俺の【倉庫】のスキルが覚醒し、どんな聖遺物でも無限に取り出す事が出来る神スキル【神代の宝物庫】に進化したが、まず俺自身が弱過ぎて使い物にならない。-だから俺がじゃなくて!お前達が俺を追放するんだよ!-

名無那 奈々

第1話 だから俺がじゃなくて!お前達が俺を追放するんだよ!

 俺の【倉庫】のスキルが覚醒し、どんな聖遺物でも無限に取り出す事が出来る神スキル【神代の宝物庫】に進化したが、まず俺自身が弱過ぎて使い物にならない。-だから俺がじゃなくて!お前達が俺を追放するんだよ!-





 -帝都ベルン ガルムの酒食亭にて-



「もう限界だ……このまま、俺達が同じパーティを続けていたら、お互いの為にならない。解るだろ?足手まといなんだよ……!!」


 しんと静まり返った酒場の中、静寂を破るように、そんな言葉が響いた。


 俺の向かいに座るのは、一千万人に一人とも言われる【勇者】のスキルに覚醒し、このパーティの攻めの要であるアレン。


 そして、その横には若干15歳という若さで聖堂教会の最高戦力である事を意味する【聖女】の称号を贈られた天才少女であるセレナ。


 究極の魔術を追求するために、自らが生み出したホムンクルスに魂を移し替え続け悠久の時を生きる【魔道士】、ゼノン。


 遥か東の果の国から、帝国へと流れ着いたシノビという【暗殺者】の末裔であり、ただ一人でこの国最大の暗殺者ギルドを壊滅させた少女、イチ。


 ただ一人で千の魔族と十三の竜の猛攻から街を守りきり、不沈艦の異名を持つにまで至ったパーティの守りの要である【重騎士】、ジオ。


 彼女らが神妙な面持ちでコチラの顔色を伺っている。



 説明からして解るように、俺が所属するこのパーティ、『血盟』のメンバーは一人ひとりが小国に匹敵する程の戦力を秘めたバケモノたちだ。


 ただ一人、俺を除いて。



 俺はこのパーティに置いてお荷物でしか無い。


 このバケモノ達どころか一般的な冒険者と比べてもレベルも能力もお粗末で、これ以上の成長なんて見込めもしない。誰かに誇れるものと言えば、物質を異次元空間に収納して持ち歩ける『倉庫』というスキルだけ。



 それも、コイツ等のようなバケモノにとっては無用の長物としか言いようがない。


 幾多のダンジョンを踏破してきたコイツ等ならそんじょそこらの建物以上容量を持ち、ポーチサイズに収まる上に破壊耐性にあるマジックバックくらい簡単に買えてしまうだろう。



 だから……これは必然の別れだった。



 俺だってこんな終わりは嫌だ。



 だが、どうしようもない。


 二年前……俺達がこの帝都で出会いパーティを組んだ時はみんな駆け出しでゼノンも新しい肉体を構築し魂を移したてだった。ゼノンの事情こそ特殊ではあるものの、スタートラインは概ね同じだったのだ。


 だが、例え同じラインでよーいどんで始まっても、才能というモノは平等に容赦がない。俺がコイツ等について行けないと悟るまで大した時間は必要とはしなかった。



 それでも俺なりにこのパーティの為になるよう尽くして着たつもりだった。


 それでも、無理なモノは無理なのだ。



 だから……どうか、"受け入れて欲しい"。




「エリオ……お前……」


 俺の言葉を聞いて顔面を蒼白にし、勇者アレンが声を震わせながら俺に問い掛けてくる。




「俺達を追放する気なのか……!!?」




 そしてそんな言葉に続くようにセレナが「嫌です!!そんな……!!エリオさん、捨てないでください!これからは、ちゃんといい子にしますから!あ、ほら何でしたらやっぱり私を性奴隷として飼っていただいても良いですし!た、食べごろですよ私!」と錯乱して訳わからない言葉を叫んでくる。


 それを皮切りにゼノンが「まあ、まて……小僧は働きに対して自らの報酬が不当だといってるんだろう。やっぱり前に話し合ったように此処はエリオが9.5で俺達が0.5にすべきだ」と的はずれな持論を展開し始める。


 イチに至っては何故か勝ち誇ったように「主がこのパーティに見切りをつけられるなら、それも致し方ないかと……」と納得していた。ちなみにコレは物分りが良いのではなく、自分はパーティに所属しているのではなく俺の所持品であり、俺がパーティを追放する?としても自分は変わらず俺のそばに居ることが出来るというシノビ特有?の妄想から来るものだ。


「………………!!」


 そしてジオは無言のまま、チワワのような瞳でコチラをじっと見つめ何かを訴えかけてきている。ぶっちゃけ、コレが一番きつい。なんというか自分が何か途轍もなく、ひどいことをしているのでは無いかという気になってくる。


