異世界生活は唐突に
第1話
歯車は回る。
回した者の意図を無視して。
むしろそれを嘲笑うくらいに。
運命という誰も逃れらないレールを作り上げる。
その果てがどうなるのかは誰も分からない。
例えそれが神や竜、巨人、精霊といった超常者であっても分からない。
その能力が、叡智が、経験が故に理解を拒む。
side 春宮紫苑
光が収まった後恐る恐る目を開けると真っ白い部屋の中にいた。
窓はなく、金色の大きな扉が一つあるのみだった。
その扉の装飾は凄まじく、神聖や荘厳とはこの事かと思わせる程だった。
この空間からは不思議なことに不気味さよりも何故か神々しさを感じた。
クラスメイト達は何が起こったのかわからず騒いでいる。
先生や委員長が静かにするように呼び掛けるが全くうまくいっていない。
そうこうしていると白い神官服をまとった恰幅のいいおっさんを先頭に謎の不審者集団が現れた。
おっさん以外は中世のヨーロッパの騎士みたいな恰好をしていた。
いや、みたいな、ではない。まんま中世騎士の姿だ。
おっさんは僕たちを見るや満面の笑みを浮かべ、口を開いた。
「■■■■■■■■■、■■■■■■!!」
…………はい?
△▼△
思考がフリーズした。
だって仕方がないだろう。
いきなり訳のわからない所にいたと思ったら訳の分からない言葉で話すおっさん達が現れた。
……ちなみに言葉がわからないのは僕だけみたいだ。
他の奴らはおっさんの言葉を聞いて奇声を上げたり、絶叫したり様々な反応を上げているからだ。何を言っているんだという表情をしているのは僕だけだろう。
……というかクラスメイト達の中から「異世界だーー!!」とか聞こえたんだが……。
はぁ……正直脳の許容量オーバー限界だ。
それでも状況は忙しなく動いていく。
何とか状況把握に努めるが、矢張り何を言っているのか分からない。
しかしおっさんは僕の思いを他所にクラスメイト達の反応に気をよくしたのか忙しそうに口を動かしているし、クラスメイト達の様々な感情を含めた声が耳朶を震わせる。
「待ってください、何ですかあなたたちは!! あなたたちが私たちをここに連れてきたのですか!? それにここは一体どこなんですか!?」
そうこうしていると早速委員長が噛みつく。
ちなみに委員長は綽名だ。
実際に現在その役目についているわけじゃない。
流石にまだそこら辺は出来ていなかったからな。
彼女の名前は
羽根山や佐伯ほどじゃないが中学からの付き合いのある友人だ。
中学時代三年間ずっと委員長をしていたため僕たちが勝手にそう呼んでいるのだ。
そんなことを考えていると後ろからぎゅっと力が加えられる。
弱弱しいが確かな力だ。
振り返ると佐伯が僕の背中をつかんで顔を青くして震えている。
コミュ障の佐伯にこの状況はかなり辛いところがあるだろう。
「大丈夫か?」
「……! ……うん、大丈夫……ありがとう。」
佐伯が力なく笑う。
そんな様子から絶対に大丈夫じゃないということが否が応でも分かってしまう。
どうしたものか……。
「紫苑殿!! 佐伯殿!! 異世界ですぞ!! 異世界ですぞ!!」
だが僕の悩みを吹き飛ばすくらいの勢いで羽根山が大声で叫ぶ。
なんか色々と考えるのが馬鹿馬鹿しく感じてくる。
そんな程陽気で明るい大声であった。
「……少し落ち着け羽根山。佐伯がビビっているぞ。」
「これが落ち着いてなどいられますか!! 紫苑殿!! 異世界ですぞ!! これはきっとあれですな。拙者の隠れた才能でチート無双!! そして夢のハーレム生活ですぞ~~。デュフフフフフ。毎晩神に祈ったかいがあったというものですな!!」
不味い。羽根山のキモオタスイッチがオンになった。
こうなると僕では止めることができない。
羽根山はそんな僕を知らずかどんどんとテンションを上げる。
「おい。やめろ。痛い。テンションが上がるのはわかるが背中をたたくな。」
「あ……、申し訳ありません……。」
冷静になった羽根山が謝罪する。
いつもなら大して痛くもないのだが今のはかなり痛かった。
今背中を見たら赤くなっているだろう。それ程痛かった。
「……お前、春休み中鍛えていたのか?」
「いえ、何もしておりませんが? むしろ贅肉が増えたくらいですぞ。」
「……白い服のおじさんが『この世界へ渡ってきた際に身体能力が上昇する』って言ってたけど聞いてなかったの……?」
何?
