第18話

side 今回の被害者

 

「……ほんっとうに、本当にさぁー……。」


僕のボヤキがダンジョンに木霊する。

小さい声で呟いたが、思ったよりも大きく出力されていたみたいだ。


「おい、いい加減にしろ。ダンジョンに入ってからずっとじゃねえか。」


流石に堪忍袋の緒が限界なのか団長に軽く小突かれる。


「……はい、すみません。」


そう言って気を取り直す……けど僕の仕事何処にもないんだよなぁ……。


盾役タンクには盾戦士の佐伯が。

前衛戦士アタッカーには魔術と剣を扱える祐介。

中衛では指揮やフォローをする軍団長。

そして多種多様な魔術で戦場を補佐する秋崎。


当然残った役割は支援係サポーターなんだけど……。


僕以外装備しているのが特注品ばかりでそうそう交換するような代物じゃあない。

例えば佐伯が纏う全身鎧フルプレートメイルは鋼鉄製ではなく、魔鋼製。

祐介が扱う長剣ロングソード霊銀ミスリル製。魔術を扱うため魔力伝導率の良い金属を用いているのだ。

秋崎と軍団長の武具は最早、聞いているだけで眩暈のする代物でありこの時点で察することができるはずだ。


仕方なく普段使わない短弓ショートボウを装備して、構えているけど……唯の置物にしかなっていない。

まるで役に立っているという気配が感じられないからだ。


「皆、強いなぁ……。」


矢を番え、弦を引いて放つ。

放たれた矢は何とかゴブリンに命中し、絶命させる。

それで僕の役割は終わりだ。


残りの魔物達は祐介達の猛攻で一瞬で屍に早変わりするからだ。

矢を抜き、血肉を拭いながら僕は楽観していた。


―――この時ほど自分自身を戒め、呪わないときはないであろう程に。





side ???


「なあ、『迷宮ダンジョン』って何だと思う?」


『……唐突だな。しかし、『迷宮ダンジョン』は『迷宮ダンジョン』としか言い様がない無いぞ。』


「最強の『迷宮核の守護者ダンジョンマスター』である君が言うと説得力が違うな。しかし、ヴィド。君には一つの『恩寵』を宿しているだろう? 確か……《試練の神》、だったか?」


『まあ、そうだが。つまり、アベル。君は『迷宮ダンジョン』は試練の為にあるとでも言う気か? そも、試練とは一体なんだ?』


「我等知性体がこうまで発展できた理由を知っているか?」


『……知恵ではないのか? あるいは、記録や技術。』


「それだと文明持つ生き物に限定されるぜ。もっと広く野獣や小虫も範囲内だ。」


『……分からん。だが文脈の流れからして試練とでも言う気か?』


「いや、違う。試練はそんな意味じゃない。答えはな―――『闘争』だよ。平和的に表すなら『競争』だな。俺達に遥かなる祖先、原生生物の時代からそうだ。天敵に喰われまいと、得物をより多く喰らわんと、そして隣の連中を追い越すために。時に荒々しく、時に平和的に俺達は争って来た。」


『だが、『天魔大戦』で発展できたか? 文明が千年単位で逆行したらしいじゃないか。』


「過ぎたるは猶及ばざるが如し、さ。万物万事程々が一番ってな。実際、大抵の『迷宮ダンジョン』は大したことがないしな。」


『なら尚の殊更、君の意見は可笑しいんじゃないか? 私の『迷宮ダンジョン』は最早大神でも攻略不能な代物。自惚れかもしれないが一体誰がこの魔窟を攻略できるというのだ?』


「だが、運営する上で多くの不自由と想定外が無かったか? トラップの不発動だったり、僕の暴走。敵を引き寄せながら、一方的な虐殺ワンサイドゲームを許さぬ規制―――言い換えるならば、?」


『困ったな。心当たりが多すぎて返答に困る。』


「あくまで『迷宮核の守護者ダンジョンマスター』は『迷宮ダンジョン』、厳密に言えば『迷宮核ダンジョンコア』から支配権を借り受けた代理人でしかない。いや、寧ろ下僕というべきか? 上役の何時か滅ばなければならないという本能には抗えないのさ。」


『……友人にいう台詞ではないだろう。』


「ははは、スマンスマン。……しかし、腑に落ちる話だろう? 俺達がこうまで強くなれたのは『戦い』のお蔭なんだから。」


『……つまり、君の話を纏めると、『迷宮ダンジョン』とは我々に『闘争』の場を提供し、継続的な発展を促す舞台装置、ということか?』


「おお、流石! 《大賢者》の異名は伊達じゃないな!」


『《魔導王》である君にに言われてもなぁ……。』


「さて『試練』の話に戻ろうか。……正直な所、太古の昔に滅んだ《試練の神》の真意など誰も知りえない。だが類推することはできる。思うに……彼ないし彼女は発展を促したかったんじゃないのか? それも永遠に。」


『……君みたいな阿呆が古代にもいたっていうのか?』


「うん、いた。当たり前の話だが神族おれたちは永遠じゃない。殺せば死ぬし、病にかかれば苦しむし、最悪死ぬ。ならば文明なんてもっと儚いと考えても不思議じゃない。だから『試練』と言って『発展の場』を提供した。これを乗り越えれば更なる次元へ到達できる試練だと言ったんだ。」 

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