第13話

side 春宮紫苑


瞼が開き、目に移ったのは天井だった。

懐かしく感じる柔らかい感触はベッドと布団によるものだ。

部屋は一面白く、清潔感と安心感を与えさせる。

故にこの部屋は病室だろうか。


「生きてる……のか?」


流石にあの世に病室などないだろう。

ならば僕は生きている、はずである。

しかし、剣で滅多刺しにされて生きているのも信じられないが……。


「ああ、起きましたか。中々目を覚まさないので心配しましたよ。」


涼やかな声が聞こえた。

そして聞きなれた声だった。


「……驚いた。まさか助けてくれたのが委員長だったとは。」


「何を馬鹿なことを。友人を助けるのは当然でしょう?」


真面目眼鏡なのも変わらず、か。

やはり委員長は委員長だな。


「それで、身体の方は大丈夫ですか? 回復薬ポーションを使ったので変に癒えていなければ良いんですが……。」


そう言って委員長―――海風渚うみかぜなぎさは僕を覗き見るように屈む。


「ん、少し違和感があるくらいかな。まあ、問題ないさ。」


「そうですか。しかし、驚きましたよ。何か嫌な予感に従って来てみれば友人二人が死にかけていたんですから。」


確かにそれは驚くだろうな。僕もそうなるだろうし。

というか誰も予測できないだろ、これ。


「……羽根山は?」


「彼の方も問題ありません。少し前に目覚めて明日には日常生活に戻れそうです。」


「そうか……。ありがとう、委員長。本当に助かったよ。マジで死ぬかと思ったぜ。」


「別に感謝されることじゃありませんよ。人として当然のことです。」


そう言って委員長は胸を張る。

本当にこの人は尊敬できる人だ。

祐介がどうして選ばなかったのか不思議な位に。


 △▼△


海風渚とは中学生からの付き合いだ。

誰よりも真っ直ぐであり、正しくあろうとするその姿は誰もに羨望と恐ろしさを感じさせる。


最初はその気象故、周りとの乖離は当然に起きた。

そのまま孤立し、孤独に終わる。又は屈折し、碌な大人になれなかっただろう。


しかしそうはならなかった。

其処には夏目祐介がいたからだ。

祐介は正に太陽のような男なのだ。

そして中学三年を過ごし、今へ至る訳だ。


「そう言えば、どうして僕と羽根山は襲われたんだ?」


ベッドから身体を起こし、委員長に尋ねる。

流石に色々と疑問は溢れている。

僅か数週間で一体何が起こっているんだ?


「……そう言えば君は私達とは別行動ですね。このクラスが既に分裂していることは知っていますか?」


「まあ、それは。対立や衝突は時間の問題だとも。」


「其処まで知っているなら話は早い、と言いたいですが今回の件は関係ないんです。流石にまだそこまではいっていません。今回は彼の独断専行ですね。」


「独断専行、ねえ。しかし、彼――士道何某とは初対面だぜ、僕は。」


それに僕自身、彼の名前を知ったのもついこの前、羽根山が言及した時だ。

容姿は勿論、彼自身の内面など欠片も知りはしない。

だが、強いて言うならば―――


「―――そう言えば。急に秋崎が出てきたが……。まさか、なあ……。」


「はい、そのまさかです。彼は振られた腹いせに貴方達を襲ったそうですね。」


イカれてるだろ。

どうして僕等を集団暴行リンチすればいいという結論に至るのか。


……いや、もしかして僕と羽根山があの二人の背中を押したのは事実だけどさ。


話を戻すが……それを知ってるのは極少数に留まる。


当事者たる祐介や秋崎に目の前にいる委員長、そして―――


「―――白菊しらきく白菊桔梗しらきくききょうだけだ。」


そして白菊は同じ学校ではあったはずだ。

入学式の際に見た……気がする。


「はい、そしてその白菊さんですが……。余り信用しない方が良いと思います。」


「その口ぶりからするに、いるんだな。」


「はい。私達のクラスメイト二十七名、他クラス生八名、教師二名、合計三十七名がこの世界に存在します。その中に白菊さんは存在しています。そして白菊さんですが……、私達とは別の派閥に所属し、いい関係ではありません。」


「あの女が祐介に嫌われる素振りを見せるとは思えんのだが……。」


聞いた話では祐介、秋崎、佐伯に羽根山達は皆同じ委員長を筆頭とするグループらしい。

白菊の性格上、不良連中とつるむとは思えない。

ならば女子のみで構成されたとかいう謎のグループだろう。


「恐らく、白菊さんは唆されたのではないかと私達は考えています。女子グループのリーダー的存在、黒縄友梨佳くろなわゆりかさんと言うのですが……。正直かなり怪しいのです。……証拠は、ないんですが。」


「黒縄、ねえ……。」


「取り合えず、春宮君。君も気を付けて下さいね。今回は助かりましたけど、次は助けれないかもしれませんから。後、もう私達とは関わり合いにならない方が良いと思います。この数週間で分かりましたが貴方は軍団の方で手厚く保護を受けている以上、貴族や教団も君を無理矢理どうこうしようとはしないはずです。」


「……それに態々、危ないことに首を突っ込むな、か。」


一度言葉を区切った委員長の言葉を僕が引き継ぐ。

その台詞はどうやら正解らしく、彼女は静かに首を縦に振る。


「……分かった。寂しいが仕方ないな。」


「……ごめんなさい。何か事態が好転すればこっちから知らせます。」


「そんな謝らなくても……。委員長の責任じゃないんだからさ。」


そう言ってベッドから立ち上がる。

少しの違和感があるが、恐らく長時間ベッドで横になっていた弊害だろう。


……気にする程では無いな。


「別にまだ休んでいても良いですよ? そんな無茶をしなくても……。それにあんなことがあったんです。そのまた直ぐに問題を起こすとは考えられませんし。」


「まあ、そうだろうな。―――でも委員長、僕は動きたいんだ。……何故かは説明できないけど、動かなきゃって思ってる。」


「……全く。無茶をして死なないでくださいね? 命の価値が比べ物にならない程低いんですよ、この世界は。」


無論、そんなことは理解している。

少し前のあの戦いを見て、十全に理解しているのだ。

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