第7話 強くなる為に必要なもの

 ◇


【Side:エリオ】


 この世界で強くなる上で最も重要な物は何か。


 ある者は強大なモンスターとの戦闘で得られる経験値と答えるだろう。


 ある者は自分を虐め抜くトレーニングと答えるかもしれない。


 それ等の答えは或る意味では正解であり、或る意味では間違いだ。



 この世界で強くなる上で最も必要な事。それは『魂の研鑽』である。


 敵を倒した時に経験値を得られるのも、過酷なトレーニングをした時に経験値を得られるのも、つまるところ、それらが魂を研鑽する上で重要な要素だからだ。


 だが、敵を倒せば、トレーニングを行えば、経験値を得られると思っているなら、それは大きな間違いである。


 自分の命を一切おびやかせない様な者をどれだけ狩ったとしても、得られる経験値は微々たるものだし、自分をいっさい追い詰める事の無いトレーニングで得られる経験値も僅かだ。


 それは、詰まるところ、それらの事柄が魂を研鑽する上で大した足しにならないと言う事である。



 これはそれなりに経験を詰んだ冒険者や兵士なら言われずとも直感的に理解している事柄だ。雑魚狩りじゃ大した経験値は得られない、だが、強くなればなるほど命の危険があるような難易度のダンジョンへはアクセスが悪くなっていく。


 そして、大した経験値にはならずとも、それなりのダンジョンでも周回すればそれなりに纏まった金額は稼げるようになる。


 そして、大抵の奴は何処かで満足してしまうのだ。


 これが高難易度のダンジョンの攻略が進まない理由の一端だ。人間の欲望は尽きないと言うが、アレは少し間違っている。無限の欲望を持てるかどうかもまた才能であり、大半はどこかで求めることをやめてしまう。



 まあウチのバケモノ共に限っていえば、そんな理由で折れる事はないらしいが。と言うか、そこで折れてくれれば今の状況に至っちゃいない。


 というか、むしろ俺が止めなければダンジョンへの往復すら面倒くさがってダンジョン内で暮らそうとするような奴等だ。アイツ等にとってはそれでも良いかもしれないが、流れ弾の一発でも死ねる俺にとってその生活は過酷すぎた。


 そしてその結果、なんとかひねり出した経験値の稼ぎ方……それがこちらである。




「ひっ……ひぃぃぃ!!!」


迫りくるマッドボアリザードを前にリーシャはガタガタと震えながら毒蛇のアギトを構える。


「落ち着いて、狙うのは目だけでいい。失敗してもすぐに回復するから安心してぶっ飛ばされると良いよ」


「そそそ、そんなこといったっ……きゃああああああ」




 マッドボアリザードの圧力にまけ、またもリーシャはその突撃の餌食となってぶっ飛ばされていた。おそらくだが腕の骨と肋骨が数本はいっただろう。肋骨が肺にささったのか口から血を吹き出していた。


 それを瞬時に【偽善の杖】で回復させる。


 偽善の杖は俺が保有しているアイテムの中でも貴重な回復系の効果が込められたものだ。ただ効果がすこし特殊で相手を魔力を使わずに回復させる事ができるものの、回復させる生命力に応じた金が消滅するというものだったりする。


 生命力はそれぞれの命の強さであり、最弱クラスの人間の俺が50程度の生命力なら一般的な冒険者の平均は300程度、アレン達なんかは四桁をこえていたりとそのものの強さによって様々っだ。


 かつてはこの偽善の杖は俺達のパーティの貴重な回復リソースとしてつかわれていたのだが、メンバーの生命力がレベルとともに馬鹿みたいに膨れ上がり、到底資金をよういする事ができなくなってからは長らくホコリをかぶる事になっていたのだが、今回ここで久々に日の目を見る事が出来た。


 さて、話が少しそれたが、コレが何をしてるかと言えば、血盟式ブートキャンプといった所だろう。



 経験値は生命の危機がある相手との戦いの中で得ることが出来る。


 そしてその量は生命の危機の強さによる。


 

 つまり、ギリギリ確実に死なないよう周りでフォローしつづけ単独で撃破が極めて困難な敵に挑み続ければ、挑み続ける間つねに経験値がたまり続け、ダメージを一部反射させる防具や毒蛇のアギトのようにスリップダメージを与える系の武器を使い、どうにか敵を倒せばさらに膨大な

経験値を得ることが出来るという寸法だ。



 またコレは自分は装備をつけなかったり、場合によっては拘束具で体を拘束することにより相対的に命の危機を高めることによって本来格下であるモンスターにたいしても行えるという利点がある。


 コレにより俺達は近場のダンジョンでかなり高レベルまで鍛えることが出来、より強力なダンジョンに遠征に行くための地盤を固めることができたのだ。




 まあ、そうやって地盤を固めてしまったから、今に至ったのだと言う事に関してはそっとしておいてほしい。


 かくいう俺もアイテムを揃えるために何度もこのマッドボアリザードにぶちころがされている。こいつはマッドとつくだけあって、脳筋オブ脳筋な思考回路をもっているため、どれだけダメージ反射盾で自分がボロボロになろうが、毒に侵されようがどっちかが死ぬまで突進を辞めないため、この稼ぎにはもってこいなんだ。



 まあ、俺がコレをするとセレナが「もうやめて!!私が養ってあげるから!!そこまでしないで!!」と泣き叫ぶ上、高難易度のダンジョンに遠征に出向く事が多くなった関係上あまりする機会はすくなくなったが……。



 だが、しかし、思うのだ。



 本当に常に死の驚異に付きまとわれる高難易度ダンジョンに比べれば……




 全身の骨が砕けて内臓がずたずたに成る”だけで”普通にダンジョンを集会するよりも遥かに多い経験値が稼げるマッドボアリザード狩りなんか天国だろう。


 なんせ適切にやれば命を落とすことなんてないんだから。



 経験者が語るんだから間違いない。

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