第19話

side 春宮紫苑


死ぬかと思った。

本当に死ぬかと思った。


そして、多分僕は今日死ぬ。

そんな未来しか予想できない。


だって今僕はこの広大な迷宮にたった一人でいるのだから。


どうしてこうなったのかと言えば『迷宮ダンジョン』のトラップのせいだ。

空間転移のトラップに引っかかったのだ。

余り『迷宮ダンジョン』に詳しくないからどう動いたらいいか分からず、呆然としていると其処は通路のど真ん中。


当然、敵であるゴブリンに襲わることになった。

外で戦った奴等と違い、武装は高品質かつ連携も上等。

何なら『魔術』を使う個体もいて、人間の軍団と何も変わらなかった。


―――だから逃げた。


バックパックも弓矢も捨てて極限まで身軽になって。

無論、むやみやたらに逃げ回った訳では無い。

同じ場所をグルグル回転しないように目印はつけている。

だから迷ってはいない、いないはずだ……。


「……可笑しい、流石に可笑しいぞ!?」


僕等が迷宮に入ったのは最後の方だ。

だから当然、先に入った部隊がいるはずだ。

聞いていた話では進行は順調だったとのことだ。


だから、むやみやたらに走っていても誰かしらに見つけてもらえると思って逃げ回っているんだ。

其れなのに一向に誰にも出会わないかれこれ一時間近く動き回っているんだぞ。


「……まさか、未侵攻階層!?」


その事実に気が付いた瞬間、思わず顔が引きつった。


言うまでも、説明するまでも無い絶望で脳内が埋め尽くされていく。

そして同時に、僕は確信した。


―――今日、僕は死ぬ。





side 夏目祐介


油断はしていなかった。……していなかったはずだ。


しかし、現に友人しおんは消え去り、後には何も残っていなかった。

ならば、油断していたのかもしれない。


元A+ランクの冒険者であるアルカ軍団長。

俺達異世界人の中でもトップの防御力を誇る佐伯忍。

言うまでも無い才能、実力共に最高峰の『聖女候補』であるこころ。


……これだけのメンツに囲まれて俺は無意識化に油断してしまっていたのだろう。


「アルカ軍団長、紫苑が!!」


「ああ、分かっている。クソッたれが、転移の罠にひっかるとはな! ……だが、何故あいつは飛ばされた? 確かに俺は抵抗レジストしたはずだが……?」


紫苑が消えたことに気付くと同時にアルカ軍団長が目を閉じ、瞑想を始める。

何をしているのかと思ったが、直ぐに分かった。

『異能』の〈魔力感知〉を用いて紫苑の位置を探しているのだ。


俺も紫苑を探すべく目を閉じて意識を集中させる。

しかし、流石は魔物溢れる魔窟。

無数の魔力反応があるばかりで何が何だか分かりやしない。


「……見つけたぜ。此処から下七階層。最深部か! お前達、行くぞ!」


「見つかったんですか!」


「ああ、見つけた。早く行くぞ! あいつを態々助けたいなんて思う奴、此処にいる四人だけなんだからな!!」


そう言ってアルカ軍団長が俺達を鼓舞する。

その言葉を受けて、俺は爆ぜるように進んだ。










side ???


……紫苑弱すぎー。


あんまり期待していなかったけど本当に弱ーい。

『加護』、あげた方が良かったかな?

それとも〈天界の神々の呪詛〉を無理矢理……あ、駄目だ。

出来なくはないけど面倒くさいことになる。


……うーん、流石に抵抗レジストの妨害はやりすぎちゃったかなぁ……?

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