第5話
side アルファード王国軍団団長アルカ
何時も通り朝の訓練をしていると珍しい奴が参加していることに気が付いた。
丁度、模擬戦も一段落ついてきたところだったので、絡みに行くことにするか。
丁度あいつも休憩しているところだしな。
「よう、ジョン。訓練に参加しているなんて珍しいな。」
ジョンはこの国の軍団の副軍団長で主に書類仕事をしている。俺もしているのだがジョンの方が圧倒的に量が多い。割合でいったら2:8くらいになるか?
「ええ、とりあえず急なものは終わりましたからね。たまには体を動かさないと体が鈍ってしまいます。兵士が戦えないなんて笑い物にもなりませんから。」
暗に仕事を減らせと言われているな……。
イヤミな奴め……。
「確かにそうだが……。済まんが優秀で真面目なのがお前くらいしかいないのだ。もう少し我慢してくれないか?」
「他にいるでしょう。例えばクライスの爺さんやロランなんて良いんじゃないですか?」
「お前分かってて言ってるだろ…? クライスの爺は魔術一辺倒だし、ロランなんてただの性格破綻者だぞ……。」
というかコイツ何で
なろうと思えば文官でも騎士にでもなれたと思うんだが。
「騎士は無理ですよ。あれはお貴族サマの特権ですからね。」
「お前、本当は〈読心〉でも持っているだろ……。」
「持っていませんよ。言いませんでした? あなたたちは単純で分かりやすいんですよ。だから些細なことから何考えているのか導きだせるんですよ。」
……そんなに分かりやすいか?
……これでも元冒険者、それもA+ランクだったんだけどな……。
このままいくと俺が不利になると判断し、強引に話を変える。
気になっていたし、丁度いいだろう。
「そう言えば、あいつ――シオンはどうだ?」
そう、件の異世界人のことだった。
「元気ですよ。それに訓練も勉強も頑張っていますし、周りにも結構馴染んできていますよ。……信心深い奴らは除きますけど。」
「やはり、か。……まあ、仕方ないか。」
人類は弱い。巨人や竜、悪魔などが持つ優れた能力を持たない。
だから何かに、自分たちよりも強力な何かに頼らなければ生きていけないと思うようになるのは当然の帰結になる。その何かは天界の神々にだった。
天界の神々が
この世界の人類は敬虔な信徒で溢れている。何らかの神や天使へ信仰を捧げ、彼らの言葉と称された聖典や教団の連中の言葉に従って生きる。
そんな奴らに神々が呪った奴が送り込まれてこれば嬉々として迫害をするだろう。
シオンは呪われている。そこら辺にいる呪い師などではなくよりにもよって天界の神々に、だ。
理由が何であれ、この世界における絶対悪となる。
……こうして冷静になるとあの貴族達がああまでなったのが分からなくもない。
アテナ教団の影響を大きく受けるこの都市は女神の神意一つで傾きかねないのだから。
「まあ、極少数だから大丈夫ですよ。どっちかというと教団の連中の方がヤバいと思いますが……。不気味なくらい何も無いから余計ですよ。」
突然ジョンの相手が声をかける。話も丁度良いところだったので一礼して模擬戦へ戻っていく。
さて、そろそろ俺も再開するとしますかね……。
△▼△
思えば随分シオンを可愛がっていると思う。最初はちょっとした嫌がらせのつもりだったんだが。
「あ! 軍団長じゃねえっすか。仕事はどうしたんすか? サボりっすか?」
訓練終わりの後、書類をする気にもならず適当に王都をぶらついていると後ろから声をかけられる。
「カタルゴか…。まあ、そんなところだ。そういうお前こそなんでこんな所にいるんだ?」
「俺は軍団長と違って今日はお休みっすよ。最近いけてなかったので神殿にお参りに行ったんすよ。」
「お参りだぁ? ……お前神頼みなんてする奴だったか?」
「しますよ。神様に祈りを捧げるのは当然のことでしょう。副団長と違って暇なんですからキチンと行くべきっすよ。」
「いや、めんどくせえからパスだ。」
そういうとカタルゴは仕方のないものを見る目で俺を見る。
「はぁ~~~。本当に意地でも行かねぇっすね……。何でそこまで意固地になれるんすか?」
「ふん、あんな胡散臭い連中の話なんて聞いていられるか。頭がおかしくなる。それに
「そりゃあ、
「よくこんな場所に建てようと思ったな……。よく抗争が起きないもんだな。」
「同じ天界の神々だから何も問題ないと思うっす。それにアテナ様以外を信仰する人だって当然存在しますからね。」
その後も他愛のない話をしながら散歩をしていた。
そのうち話のタネが少なくなりこの話題に行き着いたのは必然だろう。
「そういえば団長。最近新しく入ってきたヤツどうっすか?」
「ああ、シオンのことか? 結構馴染んでいるぞ。」
「へえ~~~マジっすか……。何というか、意外っす……。」
確かに意外だと言えば意外かもしれないが……。
「そんなに驚くことか?」
「団長はのんきっすねえ……。まあ、気を付けた方がいいっすよ。少数派は団長の方なんですから。」
そう言ってカタルゴはどこかへ去ってゆく。
俺に僅かな違和感と胸騒ぎを残して。
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