第11話スキル拡張
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『素材』-最近入手したもの-
・マッドボアリザードの牙 12
・マッドボアリザードの鱗 9
・マッドボアリザードの尾 3
・マッドボアリザードの逆鱗 2
・小亜竜の血 1
・・・
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「なんと言うか……倉庫のスキルってそんな事もできるんですね」
帝都へと向かう道すがら、リーシャは手に入れた素材の整理をしている俺の方を見てそんな事を呟いた。
俺の手元には光で出来た操作盤が存在しており、ソコには今日手にいれた素材の数々が表記されている。
「あー、でもこれは倉庫のスキルの基本機能って訳でなくて後から付けた拡張機能だぞ?」
「拡張機能って……スキルってそんな事もできるんですか!?」
何気に答えた言葉にリーシャはもう何度目かも分からない驚愕の表情を見せた。
まあそれも仕方の無い話かもしれない。この世界で生きていく上でスキルと言う力は欠かせない物ではあるものの、その正体はいまいち掴めていないのだ。
よく分からない物を弄ろうという発想に至る者もそう多くないのも納得できる。
そもそも倉庫のスキルはこんな事をしなくても中に何が入っているか何かは、使用者には直感的に理解出来るためわざわざこんな操作盤をつくる必要なんて無い。
とは言え、それが『神代の宝物庫』の場合話は大きく変わってくる。
宝物庫の場合、本来中に入っていない物でも経験値次第で幾らでも作り出せるため、脳内で処理しきるには情報量が多すぎるのだ。
ソレを解決する上で、俺は宝物庫のスキルの情報は魔力で作った操作盤に出力し、これを使って検索や整理等を行っているのである。
また、このスキル拡張機能追加の魔術が開発できたのはゼノンの功績が大きいと言うことも明記しておこう。
またコレを開発する上で倉庫以外のスキルにも拡張機能が付けられると解った事も血盟にとって大きな財産となった。
例えばイチが多様する【絶牙】というスキル。これはリーシャが会得した【急所突き】の上位に当たるスキルで、相手の急所に力を一点に集中させた突きを放つと言う物だ。
急所突き同様、動体視力を強化する機能もあるのだが、イチはこれに拡張機能の追加で、更にスキルを放つ間、自身の体感時間を5倍に引き伸ばすという効果を増やしている。
このお陰で、より正確な一撃を放てる様になった事は言うまでもない。
「……って感じだな、練習次第だけどリーシャの急所突きも絶牙みたいな拡張機能を持たせることは十分可能だぞ?」
そう俺が説明し終わるとリーシャは少し呆れたような顔をして「なんというか血盟の皆さんが、どうしてあんなに無茶苦茶なペースでダンジョンをクリアしていけたのか、なんとなく解った気がしました」と頭を抑えながら漏らした。
「まあ、思いついた魔術を実際に形にしちゃうんだからゼノンも凄いよな……」
「いや……そうでなくですね……そんな事を出来るかなって思いつく方が凄いんですよ?」
「そんなもんか?」
まあ、それは俺がある意味で様々な分野で素人な上、考え事をする時間だけは十分に取ることが出来たというだけの事だろう。
俺は冒険者でありながら、自分が強くなるという道を早々に諦めることになった、というか諦めざるを得なくなったので、他のみんなが修練を積む間に色々な事を感がていただけだ。
それもアイデアをだすだけで形にするのはゼノンだったりアレンだったりで、俺がしたことなどたかが知れている。
「こう自覚が全然ないって逆に凄いですよね……それにしても、まさかこんなに早くレベルが上がるなんて思ってもみませんでした」
そんな事をぼやきながらリーシャはしみじみとそんな事をつぶやく。
まあレベルなんて1つ上げるだけでも適正の狩場でなら何日かかけてやっと上がるぐらいだし、レベル3から一気に7にあがるだなんて普通では考えられないスピードだ。
まあ、逆に言えばそれだけの想いをしたという事の裏返しでもある。
「そんだけリーシャが頑張ったってことだろ?」
「それは、そうですけど……」
リーシャは褒められて嬉しかったのかそう頬を赤らめる。だが、どこか少し複雑そうな表情も見せた。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ……こう、せっかくクランに入れてもらったのに、エリオさんのお世話になってばっかりで……いつかこの恩をかえそうって思ってたんですが、知れば知るほどに血盟の皆さんは私なんかとはかけ離れた存在なんだなって思い知らされまして……」
そう少し暗い表情をリーシャは浮かべた。
そしてその思いの正体に思い至る。
つまるところリーシャは不安なのだ。
ただその不安は自分がこの先やっていけるかどうか、と言ったようなものではなく、自分がこの先……役に立てるのかどうかという不安。
それはある意味で俺が常に抱えていたたぐいの物だ。
あのバケモノのような強さと才能の塊の集団の中で自分という存在の価値を常に疑われているような感覚。それは結局の所自分の勝手な劣等感からくるものだと解ってはいるのだが、どうしても彼我の間にある絶望的なまでの才能の壁の前についつい疑ってしまい、そんな自分に自己嫌悪する。そういった感覚なのだ。
だからこそ、俺はこの少女に告げておこう。
「ウチのメンバーなら多分そんな事は気にしないと思うぞ?」
「え?」
「なんせアイツは限界レベル5の俺を未だにダンジョン攻略に連れ回すような奴等だからな。アイツラが見てるのは力じゃなくて、たぶん別のなにかなんだよ。それこそ同じ目的のために動いてくれるとか、気が合うとか、多分そういうのの方が大事なんだ」
そう……だから俺は色々ひどい目にあっても、アイツ等と居る事をやめられない。こうして口に出してみると俺の心に巣食っていた不安もどこか消えていくような気がした。
「そういうものなんでしょうか?」
「ああ俺が保証する。っていうかアイツ等の場合、力の差なんか気にしなさすぎて雑魚でもなんでも一緒に自分達基準のダンジョンに連れてこうとしてもおかしくないからな。大丈夫だ、嫌でも強くなる!!安心しろ!!」
「そっか!それなら安心……できませんよね!!!?」
「うん」
「認めないでください!!!?」
ガタリとリーシャは立ち上がる。
「ってことで、明日からもビシバシ行くからな!力の差とかで落ち込んでる暇なんかないように!!」
「ひいいいぃぃぃ」
そう言って目に涙を浮かべるリーシャだったが、その表情からは先程の影は消えていた。
そして多分、それは俺にも言えることなのだろう。
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