 だが、コレに負けてはいけない。


 俺は今日こそ決めたのだ。


 毅然とした態度で俺は皆へと向き直り、告げるべき言葉を口にする。




「だから……俺がお前らを追放するんじゃなくて……お前らが俺を追放するんだよ!!!!!!!!!」




「ふざけんなよ!?お前ら今何レベルだ!?アレンは72、ゼノンが68、イチは71、ジオは67、エレナお前に至っては76じゃねえか!!俺が何レベルなのか解ってるのか???5だよ!!5!!!しかも成長上限で、これ以上成長できる見込みもない!!駆け出し冒険者でも一ヶ月もありゃ、もうちょいマシになるからな!?俺はお前らが普段戦ってるモンスターの攻撃の余波どころか、無意識に蹴飛ばした石に当たっただけで死ねるんだよ!!こないだ相手したダークドラゴンの鼻息だけで死にかけた時は何かのギャグかと思ったわ!!!」


 それはこの二年間、ために溜め込んだ思いだった。


 そう、コレは俺がパーティを追放されて始まる物語なんかでは無い。


 俺がどうにかしてこのバケモノ達から逃げ出し、平凡な人生を謳歌する為の物語だ。




 ◇




 一言で言うと俺はこのパーティメンバーの全てに依存されている。


 その実力差で何を言い出すのかと思うかもしれないが、事実なのだから仕方がない。


 アレンは見た目こそ金髪碧眼の細マッチョでどこぞの少女向け漫画の王子様の様な出で立ちであるにも関わらず、その性根は極度の陰キャなのだ。王や貴族はおろか、冒険者連盟との交渉どころか、薬草1つ買うこともままならない。


 結局上との面倒事は他のメンバーにも適任が居なかった事や、俺自身どうにかパーティの役に立ちたいと言う思いがあったため、俺が一手に引き受けて居たのだ。


 ただそのせいでパーティに、そう言った交渉事が出来る人材が育たなかったのだろうと言われれば黙るしか無いのだが、可能な事なら精一杯の言い訳を聞いて頂きたい。



 他に道が無かったのである。


 セレナは聖女とは名ばかりの戦闘狂だ。神から与えられた力の全て敵の殲滅に割り振る様な輩である。回復系統の術式は自身を対象にした物以外習得できず、その回復能力をあてに自身の身体のリミッターを完全に外し、最前線で自壊と再生を繰り返し敵を薙ぎ倒す様は狂気以外の何物でもない。


 お陰でパーティの回復は俺が後方でポーションと見様見真似の応急処置スキルで行わなければならなかった程だ。



 また素行も悪く、最近こそ頻度は減ったが、幾度と無くセレナと一緒に聖堂教会の総本山にまで謝罪に行かされたのを覚えている。



 なら年の功のあるゼノンはどうだと言えば、断じて大丈夫では無い。



 三子の魂百までとはよく言った物だ。よく思い出してほしい、世の中に子供より柔軟な発想ができて、物分りの良い老人を見たことがあるだろうか?俺はない。少なくともゼノンを含めてそう言い切れる。


 ゼノンは魔道士である前に博打打ちの酒好きだ。


 報酬を持ったが最期、倍にするはずだったと全てすってしまった事が幾度となくある。また酒が入れば気がでかくなるのか美味い儲け話に何度も騙されたり、下手をすれば借金奴隷落ち仕掛けた事も何度かあった。そんな奴に交渉役を任せたらパーティまるごと借金奴隷もありえるだろう。


 結果、俺がゼノンの報酬の大半を預かり、小遣い制にした所、他のメンバーもそうして欲しいと訴えて来た為、そこからが大変だった。


 パーティの稼ぎの9割は一旦俺の懐に入り、残りをそれぞれに小遣いとして渡す。そして俺はその9割の資金をいかに運用すればパーティの強化に繋がるかと頭を悩ませる羽目になったのだ。


 普通に装備を買ってメンバーに渡す事もあれば、骨董品を目利きして、オークションに転売して資金を増やすこともある。時には株にまで手を出し、そこそこの儲けを出した事もあった。……あったのだが、流石に自分が何をしてるのか解らなくなったため、手を引いた。


 だいぶ話がソレたが、ゼノンに任せることだけは在ってはならない事だと言うことは解ってくれただろう。



 では、イチはどうかと言うと、こいつの場合はかなり惜しい。戦闘はシノビ特有の暗殺技術とあらゆる兵器を使いこなす器用さを兼ね備えているため状況をみて遠近攻守あらゆる局面に対応できるし、交渉事でもそういった器用さは遺憾無く発揮してくれる。


 なら何が駄目なんだというと、こいつの場合、全てに置いて俺を優先しすぎてしまうのだ。


 シノビは生涯を通してただ一人の主君にのみ仕えるというのだが、コイツの場合は筋金入りだ。イチが新人冒険者として、その頑なさゆえに食いっぱぐれ行き倒れていた所をパーティメンバーを探していた俺がたまたま拾ってしまい、命の恩人となし崩し的に主従契約を結ばれてしまったのである。


