初デートにホラー映画
信仙夜祭
初デートにホラー映画
今俺は、初デートに臨んでいる。
待ち合わせ時間まで後五分……。
結構緊張している。
出来立ての彼女から、『デートしたい』と言われて、金券ショップで映画のチケットを格安で購入した。
映画のジャンルは、ホラー映画である。
俺のデートプランはこうだ。
1.ホラー映画で驚いた彼女が、手を繋いでくる。
余裕の俺は、『面白いね』と返す。
2.彼女が、恐慌状態になり、腕にしがみ付いて来る。
胸が当たりラッキースケベ発生!
3.彼女が、『もうやだ~、出る~』と言って来る。
頭を撫でで、『せっかだから最後まで観よう』と言い、スキンシップを取る。
4.食事に誘うが、食べられないと言われて、彼女を家まで送る。
5.彼女が上目遣いで、『誰もいないよ。上がって行く?』と言う。
完璧だ。完璧なプランだ。
これで、俺達も一歩進める。
彼女も俺も、美男美女ではない。学校では、モブと言っても良い。
だが、それがなんだ。
モブがリア充に憧れてはいけないという法律でもあるのか!
否、そんなものは存在しない!
先々週から付き合い出したが、俺は幸せを感じている。そしてソロの友人はひがんでいる。
優越感を与えてくれる、自慢の友人である。
そんなことを考えていると、袖を引っ張られた。
「……待った?」
「全然、今来たところだよ。……今日はオシャレしてるね、綺麗だよ」
「もう~、やだ~」
テンプレの会話をして、挨拶を済ます。
顔を赤くした彼女は可愛く見える。
「それじゃあ、映画館に行こうか」
「うん。期待してるね」
こうして、映画館へ向かった。
◇
──バキ
「ぐは!」
「信じらんない!」
そう言って、彼女は一人で帰ってしまった。
俺のプランは、この時点で破綻していた。
理由は単純である。
俺が、ホラー映画に耐えられなかったのだ。
俺は映画館で絶叫して、彼女にしがみ付いてしまった。
その彼女も、悲鳴を上げてしまった。
そして、飲み物をこぼし……、彼女の勝負服を汚してしまった。
そして、『映画上映中はお静かにお願いします』と注意を受ける始末……。
全てが終わったような気がした。
俺は放心状態で帰路につき、いつの間にか自分のベットで泣いていた。
◇
次の日の朝、何時もの待ち合わせの場所に向かった。一緒に登下校をしていたのだが、今日はいないと思う。
あの、曲がり角の先に、
期待せずに進んだ。
「遅いよ! 遅刻するって!」
「え?」
彼女がいた……。袖を引っ張って急ぐように促して来る。
早歩きで通学路を進んで行く。
「昨日はごめん……」
「……映画のチョイス間違えたね。今度の週末は、これ見に行こうよ」
そう言って、彼女は映画のチケットを俺に渡した。
終わったと思ったけど、まだチャンスはありそうだ。
「恋愛映画だかんね。今度は静かに見てね」
顔を赤くして、目線を合わせようとしない彼女を、俺は好きになっていた。
それからというもの、手を繋ぐだけでドキドキしてしまった。
彼女から『顔が赤いよ?』と言われて、慌てて顔を背けてしまう。
もう彼女といると、俺には余裕などなかった。
自分自身のことであるが、ミステリーである。
これが、恋という感覚なのだろうか……。
そして、週末。映画館で、恋愛映画を見て号泣している俺が、そこにはいた。
初デートにホラー映画 信仙夜祭 @tomi1070
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