第6話
side 春宮紫苑
さて皆さんこんにちは、もしくはこんばんは。
絶賛社畜の春宮紫苑です。
……学生の僕が社畜とはこれ如何にとでも思っている人のために説明すると僕は今、軍団の書類仕事をしているからだ。
最初は整理やお茶出しなどの手伝いだったのだが、最近は訓練が終わった後や休日に拉致されたと思ったら書類仕事をさせられている。
……呪われたおかげで『言語理解』ないんだけどな。因みに『言語理解』とはあらゆる言語を瞬時に理解できるという能力である。召喚された異世界人には必ず付与されているらしい。
そのため読み書きはかなり低レベルだ。会話のレベルは言う必要などないだろう。
しかし、書類仕事を手伝っているうちに少しずつ読み書きのレベルが上がったのは間違いなく良いことだろう。
……どうしてそんな低レベルの僕でも書類仕事が手伝えるのかって?
公式文書は小難しい言い回しや単語を使った非常に難解なものである。
異世界であるこの世界でもこの法則は適用されており普通は難解すぎてゴミ箱に捨ててしまいたくなる代物だ。
しかし僕が今所属しているのは普通の場所ではない。
ほぼ無学と言っても問題ないごろつき紛いの巣窟なのだ。
その無学の馬鹿相手にそんな小難しい怪文書を送っても真面な回答は返ってこないのだ。そのため書類はかなり無駄が省かれ、分かりやすくなっている。そんな訳でこんな僕でも辛うじて手伝うことができるのだ。
「ヨう、シオン■ジョン。暇カ?」
休日にあくせくと書類仕事をジョンとしていると扉を開けて団長が入室してくる。
「見テの■りデすヨ。
今すごくひどい綽名をつけなかったか?
どうやら団長も同じ意見らしくジョンに抗議をするがジョンはどこ吹く風だ。
「ソれで何■用でスか? ヒやか■なら帰っテ欲しいン■スすが。」
ジョンがそういうと団長はゴホンとわざとらしく咳をしてこう言った。
「イやべツに冷■かし■■わけじゃ■ないサ。シオン■用がアっ■な。」
「僕にですか? ……一体何ですか?」
「そンなに身構エな■て■大丈夫だゼ。……なぁニちょっトば■し実戦デも■るダけだ。」
団長はあっけらかんとそんなことを言いやがった。
言うこと言って満足したのか団長は部屋から出ていった。
……さて僕の聞き間違いでなければ実戦とかぬかしていた気がするのだが……。
それに僕同意なんてしていないんだが……。
「シオン、君の■ンがえテいル通りでマ違いなイは■でス。」
「……ということはつまり? やっぱり実戦ですか…?」
「ま■、ソうで■ょうネ……。しカし、チょう■いいンジャないですカ? ■なタも■あま■いイ動きヲするようになっ■きまし■し、そレに遅■れ早かれデすよ。……あア、そンなフ安そう■顔をシなくテも大丈夫ですヨ。実戦とイっ■も戦争しに行ク訳じゃな■んです■ラ。」
△▼△
結局その後はジョンに「明日のこともあるから早く休みなさい。」らしきことを言われて明日の準備をしてさっさと寝てしまった。
次の朝起きてから気づいたのだが、集合場所を聞いていなかったな……。
混乱していたとはいえこれは失敗だな。きちんと呼び止めて聞いておくべきだったな。
「あ、見ツケたっすよ。き■が噂ノ異世界人すネ。」
後ろから陽気そうな男の声が聞こえる。
先程まで気配も何もなかったため、かなり驚いて振り向くとそこには一人の剣士がいた。
というか今僕は部屋の中にいるんだがな。ドアの音も聞こえなかったぞ。
「アあ、驚かセち■ったミたいっすね。俺はカタルゴ。■の国ノ軍団ノ部隊長っスよ。」
彼――カタルゴを名乗る人物はこちらをじろじろと見ながら自己紹介をする。
「すみ■せンね。噂の異セ界人■どのよ■なものか気になっタだけっすよ。特ニ深イ意味はナイっすヨ。」
