第23話
目の前にいる
「ソウダ、私ガオ前ノ
「ふん、お前のようなゴブリンに
その台詞に
しかも彼の台詞に出て来た『魔界の貴族』。それを聞き逃すことも無かった。
神族や悪魔族が住まう『魔界』。魔族や魔物が文明を築く魔大陸よりもその力は凄まじい場所だ。
そして貴族ということは支配者階級だ。
魔族や魔物の強さは同時に社会的地位に直結する。統率個体などの例外を除けば強ければ強い程、社会的身分は高くなる傾向にあるのだ。
つまりあの
ならば当然プライドは高く、
「―――ダガ、無駄ダ。私ガ『ダンジョンマスター』デオ前ハ『
「む……これは……!? 何故俺様がゴブリン如きに隷属している!? ええい、『
忌々しそうにそう吐き捨てると
到底片手では振り回せそうにない程巨大で、その刃は凶悪だった。
更に
「俺様はお前達下賤とは違い、忙しいのでな。この一振りを有難く受け取るがいい。」
無造作に、されど確実な殺意を持って振るわれる大戦斧。
巨人族であるオーガよりも早く、そして強い。
人間族相手では間違いなく
肉体はおろかその魂まで砕かれることだろう。
しかし、それは相手が純粋な人間であった時の話である。
「―――流石に
少女の声がした。
しかしそれを発しているのは少年の肉体だ。声変りを果たした男子から発せることができないソプラノであった。
いや、異常なのはそれだけじゃない。
慌てて
いや、確かなことは一つだけあった。
―――今、此処に再び魔素嵐が吹き荒れているということだ。
△▼△
しかし感じられる魔力の質は圧倒的に今回の方が上であった。
二体がその異様な状況に動けずにいると少年を中心とした魔素嵐はゆっくりと収束していく。
やがてあれだけの膨大な魔力はどこへやら。残っていたのは可愛らしい少女が一人、ポツンと残されていた。
顔つきはここらでは見ないものだった。
彼等には知る由も無かったが、天大陸東側に住まう民族と同じような特徴をしている。
「流石に魔界の伯爵に紫苑をぶつける訳には行かないからね。今からボクが相手をしてあげるよ。」
「……舐めるなよ、クソガキがぁッ!!」
強気な語気と共に襲い掛かる
しかしその語気とは裏腹にその心中は冷え切っていた。
同じ
先程前の尊大な態度は何処へやら。初陣を前にした平兵士のように遮二無二となっていたのだ。
「効かないよ。」
しかし
単純な物理防御が凄まじい上に展開されている魔力障壁が合わさり正に絶対防御というべき防御力となっているからだ。
「ぐう……っ!? だが、刃に触れたなァ!」
通常攻撃で傷つけることはできなかったが、この大戦斧は
なので当然、この大戦斧にも通常の武器にはない特殊能力が宿されている。
実際、ただでさえ禍々しかった刃が更にその禍々しさを開放させ―――
「えい。」
―――ることは無かった。
大業物と分類されるであろう稀代の魔斧は少女の軽い声と共に砕かれたからだ。
自分の武器に自信があったのだろう
そしてそれを後ろで見ていた
まさか魔界の貴族を遥かに凌ぐ怪物が現れるとは思ってもおらず、へなへなと腰を落している。
「あら、もう終わりなの? ―――じゃあ、次はボクの番だね。」
呆然として動けない魔族達を前に少女は無邪気に宣告する。
絶望的なまでの死刑宣告を。
「何だ、何を―――ぎゃああああああああああああああああああああああ!!?」
「待テ、待テ! 何故ココマデ届ク!?」
翳された右手。
その掌からは一つの火種が生まれる。
しかし唯の火種ではなく、漆黒で光さえ飲み込まんほどの闇を内包していた。
黒炎は直ぐに膨張し、
更にそれでも足りないのか後ろにいる
呆気ない終幕。
あれだけの力を見せた二体の怪物は、たった一柱の大精霊によって誰にも知られることなく、誰かが知る由もなく、ひっそりと始末されたのだった。
▼△▼
「……ふう、初めて使うけどこの『権能』。凄く使いずらいや。紫苑なら兎も角、祐介と遊ぶのには使えないかな?」
「あ、ヤバ。骨と老害が感づいた。……もう、もっと遊びたかったのに。まあ、紫苑の改造は済んだし、この調子なら次の機会には会えそうだから、ここは我慢しないと。うー……でも会いたいなー……。」
「だけど! 一人前の
「じゃあ、紫苑? 聞こえてないと思うけど、ちゃんと心に刻んでね? うっかり死んだり、大怪我しちゃ駄目だよ? 君を甚振るのも、殺すのも、していいのはボクだけなんだから。」
そうして精霊が消える。
それと同時に少女は本来の形―――春宮紫苑と呼ばれる少年に戻っていった。
あれだけの戦闘をしたというのに彼の身体には傷一つ、ついてはいなかった。
そしてその体には確かに、少女の残した何かが宿っている。
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