第2話 神級スキル【神代の宝物庫】
◇
結局、あの後俺はアレン達に押し切られる形でパーティの存続を決める事になってしまった。
「恨むからな……?」
「諦めろ、そこまで依存するまで甘やかしたお前の落ち度だ。これもまた因果応報って奴だな」
「うぐ……どこまでも言い返せない所を突きやがって」
「ま、伊達に冒険者と酒場の主をしてきちゃいねーってこったな」
ケタケタとガルムは嗤う。剣一本で人外と呼ばれる力をもったBランク冒険者になった度量と機転は伊達ではないと言う事なのだろう。そうしてガルムは俺だけに声が聞こえる位置にうつり、静かにこう呟いた。
「まあ事実、能力だけで見るならお前の代わりはいくらでも居るだろうさ。そこは間違いない。だが……アレ等のコントロールをぶん投げて良い奴なんか、そうそう見つかると思うか?」
「力だけは規格外で、人格面に難を抱える奴ばかり。全員が全員暴走するとは言わねえが、小汚え大人に騙されて良いように利用されねえとは限らねえ奴ばかりだ。ただでさえ、ここんとこは【ダンジョン災害】の件数だって増えてるんだ、ここでお前ら血盟が空中分解どころか馬鹿どもに良いように利用されてみろ?お前がかねがね言ってる平穏どころの騒ぎじゃねーぞ?」
「……わかってるよ」
ダンジョン災害とは千年以上も昔からこの世界が侵されている病の名だ。
【ダンジョン】とは世界の各所に生まれては成長を続ける異界の総称で、放おって置けば様々な災い引き起こす死の迷宮の事を指す。
未踏破のダンジョンを攻略し、管理もしくは破壊する事が俺達冒険者の中でも【
ガルムが言うように俺達血盟は攻略が高難易度故手つかずのまま放置され
この帝国にとっても世界にとっても、そういったパーティが崩壊してしまうと言う事は徒歩もない大損害だと言えるだろう。
俺がなんだかんだ言いつつ、パーティを抜けられなかったのは情が湧いたからだけでは無い。そういった世界をとりまく状況もあっての事だ。
「ただ、だからって俺がこいつ等の戦いについて行けないってのも事実だからな?【神代の宝物庫】を使いこなせってのも無茶な要求だ」
倉庫のスキルから派生した神代の宝物庫のスキルは、初級、中級、上級、超級、神級と五段階で評価されるスキルの中でも神に等しい所業を行うことが出来るとされている神級に分類されるぶっ壊れレベルのスキルだ。
ありとあらゆる能力の成長にアホみたいな補正がかかる【勇者】のスキルが、限りなく超級に近い上級に分類されている事からも、その凄まじさは解ってもらえるだろう。
だが、それでも人は神じゃない。
神を真似るには相応の対価を求められる事になる。
「ああ、確かそのスキルでアイテムを創り出すのには【経験値】がいるんだったか?」
「そういう事。経験値を消費すればどんなアイテムでも……それこそ神器とか呼ばれる物でも創れるけど、ダンジョンで稼いで市場で出回ってる物を買ったほうが現実的なんだよ」
経験値とは他者の生命を奪うことや、修行などと呼ばれる行為で得られる自らの魂を練磨するための力の名前だ。魂が一定量の経験値を得ることで、その魂は練磨され、限界を越えてより強い存在へと体を書き換えていく。俺達はそうした魂が限界を超えた数をレベルと呼んでいる。
ただ、肉体や才能に個人差があるように魂の強さにも個人差があり、生命は必ずどれだけ経験値を稼いでも数値がストックされていくばかりで限界を超えることができなくなるリミットが儲けられている。
それが俺の場合5と一般人の中でも最下級のものだったのだ。
経験値は世界の法則上、パーティを組んで一緒にモンスター等を倒したとしても、その戦闘に置ける貢献度に応じてかなり増減してしまう。件のダークドラゴンを倒したときなど、俺は守られるばかりで貢献どころか足手まといでしかなかったため、得られた経験値はトドメをさしたアレンの千分の一程度しかなかった。まあ貰えただけ御の字でしか無いのだが、宝物庫の能力を考えると、そうも言っていられない。
試しに俺でも辛うじてトドメがさせるモンスターを手伝ってもらいながら倒して経験値を稼いで見たこともあったが、同じ時間をかけて俺以外の仲間の適正レベルのダンジョンで狩りをしたほうがよっぽど効率よく稼げると判明し、完全に心が折れてしまった。
