第2話 三号棟・第五資料室にて

「さて」


 授業後、鍵をもらって三号棟・第五資料室の扉をあけると、まず初めに埃が押し寄せてきた。地下室なので行き場のない埃は容赦なく俺に押し寄せた。


「何年モノの埃なんだこれは……」


 と文句を言いつつ、掃除する。

 うん、確かに埃はすごい。

 だけど、この掃除くらいなら大して大変じゃない。

 二号棟の第二資料室は最悪だった。

 壁のカビは酷いし、謎のキノコが本棚から生え放題だったし、ネズミが群れを成して襲ってきた。


 ざっと掃除をし、俺は嬉々として本棚へ手を伸ばした。


◇◆◇


 どれくらいそうしていただろう。

 資料室の本棚を四分の一ほど読んだところで、俺は深くため息をついた。

 やはり、薔薇喰いの剣について書かれた本は見当たらない。

 地下室なので実感がわかなかったが、時計を見れば十九時を回っている。

 寮の門限は二十時だ。


 急いで帰らなければ。


「ふぅ」


 大きく伸びをして立ち上がる。

 長時間座っていたせいか、俺はそのままバランスを崩した。


「え、う、わ……っ!」


 咄嗟に本棚へ手をつくと、本越しに何か固いものに当たった気がした。

 その違和感に、俺はそっと本を取る。

 本の向こう側に、魔法円が描かれていた。薔薇を中心に、複雑な術式が組まれている。

 学生の俺には到底理解できない術式なのは間違いない。

 なぜ本棚に魔法円なんて描かれているのかわからないが、不思議と俺はその魔法円へ手を伸ばしていた。


 次の瞬間、魔法円から黒い蔦が飛び出してきた。

 俺の手に絡みつき、強烈な力で引き寄せられる。


「――ッ!」


 黒い蔦には棘が生えていた。


「くっそ……! はなせ……っ!」


 引きちぎろうとするがびくともしなかった。

 ずるずると蔦は俺の体へ巻き付いていく。


「こんな危険なものがあるなんて……聞いてないぞっ!」


 祖母をダシに使ったのがいけなかったのだろうか。


『汝、黒き血の者か』


 聞いたことのない声が響く。

 黒き血、だと?


『私を迎えに来たのか』

「なんの話だ!」


 姿の見えない相手に俺は叫ぶ。


『今、約束を果たしてもらう』


 そう声の主が発したとたん、俺は魔法円に吸い込まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る