赤ちゃんを抱いた女の人
アナマチア
ホラー
これから
これを読んでくださっている皆さまは、『
私は、『信じていない』人間です。
おかしいですよね。
実際に、何度も不思議な体験をしているにもかかわらず、信じていないなんて。
でも、これには理由があるのです。
そもそも私は、『幽霊』を視たことがありません。しかし、それらしき存在を感じたり、心霊現象を体験したことはあります。
あとは知人や友人のお宅を訪問した
KAC2021のお題が『直観』でしたが、私のこの能力は、いわゆる『直感』にあたるものだと思っています。経験や知識に
けれども、この曖昧で
さて、そんな霊感持ちの方々に太鼓判を押していただいた私は、物心がつく前から、少し不思議な子どもだったようです。
これは、両親から聞いた話です。
私がひとりで遊んでいると、おもちゃの車(電池で動くものではない)が勝手に動く。
いつも決まった場所で怖がり泣く。
寝ていたと思ったら、突然起き出してウロウロする。そして、子どもらしくない無表情と口調で一言二言
……などということがあったらしいです。
では、ここからは、私が高校二年生の時に体験した怖い話です。
※※※
私はとある共学の私立高校に通っていたのですが、そのときに仲良くしていた友だちが、霊感持ちの子でした。
その友だちの名前を、『Hちゃん』としましょうか。
Hちゃんはミステリアスな
Hちゃんの部屋には、ベッドの足元に、布で
Hちゃんの部屋に夜な夜な現れる母子は、彼女が就寝しようとベッドに入った際に、決まって現れるようです。
幽霊の母親は、ドレッサーの鏡から
Hちゃんは真っ暗にしないと眠れないひとです。
なんとか母親の拘束から
ちなみに、Hちゃんを拘束していた母親は、邪魔をするのは最初だけで、あとはHちゃんと男の子の攻防を静かに見守っているのだとか。……いったい何がしたいんだろう。
さあ、ここからがやっと、タイトル回収のお話になります。
ヤキモキさせてしまっていたらすみません。では、皆さんお待ちかねの『本当にあった怖い話』を始めます。
※※※
とある日の早朝。
その日は、私の住む地域に台風が上陸した日で、外は
当時、私が住んでいたのは、築年数が数十年のボロい
と、そんなアパートに住んでおりましたので、酷い暴風雨のせいでろくに眠ることができず、午前四時頃にはすっかり
その日は平日でしたので、高校生の私は学校があったのですが、ニュースで天気予報を見る限り、休校になりそうだったのです。
私が通う私立高校は自宅から離れた場所にあり、本数の少ない電車と本数の多い大きな本線を乗りつぎ、毎朝登校しておりました。
そんな私とは反対に、Hちゃんの自宅は高校から歩いて十五分程の場所にありました。
私たちが通っているのは私立高校ですから、公立高校とは多々違う面がありました。台風が上陸したからといって、休校にならない可能性があったのです。
しかしその場合、私のように電車を乗りついで登校する生徒は、登校を免除されることがありました。
午前四時台では当然のことながら、学校からの連絡はありません。
休校になるのか、それとも電車通学の生徒だけ休みになるのか、その判断に困った私は、Hちゃんに電話することにしました。
その当時は、まだ固定電話の方が
「Hちゃん、朝早くにごめんなぁ。今日、凄い台風じゃん? これって休校になると思う?」
「うーん、天気予報を見る限りじゃあ、お昼には落ち着きそうじゃけど、うちの高校は電車通学が多いけぇ、多分休みになると思うで」
そうHちゃんに言われてホッとした私は、学校に行く準備をするのを止めました。
Hちゃんとの通話が終わったあと、しばらく
しかし外を見てみると、先程よりも様子が落ち着いてきています。
今更休校が取り消しになることはないだろう。
そう思った私は、もう一度、Hちゃんに電話することにしました。
「あっ、Hちゃん? ごめんね、また電話してしもうて」
「ええよ、ええよ。やっぱ休校になったなぁ。ラッキーじゃね」
「なー、ほんまに。それでさぁ、台風が落ち着いたらHちゃんの家に遊びに行ってもええ?」
「ウチはええけど、家に来るには学校の前を通らんといけんじゃろ? 先生が来とるかもしれんけぇ、見つからんように気をつけてなぁ」
「うん、分かったわ、気をつける。じゃあまたあとでな」
そう言って電話を切ろうとしたのですが、Hちゃんに呼び止められました。
「ん? どうしたん?」
「……大したことじゃないんじゃけどなぁ……」
いつもより
「……ウチんとこに来る時にさ、白い軽トラの横を通ることになると思うんよ」
「軽トラの横?」
「うん。学校を通り過ぎて少し行ったところに、空き地があるじゃろ?」
「右手にあるやつじゃろ? それがどうしたん?」
少し間があいたあと、Hちゃんは声を
「……その空き地にな、ボロボロの軽トラが
「えっ」
「じゃけぇ、おるんよ。赤ちゃん抱いた女の人が」
その言葉を聞いた
――これはよくない
そう直感しました。
「……で、でも、空き地の横を通らんと、Hちゃんの家に行けんじゃん。私、どうしたらええん?」
震える声で聞くと、Hちゃんは言いました。
「知らんふりして」
「え?」
「ええから、ウチの言うとおりに、知らんふりするんよ」
「わ、わかった、けど……。でも、私は幽霊は視えんよ?」
「アナマチアさんは影響受けやすいじゃろ? それをあっちに感づかれたら、ついてくるで」
「――っ、わっ、分かった! 絶対見んようにする!」
そう約束して、電話を切ろうとしたときでした。
受話器越しに、ブラウン管テレビの砂嵐の音に似たものが聞こえ出したのです。
「えっ、なにこれ……。もっ、もしもし? もしもし、Hちゃん! ねぇ、聞こえる!?」
しかし、Hちゃんからの返答はありませんでした。そして――
『キュルキュルキュル――』
と、テープを逆再生するような音がして……、
『わた……の、あ……ちゃん……かえ……て』
ブツン。
途切れ途切れの不明瞭な声を最後に、通話が切れたのです。しかし通話が切れたあと、受話器からは何も聞こえず、無音が続くばかりでした。
普通だと、『ツーツー』という音が聞こえてくるはずです。
「――ヒッ、〜〜っ!!」
背中にぞわぞわっと悪寒が走り、恐怖に
バンバンバンバン!!
と、二階の窓を激しく
その音は、どう考えても台風が原因ではありません。しかも、叩かれた窓の外には平らな壁しかなく、二階にある窓を人間が叩くのは無理です。
それに私は、その窓のカーテンを開けており、叩く音がしてすぐにそちらを見たのですが、窓の外には誰の姿もありませんでした。
あまりの恐怖で
……薄い壁で、テレビの音も
私は思いました。
例の、赤ちゃんを抱いた女の人がやったのだ、と。
※※※
その後、私はHちゃんとの約束通り、空き地の横を猛ダッシュで通りすぎ、Hちゃんの家に行きました。
空き地の横を走り去る際、視界の
だって私は、幽霊を視ることは、出来ないはずなのですから……。
おわり。
余談ですがその後、Hちゃんに事のあらましを話すと、「え? アナマチアさんの方が先に電話切ったよね?」という言葉が返ってきました。
ちなみに、Hちゃんの受話器からは、「ガチャン、ツーツー」という音が、ちゃんと聞こえたそうです……。
赤ちゃんを抱いた女の人 アナマチア @ANAMATIA
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