それからというもの、神代の宝物庫は探索中におこぼれで貰った経験値を使って迷宮内でも新鮮な食料や水を創れるだけのスキルになってしまったのだ。いや、十分凄いことは凄いんだろうけど、神を冠するクラスのスキルでする事ではない。
まあ、つまるところ神代の宝物庫はそのデタラメな反則級の触れ込みに対して、実の所は悲しいまでに現実的な効果なのである。実戦において実用レベルで運用するなら、最低限もとの能力が実戦に耐えうるレベルである必要がある。
こんな事なら、神級スキルに覚醒するよりも、レベル上限が一般的な20、せめて15程度になってくれた方が余程良かった。
「ふむ、なかなか難儀なもんだな。だってならレベル上限はどうしようも無いにしろステータスを上昇させるようなアイテムをつくるなり、買うなりして地力を上げるってのはどうだ?」
そう言った装備は装飾品の形をしている事がおおく、多数装備出来るため、非常に重宝される。またレベル上限にぶつかった冒険者達がそれでも諦めず、上を目指す時の鉄板で少しでも質の良い装備を買えるだけ買い漁るというのがお決まりの流れとなっている。
「それも却下かな。ステータスアップ系は解りやすく便利だし、人を選ばないから高くなり過ぎるんだよ」
ステータスアップ系の装備を欲するのは行き詰まった冒険者だけでない。一般的な冒険者や兵士はもとより、貴族、商人、はてまた肉体労働を行う平民まで広く求められるものである。
そのため、効果に対して価格がべらぼうに高い。
本格的に一式揃えようと思えば、いくら血盟とはいえ、しばらく金策に従事しなければならないし、ダンジョン災害が増え続けるなか、そんな事に時間を割きたくない。
ならば、そんな時こそ宝物庫の出番だという筈だが、俺の実力で、それなりの物を一式揃えようと思えば結局、金を稼ぐのと変わりないレベルの足踏み期間が要求される事になる。
しかもそれで出来るのはあくまで応急処置だ。
またレベル差が開けば同じような問題にぶち当たる事になるだろ。それでは結局問題の先送りでしかないし、先送りにし続けた結果が今である以上、同じ過ちを繰り返したくは無い。
ただ、だからといって根本的な問題を解決出来る方法が無いのだからこんな状態におちいっている訳で、何か策があるのかと問われれば口を紡ぐ事になる。
となれば仕方がない。
あまり気は進まないが、ステータスアップ系統のアイテムを一式揃えるとしようか……そう、思考を巡らせた時だった。
「あー坊主、その件なんだがな、一つ提案がある」
そう俺とガルムの間にひょこりとニマニマとした笑顔のゼノンが顔を出した。
「却下」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
思わず条件反射で提案を退ける。どうせコイツの事だからカジノか何かで増やそうとでも言う気だろう。前も必勝法を見つけたとかいって小遣いを前借りした挙句、ディーラに上手いようにあしらわれ、全額すって泣きをみたばかりだ。
しかもその後、追加の小遣いをせびるために色仕掛け(笑)を繰り返すというおまけつきだ。
そんな俺の心情を読んだのか「ちっ、ちがうぞ!?今回はちゃんとした提案があるんだからな!」と若干声を震わせながら主張して来る。
「……くだらない事だったら小遣い減額だからな?」
「ぬぐっ……だっ大丈夫だ!たぶん!」
そう、自信があるのか無いのか分からない発言をキメた後、ゼノンはコホンと咳払いをすると、こちらの顔を覗き込む。それに伴い顔つきも情けない幼女のものから、悠久の時を生きた魔術師としての物へと変わっていた。
「まあ、これは前々から考えてた事なんだが、一旦ダンジョン攻略を休止しようと思う」
そうして飛び出してきたのは思いも寄らない提案だった。
「……理由は?」
「いくつかあるが、まず第一に力不足を感じていたのは坊主、お前さんだけじゃねーって事だ。それでもなんだかんだで、このパーティは行き詰まる事もなく、ここまで来れちまったからな……いい機会だし、ここらで一旦、それぞれ力を鍛え直す時間を取るのも悪かないだろうと思ってな」
