第2話
side アルファード王国軍団団長アルカ
書類を捌く。かったるい文字の羅列を目に移し、その文脈が望む答えを紙に書いていく。
単純作業なのだが量が多くなかなか終わりが見えない。
……まったく、無学の元冒険者にやらせることじゃないだろう。
そんなことをしていると丁寧なノックの音が響く。
俺の部下ではないと直ぐに分かった。
丁寧にノックしてから入室する奴はこの軍団には数える程しかいないからだ。
しかも病的な程整えられたリズムのものは軍団出身者ではありえない。
「入れ。」
「失礼します。……アルカ軍団長、至急王宮まで来ていただけますか?」
何の意味があるのかわからない形式だけの書類とにらめっこをしていると白い鎧を着た騎士が一人部屋に入ってくる。
俺の予想通り軍団の連中ではないが神殿の連中は予想外だった。
しかも王宮に来いとのことだった。
神殿ではなく、王宮ということに引っかかりを覚えた俺は騎士に問いかける。
「
「ここで説明はできません。早く。」
やれやれ、話が全く進む気配がない。
仕方がない。何か嫌な予感がするのだが行くしかないだろう。
そういえば途中で何か見慣れない格好をした子供たちが教団の高官に噛みついていたが、一体何があったんだ?
△▼△
俺の予感は的中した。
何か異常があったから会議を起こすのはわかるが、議題がくだらなさすぎる。
何が『神々に選ばれた戦士の中に呪われた者がいる。奴は神々を騙したのだろう。だからどう惨たらしく殺そう』だ。暇なのか? まったく羨ましい奴らだ。
……まぁ、その呪われた異世界人とやらにはかなり同情する。
こっちに勝手な都合で召喚されたと思ったらこれまた勝手な理由で殺されるわけだ。異世界から召喚された奴らは当然この世界の人間でない。必ず文化や習慣は大なり小なり異なってくる。
神々が嫌う行動が向こうでは正しいことの可能性がある。そもそも面白半分の気まぐれという可能性もある。神々なんて大方屑だからな。
「—―――ではどうでしょう?」
「うむ、それは良い。しかし、それだけでは足りないだろう。」
「ならば―――――。」
「いや、―――――して、―――――のほうがよいかと。」
ちらりと他の奴らを一瞥するとバカ真面目に大半の奴らが呪われた異世界人の処遇を考えていた。
その中には暗愚で一定の評判のあるこの国の国王も含まれていた。
「もういい。その異世界人とやらは俺が預かる。それでいいだろう?」
俺の文脈を無視した台詞に周囲の何言ってんだコイツ?という視線が俺に突き刺さる。
だが知ったこっちゃない。
こんな阿呆みたいなことで貴重な時間を潰してくれたのだ。
それに冷静になれば気づくだろう。自分たちがどれだけ馬鹿なことしようとしていたのかを。
それに態々子供が死ぬ所なんて放っておくことはできないしな。
△▼△
「―――で? 連れて帰ってきた訳ですか?」
「ああ、そうだ。……ところでジョン。どうして大勢の前で俺は固い床の上で正座させられてるんだ?」
「アンタが犬猫拾う感覚で面倒事持ってきたからだろうが!!」
ジョンが絶叫し、頭を抱える。
コイツ将来絶対ハゲだな。
あと寿命縮んでそうだ。十年くらい。
「十中八九アンタのせいだろうが!!」
「ほっほっほ。ジョン、おぬし〈読心〉でも獲得したのかの? よぉくそんなに心中を暴けるのう。」
「……そんなのなくてもアンタらアホの考えていることくらい分かりますよ。」
アホとは失礼な。
これでも結構優秀な部類だぞ、俺は。
「それにしても団長、コレどうするの? 確かにアイツ等はむかつくし、可哀そうだと思うけど何かしら考えているのかしら?」
「そうすっね。流石にヤバいっすよ。アテナ教団と国王一派が俺らを潰しにかかりますよ……!」
そう言って全員がベットに寝かせている異世界人を見る。
特徴と言える特徴はなく、どこにでもいる雰囲気を持つ華奢な少年だ。
とても何か罪を犯したようには見えない。というか本当に町や村で生活していても違和感のない雰囲気をしている。
そして、何か考えているのかって?
そんなもの――――
「考えてね「馬鹿か、手前はあああぁぁぁああああ!!!!」どうどう、落ち着けジョン。そして話は最後まで聞け。」
「聞けるかっ!! そして何を聞けば良いんだこの野郎!!」
「ジョン、落ち着くのじゃ。……で、軍団長よ何故何も考えていないのじゃ?」
「そうすっよ!! あ! 実は団長何か考えてるんでしょう!?」
「ああもう! どうするのよ!! こんな急じゃあ亡命先も見つけられないわよ!!」
そろいもそろってコイツ等は……。
これでも軍団長だぞ? 大人げなく泣くぞ?
「何かあるならさっさと話せ。後泣くなボケナス。」
……コイツは一体どういう頭してるんだ?
絶対〈読心〉持ってるだろ……!
