初デートにホラー映画

信仙夜祭

初デートにホラー映画

 今俺は、初デートに臨んでいる。

 待ち合わせ時間まで後五分……。

 結構緊張している。


 出来立ての彼女から、『デートしたい』と言われて、金券ショップで映画のチケットを格安で購入した。

 映画のジャンルは、ホラー映画である。

 俺のデートプランはこうだ。


1.ホラー映画で驚いた彼女が、手を繋いでくる。

  余裕の俺は、『面白いね』と返す。

2.彼女が、恐慌状態になり、腕にしがみ付いて来る。

  胸が当たりラッキースケベ発生!

3.彼女が、『もうやだ~、出る~』と言って来る。

  頭を撫でで、『せっかだから最後まで観よう』と言い、スキンシップを取る。

4.食事に誘うが、食べられないと言われて、彼女を家まで送る。

5.彼女が上目遣いで、『誰もいないよ。上がって行く?』と言う。


 完璧だ。完璧なプランだ。

 これで、俺達も一歩進める。


 彼女も俺も、美男美女ではない。学校では、モブと言っても良い。

 だが、それがなんだ。

 モブがリア充に憧れてはいけないという法律でもあるのか!

 否、そんなものは存在しない!

 先々週から付き合い出したが、俺は幸せを感じている。そしてソロの友人はひがんでいる。

 優越感を与えてくれる、自慢の友人である。

 そんなことを考えていると、袖を引っ張られた。


「……待った?」


「全然、今来たところだよ。……今日はオシャレしてるね、綺麗だよ」


「もう~、やだ~」


 テンプレの会話をして、挨拶を済ます。

 顔を赤くした彼女は可愛く見える。


「それじゃあ、映画館に行こうか」


「うん。期待してるね」


 こうして、映画館へ向かった。





 ──バキ


「ぐは!」


「信じらんない!」


 そう言って、彼女は一人で帰ってしまった。

 俺のプランは、この時点で破綻していた。

 理由は単純である。


 俺が、ホラー映画に耐えられなかったのだ。


 俺は映画館で絶叫して、彼女にしがみ付いてしまった。

 その彼女も、悲鳴を上げてしまった。

 そして、飲み物をこぼし……、彼女の勝負服を汚してしまった。

 そして、『映画上映中はお静かにお願いします』と注意を受ける始末……。


 全てが終わったような気がした。

 俺は放心状態で帰路につき、いつの間にか自分のベットで泣いていた。





 次の日の朝、何時もの待ち合わせの場所に向かった。一緒に登下校をしていたのだが、今日はいないと思う。

 あの、曲がり角の先に、彼女が先週までいたのだ。

 期待せずに進んだ。


「遅いよ! 遅刻するって!」


「え?」


 彼女がいた……。袖を引っ張って急ぐように促して来る。

 早歩きで通学路を進んで行く。


「昨日はごめん……」


「……映画のチョイス間違えたね。今度の週末は、これ見に行こうよ」


 そう言って、彼女は映画のチケットを俺に渡した。

 終わったと思ったけど、まだチャンスはありそうだ。


「恋愛映画だかんね。今度は静かに見てね」


 顔を赤くして、目線を合わせようとしない彼女を、俺は好きになっていた。

 それからというもの、手を繋ぐだけでドキドキしてしまった。

 彼女から『顔が赤いよ?』と言われて、慌てて顔を背けてしまう。

 もう彼女といると、俺には余裕などなかった。

 自分自身のことであるが、ミステリーである。

 これが、恋という感覚なのだろうか……。


 そして、週末。映画館で、恋愛映画を見て号泣している俺が、そこにはいた。

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