第8話 黒き血と、薔薇喰いの剣


 初めて握った《薔薇喰いの剣》は、驚くほど軽く、剣術には自信のない俺でも動くことができた。

 ガラン先生は足元の土を次々岩のように変化させ、俺に向かって発射してくる。

 まるで瓦礫の雪崩に巻き込まれているようだ。

 俺はそれを剣で弾き、距離を取りながら策を練る。


 もし本当に、ガラン先生が国を亡ぼすほどの強大な力を持つエドガー・ガランド伯爵であるなら、攻撃がこんな小さな岩を投げつけるだけのわけがない。


「おそらく、まだこの学院に残る理由があるんだろう」


 俺の考えを読んだのか、アストリットはそう言った。


「学院に残る理由があれば、大きな痕跡を残すわけにはいかないはずだろうからな」

「残る理由がなければ俺は今頃木っ端みじんってわけか」

「当然だ。手を抜いてもらっている今のうちに叩く必要がある」


 ガキン、と大きな音をたてて、瓦礫を弾く。

 ガラン先生は何も言わないが、俺が下がれば追ってくる。

 なかなか距離を取らせてはくれない。


「距離に、制限があるのか……?」

「いや、そんな話は聞いたことがないが……私に目を潰されたせいで、魔力の流れが見えにくくなっている可能性はある」

「じゃあ、間合いの外から攻撃するしかない、のかよっ!」


 ガラン先生がさらに岩を出現させる。

 剣で弾いて、距離を取る。

 しかし、一瞬で詰められる。

 その繰り返しだ。


「本気になれば片手で城を持ち上げて殴ってくるような男だったからな」

「え、それ俺、即死じゃん? どうにかなりませんか《薔薇喰いの剣》さん!」

「もし攻撃できる距離に限界があるならば、それ以上に長距離の攻撃が可能な魔法でお応戦するのが普通だが」

「学生の俺にはそこまでの魔法は使えないって」


 だんだんと息が上がり、逃げる足も遅くなる。


「アストリットは魔法とか使えないのかよ!」

「私はあくまで剣だからな。使い手自身のサポートしかできない」

「魔法のサポートもお願いしたかった!」


 空しく叫ぶが、ジリ貧だ。


「ハル。学院をぐちゃぐちゃにして生き延びるのと、自分がぐちゃぐちゃになるのだったらどちらがいい?」

「学院ぐちゃぐちゃ一択だな!」

「わかった。学院内の魔力を探ったが、南に大きなサイプレスの樹があるな?」


 アストリットの言うサイプレスの樹とはおそらく、かつて墓地があったと噂される場所に生えている巨木のことだろう。


「そこまで誘導できるか? 相手に悟られないように」

「やってみる! 信じてるぞ、アストリット!」

「私もお前の演技力を信じているよ、ハル」

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