第3話 邂逅


 おそらく召喚の術式が組まれていたのだろう。


 すとん、と俺は、資料室ではないどこかの部屋に投げ出された。

 薄暗い部屋の中、一つだけランタンが揺れている。

 その灯りの下、大きめの一人掛けソファに、誰かが座っていた。

 ウェーブがかった真紅の長い髪と、宝石のような青い瞳。

 白い陶磁器のような肌に、黒いドレスを纏っている。


「……人形……?」


 到底人とは思えない、精巧な作りをしたその顔立ちに、俺は思わず声に出していた。


「人形ではない」

「しゃべった!?」


「私の名はアストリット」


「は?」

「ずっと、待ってた。黒き血の者を」


 黒き血の者。

 さっきも聞こえたが、


「まってくれ、俺はただ――」

「言い訳は聞きたくない」


 す、と少女――アストリットは立ち上がる。俺に向かってゆっくりと歩きだし、


「長年待った。迎えに来ると言ったから、ずっと、ずっとここで一人、待ち続けた。この寂しさがわかるか?」

「ちょ、ちょっとまって、俺は」

「言い訳は、聞かんと言った」


 ぐい、と俺の胸倉を掴むと、アストリットは怒りの形相で拳を握った。


「歯を食いしばれ、ユビレウム」


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