだけど、こいつ実際の年齢ははちじゅ……」


「いやん!乙女の年齢を口にするのはルール違反よん!!」



 年齢を口にしようとした瞬間、ルカが俺とリーシャの間に割って入る。


「お前なあ……しらべりゃすぐに解ることだろうが」


「それでも隠しておきたいのが乙女心なのよん?」


 そうむくれて見せる。


 御年82歳のババアがしていい仕草ではない。


 というのもコイツは不老のスキルを体得してはいるものの、その実は冒険者歴60年以上の大ベテランであり、40年前に起きた大掛かりなアウトブレイクの被害を食い止めた実績でギルドマスターに抜擢された経歴がある女傑だ。



 そしてある意味では俺の恩人でもあり、頭の上がらない人の一人でもある。














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