第9話 勘のいい子は大好きだ

 ◇


「エ、エリオさん……?」


 リーシャがいろいろと困惑した目でこちらをみてくるが、宥めている時間もない。とりあえずは、さっさと終わらせてしまう事にしよう。


 そう思い、俺は照準をつけるように手を前へと差し出し狙いをつける。


 そして俺は【神々の宝物庫】のスキルを発動させた。


 ……とは言っても、何も強力な武具を生成しようって訳ではない。今回使うのは神々の宝物庫の前身となった【倉庫】のスキル部分だ。



 この世界のスキルの大半に言えることだが、スキルとは鑑定した時なんかに解る、スキル自体の強さを表したスキルレベルの他に熟練度と言うものが存在する。


 まあ熟練度と言ったところで別に数値で表される様なものではなく、本人がいかにそのスキルを上手く扱えるのかといったスキルの使用者自信に由来する技能のことだ。例えば風の弾丸を創り出す様なスキルを持っていた物が二人いたとして、片方は射撃の名手、片方は射撃の素人となればどちらがうまくその能力を使えるかは議論する迄もないだろう。


 もしくは扱う物の技量が同じだったとして、片方はスキルを発現させて間もない者と、スキルを発現させて相当な年月が経ち、扱いに習熟している者……その二人を比べたとしてもどちらが有利かは言うまでもない。


 スキルは使いこなせば使いこなしただけ強くなる。


 まあ当然の帰結だろう。



 だからこそ、俺はかつてこの倉庫のスキルを可能な限り極めてやろうと決めたのだ。



 それしか出来ないのだから、それでどうにかパーティを支えるしか無い。そう決意しどうにか確立した戦い方がコレだ。




 俺は俺の周囲の空間に何十、何百という先を尖らせた鉄のパイプを亜空間から全長の半分だけ出現させ固定する。倉庫は俺だけに近くできる異空間に周囲のものを出し入れする事ができる能力だ。慣れれば物体を異空間から先っぽだけだして宙に固定することもできるし、やり方しだいでは他にも様々な事が可能だ。


 俺は俺の周りに浮かぶ何百の鉄パイプの全てに2つの作用を働きかける。



 一つは亜空間へと収納しようと亜空間へと引っ張る力。


 一つは亜空間から現実空間に出現させようと、現実側に引っ張る力。


 2つの力は釣り合い、それでも命令を実行しようとその引く力を倍増されていく。



 結果鉄パイプは両端からとんでもない力で引っ張られる事になり、その全身をギギギギギギと強烈な音を発しながらいまにも爆発しそうな状態のまま宙に固定されることに成る。


 そしてその力が頂点に達し、鉄パイプ自身が引きちぎれる直前、俺は亜空間へと収納しようとする作用だけを打ち消した。



 それとほぼ同時に鳴り響くのは無数の発砲音にも似たパンと言う音だ。それは俺の周りに展開されていた鉄パイプの一つ一つが音速を超えるほどに一気に加速したことの査証である。




 何百という鉄パイプが音速を超える弾丸の雨としてマッドボアリザードへと降り注いだのだ。



 そこに広がる光景は……まあ地獄絵図と言えるだろう。


 鉄パイプがマッドボアリザードの体の各所を穿ちぬき、そこからストローが逆流するように鮮血を吹き散らかしている。中には一番近くまで迫ってきていた個体なんかはミンチとも思える惨状になっていた。




 リーシャのレベル上げ様に一匹くらいは残しておきたかったのだが、勢い余って全滅させてしまったらしい。まあダンジョンの中ではモンスターはいくらでも湧き出てくることだし、すこし待てば自然と寄ってくるか。


 そう切り替えてリーシャの方へと向き直る。



「とまあ、俺の戦いはこんな感じかな?だいぶ大雑把で加減とか出来ないんだけどね。まあ、この辺のモンスターくらいなら俺でも対処できちゃうから、リーシャは自分の経験値のことだけ考えてくれれば大丈夫だよ」



「……ふぇ?」


 あまりの光景に放心していたリーシャは俺の言葉で正気を取り戻す。



「エエエエ、エリオさん!!?いまの何だったんですか!?それに此処に来るまで自分は弱いって言ってましたけど……全然嘘じゃないですか!!?こんな事、普通の冒険者じゃ絶対できませんよ!!!?」


 そして飛び出してきたのはそんな感想だ。


 なんというか、こうダイレクトに褒められるとものすごく歯がゆい気がする。とはいえ、間近でバケモノ達を見てきた俺からすれば、まったく慢心出来るような事でもないので、なんとも複雑な気分だ。



 アレンなら剣技で俺の今の攻撃と同等の範囲に数倍の威力の斬撃をノータイムで繰り出せるし、セレナなら拳一つでこの鉄パイプすべてを一点に集めたのと同じ威力の攻撃を相手に叩き込める。ゼノンなら鼻くそほじりながら同じ様な効果の魔術を展開してくるし、イチも暗器で同じことが出来る。ジオに至ってはこの攻撃をどれだけ打ち込もうと無傷で耐えてくるともうめちゃくちゃだ。



 とはいえ、それはそうとリーシャもかなりの美少女であり、褒められて嬉しくない男なんか居ないだろう。


 というか、もはや実力も精神も人間レベルであるというだけで本当に癒やされる。




「ああ……俺、リーシャと冒険者始めたかったな……」


「ふえええ!!?」




 いかん、思わず本音がこぼれてしまった。




「えっ、ええと……私、エリオさんでしたら……その!何をしていただいても、こう!嫌ではありませんので!!その……ふつつかものですが……?」



 そして訂正する間もなく決意を固める少女。



 ああ、そうだこの子はこの子でちょっと頭がピンク色なんだったな。


 そう俺はリーシャの認識を普通からやや普通のカテゴリにずらしつつ、三指をつこうとするリーシャをなだめる羽目になるのだった。






「とまあ、そんな感じのしくみで倉庫のスキルでも使い方次第ではこんな事もできるって感じかな?」



 なんとか宥めつけた後、先程の一応【砲撃】と名付けた攻撃のからくりを説明する。倉庫のスキルが使えるものなら修練次第ではいくらでも習得可能な技術だ。習得にはそれなりの時間を要したものの、別段大した事でもない。



「うーん、思いついて完成させちゃう時点で十分凄いことだとおもうんですけど……エリオさんが言うなら、わかりました」


 リーシャはどこか納得行かないような表情を浮かべながらも頷いてみせる。よしよしこれでいらない幻想を俺に抱くような事は避けられそうだ。そうやって俺に幻想をつのらせすぎた結果できあがったのが今の血盟の俺への依存体制である。



 俺は同じ鉄は踏まない男なのだ。



「それはそうと、スキルって思った以上にいろいろ応用が効くんですね」


「まあスキルなんて要は道具だからな」



 道具である以上、想定された使い方と、想定されてはいないけれど、そういう風にもつかえるよね……うん、という使い方ができる。



 

 この事実を真の意味で理解しているかいないかで、スキルの扱いの幅は大きく変化するのだ。




「ってことで、リーシャがさっき発言させた【痛覚無視】のスキルなんだけど、良い使い道があるとおもうんだ!」


 そう俺は目を輝かせた。



「これ……さっきすごい目に合った時と同じ感じの流れだと思うんですけど!!!?」


 うん、勘の良い子は大好きだ。







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