第14話

side 春宮紫苑


羽根山と僕が士道何某に殺されかけ、目覚めてから二日が経った。

傷は完全に癒え、違和感も拭えている。

再び訓練に魔術の勉強、軍団の雑務と忙しい日々を送っている。


―――唯一つ、羽根山との交流が断たれたということを除いてはまるで変っていなかった。


委員長にあれだけ言われては仕方なく、事前に予定していた勉強会は全てキャンセルになり、一人で勉強をしている。

二人であれこれ頭を悩ますという以外と楽しい時間を失うことになったが、次に会う時に学力で負けていられるかと高いモチベーションを持った学びができているのは意外だった。


「あー……。今日も酷い目に遭った……。」


何時もの如く訓練でボコボコにされ、クソ不味い回復薬ポーションで傷を癒していると、後ろから大鎧を纏った兵士―――軍団長のアルカがやって来る。


「よウ、変■らズ精がでルな、シ■ン。イま、■間あるカ?」


「団長。どうしたんですか? 別に大丈夫ですが……。」


「おイおイ、身構■るなヨ。ソんなに大■たコト―――いヤた■しタコとダな。今■のゴブリンそ■討サく戦にオ前も参カす■■とになッタ。……いヤ、■まエの心情■分カるガも■少しカく■トけヨ。」


え、マジで?

其処まで分かりやすく出てたの?

……気を付けなきゃな。流石に相手の気を悪くさせるのは不味いし。


「すみません……。そんなに顔に出ていましたか?」


「アあ、出■いタぜ。……成程これじゃあ、ジョンが俺達に言うはずだぜ。」


? 何か小声でぶつくさ呟いたがどうしたんだ?


「ああ、■んでモなイ。……はな■を戻すカ。ソれ■、そウだ。ゴブリン共ダ。が起コった後でわ■イが……、すマねエな。」


あんなこと―――思い出されるのはクラスメイトに一方的にボコボコにされた二日前の出来事だ。

正直、やり返してやろうなどという殊勝な心構えなど無く、あんな災害紛いとは出会わずにいたいというのが本音だ。


「……仕方ないですね。分かりました。」


だが断ることは出来ない。

ならば、コソコソ隠れて頑張るとしよう。


「所で『迷宮ダンジョン』って聞きましたけど……。」


少し気になったことがあるので団長に聞いてみることにした。

しかし、団長は流石に其処まではしないだろう、と答えた。


「『魔境』■らトも角『迷宮ダンジョン』■お前ヲ連レてい■わけねエだロ。足デ纏いヲ■れてっタらオれ達■で死ンじマう。……え、ジャあ、ナんで僕を連■てくんデすかっテ? ……あー……、まア。そ■内ワかるサ。ちょウド良■経ケんだ■でモ思っ■ケ。」





side アルファード王国軍団軍団長アルカ


「で、実際の理由は何ですか? 経験も重要ですがそれ以外もありますよね。」


シオンに伝えることを伝えた後、執務室で待ち伏せていたのはジョンの奴だった。

鋭い猛禽を思わせる視線は俺に偽証を許さないのだろう。

……そんな目をしなくても嘘はつかないというのにな。


「……経験を積んで欲しいのが一番さ。後は、あいつを守るのには手元が一番やり易いからだな。」


「教団、か……。確かに最近何やら慌ただしいですね。何か仕掛けてくるかも……。」


「そうなった場合、安全なのは俺だ。他の奴等じゃ、な。」


そう言うとジョンは顰め面を浮かべながら舌を打つ。

舌打ちだけで反論しないということは理解しているのだろう。


「まさかとは思いますが、裏切り者がいるってことですか?」


「それもあるが、信仰が絡めば良かれと思いやらかす奴もいるだろうさ。最近はマシになってきたが警戒するに越したことは無いだろ。」


まあ、こんな馬鹿みたいなことで人類が争わなければ一番なんだがな。

どうして人類おれたちは不要と、不毛と理解しながら争うんだろうなぁ……。


……本当に儘ならんものだ。

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