「もちろん、理由はある。今回召喚された中で隣にかなりの別嬪さん連れていた奴がいたんだ。「セクハラですか?」ちげぇよ!! そんなに信頼がないのかよ!? ……とりあえず話を戻すぞ。あいつの周りに結構な奴らがいてな。凄いぞ、全員将来はBランクは確実だ。中にはAランクに到達するやつもいるんじゃないか?そしてそいつらが教団の高官に噛みついていたんだよ。話している内容はわからないが大方この異世界人についてだろうな。」
「つまり彼らにとってコレは大切な友人。そんな友人を処刑でもしようものなら彼らはこの国を去るかもしれないわね。少なくとも私たちに不信感を抱き、快く協力してくれないかもしれないわね。そうなれば一体何をしたんだか、という話になるわねぇ。」
「でも意味ないんじゃないんすか? あいつ等はそんなことに気づかずに処刑しようとして数年前から計画していたこと異世界人の召喚の成功をドブに捨てようとしている馬鹿達っすよ?」
「大丈夫じゃろう。今の国王陛下とアテナ教団の教団長殿は敵が多い。これを知れば反対派の連中がこぞって抗議するじゃろう。」
「情報統制を敷く可能性が高いですが意味ないでしょう。教団と国王一派の中にいる賢い奴はこの異世界人を使い、その他の異世界人たちをコントロールした方がいいと考えるはずですからね。むしろこっちによこせと言ってくるでしょう。なんなら大量の大金貨を押し付けてさらっていくかもしれませんね。」
そう、奴らは俺達を攻撃できない。
確かに何も知らない奴からしたら俺のしたことは愚行以外の何物でもない。
でも事情を知る奴から見たら俺は馬鹿達の愚行を防いだ賢臣と見えるだろう。
攻撃したとしてもいたずらに敵を増やすだけだ。
ただでさえ今の国王とアテナ教団の教団長は敵が多い。
流石にこれ以上増やせば自身の破滅を早めるだけだというくらいはわかるはずだ。
……多分。
「……一気に不安になってきましたよ。…まあ、今代の王と教団長は結構アホですからね…。」
俺の考えていることを予測したのかジョンが不安そうな顔で呟く。
無責任だがここまで来たら祈るしかない。
side アテナ教団教団長アネロス・バーティ
「何だと!? あの罰当たりを処刑するべきではないとはどういうことだ!?」
儂は目の前にいるこの教団の
あの異世界人を処刑するな、だと?
「愚か者め!! そんなことをすれば儂はどうなる!? 儂を擁立したお主だってただではすまんぞ!! 儂等は神の意志に逆らうことになるのだぞ!?」
「分かっております。しかし――――」
「黙れ!! それにこの処刑を推し進めるのに一体どれだけの金を使ったと思っているのだ!?」
このことをわざと大袈裟に仕立て上げるために貴族たちにたっぷりとくれてやった賄賂が完全に無駄になる。
ここまで大事にしておきながら何もなかったとなれば神に仕える身でありながら神の意志に逆らった儂等は間違いなく破滅へ一直線だ。神々が何も言わずととも他の奴らが黙っていないだろう。
「お聞きください教団長様。」
「何だ? もうお主の意見は聞きたくない。さっさと出ていくがよい。」
「……分かりました。」
そう言って部屋から退出する。
何か言ってくるかと思ったのだが……。
まあ、いい。
余計な時間を潰さずに済んだのだ。
「しかし、敬虔な信徒を演じるのは疲れるわい……。いもしない
少し前に田舎の司祭たちから渡された金銀財宝を思い出す。
この仕事に就いてからずっとこの調子だ。お陰様で毎日毎日贅沢三昧だ。
貧乏貴族の四男に生まれた自分がまさかここまで来るなんて思ってもいなかった。
……しかし、あの男何を考えているのやら。普段なら喜んで儂の意見に賛成するはずじゃが……。いや、違うな。儂があやつの顔色を窺っていたのだ。
そうだ。何故儂はいつもあやつの言うことを聞かねばならんのだ。
いつもいつも儂の邪魔をする。もうこの際だ。いっそのこと排除してしまおう。
「そうだな……。代わりに適当な貴族の子弟でも後釜に据えておとしようかの……。」
高々騎士とはいえ教団の中で最も優秀な
頭の悪い力自慢ならいくらでもいるから大丈夫だろう。仮に不味いことが起きたとしても賄賂をたっぷりと握らせればどうにかなる。
side アテナ教団の
「教団長様の我儘にも困りましたね……。」
「問題ありませんバルトロ殿。この教団に彼の味方をするものはおりますまい。」
「……そうですね。仮に我らに敵対するものなど余程の愚か者でもない限りいないでしょう。」
教団長様はこの世界では珍しく神の存在を信じていない。
残念なことに教団長様以外でも信じていない人は増えている。
嘆かわしいことだ。
神もそれに仕える天使様もここ数百年近く降臨なされていないから仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが……。
それでも増えてきているというだけで大半はまだ信じている。
神の教えを信じ、守って日々を生きている。
「正義は我らにある。何も問題あるまい。」
「……そうですね。では神殿騎士団長、頼みますよ。」
そうだ。
我らの行為は
この世で最も崇高で偉大な行いだ。何人たりとも邪魔をすることは許されない。
異世界人の召喚など通過点でしかない。それも序盤のものだ。
こんなことで躓いているわけにはいかない。
「そうだ。それならあの教団長様はもう必要ありませんね。メリットはない上にデメリットしかありませんから。」
「そうだな。彼も制御ができなくなったからな。全く、我らの言いなりになっておればよかったものを。」
「ボロは出さないようにお願いしますよ。」
「もちろんだ。俺に任せておけ。」
彼のおかげで召喚をスムーズに進めることができたのだが…。
障害となるなら排除するしかないだろう。
他にも我らの傀儡はいくらでもいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます