第7話 確信



 淡い光がアストリットを包む。足元から、銀の切っ先が見え始める。

 ガラン先生は外套を脱ぎ、虚空を指でなぞり始める。

 先生の周囲の地面から土の塊が浮かび上がる。先生の得意な魔法はたしか土の属性のものだったはずだ。

 おそらく数秒もしないうちに、魔法で攻撃されるだろう。

 俺は、アストリットを後ろから引き寄せた。


「確信があったんだ」


「は?」


 アストリットの目には困惑が見えた。


「『薔薇喰いの剣』のお伽噺は、お伽噺じゃないって。だかた俺はずっと探してたんだ。俺の血が、お伽噺じゃないって証拠が」


「ハル……キミはなにを言って……」



 俺は制服のシャツを捲った。腰に近い、左わき腹を見せる。

 小さく、細かい黒い痣があった。

 その痣は、黒い薔薇だった。


「まさか……っ!」


「俺は黒き血の一族。偉大なる魔術師ユビレウムの血統に連なる者。アストリット、もし俺の言っている意味がわかるなら、応えてほしい」


 肩の痛みに耐えながら、俺はにっこりと微笑んだ。


「『黒き薔薇の血を吸え、薔薇喰い』」


 刹那。

 俺の腹に抉るような痛みが走る。

 アストリットの体から黒い棘のついた蔦が伸び、俺の痣へと刺さっていた。

 それは、俺を魔法円に引きずり込んだ蔦によく似ていた。

 血が抜けていく感覚。同時に、魔力が共有されていく。


「ハル……お前――ッ!」


 ガラン先生が気づき、叫ぶ。しかしもう遅い。

 アストリットが俺の手を掴んだ。

 ああ、と彼女は嬉しそうな声を上げた。


「契約は成った。私は今後、魂が尽きるまでキミに従おう」


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