 その時少しでもシノビの言う主従という物について理解して居ればと今でも思うが、後の祭りと言う奴だろう。


 軽く俺の事をバカにされた位で他のパーティを一人で潰してしまった時には恐怖すら覚えた程だ。


 見た目こそ、巨乳で栗毛色の長い髪が可愛い美少女なのだが、ソコに煩悩を抱ける程、俺の心は強くない。


 というか、容姿でいえばセレナだって小柄で貧相な体付きながら、美少女といって差し支えない容姿と美しいピンクブロンドの髪をしているし、ゼノンは白髪美少女ロリだ。


 まあ、だからと言ってソコに煩悩を抱く余裕がないのは言うまでも無いだろう。


 さて、話が逸れたが最後にジオ。身長220cmを超えるゴリマッチョな大男な見た目の彼だが、その心根は誰よりも優しく、温厚な性格だ。


 その心根だけで見れば誰よりもリーダー向きなのだが、ある意味で誰よりもリーダーに向いていない事情がある。


 彼は、そう……極度の口下手で、ほぼほぼ言葉らしき物を口にしない。俺は何とか注意深く観察することで凡そ言いたい事を察知出来るようになったが、他のメンバーは喜怒哀楽、賛否をどうにか見分けられる程だ。


 ……とまあ、こんな感じでウチのパーティメンバーは、それぞれ英雄級の実力をもっている代わりに、なにかしらの欠陥をかかえた奴ばかりなのである。



 それを凡人の俺が、凡人なりにパーティを支えようとその欠点を補ってきた結果が今なのだ。


 とはいえ、俺は努力こそしたが、たいした事をしている訳ではない。事実として俺の実力ではついていくだけですら困難を極める状況に陥ってしまっている。



 これ以上一緒にことは互いにとって良いことだとは思えない。



 やはり、ここは心をぐっと鬼にしてきっぱり別れようと覚悟をきめアレン達に向き直った時だ。「まあまてよ、エリオ」とこの酒場の主人であるガルムが話に割り込んできた。


 ガルムはかつてはBランクの冒険者として、それなりに活躍していた人物で、今でこそ引退して酒場の主人をしているが、その経験と知識で何度も俺達を助けてきてくれた人物でもある。



 だからこそ、このタイミングで……俺が決定的な別れの言葉を告げる前に声をかけたのも、偶然ではないのだろう。



 だからこそ、このままパーティを辞めてしまいたいなら、ガルムの話を聞くべきではないのだが、思わず俺は押し黙ってしまう。それはガルムに対する恩義から故なのか、俺自身このパーティへの未練を断ち切れていないからなのかは解らない。


 ただ確かなのはガルムの言葉を遮ることが出来なかったという事実だけだ。




「お前だって、俺からしたら大概なバケモノだぜ?【倉庫】のスキルを進化させて【神代の宝物庫】なんて誰も見たことねえ【神級スキル】に覚醒させちまうんだから。それを使いこなした上で、それでも自分がこのパーティに相応しくないって言うならまだ主張としちゃ正当性もでるが……どうなんだ?」


「うぐ……痛い所をつきやがる」


「だが事実だろ?」


 ガルムのその言葉に俺は言葉をつまらせる。


 確かに俺はコイツ等と一緒に過酷の二文字程度では済まない冒険の日々を送るウチに、倉庫のスキルを覚醒させる事に成功した。


 ちなみに覚醒とは、何らかの条件を満たすことで所有しているスキルが通常ではありえない進化・変位・派生の何れかを引き起こす事を指す。


 覚醒自体、かなり珍しい現象でその条件や詳細も多くの場合、手つかずのブラックボックスとなっているのだが、共通して言えることががある。それは覚醒により得ることが出来たスキルは方向性の違いこそあれど、どれも非常に強力だという点だ。



 事実、【神代の宝物庫】も多分にもれず非常に強力だ。


 対価さえ支払えば"古今東西、例え神話の次代に遡ろうと、この世に存在した物ならば、何でも何個でも取り出すことができる"というぶっ壊れ具合である。



「そんなスキルを持っておいて、自分のためにパーティを切り捨て、全員追放しちまうってならまだしもだ。自分が役にたてねえから、パーティをやめるってんじゃ筋が通らねえわな?他の奴らだってお前にパーティに居てほしいんだろ?なあ?」


 そんなガルムの振りに此処ぞとばかりにアレン達は立ち上がる。


「……!!ああ、そうだ!頼むエリオ……!俺達を捨てないでくれ!!」


「そうですよ!エリオさん!コレから何だって言うことを聞きますから!何なら奴隷印だって用意します!!」


「主、もし私が不要なら、いつでも腹を斬る覚悟はあります」


「そうだぞ坊主!悪いが俺はお前がいなかったら、3日で破産する自信がある!!!」


「………………!!!!」



 そうして各々勝手な事を言いながら俺を一気に取り囲んだ。というかこうなればもうどう足掻いても逃げ切ることなんかできやしない。俺とこのバケモノ共のレベル差は10倍以上、身体能力に換算すれば100倍や200倍では済まない差が存在している。


 ああやはり、あの時、ガルムの言葉を聞かず跳ね返して置けばよかったと思っても、最早後の祭りだ。




「あああああ!!だから……どうしてこうなるんだよおおおおおお!!!」



 せめてもの抵抗に思い切り思いの丈をぶちまける。ソレは最早逃げ場を失った俺の、どうにも成らない心の叫びであった。

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