第17話

side 春宮紫苑


黄金の剣閃が瞬く間に魔物たちを打ち倒していく。

どちらかといえば鈍器のような長剣ロングソードで骨肉を両断スライスしていく様子は最早ある種のコメディかと見紛うほどだ。


……いやまあ、ここファンタジー世界なんだけどさ。

……不可思議減少溢れる世界だからさ、別にいいんだけどさ。


そうして僕が現実逃避をしていると、祐介が駆け寄って来る。

あれだけの無双を演じたというのに祐介には返り血一つ浴びていない。


普通なら恐怖感を感じるような場面だが―――どうしてか僕は彼に対して、敬意のようなものを感じていた。

彼が有する魅力カリスマに当てられたのか、それとも全人類共通で抱くものなのかは分からないが……兎に角、彼を眩しく思ったのだ。


「……無事か、紫苑?」


「ああ……この程度、もう大丈夫さ。そういうお前こそ、一人だけ此処に来て大丈夫なのか?」


これは純粋な疑問であり、同時に心配だった。

騎士団と行動を共にする祐介たちクラスメイトはそのほとんどが『森』に侵攻アタックした。


それなのに祐介は一人で戻ってきている。


これらから推測できるのは……あまり考えたくはないが……。


「……あー……。その、だな。」


案の定、祐介も言い辛そうにしている。

……そもそも聞くべきじゃなかったな、これ。


「……いやな、別に誰かと死に別れたって訳じゃないぜ? ……その、だな。こんな年になって恥ずかしいんだが……道に迷って、こうなったんだよ。」


さっきまでの僕の感情を返せ、馬鹿。


 △▼△


その後は特に何もなく襲撃は終わった。

軍団と騎士団の本陣それぞれに大した被害は出ず、人的被害も軽傷者数名で終わった。


襲撃の後始末をしていると『森』に侵攻アタックした連中が次々と帰って来た。

日も沈み、夕方と言える時間帯の時だ。


どうやら『迷宮ダンジョン』を見つけれたらしい。

蟻塚のように盛られた土山。

それに扉が付いており、入り口になっているとのことだった。


あくまで今日は『迷宮ダンジョン』の入り口を見つけることが目的。

だから明日からは『迷宮ダンジョン』への侵攻アタック……とはならない。


迷宮ダンジョン』がどれ程の規模か分からないが、かなりの規模であることが予測されているため、補給や人員の投入のための前線基地の設営。

そして『森』の中に蔓延る魔物の殲滅。


幸いにしても入り口から出てくる魔物は知性、実力共に低い個体ばかり。

簡単に言うと『迷宮ダンジョン』は口減らしをするばかりで動きなし。

其れならば悠長に……という訳ではないがじっくりと確実に災厄の芽を摘んでしまおうという話である。


という訳で翌日。

僕は軍団の兵士と共に三人一班で行動している。


鬱蒼と生い茂る草木は最早鬱陶しい以外の感想が出てこない程ウザったらしい。

『魔術』で焼き払おうかと提案したが、森林火災が起こるから駄目だと言われた。


……やむなし。


「しかし、シオンもそんなこと言うんだな。繊細な割には結構豪快な所があるんだな。」


「仕方ないんじゃないか? 樹々の民エルフの俺でも鬱陶しいぞ。」


武装もそれぞれ変わっている。

皆、長槍や大剣といった引っかかりそうなものは『道具袋』に仕舞い込んでいる。

実際、目の前にいる兵士は剣と盾というありふれたものだ。

因みに僕は短槍と盾である。


そういえば、結構な頻度で会敵するが、どうにも纏まりを感じられないな……。


「……群れで生活する生物なのに、どうして此処まで纏まりがないんだ……?」


 ▼△▼


魔物の殲滅と前線基地の設営が終わり、ようやく『迷宮ダンジョン』への直接の侵攻が決まった。

合計で二日ほど使ってしまったが、兵士の役割を考えれば仕方が無いだろう。


その間にも編成が三人一組スリーマンセルから五人一組ファイブマンセルへ変更され、それぞれが専門の役割を持ったパーティーになった。

基本的には前衛二人、中衛と後衛一人に遊撃手が一人といった構成だ。


そして肝心の僕の班だが……どうしてこうなった?


「ようし、じゃあ行くぜ。置いていかれるなよ。」


おい軍団長、責任者は安全な所に居ろよ。


「勿論です。……前みたいなのは流石に恥ずかしいからな!」


祐介は何故此処に?


「……。」


お前もだ秋崎。というか何か言え。闇を放つな!


「……へへ、紫苑と一緒……。」


最早お前だけが救いだよ佐伯。


……でも何で此処に居るんだ?



「……あの、軍団長。何で僕等が騎士団と一緒の行動するんですか?」


軍団は軍団と、騎士団は騎士団と一緒に行動するものなんじゃないの?


「あー……。その、それだがな……。」


軍団長の言うことは僕に激しい頭痛を覚えさせるのには十分なんてものではなかった。

ああ、聞かなきゃよかったよ……。


 △▼△


唐突だが僕は元・恋愛アンチだ。

色恋沙汰程嫌いなものは無く、特に兄弟萌えや姉妹萌え系は地雷原でしかない系男子だ。


諸々の都合である程度、改善は進んでいるがそれでもいい顔はできない。

何でこんな前振りをしたのかというと今回の原因が色恋沙汰だからだ。


全く持って理解できないが秋崎こころは美少女であり、高嶺の花である。

あくまで中学生での話だったが、高校生になってもそれは変わらないみたいでたくさんの男に言い寄られているらしい。


……まあ『聖女候補』とかいう大仰な称号レッテルに普段の猫かぶりを見れば少しだけ、本当に少しだけだが理解できなくは無いのかもしれないが。


そしてそんな奴が付き合っているともなれば、その相手はさぞかし嫉妬を向けられるだろう。


……そしてその相手もそこそこモテるならばこの状態は更なる混沌カオスと化す。


残念なことに、秋崎こころの彼氏―――夏目祐介はモテる奴だ。

無茶苦茶モテるって訳では無いが、顔良し性格良しなので当然、一定の人気はある。


僕の知る限り二人―――委員長と白菊桔梗はまだ諦めていないはずだ。

そのことからも十分祐介の魅力は理解できるだろう。


そしてまあ面倒くさいことに、誰に吹き込まれたか知らないが……白菊の奴が秋崎に惚れたチンピラと組んで、まあ色々と騒動を起こしているらしい。

委員長やその一派が庇うのにも限度があり、今回は仕方なく僕等と行動することになったそうだ。


……あー……頭痛薬が欲しい……。

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