第21話
side 春宮紫苑
『ダンジョンマスター』を殺した。
ゴブリンらしからぬ、いや魔物らしからぬ知性の高い奴だった。
あんな奴を魔族というのだろうか?
剣に着いた血を拭うべくゴブリンの
「ぐおおおおおおおおおおおおッ!!」
しかし、それをしようとした瞬間後ろから突撃するオーガに気が付く。
―――最悪だ。
「今になってかよ!?」
オーガは無理だ。
絶対に勝てない。
巨人族に含まれる魔物であるオーガ。
比較的小柄と言われるがそれはあくまで巨人族の中ではというだけであり、2mから3mは普通に巨大である。
そして巨人族特有の頑丈さと剛力。巨躯に見合わぬ敏捷性。
それらに加え、好戦的な種族柄も合わせてかなり厄介な魔物だ。
オマケに今僕が相対しているオーガは金属製の武器防具で武装しており、どうしようもなさを加速させている。
「ごおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
オーガが吠え、
魔力も何もない唯の通常攻撃で目の前のオーガは地面を砕き、土埃を起こす。
間一髪で避けられたが、直撃すれば跡形も残らない。
顔が引き攣る。
駄目だ駄目だと思っていたが此処までとは思っていなかった。
此処まで強いとは思っていなかった。
しかも結構速い。
何とか避けられたが次の攻撃は絶対に避けられない。
「―――私ハオ前ヲ見縊ッテイタ。」
「ッ!? な、何でお前が!?」
驚愕する。
いや、これはしない方が可笑しい。
襤褸を纏う、何処か気品を漂わせた魔物。
額からオーガと同じように一本の角を生やしたゴブリン。
さっき僕が倒したはずの『ダンジョンマスター』が立っている。
両断されたはずの体が繋がって、二本の脚で立っている。
△▼△
「ソウカ、ソウダッタナ。オ前モ人間ダッタナ。」
驚愕する僕を他所にゴブリンは呟く。
その様子はまるで何かを思い出しているようだった。
だがしかし、其れは決して楽しいものではないのだろう。
苦々しく、忌まわしいものなのだろうことは奴の表情から読み取れた。
「脆弱デ数モ少ナイ儚キ生キ物カト思エバ、竜ヤ魔王ヲモ殺ス猛者ガ生マレ、ソレヲ礎トシテ繁栄スル。―――ドレダケ弱クトモ決シテ油断シテハナラヌ我等ノ大敵デアッタナ。」
彼が言い終わると同時に後ろから気配を感じる。
振り向くわけにはいかないが、確認せずにはいられずチラリと後ろを見て後悔した。
オークにゴブリン。それも武装した奴等がうじゃうじゃといたのだ。
「確実ニ死ンデ貰ウ。私ト同ジク蘇生効果ヲ持ツ
そして奴は僕に単純明快な死刑宣告を下すのだった。
クソッたれが。
△▼△
「ごおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
誰に言われるまでもなくオーガが動く。
いや、オーガだけじゃない。
オークもゴブリンもその場にいる魔物が一斉に僕目掛けて襲い掛かって来る。
だが、どいつもこいつも知性なんて感じられず連携なんて取っていないのは明白だった。
現にオーガの
「味方諸共かよ、見境がないな!」
「ゴブリンナゾ幾ラデモ増ヤセル! 此処デ十匹ヤ百匹死ンデモ替エハ効クノダ!」
恐ろしい台詞だ。
あいつ、同族を容赦なく使いつぶす気か!?
あそこまで露骨なのは人間でもしないぞ?
「オーガヨ、オークヨ! ゴブリンヲ囮ニセヨ! ゴブリン達ハ囮トナルノダ!」
その命令に魔物達が従い、寸分たがわぬ行動を始める。
数の多いゴブリンが僕の足止めになり、攻撃力の高いオークとオーガが僕へ攻撃する。
反撃なんて考えられない。何せ数が多くて対応しきれない。
一匹斬ろうとしてもその隣から槍が生えてくるのだ。
それにコイツ等、妙に強いのだ。
武装した個体とは何度か剣を交えたが、どう考えてもこいつらの方が強い。
まるで何か支援魔法を受けたみたいな感じだ。
「支援魔法……強化? まさか、『統率個体』!?」
そう言えば軍団長が言っていた。
絶対に
いるだけで群れを強化し、更なる厄災を呼ぶ『統率個体』。その最上位たる
最悪だ。
そして何故気が付かなかったんだ、僕は。
「……ソロソロ、終ワリダナ。モウ逆転ノ目ハナイ。上カラモ敵ガ来ル。終ワラセロ。」
全身から血を流し、疲労でボロボロな僕を見下しながらそう言う
散々逃げ回ったが、どうにもできず正に徒労としか言えない結果に終わった。
―――だけど。まだ終わってはいないのだ。
「【力よ、五体を巡り、疾風の加護を】―――【
なけなしの魔力と共に加速する。
俊足の魔術は間違いなく作用し、オーガやオークといった魔物達をすり抜けていく。
そして残った僅かな魔力の使い道は決まっている。
「マダ、動ケタカ。人間ノ戦士!」
「【
なけなしの魔力を剣に纏わせ、振るう。
話に聞く
確かに強大で恐ろしい存在だが耐久力は貧弱。
実際、僕の攻撃でダメージを負った。
この一撃で絶命した。
放たれた距離に速度。
再びの必殺。それは奴の胴体に――――――!
side ???
あー……。
やっぱ、駄目だったかー……。
最後の一撃、良かったと思うケド流石にあの数じゃあね……。
……しょうがない。本当にしょうがない。まだ会いたくない人達が来てるけど、しょうがない。
「本当に手がかかるなぁ……。でも良いよ。その分楽しませて貰うから。」
あ、でもこれ以上手が掛かるのは嫌だからちょっと……改造、しちゃおっか。
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