「俺としても、色々と素材が手に入った事だし、やって置きたい研究もある、アレンの奴も【聖剣】のスキルを覚醒させるにゃいい頃だし、セレナの嬢ちゃんも、後回しにしてた【聖女】の洗礼もこの際に済ませて置きたい。ジオもセレナの面倒見ついでに【聖術】の習得でもさせて置けばパーティとしてのバランスも良くなるだろう」
ゼノンはスラスラと今後のプランを口にする。内容に迷いが無い様子から見てももともと話し合っていたというのは本当なのだろう。
そして内容も取りうる手としては十分に採用する価値があるものだ。
勇者のスキルはその有用性から、かねてから研究が進められているため、断片的ではあるがいくつか覚醒スキルへの派生のさせ方が判明している。
ただ、単身で挑まねばならない事と条件を充たす為の難易度自体が高い事が障害となり、後回しになっていたのだ。
確かに今のアレンの実力ならば頃合だ。
また聖堂教会もその長い歴史からいくらかのスキルを覚醒させる為の情報を所持している。洗礼とはつまりスキルを覚醒させるための修行にほかならない。
それぞれが力を付ければ、今よりも余裕を持って戦う事が出来る。ただ、このパーティメンバーの場合だと、それはそれで強化された状態でギリギリを攻めようとし出すのだ。
それだと結局、今よりも状況が悪くなるだけなのだが……ゼノンの言い分からしてまだ続きがあるのだろう。
「で、イチと俺はどうするんだ?」
「イチはまあ、坊主の護衛だな」
「護衛……?」
モンスターでも倒して少しでも経験値を貯めていろと言うことかと頭を捻るが、どうやらそうでは無いらしい。
ソコに呆れ顔のガルムが補足を入れてくれた。何でも俺は世の中の連中からすれば、これ以上はない程に美味しいカモなのだという。と言うのも俺は大した実力もない上にこのバケモノ達のリーダー的立場にいる。そしてパーティメンバーの大半は俺に対する依存が強いため、俺をさらって脅しをかければ、国家級の実力者数名を意のままに操る事ができると言うのだ。
普段でこそ、あのバケモノに囲まれているため、手を出す輩は居ないが、パーティをバラして別行動するとなれば、変な気を起こす者が出ないとも限らないと言う事らしい。
なんと言うか二重の意味でショックだった。
そんな扱いで見られているというのも大概だが、それは要するに俺はただパーティを抜けるだけでは平穏など手に入らないと言う意味でもある。
イチはそんな様子を見て「大丈夫です、主!私が誠心誠意仕え、御守りしますから!」と決意を新たにするが、気になっている所はそこでは無い。
だが、まあ、それはそうと本筋とは関係無いので、とりあえず置いておく事としよう。
「それで肝心のその間に坊主にやっててもらう事だが……」
そう、本題はここかからだ。
「坊主、お前にはその間、【クラン】を立ち上げて貰おうと思う」
「……はい?」
その意外な一言に俺は思わず変な声を漏らした。
クランとは冒険者の共同体の型の一つである。
冒険者とは要するに荒事主体の便利屋の総称だ。
そういった者達があつまり、特定のチームとして動くようになったのがパーティだと言うなら、クランとはそのパーティが更に複数個集まって出来た規模の集団だ。
一般的なパーティの人数の平均が6名前後である事に対し、クランは小規模なもので10名以上、大規模なものだと300人クラスの物まである。
いつの世も集団というモノは力を持つものであり、集団であることの面倒事を鑑みても、そこに属するメリットは大きい。
ただ俺達の場合、俺以外のメンバーの個々が並大抵のクラン以上の力と発言力を持っていたため、結局柵が増えるだけだとクラン入は見送ってきたのだ。
「なんでまたクランなんか?」
ゼノンの意図が見えずそう問い返してみるが、ゼノンはニヤリと笑い「俺にいい考えがある」と容量の得ない返答を返すばかりだ。
正直なんとも胡散臭い話なのだが、その予感は結局の所当たっていたと言えるだろう。
クランを率いる事により、俺はやっと自分の中の可能性と向き合えることにはなるのだが、より大きな面倒事を抱え込む事になるのだから。
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