「ああ、いや別に気にしていません。……ところでどういう用でしょうか?」
「今日■魔物退■に君もサん加す■って団長が言ってたからっすヨ。それナ■に集合場所伝え忘れタつっテたんで探し■んすスよ。」
なるほど。それはありがたい、が。
「それはありがとうございます。集合場所は何処ですか?」
「? 遠慮しなくてもイ■っすヨ。場所モすぐそコっす■。」
「いや、こちらの不手際で部隊長の手を煩わせるわけにはいきません。それに準備の再確認もしたいので。」
「ええ……。マあ、別ニしなクていいっ■よ。ブ隊長トいっ■も忙■い訳ジャないっす■らネ。」
「いや、でも―――」
「強情っ■ネぇ……。まぁ、ソこまデ言っテくれる■らお言葉に甘エさせ■もら■っすヨ。」
彼は俺の言葉を遮ったと思ったら、不気味なほどに早い理解を示す。
あ、場所はここっすよ~的な事をユルく言ってどこかへ去って行った。
後を追う気にはならなかった。彼のどこか不気味なところへ怖じ気づいた訳じゃあない。
……自慢じゃないが不気味さなら僕の家族の方が凄いし。
何というか……いや、いいか。
僕には関係ないことだ、多分だけど。
▼△▼
集合場所には団長含め100人余りの兵士が集合していた。
「オおっ、シオン! ヨく来レ■な!」
「? カタルゴ部隊長が教えてくれたんですよ。団長が探してくれてたんじゃないんですか?」
「……カタルゴが? 俺ハ別に頼んでいiなiん■けどナ……。気を利カしたの■? 珍し■こトもあルも■だな……。」
? 小声で何言ってるんだ?
「どうシた■だ?」
「いや、小声で何か言っていたんで。」
「ん? ああ、■つに気にしナくテいいサ。それ■りもこレだ。」
そう言って団長は懐からペンダントを取り出す。
装飾は少なく、地味とい一言が全てを物語っている。
「何ですか。ソレ?」
「■っふっフ、そウ言うとおモっタぜ。いイカ■着け■みろよ。キっと驚クぜ?」
何なんだ一体。
……まぁ、そこまで言うならば着けてみるか。
「着けましたけど……。特に何も有りませんよ。」
「本当か?」
「本当ですって……。……ってあれ?」
今なんだ……? 何か凄く自然に聞こえた気がする、のか?
「気がついたか。」
団長がしてやったりと言う顔でニヤニヤと笑っている。
「これは言語理解の魔術が刻印された魔道具だ。スペックは兎も角耐久性が低いからな。必要な時以外は使うなよ。」
「いや、本当にありがとうございます。マジでありがたいですよ……ってちょっと待って下さいよ。何でこんなもの寄越すんですか?」
「簡単なことさ。お前はまだ十分にコミュニケーションを取れる能力はないだろ? そんな状態で戦いの場に出す訳にはいかないからな。」
なるほど。確かにそれはそうだ。普段の学生生活でもコミュニケーション不足は深刻な問題を引き起こす。ましてや命の取り合いでは生死にも関わってくるだろう。
「いや、それなら僕が行かなければいいだけじゃないですか。」
そもそも僕が行く理由がないと思う。僕自身大した戦闘力は無いし、連携を取ることもできない。魔物は強力な存在だ。最下級であるゴブリンやコボルトでさえ状況によっては簡単に国を亡ぼすことができてしまう。
「確かにそれもそうだが……。まあ、直ぐに分かるさ。今考えることじゃないからな。」
そう言って団長は話を切り上げ、僕に他の荷物を渡し、他の兵士たちに指示を与えていく。
話の続きが気になるが仕方がない。いろいろと不安ばかりだが、切り替えていこう。
なにせ僕が今から行くのは命の取り合い―――すなわち殺し合いなのだから。
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