そんなことが?
「なぬ? そうだったのですか?」
どうやら羽根山は興奮していたせいで話を全く聞いてなかったようだ。
というか聞いてないのにそこまではしゃいでいたことにびっくりだ。
「……あー、僕、どうやらあの人が何を言ってるのかわからないみたいなんだよね……。」
丁度良かったので僕が二人に自分自身の現状を告げる。
それを知った二人は大層驚いた様子を見せた。
当然だろう。
周囲に己がそうなのに僕がそうじゃないと言われたら驚くのが当然だろう。
「マジなのですか?」
「マジ。だから翻訳頼めるか? あと今までなんて言ってたか教えてくれないか?」
「拙者は構いませんぞ。……まあ、たいして聞いてなかったのでほぼ役立たずは確定でしょうが。……それにしても紫苑殿だけ、何故?」
「……俺も構わない。」
そんなことをしていると他のみんなが移動を始めてている。
早く聞かせてもらわなければ情報の洪水にやられてしまいそうだ。
この感じはさぞかし面倒くさそうな臭いがするぞ……。
▼△▼
二人に翻訳してもらったおっさんの話を僕らなりにまとめるとこうなった。
①ここは僕たちがいた世界とは別の世界、いわゆる異世界である。
②この世界はファンタジーあふれる最近流行りのラノベのような世界である。
③この世界には『天界の神々』と『魔界の神々』がおり、争っている。
④人間は『天界の神々』の陣営に所属している。
⑤『魔界の神々』の軍勢は年々力を増しており、それに対抗するために僕達を召喚した。
⑥召喚したのは召喚された異世界人は例外なく強力な力を持つため。
ちなみに僕たちは神殿で召喚され、今は王宮に向かっているとのことだ。
正直勘弁してほしい。
そう思っているのは僕だけではないみたく委員長や祐介たちが元の世界に帰してくれと頼んでいたが、どうやらそう思っているのは全体の内では意外と少なく、押され気味だ。
そんな訳で実際にどれくらい強くなったか確かめてから決めることになった。
おっさんが連れてきたのは広場だった。とても広く普段は騎士や兵士の訓練に使われているらしい。
おっさんの後ろにいた騎士の一人が水晶球を差し出す。
どうやらあれに手をかざせば手をかざした人物の力を測ることができるらしい。
能力の測定はスムーズに進行する。一人測るたびにおっさんの驚愕した声が響く。
……喉どうなっているんだろう。
そしてあまり待ちかねていたわけだはないが僕の番になった。
後ろでは羽根山がそわそわしている。さっさと終わらせてしまおう。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
僕が手をかざしたその瞬間、おっさんが声にならない叫びをあげた。
それと同時に後ろに控えていた騎士の感情が揺れた。
明らかに激昂している。おっさんも、騎士達も。
連続する訳の分からない出来事に何処か他人事になっていた僕は彼等の事を呆然と見ているとゴスッという音共に後頭部に強い衝撃を受ける。
衝撃は凄まじかったが、痛みは無かった。
痛みって一定以上だと感じなくなるんだなぁとか馬鹿なことを思いながら、友人たちの絶叫をBGMに僕の意識は闇の中に沈んでいった。
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